「先生、最近なんだかずっと疲れやすくて、体も冷えるし、体重も増えてきて……なんかおかしいんです」
こういう相談、実はすごく多いんです。そして僕がまず頭に浮かべる病気の一つが「甲状腺機能低下症」です。倦怠感、冷え、体重増加。この三つが揃っていたら、甲状腺の検査を一度やらない手はない。
甲状腺機能低下症は、気づかれないまま何年も放置されているケースがとても多い病気です。症状が「年のせい」「疲れのせい」で片付けられてしまうからです。でもこれ、血液検査一本で見つかるし、薬一つで劇的に改善する。だからこそ、みなさんにちゃんと知っておいてほしいのです。
2017年にLancetに掲載されたChaker、Bianco、Jonklaas、Peetersらのレビュー論文では、甲状腺機能低下症は世界的に最も多い内分泌疾患の一つであり、女性を中心に広く見られるとまとめられています[1]。日本人を対象にした研究でも、甲状腺機能異常は一般住民の中に相当数潜在していることが示されています[2]。
- 甲状腺機能低下症とはどんな病気か
- 甲状腺ホルモンが担っている役割
- 原因の大半は橋本病(慢性甲状腺炎)
- こんな症状が続いていませんか
- 見逃されやすい「潜在性甲状腺機能低下症」
- 検査の読み方。TSHとFT4が鍵
- 治療の基本はレボチロキシン補充
- 薬の飲み方で効果はこんなに変わる
- 体重との関係。「甲状腺のせいで太る」は本当か
- 妊娠・出産と甲状腺ホルモン
- 日常生活で気をつけること
- よくある質問
甲状腺機能低下症とはどんな病気か
甲状腺は首の前側にある、蝶が羽を広げたような形の小さな臓器です。重さはだいたい15〜20gほど。でもこの小さな臓器が、体全体の「代謝のエンジン」を動かしています。そのエンジンが失速している状態が「甲状腺機能低下症」です。
ではなぜそれがそこまで問題になるのか?それは甲状腺ホルモンが体のほぼすべての細胞に作用しているからです。心臓の拍動、体温調節、腸の蠕動、脳の活動、コレステロールの代謝。すべてに甲状腺ホルモンが関わっています。だからホルモンが足りなくなると、体全体が「スローモーション」になっていくのです。
僕がよく患者さんに使うたとえ話があります。「暖房のきいていない部屋に住んでいるような状態」です。エンジンが止まっているわけではないけれど、アクセルを踏んでもなかなか動かない。体が冷えて、動きが鈍くなって、エネルギーが足りなくなっていく。そのイメージがいちばん近いと思います。
甲状腺機能低下症には「顕在性」と「潜在性」の2種類があります。顕在性は甲状腺ホルモン自体が不足している状態、潜在性は脳からの指令(TSH)は増えているけれどホルモン値はまだ正常を保っている状態です。潜在性の方が数の上では圧倒的に多く、自覚症状がないケースも少なくありません[3]。
甲状腺ホルモンが担っている役割
甲状腺から分泌されるホルモンは主に2種類です。「T4(サイロキシン)」と「T3(トリヨードサイロニン)」。分泌量の比でいうとT4が約90%、T3が約10%。ただし細胞に直接作用する力が強いのはT3のほうで、T4は体の各組織でT3に変換されてから使われます。
この甲状腺ホルモンの分泌を管理しているのが、脳の下垂体から出る「TSH(甲状腺刺激ホルモン)」です。甲状腺ホルモンが足りなければTSHが増えて「もっと出しなさい」と指令し、十分あればTSHが下がる。これを「ネガティブフィードバック」と呼びます。甲状腺機能低下症ではこの調節の結果としてTSHが高くなるので、血液検査でTSHを測れば異常に気づけるわけです。
さらに言えば、甲状腺ホルモンは脳の機能にも深く関わっています。だから甲状腺機能低下症の方は「頭がぼんやりする」「集中できない」「やる気が出ない」といった精神的な症状を訴えることが多い。うつ病と間違えられて精神科に通っていた方が、実は甲状腺機能低下症だったというケースを、僕も実際に経験しました。こういうことが本当にあるのです。
コレステロールの代謝も甲状腺ホルモンが制御しています。甲状腺機能が低下するとLDLコレステロールが上がりやすくなる。これは肝臓でのLDL受容体の活性が下がるためです[4]。健康診断でコレステロールが高いと言われたのに食事改善をしても下がらない。そんな場合は、甲状腺が原因かもしれません。
原因の大半は橋本病(慢性甲状腺炎)
