ヘルペス性歯肉口内炎 – 感染症

ヘルペス性歯肉口内炎(herpetic gingivostomatitis)とは、単純ヘルペスウイルス(HSV)の初感染によって引き起こされる急性の口腔粘膜疾患です。

主に乳幼児や小児に発症することが知られています。

この疾患の特徴は、発熱、口腔内の水疱形成、歯肉の発赤・腫脹、口腔粘膜の潰瘍などです。

HSVは感染力が非常に強く、唾液や口腔内の分泌物を介して感染が拡大していきます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ヘルペス性歯肉口内炎の種類(病型)

ヘルペス性歯肉口内炎は、初感染型と再発型という2つの種類に分けられます。

初感染型(Primary herpetic gingivostomatitis)

初感染型は、主に乳幼児や小児に見られる種類で、ウイルスに初めて感染した際に発症します。

特徴詳細
発症年齢主に乳幼児や小児
症状高熱、口腔内の広範囲な潰瘍形成、歯肉の腫脹や発赤、リンパ節腫脹

初感染型は、ウイルスに対する免疫がない状態で感染するため、症状が重くなることがあります。

再発型(Recurrent herpetic stomatitis)

再発型は、初感染後にウイルスが神経節に潜伏し、何らかのきっかけで再び活性化することで発症します。

再活性化のきっかけ

  • ストレス
  • 疲労
  • 紫外線exposure
  • 月経
  • 発熱
特徴詳細
発症年齢主に成人
症状口唇や口腔内の限局した潰瘍形成、軽度の発熱やリンパ節腫脹

再発型は、初感染型に比べると症状は軽いですが、再発を繰り返すことがあります。

病型による違い

初感染型と再発型では、症状の重さや範囲に違いがあります。

初感染型では、口の中の広い範囲に潰瘍ができ、高熱を伴うことが多いのに対し、再発型では、潰瘍の範囲は限られていて、全身症状も軽いです。

ヘルペス性歯肉口内炎の主な症状

ヘルペス性歯肉口内炎の主な症状は、発熱、口腔内の水疱形成、歯肉の発赤・腫脹、口腔粘膜の潰瘍などです。

発熱

ヘルペス性歯肉口内炎の初期症状として、発熱が挙げられます。

症状詳細
発熱38℃以上の高熱が数日間続くことが多い
全身倦怠感発熱に伴い、体のだるさや疲労感を伴うことがある

発熱は、ウイルスに対する身体の防御反応の一つであり、ヘルペス性歯肉口内炎の初期段階において現れる症状の一つです。

口腔内の水疱形成

ヘルペス性歯肉口内炎の特徴的な症状の一つが、口腔内の水疱形成です。

  • – 口唇、舌、頬粘膜、歯肉などに小さな水疱が多数発生する
  • – 水疱は直径1~2mmの大きさで、周囲に発赤を伴う
  • – 水疱は破れやすく、びらんや潰瘍を形成する

