門脈圧亢進症(もんみゃくあつこうしんしょう) – 消化器の疾患

門脈圧亢進症とは、消化管から吸収された栄養分を含む血液を肝臓へと運ぶ重要な血管である門脈において、血圧が通常よりも著しく上昇してしまう病態のことを指します。

この状態は主に肝硬変などの慢性的な肝臓疾患によって引き起こされ、門脈内の血液の流れが阻害されることで発症します。

その結果として、食道静脈瘤や腹水などの重篤な合併症を併発する可能性がある疾患です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

門脈圧亢進症の種類(病型)

門脈圧亢進症は、肝硬変による型が全体の約85%を占め、特発性門脈圧亢進症が約5%、肝外門脈閉塞が約7%、バッド・キアリ症候群が約3%の割合で発症します。

各病型は発症メカニズムや病態進行において、独自の特徴を持ちます。

門脈圧亢進症の主な病型分類

門脈圧亢進症における血行動態の変化は、障害部位によって特徴的なパターンを示します。

門脈圧(正常値5-10mmHg)が12mmHg以上に上昇すると、臨床的に意義のある門脈圧亢進症と診断されます。

医学的には血流障害の解剖学的位置から、肝臓内の障害による型と肝臓外の障害による型に大別することが診断の基本となります。

病型分類障害部位の特徴発症頻度
肝硬変による型肝臓内の線維化約85%
特発性型肝臓内の門脈枝約5%
肝外門脈閉塞型肝臓外の門脈本幹約7%
バッド・キアリ症候群肝静脈~下大静脈約3%

肝硬変による門脈圧亢進症

肝硬変による門脈圧亢進症では、正常な肝臓組織が線維組織に置き換わることで、門脈血流に対する抵抗が著しく増加します。

通常の門脈圧が5-10mmHgであるのに対し、この病型では平均で15-20mmHgまで上昇することが特徴です。

肝臓内の微細な血管構造の改変が進行性に起こり、門脈圧の持続的な上昇をもたらします。

  • 門脈圧の上昇(15-20mmHg)
  • 肝内血管抵抗の増加(正常値の2-3倍)
  • 脾臓の腫大(正常の1.5-2倍)

特発性門脈圧亢進症

特発性門脈圧亢進症における門脈圧の上昇は、通常12-16mmHg程度にとどまります。

この病型の特徴として、肝臓内の小さな門脈枝に変化が生じますが、肝機能検査値は比較的正常範囲内を維持します。

検査項目典型的な所見
門脈圧12-16mmHg
脾臓サイズ正常の1.3-1.8倍
血小板数5-10万/μL

肝外門脈閉塞

肝外門脈閉塞では、門脈本幹の血流速度が正常値の13-18cm/秒から著しく低下し、時には逆流を示します。

側副血行路の発達により、門脈圧は一般的に18-25mmHgまで上昇します。

この状態では、肝機能自体は比較的保たれているため、肝機能検査値は正常範囲内を示すことが多いです。

  • 門脈血流速度の低下(5cm/秒未満)
  • 側副血行路の発達(径3-8mm)
  • 脾臓容積の増加(正常の2-3倍)

