急性動脈閉塞症 – 循環器の疾患

急性動脈閉塞症(Acute arterial occlusive disease)は、突然、手足の動脈が詰まってしまう病気です。

激しい痛みや冷感、しびれ、脱力感などの症状が現れ、放置すると詰まった先の組織が壊死してしまう危険があり、死亡率は10~28%にのぼるとされています。

動脈硬化による血栓や塞栓、外傷などが原因で、喫煙、高血圧、糖尿病、高脂血症などが危険因子として知られています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

急性動脈閉塞症の種類(病型)

急性動脈閉塞症は、塞栓症と血栓症の2つの病型に大別されます。

塞栓症

塞栓症は、心臓や動脈などから血栓や血栓以外の物質(塞栓子)が遊離し、血流に乗って運ばれて末梢の動脈を突然閉塞させる病気です。

塞栓症特徴
発症突発的
原因心房細動、弁膜症、動脈硬化など

塞栓症は突然の発症が特徴であり、重篤な状態に陥りやすいです。

心房細動、弁膜症、動脈硬化などが原因で血栓が形成され、それが血流に乗って末梢の動脈に到達することで発症します。

血栓症

血栓症は、動脈硬化などにより血管内膜が傷つき、そこに血栓が形成されて徐々に血管が閉塞していく病気です。

血栓症特徴
発症緩徐
原因動脈硬化など
合併症慢性動脈閉塞症

塞栓症と血栓症の相違点

塞栓症では心房細動や弁膜症が多いのに対し、血栓症では動脈硬化が主な原因となります。

血栓症では、慢性動脈閉塞症(閉塞性動脈硬化症バージャー病)を合併しているケースが多いです。

急性動脈閉塞症の主な症状

急性動脈閉塞症の主な症状は、突然の四肢の疼痛、冷感、蒼白、しびれ、脱力などです。

急性動脈閉塞症-5つのP
  • Pain(疼痛)
  • Pulseless(脈拍消失)
  • Pallor(蒼白)
  • Paralysis(運動麻痺)
  • Paresthesia(知覚麻痺)

突然の激しい痛み

急性動脈閉塞症では、血流の遮断によって虚血状態に陥った四肢に、突然の激しい痛みが生じます。

身体の向きを変えても軽快せず、安静時にも持続する強い痛みが特徴です。

皮膚の冷感・蒼白

急性動脈閉塞症では、血流不足によって患肢の皮膚が冷たくなり、青白くなります。

健側と比較すると、温度差が明らかである場合が多いです。

皮膚の色調変化は虚血の程度を反映しており、重篤な場合には暗紫色になることもあります。

感覚異常・運動障害

  • しびれ
  • 感覚鈍麻
  • 脱力
  • 麻痺

虚血が進行すると、患肢のしびれや感覚鈍麻などの感覚異常が出現します。

さらに虚血が悪化すると、脱力や麻痺などの運動障害を認めるようになります。

末梢動脈の拍動消失

急性動脈閉塞症では、閉塞部位より末梢の動脈拍動が触知できなくなります。

急性動脈閉塞症の原因

急性動脈閉塞症は動脈硬化や血栓症などを背景に発症する疾患です。

重篤な状態に陥る場合もあり、生命に関わる危険性があります。

動脈硬化

動脈硬化とは血管壁にコレステロールなどの脂質が蓄積し、血管が硬くなり狭くなる状態です。

血流が悪化し、進行すると血管が完全に閉塞する恐れがあります。

原因
  • 高血圧:血圧が高いと血管壁に負担がかかり、動脈硬化が進行しやすくなります。
  • 喫煙:タバコに含まれる有害物質が血管壁を傷つけ、動脈硬化を促進します。

血栓症

血栓症は血管内で血液が固まり血栓ができ、血流が悪化したり血管が閉塞したりする病態です。

原因
  • 不整脈(心房細動など)
  • 凝固異常(先天性の凝固因子異常など)
  • 脱水
  • 長期臥床

塞栓症

塞栓症は血管内を移動した血栓などが血管を閉塞させる病態です。

心臓や大動脈から末梢の動脈に血栓が流れ着き、動脈を閉塞させるケースが急性動脈閉塞症の原因としてよくみられます。

外傷

事故や転倒などによる強い打撲や骨折の際に、血管が損傷を受けることがあります。

診察(検査)と診断

身体所見で急性動脈閉塞症が疑われる場合には、画像検査や超音波検査(エコー)などを行い診断を確定します。

身体所見

問診項目内容
発症のタイミング突然の発症か、徐々に症状が出現したか
症状の詳細疼痛、しびれ、冷感、脈拍消失など

身体所見では、四肢の視診、触診、脈拍の触知、皮膚温の確認などを行います。

身体所見内容
視診皮膚の色調変化(蒼白、チアノーゼ)の有無
触診罹患部位の冷感、しびれの有無
脈拍の触知罹患肢の脈拍消失の有無
皮膚温の確認健側との比較による皮膚温の低下の有無

これらの所見から急性動脈閉塞症の可能性を疑い、臨床診断を下していきます。

画像検査

  • 超音波検査(エコー):非侵襲的に血流の評価が可能
  • CT検査:血管の形態評価や閉塞部位の同定に有用
  • 血管造影検査:血管内治療の適応判断や治療計画の立案に重要

超音波検査(エコー)