甲状腺機能低下症の原因はいくつかありますが、日本で圧倒的に多いのは「橋本病(慢性甲状腺炎)」です。原因全体の70〜80%を占めると言われています。
橋本病は自己免疫疾患です。本来は外敵を攻撃するはずの免疫が、自分の甲状腺組織を誤って攻撃してしまう。その結果、甲状腺がじわじわ壊されていき、ホルモンを作る力が少しずつ低下していくのです。血液検査では「抗TPO抗体」や「抗サイログロブリン抗体」といった自己抗体が陽性になります。
ではなぜ免疫が暴走するのか?正直なところ、医学的にまだ完全には解明されていません。遺伝的な素因と環境因子の複合だと考えられています。家族に甲状腺の病気を持つ方がいると、リスクが高まることがわかっています。女性に圧倒的に多く、男女比はおよそ1対7とも言われています。
橋本病以外の原因としては、①甲状腺の手術後(バセドウ病などで甲状腺を切除した後)、②放射性ヨウ素治療後、③薬剤性(アミオダロン、リチウムなど)、④ヨウ素過剰摂取、といったものがあります。日本人は海藻をよく食べるためヨウ素摂取量が世界的にも多い国ですが、通常の食事範囲では問題になりません。ただ昆布だしを毎日大量に飲むような極端な習慣があると、甲状腺機能が抑制されることがあります。
ちなみに、橋本病と診断されても全員が甲状腺機能低下症になるわけではありません。抗体は持っているけれど甲状腺ホルモンは正常、という方も相当います。この場合は治療不要で、定期的な経過観察だけでOKです。
こんな症状が続いていませんか
甲状腺機能低下症の症状は「体全体がスローダウンする」イメージです。僕が外来で患者さんに確認するチェックポイントをお伝えします。
①疲れやすい・だるさがとれない、②以前より寒がりになった(特に冷え性がひどくなった)、③食事量は変わらないのに体重が増えてきた、④便秘がひどくなった、⑤肌がカサカサしてきた・髪がパサパサになった・抜け毛が増えた、⑥顔や手足がむくむ(朝起きたときの顔のむくみが特徴的)、⑦声がかすれる・低くなった、⑧集中力が落ちた・頭がぼんやりする、⑨気分が沈む・やる気が出ない、⑩月経の量が多くなった・周期が不順になった。
この中で3つ以上当てはまる方は、一度血液検査で甲状腺を調べてみる価値が十分あります。
ここが厄介なポイントなのですが、これらの症状って一つひとつは「年のせい」「更年期だから」「最近忙しいから」で済まされてしまいやすい。実際、僕の患者さんで3年間ずっとだるさを我慢していた方がいました。血液検査をしたらTSHが40 mIU/Lを超えていました(正常は0.5〜5.0程度)。治療を始めたら2ヶ月ほどで「別人みたいに元気になった」とおっしゃっていました。だからこそ、原因不明の体調不良が続く方には「甲状腺の検査、やったことありますか?」と必ず聞くようにしています。
見逃されやすい「潜在性甲状腺機能低下症」
「潜在性甲状腺機能低下症」という言葉をご存じですか?血液検査でTSHは高いけれど、甲状腺ホルモン(FT4)の値はまだ正常範囲内という状態です。つまり甲状腺はギリギリ踏ん張ってホルモンを出せているけれど、脳からは「もっと出して」という指令がすでに出ている。いわば「機能低下症の一歩手前」です。
これがどのくらいの頻度で見られるかというと、一般成人では約4〜10%という数字が出ています。60歳以上の女性では15%以上という報告もあります[3]。めちゃくちゃ多いのです。でも通常の健康診断ではFT4しか測定しないことが多いため、FT4が正常なら「異常なし」と判定されてしまいます。TSHを測らないと見つけられない。
潜在性甲状腺機能低下症でも、倦怠感、冷え、コレステロール上昇といった軽めの症状を感じている方が一定数います。また潜在性の段階から心血管リスクが上がるというデータもあります[4]。
治療が必要かどうかはTSHの値と症状の程度で判断します。TSHが10 mIU/Lを超えていれば治療を始めるのが一般的です。5〜10の範囲なら、症状の有無、妊娠の希望、抗体の有無などを総合して判断します[3][5]。
検査の読み方。TSHとFT4が鍵
甲状腺機能低下症の診断は、実はとてもシンプルです。血液検査でTSHとFT4(遊離サイロキシン)の2つを測ればほぼ診断がつきます。
基本的な読み方はこうです。TSHが高くてFT4が低い場合は「顕在性甲状腺機能低下症」。TSHが高いけれどFT4は正常なら「潜在性甲状腺機能低下症」。TSHもFT4も正常なら甲状腺機能はとりあえず問題なし、という判断になります。