バッド・キアリ症候群

バッド・キアリ症候群では、肝静脈圧勾配(正常値1-5mmHg)が8-12mmHgまで上昇します。

肝静脈から下大静脈にかけての閉塞や狭窄により、肝臓からの血液流出が妨げられ、結果として門脈圧が20-30mmHgにまで上昇します。

血行動態指標測定値範囲
肝静脈圧勾配8-12mmHg
門脈圧20-30mmHg
下大静脈圧15-25mmHg

門脈圧亢進症の各病型では、それぞれ特有の血行動態パターンを示すため、これらの数値は診断の重要な指標となります。

門脈圧亢進症の主な症状

門脈圧亢進症では、正常値5-10mmHgの門脈圧が12mmHg以上に上昇することで、食道静脈瘤、腹水、脾機能亢進症などの多彩な症状が出現します。

食道静脈瘤の発生率は約60%、腹水の出現率は約30%に達し、早期発見と定期的な経過観察が患者さんの予後を左右する重要な要素となります。

食道静脈瘤と胃静脈瘤

門脈圧の上昇(12mmHg以上)によって、食道下部や胃の粘膜下に静脈の拡張が生じます。

食道静脈瘤は門脈圧亢進症患者の約60%に認められ、門脈圧が20mmHgを超えると発生リスクが急激に上昇します。

静脈瘤の直径が5mm以上になると、内視鏡検査で明瞭な隆起性病変として確認できます。

静脈瘤の部位発生頻度特徴的な所見
食道下部約60%青みを帯びた隆起(直径3-7mm)
胃噴門部約20%こぶ状の隆起(直径5-10mm)
胃穹窿部約10%蛇行した血管拡張(直径4-8mm)
  • 食道下部の静脈瘤(発生率60%、破裂リスク15-20%/年)
  • 胃静脈瘤(発生率20-30%、破裂リスク5-10%/年)
  • 門脈圧20mmHg以上での発生リスク上昇(相対リスク2.5-3.0倍)

腹水と浮腫症状

腹水は門脈圧が16mmHg以上に上昇すると出現しやすく、患者さんの約30%に認められます。

腹囲の増加(通常の腹囲から5-10cm以上)として測定可能で、超音波検査では腹水量を定量的に評価します。

進行すると1日あたり500-1000mlの腹水貯留を認めます。

症状発生頻度臨床所見
腹水約30%腹囲増加5-10cm
下肢浮腫約40%足首周囲2-3cm増加
胸水約15%呼吸音の低下

脾機能亢進症

脾臓の腫大(正常の1.5-2.5倍)に伴い、血球成分の破壊が促進されます。

血小板数は正常値(15-35万/μL)から5-10万/μLへと低下し、白血球数も3000-4000/μL程度まで減少します。

貧血のマーカーであるヘモグロビン値は、通常の基準値(12-16g/dL)から9-11g/dLへと低下します。

血液検査項目正常値異常値
血小板数15-35万/μL5-10万/μL
白血球数4000-9000/μL3000-4000/μL
ヘモグロビン12-16g/dL9-11g/dL

門脈圧亢進症性胃症

門脈圧が15mmHg以上に上昇すると、胃粘膜の毛細血管拡張が生じ、特徴的な内視鏡所見(蛇の皮様模様)を呈します。

この変化は患者さんの約80%に認められ、胃粘膜の微小循環障害により、様々な消化器症状を引き起こします。

症状発生頻度重症度評価指標
食欲不振約65%体重減少率(3-6ヶ月で5-10%)
胃部不快感約70%VASスコア(0-10点)
悪心・嘔吐約45%頻度(回数/週)
  • 胃粘膜うっ血(発生率80%、重症度に応じて3段階評価)
  • 消化管出血(年間発生率5-10%、輸血必要率30-40%)
  • 栄養状態低下(体重減少5-10%/3-6ヶ月、アルブミン値低下2.5-3.0g/dL)

全身症状と血液検査異常

門脈圧亢進症に伴う全身症状は、門脈圧の上昇程度(12-30mmHg)と相関して出現します。

血清アルブミン値は正常値(3.8-5.0g/dL)から2.5-3.0g/dLへと低下し、プロトロンビン時間は正常値(10-13秒)から14-18秒へと延長します。

これらの検査値異常は、肝機能の低下を反映します。

検査項目正常値門脈圧亢進症での値
血清アルブミン3.8-5.0g/dL2.5-3.0g/dL
プロトロンビン時間10-13秒14-18秒
総ビリルビン0.3-1.2mg/dL2.0-3.5mg/dL

