閉塞性動脈硬化症(Arteriosclerosis Obliterans:ASO)とは、足の血管が動脈硬化によって狭くなったり詰まったりする病気です。
50歳以上の男性に多く、血管の内側への脂肪やコレステロールなどの蓄積により動脈硬化が進行し、足への血流が少なくなってしまうのが特徴です。
足に痛みやしびれ、冷感などの症状がみられ、さらに悪化した場合には、足に潰瘍や壊疽が発生するリスクも高まります。
喫煙や糖尿病、高血圧、脂質異常症などが閉塞性動脈硬化症のリスクを高める要因として知られています。
閉塞性動脈硬化症(ASO)の種類(病型)
閉塞性動脈硬化症は重症度によって4つの病型に分類されています。
Fontaineの分類
病型 | 症状 |
I度 | 無症候性 |
II度 | 間歇性跛行 |
III度 | 安静時痛 |
IV度 | 潰瘍・壊死 |
I度は動脈の狭窄や閉塞が存在するものの、症状が現れない無症候性の状態です。
II度になると歩行時に下肢の痛みやしびれを感じる間歇性跛行が主な症状となります。
III度では安静時にも下肢の痛みが持続するようになり、IV度は最も重症な状態で、下肢の潰瘍や壊死が生じます。
閉塞性動脈硬化症(ASO)の主な症状
閉塞性動脈硬化症は間欠性跛行、安静時疼痛や冷感、しびれ、皮膚の色調変化などが主な症状です。
男性に多くみられ、51歳以上の発症が約80%となっています。
間欠性跛行
歩行時に下肢の筋肉への血流が不十分となり、痛みやだるさ、つっぱり感などの不快感が生じるのが特徴です。
ふくらはぎや太ももに多くみられ、休むと症状は緩和されます。
間欠性跛行は閉塞性動脈硬化症の比較的初期の段階で現れることが多く、徐々に歩行可能な距離が短くなっていく傾向です。
間欠性跛行の特徴 | 説明 |
発生部位 | 主に下肢の筋肉(ふくらはぎ、太もも) |
症状 | 歩行時の痛み、だるさ、つっぱり感 |
緩和要因 | 休憩すると症状が改善する |
下肢の冷感・しびれ
閉塞性動脈硬化症が進行するにつれ、下肢の血流はさらに悪化し、冷感(足先の冷え)やしびれを自覚するようになります。
症状は夜間や寒冷時に増強する傾向です。
足の潰瘍・壊疽
重症の閉塞性動脈硬化症においては、下肢の血流が著しく低下し、足の指などに潰瘍ができたり、組織が壊死して黒くなる壊疽が発生するリスクがあります。
これは足の細胞への酸素や栄養の供給が極端に不足し、組織の損傷が生じることが原因です。
放置すると、感染や切断のリスクもあります。
- 足の潰瘍は外観上、黒や紫がかった色調を呈する場合が多く、周囲の皮膚は脆弱で治癒が難しい状態となります。
- 壊疽は足の組織が壊死に陥っている状態を指し、重篤な合併症につながる危険性があります。
足の潰瘍・壊疽のリスク因子 | 説明 |
重症の閉塞性動脈硬化症 | 下肢の血流が著しく悪化している状態 |
糖尿病 | 細小血管の障害や神経障害を合併するケースが多い |
外傷・感染 | 足に傷ができやすく、治癒が遅延する |
その他の症状
閉塞性動脈硬化症では上記の主要な症状以外にも、下肢の疲労感やだるさ、足の皮膚の色調変化(蒼白、暗紫色)、足の爪の変形や肥厚、足の毛細血管の消失などを伴う場合があります。
閉塞性動脈硬化症(ASO)の原因
閉塞性動脈硬化症(ASO)の原因は、主に下肢の動脈が動脈硬化により狭窄・閉塞することです。
喫煙、高血圧、脂質異常症などの因子が関与していると考えられています。
危険因子①:喫煙
- 喫煙はASOの発症リスクを2〜4倍に増加させる
- 禁煙によりASOの発症リスクは低下する
喫煙は動脈硬化を促進する大きな要因の一つです。
タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素などの有害物質が血管内皮細胞を傷つけ、動脈硬化を加速させます。
喫煙本数 | 相対危険度 |
10本未満/日 | 2.4 |
10〜20本/日 | 2.8 |
20本以上/日 | 4.3 |
危険因子②:高血圧
高血圧は動脈壁にストレスをかけ、動脈硬化を促進させます。
血圧が高いと血管内皮細胞が傷つき、コレステロールなどの脂質が血管壁に蓄積しやすくなります。
収縮期血圧 | ASOリスク |
120mmHg未満 | 基準 |
120〜139mmHg | 1.5倍 |
140〜159mmHg | 2.0倍 |
160mmHg以上 | 3.0倍 |
高血圧の管理は、ASOの予防・進行抑制において非常に重要な役割を果たすと考えられています。
危険因子③:脂質異常症
コレステロールや中性脂肪など、脂質が血中で増加する脂質異常症もASOの主要な危険因子です。
LDLコレステロールは血管壁に蓄積し、動脈硬化を引き起こします。
その他の危険因子
上記以外にも以下のような因子がASOの発症・進行に関与していると考えられています。
診察(検査)と診断
閉塞性動脈硬化症(ASO)は問診や身体所見、画像検査などを組み合わせて総合的に評価します。