口腔内の水疱は、ウイルスの増殖により上皮細胞が障害されることで形成されます。

歯肉の発赤・腫脹

ヘルペス性歯肉口内炎では、歯肉の発赤・腫脹も特徴的な症状の一つです。

症状詳細
歯肉の発赤歯肉が赤く腫れ上がり、触ると痛みを伴う
歯肉からの出血ブラッシング時などに歯肉から出血しやすくなる

歯肉の発赤・腫脹は、ウイルスによる炎症反応の結果として生じるものです。

口腔粘膜の潰瘍

ヘルペス性歯肉口内炎では、口腔粘膜に多数の潰瘍が形成され、潰瘍は、水疱が破れた後に生じ、周囲に発赤を伴った浅い病変として観察されます。

潰瘍は極めて痛みを伴うため、食事や会話などの日常生活に大きな影響を与えることに。

多くの場合、潰瘍は1週間から10日程度で自然治癒しますが、二次感染を予防するための注意が必要です。

ヘルペス性歯肉口内炎の原因・感染経路

ヘルペス性歯肉口内炎の原因は、単純ヘルペスウイルス(HSV)です。

単純ヘルペスウイルス(HSV)について

単純ヘルペスウイルス(HSV)は、HSV-1とHSV-2の2種類です。

HSV-1は主に口唇や口の中の感染を引き起こし、HSV-2は主に性器の感染を引き起こします。

HSV-1は、世界中で広く広がっており、大人の50〜90%が感染していると推定。

それに対し、HSV-2の感染率は、HSV-1と比べると低いですが、性的に活発なグループでは高くなる傾向にあります。

感染経路

HSVは、感染者と直接触れ合うことで感染します。

感染経路詳細
口唇や口の中の粘膜との接触キスや口の中の粘膜同士が触れ合うことで感染
性器との接触オーラルセックスや性交により感染

また、ウイルスが付いた手や物を介して間接的に感染することもあります。

  • 感染者が使った食器やタオルを介して感染
  • 感染者が触ったドアノブや手すりなどを介して感染
  • 感染者のくしゃみや咳の飛沫から感染

初感染と再発

HSVは、初めて感染した後、ウイルスは神経を伝わって感覚神経節に潜り込み、さまざまな刺激により再び活動的になります。

再活性化の引き金詳細
ストレス心や体のストレスにより免疫力が下がり、ウイルスが再び活動的に
疲労過度の疲れにより免疫力が下がり、ウイルスが再び活動的に
紫外線日光に長時間当たりすぎると免疫力が下がり、ウイルスが再び活動的に
月経女性ホルモンのバランスが変化すると免疫力が下がり、ウイルスが再び活動的に

再び活動的になったウイルスは、神経を伝わって口や性器に到達し、再発性の症状を引き起こします。

感染予防

HSVの感染を防ぐには、以下の点に気をつける必要があります。

  • 感染者と直接触れ合うことを避ける
  • 感染者が使った物の共用を避ける
  • 手洗いやアルコール消毒を徹底する
  • 性行為の際はコンドームを使う

HSVは非常に感染力が強く、一度感染すると体の中に潜り込み、完全に治すことはできません。

診察(検査)と診断

ヘルペス性歯肉口内炎の診断は、臨床症状に基づく臨床診断と、ウイルス学的検査による確定診断の2つの方法で行われます。

問診と視診

ヘルペス性歯肉口内炎の診察では、まず患者さんの症状や発症経過に関する問診が重要となります。

問診項目内容
症状発熱、口腔内の疼痛、摂食困難など
発症経過症状の出現時期、持続期間、増悪・軽快因子など

問診に加え、口腔内の視診を行います。

特徴的な口腔内所見

  • 歯肉の発赤・腫脹
  • 口腔粘膜の水疱形成
  • 水疱の破綻後に生じる浅い潰瘍

臨床診断

ヘルペス性歯肉口内炎の臨床診断

診断基準詳細
年齢主に乳幼児・小児に多い
臨床症状発熱、口腔内の水疱・潰瘍、歯肉炎など
経過急性発症、1~2週間で自然治癒傾向

臨床症状と経過から、ヘルペス性歯肉口内炎を強く疑う場合には臨床診断が下されます。

ただし、確定診断には至らないことがあり、必要に応じてウイルス学的検査が行われることも。

ウイルス学的検査

ヘルペス性歯肉口内炎の確定診断には、ウイルス学的検査が用いられます。

代表的な検査法

  • – ウイルス分離培養:水疱内容液や潰瘍部ぬぐい液からのウイルス分離
  • – PCR法:水疱内容液や潰瘍部ぬぐい液からのHSV-DNAの検出
  • – 血清抗体価測定:ペア血清における抗体価の有意な上昇の確認

これらの検査により、HSV感染の直接的な証明が可能となり、確定診断に至ります。

特に、ウイルス分離培養とPCR法は感度・特異度ともに高く、有用な検査法です。

鑑別診断

ヘルペス性歯肉口内炎と類似した症状を呈する疾患

  • 手足口病
  • ヘルパンギーナ
  • 再発性アフタ性潰瘍
  • ベーチェット病

これらの疾患との鑑別には、臨床症状や経過に加え、ウイルス学的検査が必要です。

ヘルペス性歯肉口内炎の治療法と処方薬、治療期間

ヘルペス性歯肉口内炎の治療は、抗ウイルス薬の投与と症状緩和が中心です。

治療期間は通常1〜2週間ですが、症状や患者さんの状態によって異なることがあります。

抗ウイルス薬の投与

ヘルペス性歯肉口内炎の治療には、抗ウイルス薬の投与が有効で、代表的な抗ウイルス薬は、アシクロビル(商品名:ゾビラックス)やバラシクロビル(商品名:バルトレックス)などです。