門脈圧亢進症の症状は、血行動態の変化を反映して多彩な臨床像を呈します。

症状の早期発見と適切な対応により、患者さんのQOL維持に努めることが必要です。

門脈圧亢進症の原因

門脈圧亢進症の発症原因は、肝硬変(全体の85%)、特発性門脈圧亢進症(5%)、肝外門脈閉塞(7%)、バッド・キアリ症候群(3%)の4つに大別されます。

門脈圧は通常5-10mmHgですが、これらの病態により12mmHg以上に上昇し、門脈血流に対する抵抗が増大します。

肝硬変による門脈圧亢進症の原因

肝硬変による門脈圧亢進症は、慢性的な肝臓の炎症により引き起こされ、全症例の約85%を占めます。

肝臓内の持続的な炎症によって、正常な肝組織が線維組織に置き換わり、肝臓内の血管構造が著しく変化します。

線維化した肝組織では、門脈血流に対する抵抗が正常値の2-3倍に増加し、門脈圧は15-20mmHgにまで上昇します。

原因疾患発症頻度門脈圧上昇値
B型肝炎25-30%15-18mmHg
C型肝炎40-45%16-20mmHg
アルコール性肝障害20-25%14-19mmHg
  • ウイルス性肝炎(慢性肝炎から肝硬変への進行期間:10-20年)
  • アルコール性肝障害(1日80g以上の飲酒を10年以上継続)
  • 自己免疫性肝炎(抗核抗体陽性率80%以上)

特発性門脈圧亢進症の原因

特発性門脈圧亢進症は、全症例の約5%を占め、肝臓内の微細な門脈枝に変化が生じることで血流抵抗が増加します。

この病態では、門脈圧が12-16mmHgまで上昇し、肝内の微小循環に障害が生じます。

遺伝的要因(家族内発症率2-3%)や免疫学的異常(自己抗体陽性率40-50%)の関与が指摘されており、特に20-40歳代の発症が多いとされます。

関連因子発現頻度臨床的特徴
遺伝的要因2-3%HLA-DR特定型との関連
免疫異常40-50%自己抗体陽性
血液凝固異常30-35%プロテインC/S低下

肝外門脈閉塞の原因

肝外門脈閉塞は全症例の約7%を占め、門脈本幹における血栓形成や外部からの圧迫により発症します。

門脈血流速度は正常値(13-18cm/秒)から著しく低下し(5cm/秒未満)、門脈圧は18-25mmHgまで上昇します。

血液凝固異常による血栓形成では、プロテインC活性の低下(正常値の60%以下)やプロテインS活性の低下(正常値の65%以下)が認められます。

閉塞原因発生頻度血行動態の変化
血栓形成45-50%門脈血流速度5cm/秒未満
外部圧迫30-35%門脈径の50%以上狭小化
炎症性変化15-20%血管壁肥厚2mm以上
  • 血液凝固異常(プロテインC活性60%以下、プロテインS活性65%以下)
  • 腹腔内感染症(腹腔内炎症性疾患の既往40-50%)
  • 外科手術後の合併症(開腹手術後発症率1-2%)

バッド・キアリ症候群の原因

バッド・キアリ症候群は全体の約3%を占め、肝静脈から下大静脈にかけての閉塞や狭窄により発症します。

肝静脈圧勾配は正常値(1-5mmHg)から8-12mmHgまで上昇し、門脈圧は20-30mmHgに達します。

血液凝固異常(骨髄増殖性疾患30-40%)、悪性腫瘍(固形癌合併率15-20%)、血管の先天的異常(血管形成異常5-10%)などが原因として知られています。

原因疾患発症頻度血行動態指標
骨髄増殖性疾患30-40%肝静脈圧8-12mmHg
固形癌15-20%門脈圧20-30mmHg
血管形成異常5-10%下大静脈圧15-25mmHg

