流行性耳下腺炎(おたふくかぜ) – 感染症

流行性耳下腺炎(おたふくかぜ mumps)とは、ムンプスウイルスによって引き起こされるウイルス感染症です。

この感染症は主に小児期に発症することが多く、唾液腺、特に耳下腺の腫れと痛み、発熱や倦怠感、食欲不振などが起こります。

時には髄膜炎や脳炎、難聴、精巣炎、卵巣炎などの合併症を引き起こすこともあるため、注意が必要です。

予防にはワクチンが有効であり、多くの国において定期接種に組み込まれています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

流行性耳下腺炎の種類(病型)

流行性耳下腺炎は、典型例、非典型例、不顕性感染の3つの主な病型に分けられ、それぞれの病型は異なる症状の特徴を示し、重症度や合併症のリスクにも違いがあります。

典型例:最も一般的な病型

典型例は、流行性耳下腺炎の中で最も頻度が高い病型です。

片側あるいは両側の耳下腺の腫れと痛み、発熱や体のだるさなどの全身症状を伴います。

特徴説明
耳下腺の腫脹片側性または両側性
疼痛耳下腺部位の圧痛
全身症状発熱、倦怠感、食欲不振など

耳下腺の腫れは通常1週間程度続き、徐々に良くなっていきます。 多くの場合、合併症を起こさずに自然に治る経過をたどります。

ただし、まれに無菌性髄膜炎やすい臓の炎症などの合併症を発症する場合があるため、注意が必要です。

非典型例:多彩な臨床像を呈する

非典型例は、耳下腺以外の唾液腺や他の臓器に症状が現れる病型です。

すい臓の炎症、脳や脊髄の膜の炎症、精巣の炎症など、さまざまな合併症を伴うことがあります。

  • – すい臓炎:上腹部の痛み、背中の痛み、吐き気、嘔吐など
  • – 髄膜炎:頭痛、発熱、首の硬直、意識の障害など
  • – 精巣炎:片側または両側の精巣の腫れと痛み
合併症頻度
膵炎1〜4%
髄膜炎1〜10%
睾丸炎20〜30%(思春期以降の男性)

非典型例は重症化のリスクが高く、入院治療が必要になることがあります。

特に、思春期以降の男性における精巣炎は、不妊症のリスクを高める可能性があるため、慎重な対応が必要です。

精巣炎を発症した場合、安静と対症療法が基本となりますが、重症例ではステロイド薬の使用を検討することもあります。

不顕性感染:感染拡大のリスクを伴う

不顕性感染は、無症状であったり、特徴的でない症状だけが現れたりする病型です。

感染しているにもかかわらず、はっきりとした臨床症状を示しません。

不顕性感染の人は周りの人に感染させる可能性があるため、感染が広がるのを防ぐ観点から注意が必要です。

不顕性感染の診断は、血液検査によって行われ、ムンプスウイルスに対するIgM抗体の検出や、IgG抗体の有意な上昇が確認された場合、不顕性感染と診断されます。

流行性耳下腺炎の主な症状

流行性耳下腺炎に罹患すると、耳下腺の腫脹と疼痛が主要な症状として現れ、それに加えて、発熱や頭痛、筋肉痛などの全身症状を伴うこともあります。

重篤化すると髄膜炎や脳炎を発症するリスクもあるため、注意が必要です。

耳下腺の腫脹と疼痛

流行性耳下腺炎の最も特徴的な症状は、耳の下に位置する唾液腺の一つである耳下腺の腫脹と疼痛です。

片側性に生じることが多いですが、両側性に現れるケースもあります。

耳下腺の腫脹は、発症後2~3日でピークに達し、1週間程度継続するのが一般的です。 疼痛を伴うことが多く、食事の際に痛みが増強します。

症状特徴
耳下腺の腫脹片側性または両側性に現れる
耳下腺の疼痛食事の際に増強することがある

発熱と全身症状

流行性耳下腺炎では、発熱や頭痛、筋肉痛などの全身症状が見られ、発熱は38度以上に達することが多く、数日間持続する場合があります。

全身倦怠感や食欲不振を伴うこともあり、体調管理が大切です。

症状特徴
発熱38度以上に達することが多い
頭痛・筋肉痛全身症状として現れることがある

重症化のリスク

流行性耳下腺炎は通常は良性の経過をたどりますが、まれに重症化することがあります。

  • – 髄膜炎: 頭痛、発熱、意識障害などの症状が現れる
  • – 脳炎: 髄膜炎の症状に加えて、けいれんや運動障害などが現れる
  • – 精巣炎: 思春期以降の男性で、精巣の腫脹と疼痛が現れる

