カポジ水痘様発疹症(Kaposi’s varicelliform eruption)とは、ヘルペスウイルス属のウイルスがアトピー性皮膚炎などの慢性皮膚疾患の方に感染することで発症する感染症です。
この疾患では、全身に皮疹が広がり、発熱や倦怠感などの全身症状が現れることがあります。
慢性皮膚疾患をお持ちの方や免疫力の低下している方は、カポジ水痘様発疹症に罹患するリスクが高いため、特に注意が必要です。
カポジ水痘様発疹症の種類(病型)
カポジ水痘様発疹症は、いくつかの異なる病型に分類され、それぞれの病型は、特定の基礎疾患や状態に関連しており、治療アプローチや予後に影響を与えます。
1型:アトピー性皮膚炎に合併
1型は、アトピー性皮膚炎を有する患者さんに発生します。
アトピー性皮膚炎による皮膚バリア機能の低下が、ウイルスの侵入を容易にし、発疹が広範囲に広がる傾向があり、重症化のリスクが高いです。
病型 | 基礎疾患 |
1型 | アトピー性皮膚炎 |
2型:接触皮膚炎に合併
2型は、接触皮膚炎を有する患者に見られ、皮膚の炎症反応により、ウイルスが皮膚に定着しやすくなると考えられています。
3型:天疱瘡・類天疱瘡に合併
3型は、天疱瘡や類天疱瘡などの自己免疫性水疱性疾患に合併して発生します。
これらの疾患では、皮膚の構造的な脆弱性が問題となり、免疫抑制療法を受けている患者さんでは、特に注意が必要です。
- 天疱瘡
- 類天疱瘡
- 水疱性類天疱瘡
4型:熱傷に合併
4型は、熱傷患者に発生するカポジ水痘様発疹症です。
熱傷によって損傷を受けた皮膚は、ウイルスの侵入に対して脆弱になります。
適切な創傷管理と感染予防対策が欠かせません。
病型 | 特徴 |
4型 | 熱傷患者に発生 |
5型 | Darier病に合併 |
5型:Darier病に合併
5型は、Darier病という遺伝性皮膚疾患に合併して発生します。
Darier病では、表皮の接着性が低下しているため、ウイルスが皮膚に侵入しやすくなるのです。
家族性の疾患であることを考慮し、家族へのアプローチも大切になります。
カポジ水痘様発疹症の主な症状
カポジ水痘様発疹症の主な症状は、急性発症の発熱と全身に広がる水疱形成を伴う皮疹です。
皮疹はアトピー性皮膚炎などの慢性皮膚疾患の罹患部位を中心に拡大していく傾向にあります。
また、皮疹の形態は多様で、小水疱、膿疱、紅斑、びらんなどを呈することが特徴的です。
皮疹の特徴
カポジ水痘様発疹症の皮疹の特徴
特徴 | 説明 |
急性発症 | 数日以内に急速に拡大する |
全身性 | 体幹、四肢、顔面など全身に分布する |
多様な形態 | 小水疱、膿疱、紅斑、びらんなどを呈する |
皮疹は通常、慢性皮膚疾患の罹患部位から始まり、そこから急速に全身へと広がっていき、小水疱が多発し、それらが膿疱化したりびらんを形成します。
重症例では、全身の皮膚の大部分が侵されてしまうことも。
全身症状
カポジ水痘様発疹症においては、皮疹以外にも全身症状を伴うことがあります。
- 高熱
- 倦怠感
- リンパ節腫脹
- 食欲不振
特高熱はほとんどの症例で認められ、39℃以上に達することも珍しくはありません。 全身症状は皮疹の拡大とともに増悪していくのが特徴です。
重症度と合併症
カポジ水痘様発疹症の重症度は、皮疹の範囲と全身症状の程度によって判断されます。
重症度 | 皮疹の範囲 | 全身症状 |
軽症 | 限局性 | 軽度 |
中等症 | 比較的広範 | 中等度 |
重症 | 全身の大部分 | 高度 |
重症例では敗血症などの重篤な合併症を引き起こしてしまう可能性もあり、また、眼瞼や口唇などの粘膜に皮疹が及んだ場合は、潰瘍を形成し疼痛や出血を伴うこともあります。
臨床経過
カポジ水痘様発疹症の臨床経過
- 前駆症状(発熱、倦怠感など)の出現
- 皮疹の急性発症と拡大
- 全身症状の増悪
- 皮疹の膿疱化、びらん形成
- 治療開始後、徐々に症状が改善
カポジ水痘様発疹症の原因・感染経路
カポジ水痘様発疹症は、主にヘルペスウイルス科に属する単純ヘルペスウイルスが原因で発症し、皮膚の傷や粘膜を介して感染が成立します。
単純ヘルペスウイルスとは
単純ヘルペスウイルスは、ヘルペスウイルス科に分類されるDNAウイルスの一種です。
このウイルスには、1型(HSV-1)と2型(HSV-2)の2つのタイプがあります。
HSV-1は主に口唇ヘルペス、HSV-2は性器ヘルペスの原因です。
ウイルス | 主な感染部位 |
HSV-1 | 口唇 |