門脈圧亢進症の原因を正確に把握することは、病態の進行を予測し、適切な経過観察を行う上で欠かせない要素となります。

各病型における血行動態の変化を理解することで、より効果的な対応が実現します。

診察(検査)と診断

門脈圧亢進症の診断では、身体所見の確認から画像診断まで、数値データに基づく客観的な評価と段階的な検査を実施します。

肝硬変による門脈圧亢進症、特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞、バッド・キアリ症候群の各病型における診察方法と、臨床診断から確定診断までの検査手順について、具体的な数値とともに説明していきます。

一般的な診察手順と身体所見の確認

門脈圧亢進症の診断において、医師は問診と詳細な身体診察によって初期評価を行います。

腹部の視診では、腹壁静脈の怒張(正常な静脈よりも2mm以上の拡張がみられる状態)や腹水の有無を慎重に観察していきます。

触診では、正常な脾臓の長径が7-11cm程度であるのに対し、12cm以上の脾腫大がないかどうかを確認し、さらに肝臓の硬さや表面の性状を評価します。

聴診による腹部血管雑音の確認も診察の重要な要素となり、特に上腹部での持続性の血管雑音に注意を払います。

全身の皮膚や粘膜の観察では、クモ状血管腫(直径1-5mm程度の特徴的な血管拡張)やその他の門脈圧亢進症に特徴的な所見の有無を入念に確認していきます。

身体所見の観察ポイント確認内容異常所見の基準値
腹部視診腹壁静脈怒張、腹水徴候静脈径2mm以上の拡張
触診脾腫、肝硬度、表面性状脾臓長径12cm以上
聴診腹部血管雑音持続性雑音の存在
全身観察クモ状血管腫、黄疸血管腫径1-5mm

臨床診断のための血液検査

血液検査による評価では、一般的な肝機能検査に加えて、凝固系の評価や血小板数の測定を実施します。

正常な血小板数が15-35万/μLであるのに対し、門脈圧亢進症では10万/μL未満まで低下することが多く、脾機能亢進の重要な指標となります。

プロトロンビン時間(PT)は、標準値の70%以上に対して、50%未満への低下が深刻な肝機能障害を示唆します。

  • 一般肝機能検査:AST(基準値30 IU/L以下)、ALT(基準値30 IU/L以下)
  • 血清アルブミン値(基準値3.8-5.2 g/dL)と総ビリルビン値(基準値1.2 mg/dL以下)
  • 血小板数(10万/μL未満で要注意)と凝固機能検査(PT、APTT)
  • 血清学的検査(各種ウイルスマーカー、自己抗体)
検査項目基準値異常値の臨床的意義
血小板数15-35万/μL10万/μL未満で脾機能亢進
PT活性値70-100%50%未満で重度肝障害
アルブミン3.8-5.2 g/dL3.0 g/dL未満で重症

画像診断による門脈血行動態の評価

超音波検査では、門脈の血流速度が正常値である15-20cm/秒から、10cm/秒未満への低下や血流方向の逆転などの異常所見を評価します。

造影CTやMRIによって、門脈本幹の径(正常値13mm以下)や側副血行路の発達状況を詳細に観察することができ、特に門脈径が15mm以上の拡張は門脈圧亢進を強く示唆する所見となります。

