目次
- 高血圧は「沈黙の殺し屋」と呼ばれています
- 血圧の仕組みと数値の読み方
- 高血圧の診断基準を知っておこう
- 日本人の高血圧の実態
- 高血圧が引き起こす合併症
- 高血圧の原因とリスク因子
- 家庭血圧を測ることの大切さ
- 内科を受診するタイミングと診察の流れ
- 生活習慣の改善で血圧を下げる
- 減塩の工夫と食事療法
- 薬物療法が必要になるとき
- 高血圧と上手につきあうために
- よくある質問
- 参考文献
高血圧は「沈黙の殺し屋」と呼ばれています
「先生、健康診断で血圧が高いって言われたんですけど、症状がないんです。放っておいても大丈夫ですよね?」
外来をやっていると、こう聞かれることが本当に多いです。でも、正直に言うと、この質問を聞くたびに僕は少しヒヤッとします。ではなぜか?それは、高血圧こそが「沈黙の殺し屋(サイレントキラー)」と呼ばれる病気だからです。
高血圧は日本人の約4,300万人が該当すると推定されています[1]。つまり、成人のおよそ3人に1人です。にもかかわらず、自覚症状がほとんどないために「自分は大丈夫」と思い込んでいる方が非常に多いのが現実です。高血圧は静かに、しかし確実に血管を蝕んでいきます。そして、ある日突然「脳卒中」や「心筋梗塞」として牙をむくわけです。
僕が酒田市で内科医として日々患者さんと向き合う中で感じるのは、高血圧は「知識があるかどうか」で予後が大きく変わる病気だということです。今日はその高血圧について、できるだけわかりやすくお話ししたいと思います。
血圧の仕組みと数値の読み方
心臓は1日に約10万回、血液を全身に送り出しています。この血液が血管の壁にかける圧力が「血圧」です。
血圧には「上の血圧」と「下の血圧」がありますよね。上の血圧は心臓がギュッと縮んで血液を押し出したときの圧力で、「収縮期血圧」と呼びます。下の血圧は心臓が次の拍動に備えてフッと緩んだときの圧力で、「拡張期血圧」です。
ではなぜこの二つの数値が大切なのか?それは、どちらが高くても血管に負担がかかるからです。特に上の血圧が140mmHg以上、もしくは下の血圧が90mmHg以上の状態が続くと、高血圧と診断されます[2]。たとえば「上が150で下が85」という場合、下は正常範囲でも上が基準を超えているので高血圧です。
「上だけ高いのは大丈夫でしょ?」と言う方がたまにいますが、実はそうではありません。上の血圧だけが高い「収縮期高血圧」は、特に高齢の方に多く、動脈硬化の進行を示すサインとして見過ごせないものなのです。
高血圧の診断基準を知っておこう
2019年に改訂された日本高血圧学会のガイドライン(JSH2019)では、血圧の分類が以前より厳しくなりました[2]。
診察室での血圧が120/80mmHg未満を「正常血圧」、120〜129/80mmHg未満を「正常高値血圧」、130〜139/80〜89mmHgを「高値血圧」と定義しています。以前は130台でも「まあ大丈夫でしょう」と言われることがありましたが、今は「注意が必要な段階」として位置づけられているわけです。
75歳未満の方の降圧目標は130/80mmHg未満、75歳以上の方は140/90mmHg未満に設定されています[2]。ちなみに、アメリカ心臓病学会のガイドラインでは2017年の時点で130/80mmHg以上を高血圧と定義しました[3]。世界的に見ても、血圧管理の基準は年々厳しくなる傾向にあります。
「基準が厳しくなったら、高血圧の人が増えるだけじゃないですか?」という声もあるかもしれません。でも、これは裏を返せば「その段階から気をつけたほうが、将来の脳卒中や心臓病を防げる」というエビデンスが積み上がってきた結果なのです。
日本人の高血圧の実態
日本は世界的に見ても高血圧が多い国です。2022年に発表された全国規模の研究では、約2,700万人が高血圧と推定されており、そのうち89.6%が何らかの降圧薬を服用しているという結果が出ています[4]。治療率が高いこと自体は良いことですよね。
でも、治療を受けているにもかかわらず、血圧が十分にコントロールできている人の割合は約40%にとどまっています[1]。つまり、薬を飲んでいても6割の方は目標値に達していないということです。
ではなぜこんなことが起きるのか?理由はいくつかありますが、①薬の量や種類が合っていない、②生活習慣の改善が不十分、③そもそも定期的に通院できていない、といったケースが多いと感じています。「薬を飲んでいるから安心」ではなく、薬を飲みつつ生活も見直し、定期的に血圧を確認することが大切なわけです。
