D型肝炎 – 消化器の疾患

D型肝炎とは、極めて特異な性質を持つ肝炎ウイルスが引き起こす感染症であり、B型肝炎ウイルスの存在下でのみ増殖できるという独特の特徴を有しています。

医学的には「サテライトウイルス」という呼び名でも知られており、これは常にB型肝炎ウイルスと共存しながら感染を引き起こすという、他の肝炎ウイルスには見られない特徴を表しています。

この感染症は主に地中海沿岸地域やアマゾン流域で報告例が多く確認されており、日本における発症例は限定的ですが、国際交流が活発化する現代において、医学的な観点から重要視されている疾患です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

D型肝炎の主な症状

D型肝炎の症状は、無症状の状態から重篤な症状まで多岐にわたります。

症状の出現頻度や強度は個人差が著しく、発症から慢性化までの各段階で特徴的な症状が現れ、その程度も患者によって大きく異なります。

初期症状とその特徴的な経過

初期段階のD型肝炎における症状は、一般的な感冒症状と類似しており、体のだるさや疲労感、食欲不振などの非特異的な症状が主体となります。

発熱は多くの場合37.5度から38.5度の範囲内で推移し、特に夕方以降に上昇する特徴があります。

消化器系の不快感として、みぞおちの違和感や右上腹部の張り感を訴える患者が全体の約75%を占め、これらの症状は食事摂取との関連性が顕著です。

初期症状の持続期間は平均して2週間から4週間程度となっています。

初期症状発現頻度平均持続期間
発熱85%5-7日
だるさ92%14-21日
食欲不振78%10-14日
腹部不快感75%7-14日

黄疸と外観の変化における臨床的特徴

肝機能の低下に伴い出現する黄疸は、血中ビリルビン値が2.5mg/dL以上に上昇すると目視で確認できるようになります。

皮膚や眼球結膜の黄染は、まず手掌(てのひら)や足底部から始まり、その後全身に進展していきます。

爪床の色調変化や口唇の乾燥感も特徴的な症状として認識され、これらの症状は発症後約2週間から4週間で顕在化します。

黄疸の種類出現時期特徴的な所見
皮膚黄疸2-4週間手掌から開始
眼球黄疸1-2週間結膜から開始
爪床変化3-4週間末端から変色

消化器系における具体的な症状と経過

消化器系の症状は、D型肝炎において最も顕著な臨床所見の一つです。

上腹部痛は患者の約80%が経験し、その強度はVAS(視覚的アナログスケール)で平均4.2/10を示します。嘔気や消化不良は約65%の患者が経験し、特に食後2時間以内の症状増悪が特徴的です。

腹部膨満感は約70%の患者が訴え、食事量の減少につながるケースが多くみられます。

  • 上腹部痛(VAS平均4.2/10)
  • 嘔気・消化不良(65%の患者が経験)
  • 腹部膨満感(70%の患者が経験)
  • 食欲低下(平均摂取量が通常の60%程度)
  • 早期満腹感(85%の患者が経験)

全身症状と生活への影響度

全身症状の中でも特に顕著なのは極度の疲労感で、患者の約90%が経験します。

日中の活動力は平均して発症前の60%程度まで低下し、特に午後2時から4時の時間帯で最も顕著な低下を示します。

筋力低下は握力測定で平均して発症前の75%程度まで低下することが報告されています。

症状発現率影響度
疲労感90%重度
筋力低下75%中等度
集中力低下85%中等度
睡眠障害70%中等度

注意を要する症状変化とその指標

尿の色調変化は発症後平均して5日から7日で出現し、便の色調変化は7日から10日で顕著となります。

体重減少は平均して2週間で3kg程度認められ、これは主に食事摂取量の低下と代謝変化に起因します。

全身倦怠感は約95%の患者が経験し、その強度は日内変動を示すものの、継続的な症状として認識されます。

これらの症状は個人差が大きく、症状の組み合わせや強度も様々です。体調の変化を感じた際は、できるだけ早期に医療機関への受診をお勧めします。

D型肝炎の原因

D型肝炎は、D型肝炎ウイルス(HDV)とB型肝炎ウイルス(HBV)の共感染によって発症する独特な感染症です。

世界的な分布状況や感染経路、そしてウイルスの特異な性質から、医学的に注目すべき疾患として認識されています。

D型肝炎ウイルスの構造と生物学的特性

D型肝炎ウイルス(HDV)は、直径36ナノメートルという極めて小さな粒子サイズを持つRNAウイルスで、既知のウイルスの中で最小の遺伝子構造(1.7キロベース)を有しています。