HSV-2 | 性器 |
感染経路
カポジ水痘様発疹症の感染経路
特に、皮膚バリア機能が低下していたり、免疫力が低下している場合は、感染リスクが高くなります。
感染経路 | リスク因子 |
直接接触 | 皮膚バリア機能の低下 |
間接接触 | ウイルス汚染物品との接触 |
飛沫感染 | 免疫力の低下 |
ウイルスの潜伏と再活性化
単純ヘルペスウイルスは、一度感染すると神経節に潜伏し、生涯にわたって宿主の体内に留まります。
ストレスや疲労、紫外線などのさまざまな要因により、潜伏していたウイルスが再活性化し、症状が再燃することがあります。
診察(検査)と診断
カポジ水痘様発疹症の診断を行うためには、臨床症状と検査所見を総合的に評価します。
問診と身体診察
カポジ水痘様発疹症が疑われる患者さんに対しては、まず詳細な問診を行います。
問診項目 | 内容 |
発症時期と経過 | いつ頃から症状が出現し、どのように進行したか |
基礎疾患の有無 | アトピー性皮膚炎などの慢性皮膚疾患の罹患歴 |
全身症状の有無 | 発熱、倦怠感、食欲不振などの症状の有無 |
また、全身の皮膚を注意深く観察し、皮疹の分布と形態を評価することも大切です。
特に慢性皮膚疾患の罹患部位を中心とした皮疹の分布は、カポジ水痘様発疹症を示唆する重要な所見となります。
臨床診断
カポジ水痘様発疹症の臨床診断基準
これらの所見がそろっている場合には、カポジ水痘様発疹症の可能性が高いと判断されます。
ただし、臨床症状のみでは他の感染症との鑑別が困難なこともあるため、確定診断のためには検査が必要です。
確定診断のための検査
カポジ水痘様発疹症の確定診断には、以下の検査が用いられます。
検査 | 方法と意義 |
ウイルス分離・同定 | 皮疹部の水疱内容液や膿汁からウイルスを分離し、同定する |
血清学的検査 | ウイルス特異的IgMやIgG抗体の測定により、ウイルス感染を証明する |
遺伝子検査 | 皮疹部の検体からPCR法によりウイルスDNAを検出する |
特にウイルス分離・同定は確定診断の基本となる検査で、単純ヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルスの分離・同定によって、原因ウイルスを特定できます。
鑑別診断
カポジ水痘様発疹症と鑑別を要する疾患があります。
- 伝染性膿痂疹
- 伝染性軟属腫
- 天疱瘡
- Stevens-Johnson症候群
これらの疾患は皮疹の形態や分布が類似していることがあるため、注意が必要です。
カポジ水痘様発疹症の治療法と処方薬、治療期間
カポジ水痘様発疹症の治療には抗ウイルス薬の投与が中心です。
早期発見と迅速な治療開始が予後の改善に重要で、治療期間は数週間から数ヶ月を要します。
抗ウイルス薬治療
カポジ水痘様発疹症の治療の中心は、原因となるウイルスに対する抗ウイルス薬の投与です。
代表的な抗ウイルス薬としては、アシクロビル (Acyclovir) やバラシクロビル (Valacyclovir) などがあり、ウイルスのDNA複製を阻害することで、ウイルスの増殖を抑制。
通常、経口または静脈内投与で行われ、症状の重症度に応じて投与量や投与期間が調整されます。
薬剤名 | 投与経路 | 投与量 |
アシクロビル | 経口 | 成人: 1回200mg、1日5回 |
静脈内 | 成人: 1回5mg/kg、1日3回 | |
バラシクロビル | 経口 | 成人: 1回1000mg、1日3回 |
免疫抑制剤の併用
症状が重篤な場合や、免疫抑制状態にある患者さんでは、抗ウイルス薬に加えて免疫抑制剤の併用を検討することも。
ステロイド薬やシクロスポリンなどの免疫抑制剤は、過剰な炎症反応を抑制し、症状の改善を促進する効果が期待されます。
ただし、免疫抑制剤の使用は慎重に行う必要があり、感染症のリスクを高める恐れがあることに留意が必要です。
局所療法
皮膚病変に対しては、抗ウイルス薬に加え、局所療法が行われることがあり、アシクロビル軟膏やビダラビン軟膏などの抗ウイルス薬を病変部に直接塗布することで、局所の症状改善を図ります。
また、二次感染の予防のために、抗菌薬入りの軟膏やクリームが使用されることも。
治療期間と予後
抗ウイルス薬の投与は、数週間から数ヶ月間です。
治療開始が遅れたり、免疫抑制状態が持続したりする際は、治療期間がさらに長期化する恐れがあります。
治療が行われれば、多くの場合は良好な経過をたどりますが、重症例や免疫抑制患者では、合併症のリスクが高くなるため注意が必要です。