正常値の目安はTSHが約0.5〜5.0 mIU/L、FT4が約0.9〜1.7 ng/dLです。ただしこの基準値は検査機関によって若干異なります。僕が外来で気をつけているのは、数値だけで判断しないことです。症状との照らし合わせが大事で、TSHが正常上限付近でも症状が揃っていれば治療を考える場面があります。
原因を特定するためには「抗TPO抗体」「抗サイログロブリン抗体」を測ります。これらが陽性なら橋本病の可能性が高い。日本人女性の約10〜15%がこれらの抗体を保有しているというデータもあります[2]。
僕の外来では初回の採血でTSH、FT4、FT3に加えて自己抗体もセットで測るようにしています。そして甲状腺のエコー(超音波検査)も一緒に行います。橋本病では甲状腺がびまん性に腫れていたり、内部がザラザラした特徴的なパターンが見られることが多く、エコーは診断の大きな助けになります。
治療の基本はレボチロキシン補充
甲状腺機能低下症の治療は非常にシンプルです。足りないホルモンを薬で補う。それだけです。使われるのは「レボチロキシン(商品名:チラーヂンS)」という合成甲状腺ホルモンです。日本で最も広く使われている甲状腺の薬で、1日1回、朝の空腹時に飲むのが基本です[5]。
ではこの薬を飲めばどうなるのか?多くの方が2〜4週間ほどで「体が軽くなった」「頭がスッキリした」と効果を実感し始めます。1〜2ヶ月後の血液検査でTSHが正常範囲に入れば、投与量が適切であることの確認になります。
投与量は少量から始めて6〜8週間ごとに血液検査をしながら調整していきます。若くて心臓に問題がない方なら最初から50μg/日程度で開始することが多いです。高齢者や心臓病のある方は25μg/日から慎重に始めます。最終的な維持量は個人差が大きく、50〜150μg/日の範囲に落ち着くことが多いです。
「一生飲み続けないといけないんですか?」と聞かれることが本当に多いです。橋本病が原因の場合は、残念ながら基本的に「はい」というのが答えです。甲状腺の組織が自己免疫で傷んでいるため、自然に回復することは難しい。でも裏を返せば、薬さえ飲んでいれば健康な方と同じ生活が送れる。これは非常に大きいことだと僕は思います[5][6]。
薬の飲み方で効果はこんなに変わる
チラーヂンSは安全で副作用もほとんどない薬ですが、飲み方によって吸収率が大きく変わります。ここを知っているかどうかで、治療の安定感がかなり違ってくるのです。
僕が患者さんに毎回伝えていることをまとめると、①朝起きたら最初にチラーヂンSを水で飲む、②飲んでから食事まで30分以上空ける(理想は1時間)、③コーヒーや牛乳と一緒に飲まない、④カルシウム剤や鉄剤とは2〜4時間間隔を空ける、の4点です。
ではなぜこれが大事なのか?チラーヂンSは空腹時に飲むと約80%が吸収されますが、食後だと吸収率が60%程度まで落ちることがわかっています。さらにコーヒーはレボチロキシンの吸収を有意に低下させ、カルシウム剤や鉄剤もホルモンと結合して吸収を妨げます[7]。同じ量の薬を飲んでいても、飲み方次第で体に届くホルモン量が20〜30%変わりうるわけです。
実際に僕の患者さんで「薬を飲んでいるのに数値がなかなか安定しない」という方がいました。よく聞いてみたら毎朝コーヒーと一緒に飲んでいたのです。飲み方を直しただけで次回の検査ではTSHがきれいに正常値に入りました(笑)。こういうことが本当にあります。
飲み忘れた場合は気づいたときに飲めばOKです。翌日に2回分まとめて飲む必要はありません。チラーヂンSは体内での半減期が約7日と長いため、1日飲み忘れたくらいで急に体調が変わることはほとんどありません。
体重との関係。「甲状腺のせいで太る」は本当か
「甲状腺機能低下症になると太る」。これは半分正しくて、半分は誤解です。
甲状腺ホルモンが不足すると基礎代謝が落ちるのは事実です。10〜15%程度低下すると言われています。そしてもう一つ大事なのが、増える体重の「中身」です。甲状腺機能低下症で増えるのは主に「水分」と「ムコ多糖類」という物質で、いわゆる「むくみ」による体重増加が大きな割合を占めています。純粋な脂肪がガンガン蓄積されるわけではありません。
だからこそ治療を始めてホルモンが正常に戻ると、むくみが解消されて2〜5kgほどストンと体重が落ちる方が多いです。でも「甲状腺のせいで10kg以上太った」というケースは、正直なところ少ない。10kg以上の体重増加がある場合は、甲状腺以外の要因、食事の中身や運動不足も一緒に見直す必要があります。