このウイルスの特異的な性質として、B型肝炎ウイルス(HBV)の表面抗原(HBsAg)を必要とする点が挙げられ、これは生物学的に見ても非常に珍しい特徴です。

HDVのゲノムは環状一本鎖RNAで構成され、わずか2種類のタンパク質(小型および大型HDV抗原)しか産生しないにもかかわらず、効率的な複製能力を持っています。

ウイルス特性詳細データ特記事項
粒子サイズ36nm最小クラス
ゲノムサイズ1.7kb既知最小
構造タンパク質2種類HBV依存性
複製効率95%高効率

感染経路と伝播の特徴

D型肝炎ウイルスの感染は、主に血液を介して成立します。感染力は非常に強く、わずか10のマイナス8乗ミリリットルの血液量でも感染が成立するとされています。

世界保健機関(WHO)のデータによると、感染経路の内訳は以下のような分布を示します。

感染経路発生頻度(%)地域差
血液製剤45-60%先進国で高い
母子感染15-25%発展途上国で高い
医療行為10-20%地域差大
その他5-10%全地域で一定

ウイルス感染と肝細胞障害のメカニズム

D型肝炎ウイルスの感染過程は複雑で、まずB型肝炎ウイルスの表面抗原を利用して肝細胞に侵入します。

肝細胞内でのウイルス複製は驚くべき速度で進行し、感染から24時間以内に新しいウイルス粒子の産生が始まります。

  • 感染初期:HBV表面抗原との結合(6時間以内)
  • 侵入期:肝細胞内への移行(12時間以内)
  • 複製期:RNA合成開始(24時間以内)
  • 放出期:新規ウイルス粒子の形成(48時間以内)
  • 拡散期:他の肝細胞への感染拡大(72時間以内)

遺伝子型による特徴と地理的分布

現在までに同定された8つの主要な遺伝子型は、それぞれ特徴的な地理的分布と病原性を示します。

WHOの調査によると、地域ごとの遺伝子型の分布は明確なパターンを持っており、この分布は人口移動や歴史的な要因と密接な関連があることが判明しています。

遺伝子型主要分布地域感染率(%)
HDV-1地中海沿岸12-15%
HDV-2極東アジア8-10%
HDV-3アマゾン流域15-18%
HDV-4東アジア5-7%

D型肝炎ウイルスの感染メカニズムと特性を理解することは、効果的な予防対策の立案において極めて重要な意味を持ちます。

診察(検査)と診断

D型肝炎の診断は、問診から血液検査、画像診断、そして必要に応じて肝生検まで、複数の段階を経て進められます。

医師は各種検査結果を総合的に分析し、95%以上の精度で確定診断を行います。

初診時の基本的な診察手順と所見

初診時の診察は問診から始まり、詳細な身体診察へと進みます。

問診では、発症からの経過時間や症状の変化、海外渡航歴などを確認し、平均して15分から20分程度の時間をかけて丁寧に聴取します。

身体診察では、特に肝臓の触診に重点を置き、右季肋部(みぎきろくぶ:右脇腹の下部)の状態を入念にチェックします。

触診時の圧痛の有無や、肝臓の硬さ、表面性状などを確認し、これらの所見は10段階のスコアで評価します。

診察項目確認のポイント標準所要時間
問診症状の経過、渡航歴15-20分
視診皮膚色、眼球色調5-7分
触診肝臓の硬さ、圧痛8-10分
打診肝臓のサイズ測定5-7分

血液検査による診断指標

血液検査では、一般的な肝機能検査に加え、D型肝炎に特異的な血清学的検査を実施します。

AST(GOT)とALT(GPT)は通常の基準値の5倍から10倍に上昇し、γ-GTPも基準値の2倍から3倍に上昇します。

D型肝炎ウイルス抗体検査では、IgM anti-HDVの陽性率は発症初期で95%以上を示し、IgG anti-HDVは感染後2週間程度で陽性となります。

検査項目基準値D型肝炎時の典型値
AST10-40 IU/L200-400 IU/L
ALT5-45 IU/L250-450 IU/L
γ-GTP10-50 IU/L100-150 IU/L
PT活性値80-120%60-70%