画像検査項目正常値異常所見の基準
門脈血流速度15-20cm/秒10cm/秒未満
門脈本幹径13mm以下15mm以上
脾臓長径11cm以下12cm以上

内視鏡検査による食道・胃静脈瘤の評価

内視鏡検査では、食道静脈瘤や胃静脈瘤について、その形態(F1:軽度隆起、F2:中等度隆起、F3:高度隆起)と発赤所見(RC sign)を評価します。

静脈瘤の直径は、F1で2mm未満、F2で3-4mm、F3で5mm以上を基準として分類し、出血リスクの判定に活用します。

確定診断のための侵襲的検査

肝静脈圧較差(HVPG)の測定では、正常値が5mmHg以下であるのに対し、10mmHg以上を門脈圧亢進症の診断基準としています。

12mmHg以上では食道静脈瘤の形成リスクが高まり、16mmHg以上では出血のリスクが著しく上昇します。

これらの数値は、病態の重症度評価と診療方針の決定に重要な指標となります。

門脈圧亢進症の診断において、これらの客観的な検査数値は、病態の正確な把握と適切な診療方針の決定に欠かせない要素となります。

門脈圧亢進症の治療法と処方薬、治療期間

門脈圧亢進症の治療においては、患者さんの状態に応じて薬物療法、内視鏡的治療、外科的治療などを組み合わせた包括的な医療を提供します。

肝硬変による門脈圧亢進症、特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞、バッド・キアリ症候群の各病型に対する具体的な治療法と、使用される薬剤および治療期間について、詳細な数値データとともに説明していきます。

薬物療法の基本方針

門脈圧亢進症の薬物療法において中心となるのは、非選択的βブロッカー(心臓と血管の両方に作用する薬剤)による治療です。

プロプラノロールは通常20-40mgから開始し、最大240mgまで漸増していきます。ナドロールは1日20-80mgの用量で使用し、心拍数が25%減少するまで調整を行います。

利尿薬では、スピロノラクトン25-50mgから開始し、最大200mgまで増量することで、腹水のコントロールを目指します。

これらの薬剤投与中は、定期的な血圧と心拍数のモニタリングが重要となり、一般的に2週間ごとの経過観察を実施していきます。

薬剤分類主な薬剤名開始用量最大用量モニタリング間隔
βブロッカープロプラノロール20-40mg/日240mg/日2週間ごと
利尿薬スピロノラクトン25-50mg/日200mg/日1-2週間ごと
血管収縮薬オクトレオチド25μg/時50μg/時6時間ごと

内視鏡的治療の実施

内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)では、1回の治療セッションで通常4-6個のゴムバンドを使用し、2-4週間隔で3-4回の治療を実施します。

内視鏡的硬化療法(EIS)においては、1回の治療で5-10mLの硬化剤を注入し、静脈瘤の完全な消失までには平均して4-6回の治療セッションが必要です。

治療後の再発予防には、3-6ヶ月ごとの定期的な内視鏡検査による経過観察を継続することが大切です。

治療方法1回あたりの処置量治療間隔総治療回数経過観察間隔
EVL4-6バンド2-4週3-4回3-6ヶ月
EIS5-10mL1-2週4-6回3-6ヶ月
APC治療4週2-3回6ヶ月

外科的治療の選択と実施

門脈圧亢進症における外科的治療の選択では、患者さんの肝機能や全身状態を総合的に評価します。

シャント手術の手術時間は通常3-5時間で、術後の入院期間は合併症がない場合2-3週間となります。

脾臓摘出術では、手術時間が2-3時間、入院期間は1-2週間程度で、術後の血小板数は一般的に手術前の2-3倍まで改善することが報告されています。

手術方法手術時間入院期間回復期間治療効果持続期間
シャント術3-5時間2-3週間1-2ヶ月5年以上
脾臓摘出術2-3時間1-2週間3-4週間永続的
部分的脾動脈塞栓術1-2時間5-7日2-3週間1-2年

特殊な病型に対する治療戦略

肝外門脈閉塞やバッド・キアリ症候群などの特殊な病型では、抗凝固療法が治療の基本となります。

ワーファリンによる抗凝固療法では、PT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)を1.5-2.5の範囲にコントロールすることを目標とし、少なくとも6ヶ月以上の継続投与が必要です。

ヘパリンは初期治療として10,000-20,000単位/日を持続点滴で投与し、APTTが基準値の1.5-2.5倍となるように用量を調整していきます。

バッド・キアリ症候群に対する血管形成術は、手技の成功率が85-95%と報告されており、術後の開存率を維持するために長期的な抗凝固療法を組み合わせます。

病型治療法目標値投与期間モニタリング頻度
肝外門脈閉塞ワーファリンPT-INR 1.5-2.56ヶ月以上1-4週間毎
バッド・キアリ症候群ヘパリンAPTT 1.5-2.5倍急性期5-7日6-12時間毎
特発性門脈圧亢進症血小板製剤5万/μL以上必要時処置前後

