伝染性紅斑(リンゴ病) – 感染症

伝染性紅斑(リンゴ病 erythema infectiosum)とは、ヒトパルボウイルスB19によって引き起こされる発疹性の感染症です。

主に小児期に多く見られ、「りんご病」と呼ばれる特徴的な顔面の紅潮や、四肢に現れる紅色の斑状丘疹が症状として現れることが知られています。

通常は自然に治癒することが多いですが、免疫力が低下している人や妊娠中の女性などでは、重症化するリスクがあることに注意が必要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

伝染性紅斑(リンゴ病)の種類(病型)

伝染性紅斑(リンゴ病)は3つの病期に分類され、前駆期、紅斑期、回復期の順番で進行し、それぞれの病期で特有の症状が見られます。

前駆期

前駆期では、発熱や倦怠感、頭痛などの非特異的な症状が現れ、この病期の症状は軽度なことが多く、風邪とよく似ています。

症状程度
発熱軽度
倦怠感軽度
頭痛軽度

紅斑期

紅斑期では、特徴的な皮疹が現れまず両、頬に赤い紅斑が出現し、その後体幹や四肢にレース状の紅斑が広がっていきます。

この紅斑は数日で消失しますが、再び現れることもあります。

部位皮疹の種類
両頬赤い紅斑
体幹・四肢レース状紅斑

回復期

回復期では、皮疹が消失し症状が改善していき、ほとんどの場合、後遺症なく回復に至りますが、まれに関節痛が遷延することがあります。

伝染性紅斑(リンゴ病)の主な症状

伝染性紅斑の主な症状としては、急性期における発熱と特徴的な頬の紅潮、そして回復期における体幹や手足の紅斑が挙げられます。

急性期の症状

急性期には、38℃程度の発熱が見られる場合があり発熱は、通常3日から5日ほど続きます。

また、同じ時期に頬に特徴的な紅潮が見られるのが特徴です。 頬の紅潮は、まるでリンゴのように見えることから、リンゴ病とも呼ばれています。

症状詳細
発熱38℃前後、3〜5日程度
頬の紅潮リンゴのような紅潮

回復期の症状

発熱が治まった後、体幹や手足に紅斑が現れ、この紅斑は、レース状や地図状とも表現され、数日から1週間ほど続きます。

紅斑には、時にかゆみを伴うこともありますが、自然に消えていき、重症化することはまれで、多くの場合は自然に治癒します。

成人女性の場合

成人女性の場合は、関節痛を伴うことがあり、 関節痛は、手首や膝、足首などの小さな関節に多く見られます。

関節頻度
手首高い
高い
足首高い

関節痛は数週間続くこともありますが、自然に良くなることがほとんどです。

妊婦の場合

妊婦がリンゴ病に感染した場合、胎児への影響が心配されます。 妊娠初期の感染では、以下のリスクがあります。

  • 流産
  • 胎児水腫
  • 胎児貧血

伝染性紅斑(リンゴ病)の原因・感染経路

伝染性紅斑(リンゴ病)は、ヒトパルボウイルスB19の感染によって引き起こされ、主に飛沫感染や接触感染によって感染が広がります。

ヒトパルボウイルスB19とは

ヒトパルボウイルスB19は、パルボウイルス科に属する小型のDNAウイルスです。

このウイルスは、ヒトの赤血球前駆細胞に感染し、赤血球の産生を一時的に抑制。

ヒトパルボウイルスB19は世界中に広く分布しており、多くの人が幼少期に感染を経験すると言われています。

ウイルス名属する科遺伝子
ヒトパルボウイルスB19パルボウイルス科DNA

主な感染経路

伝染性紅斑の主な感染経路

  1. 飛沫感染:感染者のくしゃみや咳などによって生じる飛沫に含まれるウイルスを吸入することで感染します。
  2. 接触感染:ウイルスに汚染された手や物品を介して、ウイルスが口や鼻、目の粘膜から体内に侵入することで感染します。
  3. 垂直感染:感染した妊婦から胎児へとウイルスが伝播する場合があります。
感染経路概要
飛沫感染感染者の飛沫を吸入
接触感染ウイルスに汚染された手や物品を介して感染
垂直感染感染妊婦から胎児へ感染