- 抗ウイルス薬の早期投与開始
- 免疫抑制剤の慎重な使用
- 局所療法の併用
- 二次感染の予防
予後因子 | 良好 | 不良 |
発症年齢 | 若年 | 高齢 |
免疫状態 | 正常 | 免疫抑制状態 |
治療開始のタイミング | 早期 | 遅延 |
合併症の有無 | なし | あり |
予後と再発可能性および予防
カポジ水痘様発疹症の治療後の経過は、早期に治療が開始されれば、良好です。
ただし、再発のリスクもあります。
治療後の予後
カポジ水痘様発疹症の予後に影響する因子
予後因子 | 説明 |
治療開始時期 | 発症から治療開始までの期間が短いほど予後が良い |
基礎疾患の重症度 | アトピー性皮膚炎などの基礎疾患が重症であるほど予後が悪い |
免疫状態 | 免疫抑制状態にある患者は重症化しやすく、予後が悪い |
適切な抗ウイルス薬による治療が早期に開始された場合は、ほとんどの患者さんが後遺症なく回復でき、皮疹は治療開始から数日以内に改善傾向を示し、1〜2週間で消失します。
再発のリスク
カポジ水痘様発疹症の再発リスクは、いくつかの因子によって増加します。
- アトピー性皮膚炎などの基礎疾患のコントロール不良
- 免疫抑制状態の持続
- 不適切な治療や治療の中断
再発予防のためには、基礎疾患のコントロールを徹底し、免疫状態を改善していくことが大切です。
また、初回感染時に治療を完遂することも、再発リスクの低減につながります。
再発リスク因子 | 再発率 |
アトピー性皮膚炎の重症度が高い | 30〜40% |
免疫抑制状態にある | 50%以上 |
治療が不適切または中断された | 40〜50% |
予防法
カポジ水痘様発疹症の予防
- アトピー性皮膚炎などの基礎疾患のコントロール
- ヘルペスウイルス感染者との接触を避ける
- 手指衛生の徹底
- 皮膚バリア機能の維持
特にアトピー性皮膚炎のコントロールは重要で、スキンケアと炎症のコントロールによって、皮膚バリア機能を維持し、ウイルスの侵入を防げます。
カポジ水痘様発疹症の治療における副作用やリスク
カポジ水痘様発疹症の治療は、長期的な影響を及ぼす可能性があります。
抗ウイルス薬の副作用
抗ウイルス薬の副作用は、吐き気、下痢、頭痛などの消化器症状や神経症状です。
重篤な副作用として、肝機能障害、腎機能障害、血液障害などが発生する危険性があります。
副作用 | 症状 |
消化器症状 | 吐き気、下痢、腹痛 |
神経症状 | 頭痛、めまい、しびれ |
免疫抑制療法のリスク
免疫抑制療法は、感染症のリスクを高めてしまうことがあります。
免疫力が低下することにより、日和見感染症や日和見腫瘍が発生しやすくなるのです。
薬物相互作用のリスク
カポジ水痘様発疹症の治療薬は、他の薬剤と相互作用を起こす危険性があり、特に、免疫抑制剤や抗ウイルス薬との併用には注意が必要です。
薬剤 | 相互作用 |
免疫抑制剤 | 免疫抑制作用の増強 |
抗ウイルス薬 | 副作用の増強 |
薬物相互作用によって、副作用が増強したり、治療効果が減弱したりする恐れがあります。
長期的な影響
長期間の免疫抑制療法は、感染症のリスクを高めるだけでなく、臓器障害や二次がんの発生にも関与します。
また、抗ウイルス薬の長期使用は、薬剤耐性ウイルスの出現や、副作用の累積などの問題があります。
以上
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
初診料と再診料
初診料は、初めて医療機関を受診した際に発生する費用で、再診料は、2回目以降の受診で発生します。
費用項目 | 金額目安 |
初診料 | 2,820円~4,350円 |
再診料 | 720円~1,450円 |
検査費と処置費
カポジ水痘様発疹症の診断には、血液検査や皮膚生検などの検査が必要で、また、症状に応じて、抗ウイルス薬の投与や皮膚の処置が行われます。
検査・処置項目 | 金額目安 |
血液検査 | 3,000円~10,000円 |
皮膚生検 | 10,000円~30,000円 |
抗ウイルス薬投与 | 5,000円~20,000円 |
皮膚の処置 | 3,000円~15,000円 |
入院費
症状が重い場合、入院治療が必要になることがあり、入院費は、1日あたり1万円~3万円程度が目安です。
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