高血圧が引き起こす合併症
「症状がないのに、なぜそこまで心配するんですか?」と聞かれることもあります。この疑問はもっともです。でも、高血圧が怖いのは「症状が出たときにはもう手遅れ」になりかねないからなんです。
高い血圧の状態が何年も続くと、血管の壁が硬く、もろくなっていきます。これが「動脈硬化」です。動脈硬化が進むと、脳卒中(脳梗塞や脳出血)、心筋梗塞、心不全、慢性腎臓病(CKD)、大動脈瘤といった重大な病気につながります。
SPRINT試験という9,361人を対象にした大規模な臨床研究では、収縮期血圧を120mmHg未満に厳しくコントロールしたグループは、140mmHg未満のグループと比べて心血管イベントが25%減少し、総死亡率も27%低下したと報告されています[5]。この数字は僕にとっても衝撃的でした。つまり、血圧をしっかり下げることで、命に関わるリスクを確実に減らせるわけです。
以前、ある50代の男性が「ずっと血圧が高かったけど、症状がなかったから放置していた」と言って来院されたことがあります。検査をしてみると、すでに腎機能が低下していました。こういったケースは決して珍しくありません。だからこそ、症状がなくても早めに対応することが大切なのです。
高血圧の原因とリスク因子
高血圧の約90%は「本態性高血圧」と呼ばれ、ひとつの明確な原因があるわけではありません。遺伝的な体質に、塩分の摂りすぎ、運動不足、肥満、ストレス、喫煙、過度の飲酒といった生活習慣が重なって発症します。
ちなみに、庄内地方は昔から漬物や味噌汁の文化が根づいていて、塩分摂取量が全国平均より多い傾向にあります。僕の外来でも「先生、減塩しなきゃダメですか?漬物が好きなんですよ」という声はしょっちゅう聞きます(笑)。気持ちはよくわかりますが、やはり塩分は高血圧の大きな要因のひとつです。
残りの約10%は「二次性高血圧」と呼ばれ、腎臓の病気やホルモンの異常(原発性アルドステロン症など)、睡眠時無呼吸症候群など、特定の原因があるタイプです。若い方で急に血圧が上がった場合や、薬を3種類以上使っても血圧が下がらない場合は、二次性高血圧を疑って精密検査を進めることがあります。原因が見つかれば、それを治療することで血圧が劇的に改善することもあるのです。
家庭血圧を測ることの大切さ
実は、高血圧の管理で僕が最も大切だと考えているのが「家庭血圧」です。
病院で測る血圧は、緊張やストレスで普段より高く出ることがあります。いわゆる「白衣高血圧」ですね。逆に、病院では正常なのに自宅では高いという「仮面高血圧」もあります。仮面高血圧は見落とされやすいのに、脳卒中や心臓病のリスクは高いという厄介な存在です。
日本の大迫研究(岩手県大迫町で行われた長期追跡調査)では、家庭で測った血圧のほうが、病院で測った血圧よりも将来の心血管疾患や死亡リスクを正確に予測できることが明らかになっています[6]。この研究は世界的にも高く評価されていて、日本のガイドラインが家庭血圧を重視する大きな根拠になっています。
家庭血圧の測り方のポイントですが、①朝は起きてから1時間以内、排尿後、朝食前、薬を飲む前に座って1〜2分安静にしてから測る、②夜は寝る前に同じく安静にしてから測る、③毎日できるだけ同じ時間帯に測って記録する、この3つを守っていただければ十分です。
JSH2019では、家庭血圧が135/85mmHg以上であれば高血圧として対応するとされています[2]。診察室の基準(140/90mmHg)より5mmHg低いのは、家庭血圧のほうがリラックスした状態で測定できるためです。
内科を受診するタイミングと診察の流れ
「いつ病院に行けばいいんでしょうか?」これもよく聞かれる質問です。
目安として、健康診断で140/90mmHg以上と指摘された方は一度内科を受診してください。家庭血圧で135/85mmHg以上が続いている場合も同様です。「様子を見よう」と先延ばしにする方が多いのですが、高血圧は放置すればするほど血管のダメージが蓄積されます。
受診すると、問診で生活習慣やご家族の病歴を確認します。そのあと血液検査(腎機能、コレステロール、血糖値、電解質など)と尿検査を行い、高血圧の程度と合併症の有無を評価します。必要に応じて心電図や胸部レントゲンも撮ります。
「病院に行ったらすぐ薬を出されるんじゃないか」と心配される方もいますが、血圧がよほど高い場合(180/110mmHg以上など)や臓器障害がすでにある場合を除いて、いきなり薬を出すことは少ないです。生活習慣の改善から始めて、1〜3か月様子を見てから薬を検討する流れが一般的です。だから「まずは相談だけ」でも全然構いません。