軽症の場合は塗り薬や飲み薬、重症の場合は点滴による投与が行われる可能性もあります。

薬剤名投与方法
アシクロビル塗り薬
飲み薬
点滴
バラシクロビル飲み薬

症状の緩和

抗ウイルス薬の投与と並行して、症状の緩和を行います。

対処法

  • 口内を清潔に保つためのうがいや口腔ケア
  • 疼痛緩和のための鎮痛薬の服用
  • 口内炎によって生じた潰瘍部分への軟膏の塗布

治療期間と注意点

ヘルペス性歯肉口内炎の治療期間は、通常1〜2週間程度です。

ただし、患者さんの年齢や全身状態、症状の重症度などによって、治療期間が長引く可能性もあります。

治療中の注意点

注意点理由
ストレス管理ストレスによって症状が悪化する可能性がある
十分な休養体力の回復と治癒の促進につながる
刺激物の摂取制限辛い食べ物や熱い飲み物は症状を悪化させる可能性がある

予後と再発可能性および予防

ヘルペス性歯肉口内炎は適切な治療により症状は改善しますが、ウイルスを完全に排除することはできないため再発の可能性があります。

治療の予後

ヘルペス性歯肉口内炎の治療の目的は、抗ウイルス薬の投与を主軸に症状の緩和をすることです。

抗ウイルス薬の働きにより、ウイルスの増殖が抑えられ炎症がやわらぐため、治療すれば多くの場合1〜2週間ほどで症状は改善に向かいます。

ただし初感染の場合や免疫力の低下した患者さんは、治癒までに時間を要することも。

治療期間目安予後
1〜2週間程度症状改善
2週間以上治癒遅延の可能性あり

再発の可能性

ヘルペス性歯肉口内炎は一度罹患するとウイルスが神経節に潜伏し続けるため、完治は困難です。

そのため症状が改善した後も、再発するリスクは常に内在しています。

再発の契機となり得る要因は、ストレスや疲労、紫外線exposure、発熱などです。

再発リスク因子再発への影響度
ストレス
疲労
紫外線曝露
発熱

再発の予防

ヘルペス性歯肉口内炎の再発を完全に予防することは容易ではありませんが、いくつかの対策を講じることである程度再発リスクを下げられます。

  • ストレスのコントロール
  • 睡眠など十分な休養の確保
  • 栄養バランスに配慮した食生活
  • 紫外線対策の徹底

ヘルペス性歯肉口内炎の治療における副作用やリスク

ヘルペス性歯肉口内炎の治療には、副作用やリスクがあることを知っておくことが大切です。

抗ウイルス薬の副作用

ヘルペス性歯肉口内炎の治療に用いられる抗ウイルス薬には、いくつかの副作用の報告があります。

下痢や悪心、嘔吐といった消化器症状が生じることがあるほか、頭痛やめまい、倦怠感などです。

副作用頻度
下痢10-20%
悪心・嘔吐5-10%
頭痛5-10%

まれではありますが、重篤な副作用として肝機能障害や血液障害などが起こることもあります。

免疫抑制療法のリスク

重症例では、免疫抑制療法が行われる場合があります。

ステロイド薬の全身投与などにより免疫機能を抑制することで、ウイルスの増殖を抑え炎症を鎮静化させる治療法です。

薬剤投与方法
ステロイド内服
ステロイド点滴

しかし免疫抑制状態では、日和見感染症を併発するリスクが高くなります。

また、ステロイド薬の長期使用により、骨粗鬆症や糖尿病、消化性潰瘍などの副作用も心配されます。

以上

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料と再診料

医療機関への初診時には初診料が必要で、一般的に3,000円から6,000円程度です。

2回目以降の通院では再診料が発生し、おおむね600円から1,500円の範囲内となっています。

費用項目金額
初診料3,000円〜6,000円
再診料600円〜1,500円

検査費

ヘルペス性歯肉口内炎の確定診断のために血液検査や細胞診などが実施されるケースがあり、これら検査の費用は数千円から1万円以上に達することがあります。

検査項目や医療機関ごとに価格差があるため、あらかじめ費用を確認してください。

処置費

ヘルペス性歯肉口内炎の治療の中心は抗ウイルス薬の投与ですが、病状に応じて口腔内洗浄や軟膏塗布なども併用され、これらの処置にかかる費用は数千円程度です。

症状が重い場合は歯科的な処置が求められることもあり、その際はさらなる費用負担が生じます。

処置内容費用
抗ウイルス薬投与数千円〜
口腔内洗浄1,000円〜3,000円
軟膏塗布1,000円〜2,000円
歯科処置5,000円〜

入院費

重篤なヘルペス性歯肉口内炎の症例では入院治療を要することがあり、その場合は入院費が必要です。

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