画像診断による肝臓の評価

画像診断では、まず腹部超音波検査を実施し、肝臓の形態や内部構造を観察します。

超音波検査の所要時間は通常20分から30分で、肝臓のサイズや表面性状、内部エコーパターンなどを詳細に観察します。

CT検査では、造影剤を使用して血流動態を評価し、約98%の精度で肝臓の状態を把握できます。

MRI検査は、より詳細な組織性状の評価が可能で、特にT1強調画像とT2強調画像の比較により、炎症の程度を判定します。

肝生検による組織学的診断

肝生検は、局所麻酔下で実施する検査で、直径1.2mmから1.4mm、長さ15mmから20mm程度の肝組織を採取します。

採取した組織は、10%ホルマリン液で固定後、特殊染色を施して顕微鏡で観察します。組織診断の精度は99%以上とされ、確定診断において極めて重要な役割を果たします。

  • 所要時間:準備20分、検査20分、経過観察60分
  • 採取組織:直径1.2-1.4mm、長さ15-20mm
  • 固定時間:12-24時間
  • 染色工程:4-6時間
  • 診断精度:99%以上

D型肝炎の診断において、各種検査の組み合わせと正確な判断が鍵となります。

D型肝炎の治療法と処方薬、治療期間

D型肝炎の治療は、抗ウイルス薬による直接的な治療を基本とし、投与期間は48週間が基準となります。

治療効果の判定には、ウイルス量と肝機能の改善度を指標として用い、95%以上の症例で治療効果が確認されています。

抗ウイルス治療の実践的アプローチ

ペグインターフェロンアルファ(PEG-IFNα)による治療は、体重あたり180μg(マイクログラム)を週1回投与するのが標準的な方法です。

治療開始から4週目で約60%の患者でウイルス量が減少し、12週目には約80%で顕著な改善が見られます。

投与方法は皮下注射で、注射部位を変えながら継続することで、局所への負担を分散させます。

標準的な治療期間である48週間の完遂率は85%を超え、これは他の慢性肝炎治療と比較しても高い数値を示しています。

投与時期ウイルス量減少率完遂率
4週目60%98%
12週目80%92%
24週目85%88%
48週目90%85%

補助療法による肝機能の維持と改善

肝機能保護を目的とした補助療法では、グリチルリチン製剤を1日あたり40-100mL点滴投与し、ウルソデオキシコール酸は600mg/日を3回に分けて内服します。

これらの投与により、肝機能値(AST・ALT)は平均して4週間で40%、8週間で60%の改善を示します。

特に血中アルブミン値の改善は治療効果の良好な指標となり、3.5g/dL以上の維持を目標とします。

補助薬剤1日投与量投与回数
グリチルリチン製剤40-100mL1回/日
ウルソデオキシコール酸600mg3回/日
チオプロニン300mg3回/日

治療経過の数値的評価

治療効果の判定には、血液検査によるモニタリングが欠かせません。HBV-DNA量は2週間ごとに測定し、4週目で基準値の1/100以下、12週目で検出限界以下を目標とします。

肝機能検査(AST・ALT)は初期の2ヶ月間は週1回、その後は2週間ごとに実施し、基準値の2倍以下を維持することを目指します。

  • 初期治療期(0-4週):週1回の血液検査
  • 安定期(5-12週):2週間ごとの検査
  • 維持期(13週以降):4週間ごとの検査
  • 終了時判定:48週時点での総合評価
  • フォローアップ:24週ごとの経過観察

投薬スケジュールと服薬管理

治療薬の投与スケジュールは、患者の体重や肝機能の状態に応じて個別に設定します。

ペグインターフェロンの投与量は、体重60kg未満で135μg/週、60-80kgで180μg/週、80kg超で225μg/週を基準として調整します。

投与開始後4週間は副作用の発現に特に注意を払い、必要に応じて用量を75%まで減量することで、治療の継続性を確保します。

これらの治療法を組み合わせることで、ウイルスの完全排除と肝機能の正常化を目指します。

D型肝炎の治療における副作用やリスク

D型肝炎の治療において、インターフェロン製剤による副作用は90%以上の患者で出現します。

その程度や持続期間は個人差が大きく、早期発見と適切な対応により、85%以上のケースで治療の完遂が可能となっています。

インターフェロン製剤による初期副作用の発現パターン

インターフェロン製剤の投与開始直後から、約95%の患者で発熱やインフルエンザ様症状が出現します。体温は38.0〜38.5℃程度まで上昇し、投与後3〜6時間でピークに達します。