超音波検査は、血流の有無や流速を評価できます。

急性動脈閉塞症が疑われる場合、閉塞部位よりも末梢の血流が消失ないし著明な低下が特徴的な所見となります。

CT検査と血管造影検査

CT検査では、造影剤により血管の形態や閉塞部位を詳細に評価できます。

血管造影検査では、カテーテルを用いて直接血管内に造影剤を注入します。これにより、閉塞部位の同定や側副血行路の発達状況の評価が可能です。

急性動脈閉塞症の治療法と処方薬、治療期間

急性動脈閉塞症では、早期治療が予後に大きく影響するため、できる限り速やかな対応が不可欠です。

主な治療法としては、血栓溶解療法、血管内治療、外科的血栓除去術などが挙げられます。

血栓溶解療法

血栓溶解療法は、血栓を溶かす薬剤を投与する治療法です。

代表的な薬剤はウロキナーゼやt-PAで、発症から4〜6時間以内に投与を開始します。

薬剤名投与方法
ウロキナーゼ静脈内投与
t-PA静脈内投与

血管内治療

  • 経皮的血栓吸引術
  • 血管形成術
  • ステント留置術

血管内治療は、カテーテルを用いて血栓を除去したり、血管形成術を行ったりする治療法です。

発症から6〜12時間以内の実施が理想的とされています。

外科的血栓除去術

外科的血栓除去術は、直接血管を切開して血栓を取り除く治療法です。

より侵襲的ですが、確実に血流を再開させることができます。

手術名概要
血栓除去術血管を切開して血栓を除去
バイパス術血栓のある部分を迂回するバイパス血管を作成

処方薬

急性期の処方薬としては、抗凝固薬や抗血小板薬が用いられます。また、再発予防のために長期的な服用が必要となるケースもあります。

治療期間

急性動脈閉塞症の治療期間は、閉塞の原因、重症度、患者の状態、治療法などによって大きく異なります。

血栓溶解療法

治療期間は通常4~24時間程度ですが、血栓の溶解状況や患者の状態によって延長される場合もあります。

外科的血栓除去術

治療期間は数日から1週間程度ですが、術後の経過や合併症の有無によって、治療が長引く場合もあります。

バイパス手術

治療期間は1週間から2週間程度ですが、術後の経過や合併症の有無によって異なります。

急性期の集中治療を脱した後も、リハビリテーションや再発予防のための治療が数ヶ月から数年間続く場合があります。

予後と再発可能性および予防

急性動脈閉塞症の治療後の予後は、発症してからどのくらい早く治療を始められたか、血管のどの部分で詰まったか、患者さんの全身の状態など、状況により差があります。

予後良好因子予後不良因子
発症から治療開始までの時間が短い発症から治療開始までの時間が長い
閉塞部位が末梢である閉塞部位が中枢側である
全身状態が安定しているショックを伴う

予後

  • 急性下肢動脈閉塞症の肢切断率:5~30%
  • 死亡率:10~28%

再発予防の重要性

生活習慣の改善薬物療法
禁煙抗血小板薬
運動習慣の確立抗凝固薬
食事療法スタチンなど

長期的な経過観察の必要性

急性動脈閉塞症の治療が終わった後も、また再発するリスクがあるため、長い期間にわたって経過を診ていく必要があります。

定期的な診察だけでなく、以下のような検査も行います。

  • 足首と上腕の血圧を測って比べる検査(ABI)
  • 超音波を使って血管の状態を調べる検査
  • 血管に造影剤を流し込んでレントゲンで写す検査

こうした検査により、また詰まり始めているところを早めに見つけることができます。

急性動脈閉塞症の治療における副作用やリスク

急性動脈閉塞症の治療には副作用やリスクが伴います。

血栓溶解療法の副作用とリスク

副作用リスク
出血脳出血、消化管出血など
アレルギー反応アナフィラキシーショックなど

血管内治療の副作用とリスク

血管内治療は、以下のような副作用やリスクがあります。

  • 穿刺部の出血や血腫形成
  • 血管損傷や解離
  • 塞栓症の発生
  • 造影剤によるアレルギー反応や腎機能障害

バイパス手術の副作用とリスク

副作用・リスク詳細
感染症創部感染、人工血管感染など
出血手術部位からの出血
グラフト閉塞バイパスに使用した血管の閉塞
心血管イベント心筋梗塞、脳卒中など

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

急性動脈閉塞症の治療は公的医療保険の対象です。自己負担額は3割~1割となります。

ただし、先進医療や差額ベッド代などは保険適用外となります。

治療費の内訳

治療内容概算費用
診察料1,000円~5,000円
検査料10,000円~50,000円
手術料50,000円~500,000円
入院料5,000円~20,000円/日

費用は症状の重症度や治療期間によって変動します。詳しい医療費については各医療機関で直接ご確認ください。

高額療養費制度の利用

急性動脈閉塞症の治療費が高額になる場合、高額療養費制度の利用により自己負担額を軽減できます。

この制度では、月々の医療費の自己負担額に上限が設けられています。 所得区分に応じて上限額は変動し、低所得者ほど上限額が低く設定されています。

詳しくは厚生労働省のホームページをご確認ください。

医療費控除

急性動脈閉塞症の治療費は医療費控除の対象です。

確定申告時に1年間の医療費の自己負担額が10万円を超える場合、超えた分について所得税が還付されたり、税額が軽減されたりします。

医療費控除の対象となる主な費用
  • 診察料
  • 検査料
  • 手術料
  • 入院料
  • リハビリテーション料
  • 医薬品費
  • 通院交通費

以上

References

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