重症化した場合は、速やかな医療機関を受診してください。

合併症の注意点

流行性耳下腺炎では、他の臓器への合併症が生じるリスクがあります。

難聴や不妊などの後遺症が残ることもあるため、経過観察が求められ、合併症が疑われる際は、専門医による診断と管理が必要です。

流行性耳下腺炎の原因・感染経路

流行性耳下腺炎は、ムンプスウイルスが原因となって発症し、主に感染者の唾液や飛沫を介して人から人へと感染が拡大していきます。

ウイルスは、感染者との近距離での会話や、くしゃみ・咳などによる飛沫感染が主要な感染経路です。

ムンプスウイルスについて

ムンプスウイルスは、パラミクソウイルス科に分類されるRNAウイルスの一種です。

他の多くのウイルスと同様に、宿主の細胞内で増殖することで感染を引き起こします。

ムンプスウイルスの感染力は非常に強く、感受性のある人が感染者と接触した場合、高い確率で感染します。

ウイルス名属する科核酸
ムンプスウイルスパラミクソウイルス科RNA

感染経路

流行性耳下腺炎の主な感染経路

  • 感染者との近距離での会話や接触
  • 感染者のくしゃみや咳などによる飛沫感染
  • 感染者の唾液や鼻汁などを介した接触感染
感染経路概要
飛沫感染感染者のくしゃみや咳などによる飛沫を吸入することで感染
接触感染感染者の唾液や鼻汁などに触れた手で、自分の口や鼻を触ることで感染

潜伏期と感染可能期間

ムンプスウイルスに感染してから症状が現れるまでの潜伏期は、通常2〜3週間程度です。

潜伏期間中は無症状の状態であっても、すでにウイルスを排出しており、他者へ感染させてしまう可能性があります。

また、症状が出現してからは、耳下腺の腫れが引くまでの約1週間が最も感染力が強い時期です。

感染予防対策

流行性耳下腺炎の感染を予防するためには、以下のような対策を講じることが重要です。

  • 流行地域への不要不急の外出を控える
  • 人混みや密集した空間を避ける
  • 手洗いやうがいを徹底する
  • 感染者との接触を避ける

特に、感染力が強い時期である発症後1週間程度は、感染者との接触を可能な限り避けることが感染拡大防止に効果的です。

さらに、予防接種を受けることで発症や重症化のリスクを下げられます。

診察(検査)と診断

ムンプス(流行性耳下腺炎)の診察と診断では、臨床症状の評価、ウイルス学的検査、血清学的検査を組み合わせて行います。

臨床症状の評価

医師は患者の症状や身体所見を詳細に評価し、特に、耳下腺の腫脹や圧痛、発熱の有無などを確認します。

評価項目確認事項
耳下腺の腫脹片側性または両側性の腫脹の有無
耳下腺の圧痛触診による圧痛の有無
発熱体温測定による発熱の確認

ウイルス学的検査

ウイルス分離や遺伝子検査により、ムンプスウイルスの存在を直接確認することが可能です。

唾液や尿、髄液などの検体を用いて検査が行われます。

ウイルス分離は感度が高いですが、結果を得るまでに時間がかかり、 一方、遺伝子検査は迅速に結果が得られますが、感度がやや劣ります。

血清学的検査

血清中のムンプスウイルスに対する抗体を測定する検査です。 急性期と回復期のペア血清を用いて、抗体価の変化を確認します。

  • -IgM抗体:感染初期から検出され、感染の指標となる
  • -IgG抗体:感染後期や既往感染で検出され、抗体価の上昇が診断に有用
検査項目検査方法
IgM抗体ELISA法、蛍光抗体法など
IgG抗体ELISA法、中和試験など

臨床診断と確定診断

ムンプスの診断には、臨床症状とウイルス学的検査、血清学的検査を組み合わせて総合的に判断します。

臨床症状が典型的な際は、臨床診断のみで治療を開始することもありますが、確定診断には検査結果が必要で、特に合併症が疑われる際は、積極的に検査を行います。

流行性耳下腺炎の治療法と処方薬、治療期間

流行性耳下腺炎の治療は、主に症状をやわらげる対症療法が中心です。

重い合併症がなければ、体を休め、しっかりと水分を取り、熱や痛みを抑える薬を使うことが基本的な治療法とされています。

対症療法の内容

対症療法で行われること

治療内容詳細
安静患者さんは無理をせず、体を休めること
水分補給熱で体の水分が失われるので、たくさん水分を取ること
解熱鎮痛剤熱や痛みを和らげるため、アセトアミノフェンなどの薬を使うこと