身体所見
項目 | 内容 |
問診 | 間欠性跛行、安静時痛、皮膚の変化など |
身体所見 | 足の脈拍触知、皮膚の色調や温度、潰瘍の有無など |
血圧測定や足関節上腕血圧比(ABI)の測定も行います。
画像検査
ASOが疑われる場合、血管の狭窄や閉塞を直接評価するための画像検査を行います。
代表的な画像検査は、超音波検査、CT angiography(CTA)、MR angiography(MRA)、血管造影検査などです。
検査名 | 特徴 |
超音波検査 | 非侵襲的、簡便、深部の評価が難しい |
CTA | 深部の評価が可能、造影剤使用、被曝あり |
MRA | 深部の評価が可能、造影剤使用、被曝なし |
血管造影 | 侵襲的、詳細な評価が可能 |
ASOの診断基準
- 問診で特徴的な症状がある
- 身体所見で足の脈拍が触知不良または消失
- ABIが0.9以下
- 画像検査で下肢動脈の狭窄や閉塞を認める
診断がついたあとは、重症度をFontaine分類やRutherford分類などで評価し、治療方針を決定します。
閉塞性動脈硬化症(ASO)の治療法と処方薬、治療期間
閉塞性動脈硬化症(ASO)では、病状に応じて、生活習慣の改善、薬物療法、血管内治療や外科的治療などが選択されます。
生活習慣の改善
ASOの治療の基本は、禁煙や運動療法、食事療法などの生活習慣の改善です。
喫煙は血管障害のリスクを高めるため、禁煙が強く推奨されます。
また、定期的な運動は血流を改善し、症状の進行を遅らせる効果が期待できます。
さらに、バランスの取れた食事によって、コレステロールや血糖値のコントロールが大切です。
薬物療法
薬物療法では抗血小板薬や抗凝固薬が処方され、血栓形成を防ぎ、血流を維持する働きがあります。
薬剤名 | 作用 |
アスピリン | 血小板凝集抑制 |
クロピドグレル | 血小板凝集抑制 |
シロスタゾール | 血管拡張、血小板凝集抑制 |
また、高脂血症治療薬であるスタチンや、高血圧治療薬であるACE阻害薬、ARBなども併用される場合があります。
血管内治療
血管内治療では、カテーテルを用いて血管を拡張したり、ステントを留置したりする手技が行われます。
- 経皮的血管形成術(PTA)
- ステント留置術
- 血栓溶解療法
狭窄や閉塞した血管を再開通させ、血流の改善を目的としています。
外科的治療
重症例や他の治療法がうまくいかない場合は、バイパス手術などの外科的治療が検討されます。
自家静脈や人工血管を用いてバイパス路を作成し、血流を迂回させる方法です。
手術名 | 概要 |
大腿-膝窩動脈バイパス術 | 大腿動脈と膝窩動脈をバイパスする |
大腿-脛骨動脈バイパス術 | 大腿動脈と脛骨動脈をバイパスする |
治療期間
ASOの治療期間は、症状の程度や治療法によって異なります。
血管内治療や外科的治療の回復期間は数週間から数ヶ月程度ですが、術後のリハビリテーションや生活指導も重要です。
予後と再発可能性および予防
ASOは生死にかかわる疾患ではありませんが、合併症(動脈硬化性疾患)により、予後の悪い疾患です。
死亡率はTAO(閉塞性血栓血管炎、Buerger病)と比較すると高く、10年以内33.9%にも及びます。
ASOの死亡率
期間 | 症状初発より死亡までの期間 |
---|---|
3年以内 | 14.1% |
5年以内 | 28.7% |
10年以内 | 33.9% |
10年以上 | 40.2% |
死因別(81死亡例中)
死因 | 割合 |
---|---|
心不全 | 29.6% |
心筋梗塞 | 21.0% |
脳血管障害 | 16.1% |
腎不全 | 4.9% |
治療後の再発リスク
リスク因子 | 概要 |
喫煙 | 喫煙は動脈硬化を促進するため、禁煙が強く推奨される |
高血圧 | 高血圧は血管への負荷を増大させ、再発リスクを高める |
糖尿病 | 血糖コントロール不良は動脈硬化の進行を助長する |
脂質異常症 | LDLコレステロールの上昇は動脈硬化の主要因 |
生活習慣の改善による再発予防
ASOの再発を防ぐためには、生活習慣の改善が重要です。
生活習慣改善項目 | 具体的方法 |
禁煙 | 喫煙は動脈硬化の最大のリスク因子であり、速やかな禁煙が求められる |
食事 | 野菜の摂取量を増やし、脂肪分の多い肉類は控えめにする |
運動 | ウォーキングやサイクリングなど、無理のない範囲で定期的に行う |
ストレス管理 | 十分な睡眠を取る、ストレス解消法を見つける |
薬物療法による再発予防
生活習慣の改善と並行して、薬物療法も再発予防に重要です。
医師の判断により、抗血小板薬や抗凝固薬が処方されます。これらの薬剤は血栓の形成を抑制し、動脈硬化の進行を食い止める効果が期待できます。
また、高血圧や脂質異常症を合併している場合は、それぞれの病態に合わせた薬剤の使用も検討されます。
