脳動脈瘤 – 脳・神経疾患

脳動脈瘤(cerebral aneurysm)とは、脳内の血管壁の一部が異常に拡張し、瘤状に膨隆する脳血管疾患です。

この病態は血管壁の脆弱化により進行し、未治療の場合はくも膜下出血などの重篤な合併症を起こすことがあり、40歳以上の中高年層、特に女性での発症頻度が高くなっています。

高血圧症や喫煙習慣は発症リスクを有意に上昇させる因子です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

脳動脈瘤の種類(病型)

血管壁の一部が風船のように膨らむ脳動脈瘤には、破裂の有無によって大きく未破裂脳動脈瘤と破裂脳動脈瘤の2つの病型があります。

未破裂脳動脈瘤の特徴

未破裂脳動脈瘤は、頭部MRAやCTAなどの画像検査で偶然発見されることが多く、嚢状動脈瘤、紡錘状動脈瘤、解離性動脈瘤などに分類できます。

血管の分岐部に好発する嚢状動脈瘤は、血管壁の一部が球状に突出した形態を示し、動脈瘤のなかでも最も一般的な形状です。

動脈瘤の形態特徴的な所見
嚢状動脈瘤球状の膨らみ、明確なネック部分あり
紡錘状動脈瘤血管の全周性の拡張、紡錘状の形態
解離性動脈瘤血管壁の層構造の破綻、不整な拡張

破裂脳動脈瘤の病態

破裂脳動脈瘤においては、動脈瘤壁の破綻により、くも膜下出血を引き起こし、不整な形状や娘動脈瘤(ブレブ)の形成など、より複雑な構造変化を伴うことが多いです。

破裂脳動脈瘤の形態

  • 不整な壁構造と血栓形成
  • ブレブ(娘動脈瘤)の存在
  • 周囲組織との癒着
  • 血管壁の菲薄化
  • 炎症性変化の存在

動脈瘤のサイズと特徴

脳動脈瘤のサイズは重要性を持つ指標で、病態の評価に不可欠な要素です。

サイズ分類動脈瘤の特徴
小型(5mm未満)単純な形態が多い
中型(5-15mm)複雑な形態も増加
大型(15-25mm)壁内血栓の形成も
巨大(25mm以上)複雑な血行動態

特殊な形態を示す脳動脈瘤

特殊な形態を示す脳動脈瘤として、血栓化動脈瘤や部分血栓化動脈瘤などがあり、これらの動脈瘤では内部に血栓を形成することで、独特の画像所見や臨床経過をたどることが多いです。

血栓化動脈瘤においては動脈瘤内部に層状の血栓が形成され、動脈瘤全体のサイズが増大する一方で、実際の血流腔は比較的小さく保たれています。

部分血栓化動脈瘤では、動脈瘤内の一部に血栓が形成されることで、不規則な形状変化や壁の不均一な肥厚などの変化が観察されます。

脳動脈瘤の主な症状

脳動脈瘤は未破裂の段階では無症状のことが多い一方、破裂すると突然の激しい頭痛や意識障害など重篤な症状を起こします。

未破裂脳動脈瘤における症状

未破裂脳動脈瘤の多くは無症状で経過し、日常生活を送る中で頭部MRIやMRAなどの画像検査を受けた際に、偶然発見されるというパターンが非常に多いです。

しかしながら、脳動脈瘤が徐々に大きくなっていく過程で、脳の重要な部分である脳神経を圧迫することにより、様々な神経症状が出現することがあります。

特に視神経や動眼神経の近くに位置する内頸動脈瘤や前交通動脈瘤などでは、目の症状として複視(物が二重に見える)や視力低下といった症状が観察されます。

動脈瘤の大きさ主な圧迫症状
小型(7mm未満)通常は無症状
中型(7-12mm)軽度の頭痛や違和感
大型(12mm以上)複視や視力低下

また、脳動脈瘤が大きくなるにつれて、頭痛や頭重感といった不快な症状を自覚することもあり、疲労時や身体的なストレスがかかった際に、こめかみや後頭部に鈍い痛みを感じるといった訴えも少なくありません。

さらに、脳動脈瘤の発生部位によっては、顔面のしびれ感や聴覚障害、嗅覚障害などの症状が現れることもあり、動脈瘤が徐々に増大していることを示唆する重要なサインです。

破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血の症状

くも膜下出血を引き起こした破裂脳動脈瘤では、特徴的な症状が突如として現れます。

  • 突然の激しい頭痛(サンダークラップヘッドache)
  • 項部硬直(首の痛みと硬直)
  • 嘔吐を伴う強い吐き気
  • 意識レベルの低下
  • 光過敏や音過敏