感染力と潜伏期間

ヒトパルボウイルスB19は感染力が非常に強く、感染者との接触により高確率で感染が成立します。

ウイルスに感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は、通常4〜14日程度です。

この潜伏期間中も感染者はウイルスを排出しているため、他者への感染リスクがあります。

感染リスクが高い集団

ヒトパルボウイルスB19の感染リスクが高い集団

  • 幼稚園や保育所、学校などの子供が多く集まる環境
  • 免疫力が低下している人(妊婦、高齢者、基礎疾患を持つ人など)
  • 医療従事者や保育士など、感染者と接する機会が多い職業の人

診察(検査)と診断

リンゴ病(伝染性紅斑)の診断では、特徴的な臨床症状と身体所見、血液検査結果を総合的に判断し、ウイルス学的検査による確定診断が必須です。

臨床症状と身体所見

リンゴ病の診察では、特徴的な臨床症状と身体所見を確認します。

臨床症状身体所見
発熱頬の紅潮
倦怠感体幹や四肢の網目状紅斑

血液検査

リンゴ病が疑われる患者さんには、血液検査を実施します。

  • 白血球数の減少
  • リンパ球の相対的増加
  • 血清学的検査(IgM抗体の検出)

血液検査の結果を臨床症状と併せて評価することにより、診断の精度が向上します。

ウイルス学的検査

確定診断のためには、ウイルス学的検査が不可欠です。

検査方法検体
ウイルス分離咽頭ぬぐい液、血液
PCR法咽頭ぬぐい液、血液

ウイルスの検出や遺伝子の同定により、リンゴ病の原因であるパルボウイルスB19の感染を確認できます。

診断のポイント

リンゴ病の診断では、以下の点に留意します。

  1. 臨床症状と身体所見を詳細に評価する
  2. 血液検査で特徴的な所見を確認する
  3. ウイルス学的検査で確定診断を行う

伝染性紅斑(リンゴ病)の治療法と処方薬、治療期間

リンゴ病(伝染性紅斑)に特異的な治療薬はありませんが、発熱や発疹などの症状をやわらげることを目的とした治療を行います。

一般的な治療法

リンゴ病の治療において、安静と十分な休養が非常に大切です。

発熱している際は、解熱鎮痛剤を用いて体温管理を行い、発疹でかゆみが生じている場合は、抗ヒスタミン薬が処方されます。

治療法内容
安静体力の回復を促進し、症状の悪化を防ぐ
解熱鎮痛剤アセトアミノフェンなどを使用し、発熱と痛みを緩和する

合併症への対応

リンゴ病では、まれではありますが関節炎や貧血などの合併症が起こる可能性があります。

関節炎が生じた際は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方することで炎症を抑え、貧血が見られるようであれば、鉄剤の投与が検討されることも。

妊婦への配慮

妊婦がリンゴ病に感染すると、胎児への影響が懸念され、特に妊娠初期に感染した場合は、流産や先天性異常のリスクが高くなります。

合併症治療法
関節炎非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用
貧血鉄剤の投与

治療期間と経過

リンゴ病の症状は、通常1~2週間で自然に改善していき、治療は症状が軽快するまで続けられ、その間は経過観察が行われます。

合併症がなければ、後遺症を残さずに治癒することが可能です。

予後と再発可能性および予防

伝染性紅斑は、通常は予後のよい感染症で、多くの場合は自然に治癒します。

ただし、合併症を起こしたり免疫力の低下している患者さんでは、注意深い経過観察と治療が必要です。

治療の見通しについて

伝染性紅斑の治療の見通しは、全体的に良好です。

大半の患者さんは、特別な治療を受けずに自然に回復します。

発疹や関節の痛みといった症状は、だいたい1~3週間ほどで良くなってきます。

症状回復までの期間
発疹1~2週間程度
関節痛2~3週間程度

しかし、次のような合併症が起きたときは、慎重な経過観察と治療が必要です。

  • -妊娠20週以前の感染による、流産や死産の危険性
  • -成人女性での慢性関節リウマチの報告(まれ)
  • -重篤な合併症である無顆粒球症(非常にまれ)