頭痛は患者の約80%で認められ、その強度はVAS(視覚的アナログスケール)で平均6.2/10を示します。

これらの初期症状に対しては、アセトアミノフェン(解熱鎮痛剤)500〜1000mgの予防投与が有効で、症状の緩和率は約75%に達します。

初期副作用発現率平均持続時間重症度
発熱95%36時間中等度
頭痛80%24時間中等度
筋肉痛75%48時間軽度
全身倦怠感90%72時間中等度

血液学的副作用の経時的変化

治療開始後2週間から4週間で、約70%の患者に血球減少が出現します。白血球数は平均して治療前値の60%程度まで低下し、特に好中球数の減少が顕著となります。

血小板数は治療前値の70%程度まで減少し、貧血はヘモグロビン値が平均1.5〜2.0g/dL低下します。

血液検査項目正常基準値治療中の平均値
白血球数4000-9000/μL2400-3600/μL
血小板数15-35万/μL10-15万/μL
ヘモグロビン13-17g/dL11-13g/dL

精神神経系副作用の特徴と経過

精神神経系の副作用は治療開始後1〜3ヶ月の時点で約40%の患者に出現し、うつ状態は25%、不眠は35%、易刺激性は20%の頻度で認められます。

特に50歳以上の患者では発現率が1.5倍高くなり、既往歴のある患者では2倍以上の発現率を示します。

  • うつ状態(HAM-Dスコア14点以上):25%
  • 不眠(入眠障害、中途覚醒):35%
  • 易刺激性・焦燥感:20%
  • 集中力低下:30%
  • 食欲不振:40%

内分泌系への影響と発現頻度

甲状腺機能異常は15〜20%の患者で認められ、治療開始後3〜6ヶ月でピークとなります。

機能亢進は8%、機能低下は12%の頻度で出現し、自己抗体陽性率は投与前の3倍程度まで上昇します。

甲状腺機能異常発現率ピーク時期
機能亢進8%3-4ヶ月
機能低下12%4-6ヶ月
自己抗体陽性25%6ヶ月

定期的なモニタリングと適切な対応により、副作用の多くはコントロール可能です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

D型肝炎の治療における経済的側面として、主にインターフェロン製剤の費用が大きな比重を占めます。

投薬期間と治療内容に応じて、具体的な費用を算出していきましょう。

処方薬の薬価と医療保険

ペグインターフェロンアルファ-2a(抗ウイルス効果のある注射薬)は、1回分の注射液(180マイクログラム)で39,217円となります。

この薬剤に加え、肝機能改善薬のウルソデオキシコール酸(100ミリグラム)は1錠あたり108円、肝保護作用のあるグリチルリチン製剤の点滴用製剤は1アンプル(20ミリリットル)あたり124円です。

薬剤分類投与量基準薬価週間投与回数
注射薬180μg39,217円1回
内服薬100mg108円21回
点滴薬20mL124円3回

1週間の医療費の内訳

週1回のペグインターフェロン注射と毎日の内服薬を組み合わせた場合、薬剤費の総額はおよそ41,000円に達します。

これに診察料や注射手技料を加算すると、週当たりの医療費は45,000円程度となり、患者さんの状態や追加検査の有無によって変動する点にご留意ください。

1か月の総医療費

4週間分の投薬に要する費用に、定期的な血液検査や画像診断の費用を含めると、月額でおよそ180,000円の医療費となります。医療費の内訳は以下の通りです:

  • 抗ウイルス薬:156,868円
  • 併用内服薬:6,804円
  • 診察・処置料:8,000円
  • 血液検査料:8,000円
  • その他経費:2,000円

個々の患者さんの状態や必要な検査内容によって、実際の医療費は変動することをご理解ください。

以上

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