症状の中でも特に特徴的なのが、いわゆる「サンダークラップヘッドache(雷鳴頭痛)」と呼ばれる激烈な頭痛です。

患者さんの多くが「今まで経験したことがないような激しい痛み」「頭が割れるような痛み」と表現する激しい頭痛が、まるで雷に打たれたかのように突然発症します。

激しい頭痛は、破裂した動脈瘤から漏れ出した血液が、脳を包むくも膜下腔に広がることで起こり、髄膜に対する急激な刺激が生じ、激しい痛みとして認識されます。

さらに、くも膜下出血では、項部硬直(首の痛みと硬直)が特徴的な症状の一つです。

神経症状と頭蓋内圧亢進

破裂性脳動脈瘤による出血は、頭蓋内という限られた空間に血液が流れ込むことで、頭蓋内圧の急激な上昇を起こし、神経症状が出現します。

症状の種類臨床的特徴
意識障害軽度の混濁から昏睡まで
痙攣発作全身性または局所性
麻痺症状片麻痺や四肢麻痺

頭蓋内圧が上昇すると、まず意識レベルの低下が起こり、軽度の意識混濁から重度の意識障害まで、様々な程度の意識障害が観察されます。

また、頭蓋内圧の急激な変動により、痙攣発作が起こることもあります。

水頭症に関連する症状

くも膜下出血後の急性期から慢性期にかけて、髄液の循環や吸収に障害が生じることで水頭症が発生することがあり、患者さんの予後を左右する重要な因子の一つです。

水頭症による症状は、頭蓋内圧亢進に起因する頭痛、嘔吐、意識レベルの変動などがあり、歩行時のふらつきや排尿障害、認知機能の低下といった症状が徐々に進行していきます。

出血からの時期によって急性水頭症と慢性水頭症に分類され、急性期の症状は劇的かつ突発的に現れ、慢性期の症状は緩徐に進行します。

非交通性水頭症では歩行障害や認知機能障害が早期から出現し、交通性水頭症では、起床時の頭痛や嘔気、ふらつきといった症状が、日内変動を伴って出現することが特徴的です。

脳動脈瘤の原因

脳動脈瘤は遺伝的要因と、生活習慣や環境要因などの後天的因子が関連し合うことで発生します。

基本的なメカニズム

脳の血管壁は、内側から内膜・中膜・外膜という3層構造で形成されており、特に中膜にある弾性繊維と平滑筋細胞が血管の強度維持において中心的な役割を担っているため、何らかの異常が生じると動脈瘤形成のリスクが高まります。

血管壁の構造が何らかの原因で脆弱化すると、心臓から送り出される血液による圧力が血管壁にかかり続けることで、風船のように外側に膨らんでいき血管壁の変性が加速することで、より一層の拡張を起こすという悪循環に陥ります。

血管壁の層構造主な役割
内膜血液との接触面、平滑性の維持
中膜血管の強度維持、収縮・拡張機能
外膜周囲組織との結合、栄養血管の供給

遺伝的背景

脳動脈瘤の形成過程においては、結合組織の形成に関与する遺伝子の変異が、血管壁の構造的な脆弱性を起こす主要な原因です。

家族歴を有する方は、そうでない方と比較して発症リスクが約2~4倍に上昇することが明らかになっています。

環境因子の影響

生活習慣の変化や環境要因は、脳動脈瘤の形成を促進する重大な要素となっており、特に以下の因子が強い影響を及ぼします。

  • 喫煙習慣による血管内皮細胞の継続的な損傷と慢性的な炎症反応の惹起
  • 持続する高血圧状態による血管壁への過度な機械的ストレスの蓄積
  • 習慣的な過度のアルコール摂取がもたらす血圧上昇と血管機能の慢性的な障害
  • 進行性の動脈硬化による血管壁の変性と弾力性の低下
  • 全身性の慢性炎症状態による血管壁の持続的な脆弱化
リスク因子影響メカニズム
加齢血管弾性の低下、組織修復能力の減退
女性ホルモン血管壁のリモデリング過程への直接的関与
高血圧持続的な機械的ストレスによる血管壁の疲労
喫煙血管内皮細胞の障害と炎症反応の持続的な促進

環境因子は単独でも血管壁に悪影響を及ぼしますが、複数の因子が重なり合うことでそのリスクは相乗的に増加します。

診察(検査)と診断

脳動脈瘤を診断するためには、神経学的診察と多様な画像診断技術を組み合わせた包括的なアプローチが必要です。

初期診察のアプローチ

神経学的診察では、患者さんの脳神経機能を細部にわたって評価していきますが、特に重要となるのが、眼球運動や視野、瞳孔反射などの脳神経症候の観察です。

問診では、家族歴や既往歴に加えて、喫煙、飲酒、運動習慣といった生活習慣に関する情報を聞き取ります。

神経学的診察項目確認内容
脳神経機能眼球運動、視野検査、瞳孔反射
運動機能筋力、協調運動、反射検査
感覚機能表在感覚、深部感覚の確認
高次機能意識状態、認知機能評価

画像診断の実施

画像診断では様々な検査方法を組み合わせることで、脳動脈瘤の存在から詳細な性状把握まで、幅広い情報を得られます。

  • MRI/MRAによる非侵襲的な血管構造の描出と評価では、放射線被曝の心配なく繰り返し検査が可能
  • CTアンジオグラフィーによる三次元的な血管走行の把握は、緊急時にも短時間で実施可能
  • DSA(デジタル血管撮影)による詳細な血管構造の観察で、微細な血管の状態まで確認可能
  • 3DCTAによる立体的な血管構造の再構築により、手術シミュレーションにも活用可能