僕がよく患者さんに伝えるのは「甲状腺のせいだけにしない」ということです。治療で甲状腺ホルモンが正常になったら、「代謝が正常に戻ったスタートラインに立てた」という感覚で、そこから食事と運動に取り組むのが本筋です。
妊娠・出産と甲状腺ホルモン
甲状腺機能低下症と妊娠の関係は、僕がとても大事にしているテーマの一つです。
甲状腺ホルモンは胎児の脳の発達に不可欠です。特に妊娠初期の12週ごろまでは赤ちゃん自身の甲状腺がまだ機能していないため、お母さんの甲状腺ホルモンに完全に依存しています。この時期に母体の甲状腺ホルモンが足りていないと、赤ちゃんの発育に影響が出る可能性があります。流産リスクの増加、早産、妊娠高血圧症候群、胎児の神経発達への影響。こういったことが報告されています[8]。
だからこそ、妊娠を希望する女性に対しては甲状腺の管理目標をやや厳しめに設定します。2017年のATA(米国甲状腺学会)の妊娠ガイドラインでは、甲状腺疾患のある妊婦におけるTSH管理の重要性が強調されています[8]。すでにチラーヂンSを内服中の方は、妊娠がわかった時点で主治医に連絡して、投与量の調整が必要かどうかを相談してください。妊娠中は甲状腺ホルモンの需要が約30〜50%増えるため、増量が必要になることが多いです。
そして出産後も要注意です。「産後甲状腺炎」という状態が産後6ヶ月以内に起きることがあり、一時的に甲状腺機能が乱れます。産後のだるさや気分の落ち込みが「産後うつ」ではなく甲状腺の問題だった、ということも実際にあるのです。産後の体調不良が続く場合は、甲状腺の検査も一度受けてみてください。
日常生活で気をつけること
甲状腺機能低下症は、薬でホルモン値が正常になれば日常生活にほとんど制限はありません。でもいくつか知っておいてほしいことがあります。
「ヨウ素の摂取」については、普通の食事をしていれば特別な制限は必要ありません。日本人は海藻を日常的に食べるのでヨウ素不足の心配はまずない。ただ「健康のために毎日昆布を大量に食べている」「ヨウ素入りのサプリメントを飲んでいる」という方は、過剰摂取が甲状腺機能を逆に抑制することがあるので、かかりつけ医に相談してください。
運動については、ホルモンが正常にコントロールされていれば何の制限もありません。むしろ適度な運動は代謝を上げ、体重管理にも役立ちます。僕は「週に3回・30分程度の散歩」を最低ラインとしてお勧めしています。治療前に「運動する気力が出なかった」という方が、治療後にフルマラソンに挑戦するようになったというケースも知っています。それくらい変わることがあるのです。
定期的な通院と血液検査は欠かせません。体重の変化、年齢、他の薬の使用状況などによって甲状腺ホルモンの値は変動することがあります。安定している方でも年に2回程度の血液検査を受けてほしいと思います。
そして意外と知られていないのが、甲状腺機能低下症とコレステロール値の関係です。甲状腺ホルモンが正常に戻るとLDLコレステロールも自然に下がることが多い[4]。「食事に気をつけているのにコレステロールが下がらない」という方は、甲状腺も調べてみる価値があります。
よくある質問
Q. 甲状腺機能低下症は遺伝しますか?
A. 甲状腺機能低下症そのものが直接遺伝するわけではありませんが、原因となる橋本病のなりやすさには遺伝的な傾向があります。親や兄弟に甲状腺疾患がある方はリスクが高くなります。でも「必ずなる」わけではないので過度に心配しないでください。気になる方は定期的な血液検査を受けておくと安心です。
Q. チラーヂンSに副作用はありますか?
A. 適切な量を服用している限り副作用はほぼありません。チラーヂンSは体が本来作るべきホルモンと同じものを補充しているだけです。ただ量が多すぎると動悸、手の震え、発汗、体重減少といった「甲状腺機能亢進症」と同じ症状が出ることがあります。だからこそ定期的な血液検査で適正量を保つことが大切です。
Q. 甲状腺機能低下症は治りますか?
A. 原因によります。橋本病が原因の場合は甲状腺組織が自己免疫で傷んでいるため、基本的に自然回復は難しく薬の服用は長期にわたります。でも亜急性甲状腺炎の回復期や産後甲状腺炎が原因の場合は、数ヶ月で自然に回復することもあります。どちらのケースか、主治医に確認しておくことが大事です。