生活習慣の改善で血圧を下げる
高血圧の治療は、薬を飲むことだけではありません。むしろ、生活習慣の改善こそが治療の土台です。
ではどんな生活習慣を見直せばよいのか?JSH2019で推奨されている項目は、①減塩(1日6g未満が目標)、②適正体重の維持(BMI25未満)、③有酸素運動(1日30分程度のウォーキングなど、週に5日以上)、④節酒(日本酒換算で1日1合まで)、⑤禁煙、⑥野菜と果物を意識した食事、この6つが柱です[2]。
「全部やらなきゃダメですか?」と聞かれることもありますが、全部を一度にやる必要はありません。まずは自分にとって取り組みやすいものからひとつ始めてみる。それだけでも血圧は変わります。
体重でいえば、4〜5kg減量するだけで収縮期血圧が約4mmHg下がるというデータがあります。運動も同様で、週に150分以上の有酸素運動で約5〜8mmHgの降圧効果が期待できます。「たかが数mmHg」と思うかもしれませんが、この「数mmHg」の積み重ねが将来の脳卒中リスクを大きく変えるのです。
減塩の工夫と食事療法
日本人の平均食塩摂取量は1日約10gと言われていますが、高血圧学会のガイドラインでは6g未満を推奨しています[2]。つまり、今の量のほぼ半分にする必要があるわけです。
「そんなの無理ですよ」と言いたくなる気持ちは僕もわかります。でも、いきなり完璧を目指す必要はありません。コツとしては、味噌汁を1日2杯から1杯に減らす、漬物は小皿1杯までにする、ラーメンのスープは飲み干さない、「かける」より「つける」を意識する、出汁や酢やレモンで風味を補う、といったところから始めるのが現実的です。
DASH食と呼ばれる食事療法の臨床試験では、野菜、果物、低脂肪乳製品を中心とした食事と減塩を組み合わせることで、収縮期血圧が約11mmHg低下したという結果が出ています[7]。これは降圧薬1剤分に相当する効果です。薬を使わずに、食事だけでこれだけの効果が出るというのは、僕自身もとても心強いデータだと思っています。
外食や加工食品には想像以上に塩分が含まれているので、成分表示を確認する習慣をつけるだけでもだいぶ違います。実際に、「先生、減塩を意識し始めたら2週間で上の血圧が10くらい下がりました」と報告してくれた患者さんもいらっしゃいます。
薬物療法が必要になるとき
生活習慣を改善しても血圧が下がらない場合や、糖尿病や腎臓病などの合併症がある場合には、降圧薬による治療が必要になります。
降圧薬にはいくつかの種類があって、代表的なものとしては、①カルシウム拮抗薬(血管を広げて血圧を下げる、日本で最も多く使われている)、②ARB/ACE阻害薬(血圧を上げるホルモンの働きを抑える、腎臓保護の効果もある)、③利尿薬(余分な塩分と水分を排出する)、④β遮断薬(心臓の拍動をゆっくりにする)があります。どれを選ぶかは、年齢や合併症、ほかに飲んでいる薬との相性を考えて決めます。
「薬を飲み始めたら一生やめられないんですよね?」とよく聞かれますが、これは半分正しくて半分間違いです。たしかに高血圧は慢性疾患なので、多くの場合は長期的な服薬が必要です。でも、生活習慣の改善がうまくいって体重が減ったり塩分摂取が減ったりすれば、薬の量を減らせる方もいます。実際に僕の外来でも、「先生、もう1種類減らせませんか」という相談をいただいて、減量に成功したケースもあります。
大切なのは、自己判断で薬をやめないことです。「最近血圧が安定しているから」と自分で薬を中止してしまう方がいますが、これは非常に危険です。急に薬をやめると血圧がリバウンドして跳ね上がることがあります。必ず主治医と相談してください。
高血圧と上手につきあうために
高血圧は「治す」というより「つきあっていく」病気です。でも、正しい知識を持って、生活習慣を見直し、必要であれば薬の力も借りることで、合併症を防ぎながら元気に過ごすことは十分に可能です。
僕がいつも患者さんにお伝えしているのは、「完璧を目指さなくていいから、できることを一つずつ続けましょう」ということです。減塩も運動も、100点を目指して3日でやめるより、60点でも半年続けるほうがずっと血圧には良い影響があります。
血圧が気になる方、健康診断で指摘を受けた方、ぜひ一度かかりつけの内科で相談してみてください。僕たちは、みなさんの「ちょっと心配」に寄り添いながら、一緒に血圧管理を考えていきたいと思っています。
よくある質問
Q1. 高血圧は何歳くらいから注意が必要ですか?
