表在性血栓静脈炎 – 循環器の疾患

表在性血栓静脈炎(Superficial thrombophlebitis)とは、皮膚のすぐ下にある表在静脈内で血栓が形成され、その周囲の静脈壁に炎症が起こる病気です。

静脈血流のうっ滞により、血液が固まりやすくなり発症します。

足の静脈瘤やケガなどで静脈が直接刺激・損傷を受けることが原因で、しこりや発赤、腫れなどが主な症状です。

まれですが、重症化して深部静脈血栓症や肺塞栓症を引き起こす場合もあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

表在性血栓静脈炎の主な症状

表在性血栓静脈炎の主な症状は、罹患部位の疼痛、発赤、腫脹、圧痛、硬結などです。

患部の疼痛

表在性血栓静脈炎を発症すると、炎症を起こした静脈に沿って痛みを感じるのが特徴です。特に、歩行時や立位時に痛みが強くなります。

疼痛の強さには個人差がありますが、多くの場合は鈍痛や灼熱感がみられます。

発赤と腫脹

炎症を起こした部位の皮膚が赤くなり、腫れ上がるのもよくある症状です。

症状特徴
発赤炎症を起こした静脈の走行に沿って線状に認められる
腫脹限局性で局所的なケースが多い

圧痛と硬結

表在性血栓静脈炎の患部を触診すると、圧痛を認める場合があります。

また、炎症や血栓形成の影響で静脈が硬くなる場合があり、これを硬結と呼びます。

その他の症状

  • 発熱
  • 倦怠感
  • リンパ節腫脹

症状の現れ方には個人差が大きいため、気になる症状がある場合は早めに医療機関で診察を受けましょう。

表在性血栓静脈炎の原因

表在性血栓静脈炎の原因は、大きく分けて3つあります。

  • 静脈血流のうっ滞
  • 血液凝固能の亢進
  • 血管壁の損傷

静脈血流のうっ滞

長時間にわたって同一の姿勢を取り続けたり、下肢に圧迫が加わったりすると静脈血流が滞り、炎症や血栓形成のリスクが高まります。

原因詳細
長時間の同一姿勢座位や立位での静止状態が長時間続く
下肢の圧迫衣服やアクセサリーによる過度な圧迫

血液凝固能の亢進

  • 妊娠
  • ホルモン療法
  • 先天性血栓性素因

上記のような状況下では血液凝固系が活性化され、血栓形成のリスクが上昇します。

血管壁の損傷

外傷、手術、注射などによって血管が直接的に損傷を受けたり、感染症に伴う血管炎などが表在性血栓静脈炎の原因となる場合があります。

原因詳細
外傷打撲や切り傷による血管壁の損傷
医療処置静脈穿刺や静脈カテーテル留置に伴う血管損傷

その他の危険因子

  • 加齢
  • 肥満
  • 喫煙
  • 脱水

これらの因子は血液凝固能の亢進や血流のうっ滞を助長し、表在性血栓静脈炎のリスクを増大させます。

診察(検査)と診断

表在性血栓静脈炎の診察では、身体所見の確認や画像検査を行います。

身体所見の評価ポイント

評価項目チェック内容
視診発赤、腫脹の有無
触診圧痛、索状硬結の有無
下肢全体の観察浮腫、色調変化の有無

画像検査

画像検査では、まず超音波検査を行うのが一般的です。

超音波検査によって、血栓があるかどうか、その範囲や、炎症がどのくらい進んでいるかを調べられます。

また、血液の流れ具合も分かるので、深部静脈血栓症を併発していないかも判断できます。

※状況によってはCT検査やMRI検査が行われるケースもあります。

血液検査

血液検査は、血液凝固能や炎症の状態を調べる検査です。

検査項目目的
CRP炎症反応の評価
D-dimer血栓形成の評価

表在性血栓静脈炎の治療法と処方薬、治療期間

表在性血栓静脈炎の治療は、主に症状の緩和と血栓の成長抑制・血栓の再発予防が目的となります。

一般的には抗炎症薬の内服、抗凝固薬の内服など、対処療法を行います。

抗炎症薬

炎症を抑え、疼痛を和らげるために非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が処方されます。

代表的なNSAIDsは、イブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナクなどです。