補助的検査法

腰椎穿刺検査を用いて髄液の性状や圧力を慎重に測定することで、出血の有無や炎症所見の有無を確認することができ、情報は診断の確実性を高めるための重要な補助データです。

経頭蓋超音波検査は非侵襲的に実施できる利点があり、脳血流の状態をリアルタイムで観察できます。

脳波検査では神経機能の状態を客観的に評価でき、意識状態や高次脳機能に関する情報を得る上で欠かせない検査です。

血液検査においては、炎症マーカーや凝固系の状態、各種代謝異常の有無などを確認することで、全身状態の評価や他の疾患との鑑別診断に役立ちます。

脳動脈瘤の治療法と処方薬、治療期間

脳動脈瘤の治療には、頭を開けて行う手術(クリッピング術)と、カテーテルとを使って血管の中から治療する方法(コイル塞栓術)の2つがあり、手術の前後に様々な薬を使いながら、3〜6ヶ月かけて治療を進めていきます。

クリッピング術による外科的治療

クリッピング術は、頭の骨を一時的に開けて脳動脈瘤に直接アプローチし、動脈瘤を、チタン製の特殊なクリップでしっかりと挟み込むことで、血液が動脈瘤に流れ込まないようにする治療法です。

治療工程所要期間
手術準備期間3〜7日
手術時間4〜8時間
集中治療室管理3〜5日
一般病棟管理2〜3週間

血管内治療(コイル塞栓術)

コイル塞栓術は、足の付け根の血管からカテーテルを入れて治療を行います。

レントゲンを見ながらカテーテルを脳の血管まで進めて、動脈瘤の中に特殊なコイルを詰めていき、頭を開けない分、体への負担が少ないです。

周術期の薬物療法

手術の前後では、様々な薬を使って患者さんの体調を整えます。

薬剤分類使用目的
抗てんかん薬痙攣を防ぐ
降圧薬血圧を下げる
鎮痛薬痛みを和らげる
制吐薬吐き気を抑える

脳動脈瘤の治療における副作用やリスク

脳動脈瘤に対する治療として実施される開頭クリッピング術と血管内コイル塞栓術は、様々な合併症やリスクを伴うことがあります。

手術手技に関連する共通のリスク

脳血管に対する手術を行う際には、血管の構造や周囲の神経組織との関係を慎重に見極めながら進めていきますが、完全にリスクを回避することは困難な場合があります。

特に動脈瘤が重要な血管分岐部に位置している際には、より一層の注意深い操作が求められることから、合併症のリスクも相対的に上昇します。

術中リスク発生頻度
血管攣縮3-5%
穿通枝障害2-4%
脳浮腫1-3%
血管損傷1-2%

また、手術中の微細な血管損傷や組織の圧排による影響は、術後の神経症状として顕在化することもあるので、注意が必要です。

開頭クリッピング術特有のリスク

開頭手術では頭蓋骨を一時的に取り外して脳に到達する必要があるため、特有の合併症リスクがあります。

  • 創部感染や髄膜炎などの感染性合併症の発生リスク
  • 脳実質の一時的な圧排による神経症状の出現
  • 頭皮切開や頭蓋骨の手術痕に伴う局所的な合併症
  • 開頭部位によって生じる可能性のある固有の神経症状

血管内治療に関連するリスク

血管内治療は開頭手術と比較して低侵襲な方法ではありますが、カテーテルやコイルなどの医療機器を使用する特性上リスクがあります。

血管内治療合併症特徴
血栓塞栓症遠位血管の閉塞
コイル逸脱血管内異物残存
動脈瘤穿孔術中出血
造影剤腎症腎機能障害

血管内からの治療では、カテーテル操作による血管内皮の損傷や、血栓形成による塞栓症のリスクがあRることから、術中の抗凝固療法の管理や、術後の経過観察が重要です。

麻酔に関連する合併症

全身麻酔を必要とする手術においては、特に血圧の急激な変動は出血や虚血性合併症を引き起こす可能性があることから、細心の注意を払う必要です。

使用する麻酔薬や筋弛緩薬に対するアレルギー反応なども稀に発生することがあり、また長時間の全身麻酔に伴う呼吸器合併症のリスクもあります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

基本的な手術費用の内訳

治療法基本費用(3割負担)入院日数
クリッピング術45〜90万円14〜30日
コイル塞栓術60〜120万円10〜20日

手術に使用する医療材料費

手術に必要な医療材料の費用

  • チタン製クリップ 15〜20万円
  • プラチナコイル(1本) 30〜50万円
  • マイクロカテーテル 10〜15万円
  • 血管内ステント 25〜35万円
  • 術中モニタリング機器使用 5〜10万円

術後のフォローアップ費用

定期的な画像検査やMRI検査には1回あたり2〜5万円程度の費用が必要で術後の処方薬については、抗血小板薬や降圧薬などで月額5,000円〜15,000円かかります。

術後リハビリテーションが必要となった際は、1回あたり3,000円〜5,000円程度の自己負担が発生します。

以上

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