治療効果のモニタリングと経過観察

治療効果の評価では、定期的な検査と数値の確認が不可欠です。βブロッカーによる治療では、心拍数を55-60回/分まで低下させることを目標とし、2週間ごとに用量を調整します。

内視鏡検査は静脈瘤の再発モニタリングのため3-6ヶ月ごとに実施し、CT検査やMRI検査は門脈血流の評価のため6-12ヶ月ごとに行います。

血液検査では、肝機能検査や血算を1-3ヶ月ごとに確認し、凝固能の評価も定期的に実施していきます。

検査項目実施間隔評価指標目標値
内視鏡検査3-6ヶ月静脈瘤サイズF1以下
画像検査6-12ヶ月門脈血流速度10cm/秒以上
血液検査1-3ヶ月血小板数5万/μL以上

門脈圧亢進症の治療は、個々の患者さんの状態に応じて複数の治療法を組み合わせながら、長期的な経過観察を行うことで、より良い治療効果を得ることができます。

定期的な検査と細やかな投薬調整を通じて、患者さんの生活の質を維持・向上させることを目指します。

門脈圧亢進症の治療における副作用やリスク

門脈圧亢進症の治療には、薬物療法や内視鏡治療、外科的治療など、複数の医療行為に伴う副作用やリスクが伴います。

肝硬変による門脈圧亢進症、特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞、バッド・キアリ症候群の各病型における治療関連の副作用とリスクについて、具体的な数値データとともに説明していきます。

薬物療法に伴う副作用

非選択的βブロッカー(心臓と血管の両方に作用する薬剤)による治療では、循環器系への影響に細心の注意が重要となります。

心拍数が通常の60-80回/分から50回/分未満に低下する徐脈や、収縮期血圧が90mmHg未満となる血圧低下が、投与患者の10-15%で発生します。

利尿薬の使用では、血清カリウム値が基準値3.5-5.0mEq/Lを外れる電解質バランスの乱れや、血清クレアチニン値が0.3mg/dL以上上昇する腎機能障害が5-10%の頻度で出現します。

副作用の種類発現頻度重症度判定基準モニタリング頻度
徐脈10-15%心拍数50/分未満毎日
低血圧8-12%収縮期血圧90mmHg未満毎日
電解質異常5-10%K値3.5未満または5.0超週1回

内視鏡治療のリスク

内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)や硬化療法(EIS)では、治療後24-48時間以内に38℃以上の発熱が20-30%の患者で発生し、胸痛や嚥下困難は40-50%の患者が経験します。

食道潰瘍は施術後3-7日目に5-15%の頻度で形成され、その3-5%で出血をきたします。

これらの症状は通常2週間程度で改善しますが、狭窄などの長期合併症は1-2%の患者で残存する傾向にあります。

合併症発症時期発生率持続期間
発熱24-48時間以内20-30%2-3日
食道潰瘍3-7日目5-15%1-2週間
狭窄2-4週間後1-2%要治療

外科的治療に関連するリスク

シャント手術や脾臓摘出術などの外科的治療では、術中出血(推定出血量500mL以上)が15-20%、術後感染症が10-15%の頻度で発生します。

肝機能が低下している患者(Child-Pugh分類B以上)では、術後の回復が通常の1.5-2倍の期間を要し、在院日数が平均で10-14日延長する傾向にあります。

合併症の種類発生頻度重症度基準回復期間
術中出血15-20%500mL以上術後7日
術後感染症10-15%38.5℃以上の発熱7-14日
肝機能悪化5-10%T-Bil 2倍以上上昇14-28日

抗凝固療法のリスク管理

抗凝固療法における出血性合併症は、ワーファリン使用患者の年間3-8%で発生し、そのうち重篤な出血(入院や輸血を要する出血)は0.5-1.0%に及びます。

特に、PT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)が4.0を超える場合、出血リスクは通常の3-4倍に上昇します。