30代後半から増え始めますが、20代でも高血圧の方はいらっしゃいます。特にご両親が高血圧の場合は遺伝的な素因があるため、若いうちから年に1回は健康診断で血圧を確認しておくことをおすすめします。
Q2. 血圧の薬に副作用はありますか?
薬の種類によって異なりますが、めまいやだるさ、足のむくみ(カルシウム拮抗薬の場合)、空咳(ACE阻害薬の場合)などが出ることがあります。気になる症状があれば主治医に相談してください。自己判断で中止するのは血圧のリバウンドにつながるので避けてください。
Q3. 家庭用の血圧計はどれを選べばいいですか?
上腕式の自動血圧計がおすすめです。手首式は測定時の姿勢によって数値がブレやすいため、正確性では上腕式に劣ります。日本高血圧学会でも上腕式を推奨しています。価格は5,000〜10,000円程度のもので十分です。
Q4. 血圧は左右どちらの腕で測ればいいですか?
初回は両腕で測って、高いほうの腕で測り続けるのが理想です。左右差が常に20mmHg以上ある場合は、動脈の狭窄など血管の異常が隠れている可能性がありますので、医師に相談してください。
Q5. コーヒーは血圧に悪いですか?
カフェインは一時的に血圧を上げますが、習慣的にコーヒーを飲んでいる方では耐性ができるため、影響は小さくなります。1日3〜4杯程度であれば心血管リスクを高めるという明確なエビデンスはないので、そこまで神経質にならなくて大丈夫です。
Q6. ストレスで血圧は上がりますか?
はい、上がります。ストレスは交感神経を活性化させ、血管を収縮させて血圧を上昇させます。ただ、ストレスを完全になくすのは現実的ではないですよね。僕がおすすめしているのは、睡眠時間を6〜7時間確保すること、入浴でリラックスする時間を意識的に作ることです。
Q7. 運動は血圧を下げますか?どんな運動がいいですか?
有酸素運動には明確な降圧効果があります。ウォーキング、水泳、サイクリングなどを1回30分、週5日以上続けると、収縮期血圧が平均5〜8mmHg下がるとされています。筋力トレーニングも適度であれば問題ありません。ただし、息を止めて力むような高強度の筋トレは一時的に血圧が急上昇するため注意が必要です。
Q8. 高血圧でも自覚症状が出ることはありますか?
血圧が非常に高い状態(180/120mmHg以上など)になると、頭痛、めまい、動悸、吐き気、視界のぼやけといった症状が現れることがあります。この場合は「高血圧緊急症」と呼ばれ、臓器障害が急速に進む可能性があるため、すぐに医療機関を受診してください。「ただの頭痛だろう」と我慢するのは危険です。
参考文献
[1] Hoshide S, Kario K. Epidemiology of hypertension in Japan: beyond the new 2019 Japanese guidelines. Hypertens Res. 2020;43(12):1344-1351.
[2] Umemura S, Arima H, Arima S, et al. The Japanese Society of Hypertension Guidelines for the Management of Hypertension (JSH 2019). Hypertens Res. 2019;42(9):1235-1481.
[3] Whelton PK, Carey RM, Aronow WS, et al. 2017 ACC/AHA/AAPA/ABC/ACPM/AGS/APhA/ASH/ASPC/NMA/PCNA Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults. J Am Coll Cardiol. 2018;71(19):e127-e248.
[4] Nishimura S, Kumamaru H, et al. Prevalence of hypertensive diseases and treated hypertensive patients in Japan: A nationwide administrative claims database study. Hypertens Res. 2022;45(7):1157-1166.
[5] SPRINT Research Group, Wright JT Jr, Williamson JD, et al. A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med. 2015;373(22):2103-2116.
[6] Ohkubo T, Imai Y, Tsuji I, et al. Home blood pressure measurement has a stronger predictive power for mortality than does screening blood pressure measurement: a population-based observation in Ohasama, Japan. J Hypertens. 1998;16(7):971-975.
[7] Sacks FM, Svetkey LP, Vollmer WM, et al. Effects on Blood Pressure of Reduced Dietary Sodium and the Dietary Approaches to Stop Hypertension (DASH) Diet. N Engl J Med. 2001;344(1):3-10.
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