薬剤名一般的な用量
イブプロフェン1回200〜400mg、1日3回
ナプロキセン1回250〜500mg、1日2回
ジクロフェナク1回25〜50mg、1日3回

抗凝固薬

抗凝血薬の服用により、血栓の成長を抑制し、再発を予防します。

代表的な抗凝固薬にはヘパリン、ワルファリン、アピキサバン、リバーロキサバンなどがあります。

薬剤名一般的な用量
ヘパリン(皮下注射)1回5,000単位、1日2回
ワルファリン(内服)1回2〜5mg、1日1回(INR値を確認しながら調整)
アピキサバン(内服)1回2.5〜5mg、1日2回
リバーロキサバン(内服)1回10mg、1日1回

抗凝固薬の使用期間は患者の状態や血栓の広がりによって異なりますが、通常は数週間から数ヶ月間継続します。

治療期間と経過観察

表在性血栓静脈炎の治療期間は、症状の改善度合いや血栓の消退状況によって決まります。

一般的には以下のような経過をたどります。

  • 急性期(発症から1〜2週間):安静、圧迫療法、抗炎症薬、抗凝固薬による治療を行う。
  • 回復期(発症から2〜4週間):症状が改善してきたら、徐々に日常生活に復帰。圧迫療法は継続。
  • 維持期(発症から1〜3ヶ月):症状がほぼ消失した状態。再発予防のため、圧迫療法や抗凝固薬の継続を検討。

治療中は定期的な経過観察が必要であり、症状の変化や血栓の状態を確認しながら治療方針を適宜調整していきます。

予後と再発可能性および予防

表在性血栓静脈炎の治療後の経過は良好であり、再発防止も可能です。

予後

表在性血栓静脈炎の治療後は、多くの患者さんは症状が改善し、良好な経過をたどります。

治療後の状態
症状改善約80-90%
再発なし約70-80%

再発の可能性

一度表在性血栓静脈炎を発症した方は、再発のリスクが高くなります。

再発率は10-30%程度と報告されており、特に以下のような方は注意が必要です。

  • 肥満の方
  • 長時間の座位や立位を要する職業の方
  • 下肢静脈瘤のある方

再発予防のための生活習慣

再発予防のためには、以下のような生活習慣の改善が有効です。

  1. ウォーキングや水泳など、適度な運動を心がける
  2. 健康的な食事をとる
  3. 禁煙する
  4. 体重を管理する(適正体重の維持)

表在性血栓静脈炎の治療における副作用やリスク

表在性血栓静脈炎の治療で行う抗凝固療法では、出血のリスクがあります。また、抗炎症薬の使用では消化管出血や腎機能障害などの可能性があります。

抗凝固療法の副作用とリスク

抗凝固療法は血栓の拡大や再発を防ぐ重要な治療法ですが、出血のリスクが高まります。

主な抗凝固薬の副作用は以下の通りです。

薬剤名副作用
ヘパリン出血、血小板減少症、骨粗鬆症
ワルファリン出血、皮疹、肝機能障害

抗炎症薬の副作用とリスク

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は表在性血栓静脈炎の炎症や疼痛を緩和しますが、副作用やリスクがあります。

  • 消化管出血や潰瘍形成
  • 腎機能障害
  • 心血管系イベントのリスク増加

特に高齢者や消化性潰瘍の既往がある方は、NSAIDsの使用には注意が必要です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

表在性血栓静脈炎の治療費は、症状の重さや治療方法によって異なります。

治療費の目安

一般的な薬物療法の場合、1万円から5万円程度が目安です。

治療内容費用の目安
薬物療法1万円~5万円
硬化療法5万円~20万円

上記の費用は一般的な目安となりますので、実際はこれよりも高額になる場合があります。

具体的な治療費については、各医療機関へ直接ご確認ください。

医療保険の適用

表在性血栓静脈炎の治療費は医療保険の適用対象です。

自己負担額は1割~3割となります(自己負担額は、年齢や収入によって異なります)。

以上

References

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