免疫力が低い患者さんや、基礎疾患のある方は、重症化するリスクがあるので注意します。

再発の可能性について

伝染性紅斑にかかると、生涯にわたる免疫を獲得するため、再発の可能性は低いいです。

年齢再発の可能性
子どもほとんどなし
大人非常に低い

ただ、免疫力が下がったときに、ウイルスが再活性化して症状が再び現れる可能性が、まれにあります。

そのような場合でも、初めて感染したときほど重症化することは少ないです。

予防法について

現在のところ、伝染性紅斑に対して確立されたワクチンはありません。

効果的な感染予防策

  • こまめな手洗い
  • 咳をするときのマナーを守る
  • 感染者との接触を避ける
  • 部屋の換気を心がける

伝染性紅斑(リンゴ病)の治療における副作用やリスク

伝染性紅斑の治療の種類によっては、一時的な症状悪化や他の合併症を引き起こすことがあります。

また、免疫力が低下している患者さんは、重篤な合併症を発症するリスクが高く、治療と注意深い経過観察が大切です。

抗ウイルス薬の副作用

抗ウイルス薬は、ウイルスの増殖を抑制することで症状を緩和しますが、副作用も報告されています。

主な副作用は、吐き気、腹痛、下痢などの消化器症状や、頭痛、めまい、疲労感などです。

まれに、重篤な肝機能障害や血液障害を引き起こすこともあるため、定期的な検査が必要になります。

副作用頻度
消化器症状(吐き気、腹痛、下痢など)比較的多い
頭痛、めまい、疲労感比較的多い
重篤な肝機能障害や血液障害まれ

免疫抑制剤の副作用とリスク

伝染性紅斑の治療に用いられる免疫抑制剤は、炎症を抑える効果がありますが、免疫力を低下させるため、感染症のリスクが高まります。

免疫抑制剤の副作用

  • 感染症のリスク増加
  • 消化器症状(吐き気、腹痛、下痢など)
  • 高血圧、血糖値の上昇
  • 骨粗鬆症の進行

免疫抑制剤を使用する際は、感染症予防と定期的なモニタリングが不可欠です。

妊婦・胎児への影響

伝染性紅斑に罹患した妊婦では、胎児への感染リスクがあり、 感染した場合、流産や死産、先天性異常のリスクが高まります。

妊娠初期の感染では、特に注意が必要です。

妊娠時期リスク
妊娠初期(妊娠20週まで)流産、死産、先天性異常のリスクが高い
妊娠中期以降リスクは比較的低いが、注意が必要

妊婦が伝染性紅斑に罹患した場合は、速やかに医療機関を受診してください。

合併症のリスク

伝染性紅斑の治療中は、合併症の発症リスクに注意が必要です。 主な合併症として、脳炎、髄膜炎、肝炎、溶血性貧血などがあります。

これらの合併症は、重篤な後遺症を残す可能性があるため、早期発見と適切な治療が求められます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

自然に治癒する場合の治療費

大半のケースでは、伝染性紅斑は自然に治癒するため、特別な治療を受けなくても回復します。

医療機関を受診する場合の治療費

症状が強かったり、合併症の可能性がある場合は、医療機関での受診が必要です。

受診する際の治療費の内訳

  • -初診料:2,000円~3,000円ほど
  • -再診料(必要な場合):1,000円~2,000円ほど
  • -検査にかかる費用(血液検査など):5,000円~10,000円ほど
  • -薬代(対症療法薬など):2,000円~5,000円ほど

入院が必要になった場合の治療費

症状が重くなったり、合併症の治療で入院が必要になった場合は、治療費がさらに高額になります。

入院にかかる費用

内訳金額
入院基本料(1日あたり)5,000円~10,000円ほど
検査にかかる費用(CT、MRIなど)10,000円~50,000円ほど
薬代(抗ウイルス薬など)5,000円~20,000円ほど

公的医療保険の適用

伝染性紅斑の治療には、公的医療保険が適用され、高額療養費制度を利用すれば、自己負担額が一定の上限を超えた分は払い戻しを受けられます。

以上

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