閉塞性動脈硬化症(ASO)の治療における副作用やリスク
閉塞性動脈硬化症(ASO)の治療に伴う副作用やリスクについてまとめました。
薬物療法の副作用
薬物療法では血栓形成を防ぐ抗血小板薬や抗凝固薬が使用されますが、これらの薬剤によって出血のリスクが高まる可能性があります。
薬剤 | 主な副作用 |
抗血小板薬 | 胃腸障害、皮下出血 |
抗凝固薬 | 出血傾向の増大、肝機能障害 |
血管内治療のリスク
血管内治療ではカテーテルを用いて血管を拡張したり、ステントを留置したりしますが、以下のようなリスクが伴います。
- 血管損傷や出血
- 血栓形成
- 感染症
- 造影剤によるアレルギー反応
外科的治療の合併症
合併症 | 内容 |
感染症 | 手術部位の感染が起こる可能性がある |
出血 | 手術中や術後に過度の出血が起こる可能性がある |
血栓形成 | 手術部位や他の血管で血栓が形成される可能性がある |
心血管イベント | 心筋梗塞や脳卒中などの重篤な合併症が起こる可能性がある |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
閉塞性動脈硬化症の治療費は、公的医療保険の適用対象です。医療費の7割から9割が保険によってカバーされ、自己負担額は1割から3割程度となります。
治療費の内訳
- 診察料
- 検査料
- 投薬料
- 手術料 など
治療費の目安
治療内容 | 費用目安 |
初診料 | 2,000円~3,000円 |
再診料 | 500円~1,000円 |
血管造影検査 | 10万円~20万円 |
薬物療法(1ヶ月) | 数千円~1万円 |
薬物療法では血流改善薬や抗血小板薬などが処方されるのが一般的で、1ヶ月あたりの薬剤費は数千円から1万円程度になるケースが多いです。
一方、重症でバイパス手術などの外科的治療が必要な場合は、手術費用が高額になる傾向です。
以上
JUERGENS, John L.; BARKER, NELSON W.; HINES JR, EDGAR A. Arteriosclerosis obliterans: review of 520 cases with special reference to pathogenic and prognostic factors. Circulation, 1960, 21.2: 188-195.
ZHENG, Y. H.; SONG, X. T. Progress and prospect of the treatment of lower extremity arteriosclerosis obliterans. Zhonghua wai ke za zhi [Chinese Journal of Surgery], 2021, 59.12: 961-964.
FUJIWARA, Tadashi, et al. Prevalence of asymptomatic arteriosclerosis obliterans and its relationship with risk factors in inhabitants of rural communities in Japan: Tanno-Sobetsu study. Atherosclerosis, 2004, 177.1: 83-88.
STRANDNESS, Donald E.; STAHLER, Christopher. Arteriosclerosis obliterans: Manner and rate of progression. JAMA, 1966, 196.1: 1-4.
HOLMES JR, David R., et al. Arteriosclerosis obliterans in young women. The American Journal of Medicine, 1979, 66.6: 997-1000.
HE, Yangdong, et al. Humanistic care interventions in patients with lower extremity arteriosclerosis obliterans. American journal of translational research, 2021, 13.9: 10527.
ESATO, K. Clinical diagnosis of arteriosclerosis obliterans. Nihon Geka Gakkai Zasshi, 1996, 97.7: 498-503.
WEISS, Noel S. Cigarette smoking and arteriosclerosis obliterans: an epidemiologic approach. American Journal of Epidemiology, 1972, 95.1: 17-25.