消化管出血は全出血性合併症の40-50%を占め、頭蓋内出血は0.2-0.4%と頻度は低いものの、発生すると致死率が20-50%に達します。

出血性合併症年間発生率リスク因子重症度判定
消化管出血1.5-4.0%PT-INR>4.0Hb2g/dL低下
頭蓋内出血0.2-0.4%高血圧合併意識障害
軽微な出血2.0-4.0%併用薬外来対応可

合併症予防と対策

合併症の予防には、生化学検査値の定期的なモニタリングが大切です。

肝機能検査では、AST/ALT値が基準値上限の3倍以上、総ビリルビン値が2.0mg/dL以上になった場合は投薬調整が必要となります。

血圧は収縮期血圧90-100mmHg、拡張期血圧60-70mmHgを維持し、心拍数は55-60回/分を目標値とします。

腎機能検査では、血清クレアチニン値の0.3mg/dL以上の上昇や、推算糸球体濾過量(eGFR)の30%以上の低下を警戒します。

モニタリング項目測定頻度警戒値緊急対応基準
肝機能検査2-4週毎AST/ALT>3倍T-Bil>3.0
腎機能検査2-4週毎Cr上昇>0.3eGFR<30%
血圧測定毎日<90/60mmHg<80/50mmHg
  • 週1回の血液検査による肝機能評価:AST/ALT、T-Bil、Alb
  • 2週間毎の腎機能と電解質バランス確認:BUN、Cr、Na、K
  • 毎日の血圧・心拍数モニタリング:朝夕2回測定
  • 月1回の凝固能評価:PT-INR、APTT

門脈圧亢進症の治療に伴う副作用やリスクは、適切なモニタリングと早期対応により、多くの場合でコントロール可能です。

患者さん一人一人の状態に応じた慎重な管理と、医療スタッフによる継続的な観察が、安全な治療の実現につながります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

門脈圧亢進症の治療には、薬剤費、入院費、検査費用など多岐にわたる医療費が必要となります。

処方薬の薬価

門脈圧亢進症の基本治療に用いるβブロッカー(心臓と血管の両方に作用する薬)や利尿薬は、長期的な服用を前提とした価格設定となっており、多くの薬剤でジェネリック医薬品(後発医薬品)を選択できるため、継続的な服用に伴う経済的な負担を軽減することが大切です。

薬剤分類先発品の1日薬価後発品の1日薬価月額薬価(後発品)
βブロッカー180-200円50-80円1,500-2,400円
利尿薬120-150円30-50円900-1,500円

1週間の治療費

外来診療における基本的な医療費は、再診料2,880円に処方箋料650円、調剤基本料420円などの基本料金に加え、各種検査料や薬剤費を合算した金額となります。

通常の外来診療では、これらの費用の総額は15,000円から25,000円程度で推移します。

  • 診察関連費用:3,500-4,000円(再診料、処方箋料、調剤基本料を含む)
  • 血液検査費用:5,000-8,000円(肝機能検査、血算、凝固系検査を含む)
  • 処方薬剤費用:3,000-7,000円(後発品選択時)
  • 画像検査費用:5,000-8,000円(腹部超音波検査など)

1か月の治療費

定期的な外来通院と処方薬、各種検査を含めた1か月の総医療費は、検査の種類や頻度によって変動しますが、基本的な治療内容の場合、50,000円から80,000円の範囲内となります。

この金額には、月2回の外来診療費、各種検査料、薬剤費などがすべて含まれており、内視鏡検査(約25,000-35,000円)などの特殊検査を実施する月は、一時的に総額が増加します。

費用項目2週ごとの診療時月額概算
外来診療費15,000-20,000円30,000-40,000円
薬剤費総額8,000-12,000円16,000-24,000円
定期検査費5,000-10,000円10,000-20,000円

以上

References

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