Q. 食事で特別に気をつけることはありますか?
A. バランスの良い普通の食事をしていれば特別な制限は不要です。ただ大豆製品の極端な大量摂取(豆乳を毎日1リットル以上飲むなど)や昆布の過剰摂取はチラーヂンSの吸収や甲状腺機能に影響する可能性があるので、極端な食べ方は避けてください。
Q. 甲状腺の薬を飲みながらお酒は飲めますか?
A. 適度な飲酒であれば問題ありません。チラーヂンSとアルコールの間に直接的な相互作用はないとされています。ただ過度の飲酒は健康全般に悪影響がありますから、ほどほどに、というのは甲状腺に関係なく同じです(笑)。
Q. 更年期障害との見分け方は?
A. 倦怠感、冷え性、体重増加、気分の落ち込み。これらは両方に共通する症状なので、自覚症状だけでは区別がつきにくいです。血液検査でTSHとFT4を測れば甲状腺の問題かどうかははっきりわかります。更年期の症状がある方は甲状腺も一緒に調べることを強くお勧めします。実際、両方が同時に起きていることもありますから。
Q. 子どもが甲状腺機能低下症と診断されました。成長に影響はありますか?
A. 甲状腺ホルモンは子どもの成長と脳の発達に不可欠です。適切に治療しないと身長の伸びが遅れたり、学習に支障が出る可能性があります。ただ早期に診断して適切な量のホルモンを補充すれば、健康なお子さんと変わらない発達が期待できます。日本では先天性甲状腺機能低下症の新生児マススクリーニングが整備されており、早期発見・早期治療の体制が確立しています。
Q. 橋本病と診断されましたが、まだ症状はありません。何か変わりますか?
A. 橋本病があっても甲状腺ホルモン値が正常なら治療は不要です。ただ甲状腺ホルモンの値は時間の経過とともに変化することがあるので、年に1〜2回の定期的な血液検査を続けることが大切です。「何もしなくていい」ではなく「定期的に見守っていく」というスタンスで付き合っていきましょう。
甲状腺機能低下症は、知ってしまえばそこまで怖い病気ではありません。血液検査一本で見つけられるし、薬一つでコントロールできる。でも知らないまま放置すれば、倦怠感や冷えや体重増加にずっと悩まされ続けることになります。
もし今日お話しした症状に心当たりがある方は、ぜひ一度かかりつけの先生に「甲状腺の検査をしてもらえますか?」と聞いてみてください。たった一本の採血で人生が変わることがある。これは大げさじゃなくて、本当のことです。みなさんの体が本来の元気を取り戻せるように、一緒に考えていきましょう。
参考文献
[1] Chaker L, Bianco AC, Jonklaas J, Peeters RP. Hypothyroidism. Lancet. 2017;390(10101):1550-1562. doi:10.1016/S0140-6736(17)30703-1
[2] Kasagi K, Takahashi N, Inoue G, Honda T, Kawachi Y, Izumi Y. Thyroid function in Japanese adults as assessed by a general health checkup system in relation with thyroid-related antibodies and other clinical parameters. Thyroid. 2009;19(9):937-944. doi:10.1089/thy.2009.0205
[3] Surks MI, Ortiz E, Daniels GH, et al. Subclinical thyroid disease: scientific review and guidelines for diagnosis and management. JAMA. 2004;291(2):228-238. doi:10.1001/jama.291.2.228
[4] Cappola AR, Ladenson PW. Hypothyroidism and atherosclerosis. J Clin Endocrinol Metab. 2003;88(6):2438-2444. doi:10.1210/jc.2003-030398
[5] Jonklaas J, Bianco AC, Bauer AJ, et al. Guidelines for the treatment of hypothyroidism: prepared by the American Thyroid Association Task Force on Thyroid Hormone Replacement. Thyroid. 2014;24(12):1670-1751. doi:10.1089/thy.2014.0028
[6] Okosieme O, Gilbert J, Abraham P, et al. Management of primary hypothyroidism: statement by the British Thyroid Association Executive Committee. Clin Endocrinol (Oxf). 2016;84(6):799-808. doi:10.1111/cen.12824
[7] Liwanpo L, Hershman JM. Conditions and drugs interfering with thyroxine absorption. Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2009;23(6):781-792. doi:10.1016/j.beem.2009.06.006
[8] Alexander EK, Pearce EN, Brent GA, et al. 2017 Guidelines of the American Thyroid Association for the Diagnosis and Management of Thyroid Disease During Pregnancy and the Postpartum. Thyroid. 2017;27(3):315-389. doi:10.1089/thy.2016.0457