抗ウイルス薬の使用

重症化しやすい患者さんや合併症が現れた患者さんには、抗ウイルス薬を使うことも検討されます。

  • おたふくかぜが原因の脳炎や精巣炎など重い合併症が疑われるとき
  • 免疫力が低下している患者さんやご高齢の患者さんなど重症化しやすい方の場合

抗ウイルス薬は、リバビリンやイノシンプラノベクスなどです。

薬の名前使い方使う期間
リバビリン口から飲む5日から7日間
イノシンプラノベクス口から飲む7日から14日間

治療期間と経過観察

おたふくかぜの治療期間は、だいたい7日から10日くらいです。

熱や耳の下のはれは、病気が始まって3、4日目に一番ひどくなり、そのあとゆっくり良くなっていきます。

治療が終わったあとも、次ことに気をつけて経過を見ていくことが大切です。

  • 合併症が起きていないか確認すること
  • だ液の出る機能が回復しているか確認すること
  • 再発していないか確認すること

予後と再発可能性および予防

流行性耳下腺炎は治療により予後は良好ですが、再発の可能性があり、ワクチンの接種が推奨されます。

予後

ムンプスは自然治癒することが多く、多くの患者さんは合併症なく回復します。

治療は対症療法が中心です。安静と十分な水分補給、解熱鎮痛薬の使用などが行われ、通常、発症から1〜2週間程度で症状は改善します。

予後概要
良好多くの患者は合併症なく回復
不良合併症を発症した場合、後遺症のリスクあり

再発

ムンプスは一度感染すると終生免疫を獲得すると考えられていますが、まれに再発することも。

再発の原因は十分に解明されておらず、免疫力の低下や変異ウイルスの感染などが関与している可能性があります。

再発した際でも、初回感染時と同様の経過をたどることが多いです。

再発リスク概要
低い終生免疫を獲得するため、再発は稀
高い免疫力の低下や変異ウイルスの感染で再発の可能性あり

予防

ムンプスの予防には、ワクチン接種が最も有効です。

日本では、麻疹風疹混合(MR)ワクチンにムンプスワクチンが含まれており、1歳以上の子どもに2回の接種が推奨されています。

ワクチンを接種することで、ムンプスの発症を予防したり、症状を軽減したりすることが可能です。

  • 1回目:1歳児
  • 2回目:小学校入学前の1年間(5〜6歳)

集団感染の予防

ムンプスは感染力が強いため、集団生活の場では注意が必要です。

以下の対策を講じることで、集団感染のリスクを下げられます。

  • 発症者の隔離
  • 手洗いや咳エチケットの徹底
  • ワクチン接種の推奨
  • 感染拡大時の一時休校の検討

流行性耳下腺炎の治療における副作用やリスク

流行性耳下腺炎の治療は、主に対症療法が中心になりますが、副作用やリスクについても考慮しなければなりません。

抗ウイルス薬の副作用

抗ウイルス薬は、重症例や合併症リスクが高い患者さんに使われる場合があります。

抗ウイルス薬の副作用は、消化器症状や皮疹などです。

副作用頻度
消化器症状10-20%
皮疹1-5%

ステロイド薬の副作用

ステロイド薬は、耳下腺の腫れや痛みがひどい時に使われることもありますが、長期間使用すると副作用のリスクが伴います。

ステロイド薬を長期間使用した際の副作用

  • 骨粗鬆症
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 感染症リスクの増加

鎮痛薬の副作用

流行性耳下腺炎による痛みに対して処方される鎮痛薬は、胃腸の障害や肝臓の機能障害などの副作用を起こす可能性があります。

副作用頻度
胃腸障害10-30%
肝機能障害1-5%

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

流行性耳下腺炎の治療を受けると、初診料や検査費、処置費などを含めて数万円程度の費用がかかります。

初診料と再診料

初診料は2,820円、再診料は720円が基本料金ですが、休日や時間外の受診では加算されるため、より高額になる場合があります。

検査費と処置費

流行性耳下腺炎の診断には血液検査が必要で、5,000円程度かかり、 また、症状に応じて点滴や投薬などの処置が行われ、これらの費用も別途発生します。

検査名費用目安
血液検査5,000円
尿検査1,500円

入院費

重症化すると入院治療が必要になることがあり、その際は1日あたり1万円以上の費用がかかり、個室を利用するとさらに高額になります。

入院種別費用目安
一般病棟1万円/日
個室3万円/日

以上

References

Hviid A, Rubin S, Mühlemann K. Mumps. The Lancet. 2008 Mar 15;371(9616):932-44.

Galazka AM, Robertson SE, Kraigher A. Mumps and mumps vaccine: a global review. Bulletin of the World Health Organization. 1999;77(1):3.

Rubin S, Eckhaus M, Rennick LJ, Bamford CG, Duprex WP. Molecular biology, pathogenesis and pathology of mumps virus. The Journal of pathology. 2015 Jan;235(2):242-52.

Dayan GH, Quinlisk MP, Parker AA, Barskey AE, Harris ML, Schwartz JM, Hunt K, Finley CG, Leschinsky DP, O’Keefe AL, Clayton J. Recent resurgence of mumps in the United States. New England Journal of Medicine. 2008 Apr 10;358(15):1580-9.

Johnson CD, Goodpasture EW. An investigation of the etiology of mumps. The Journal of experimental medicine. 1934 Jan 1;59(1):1.

Plotkin SA, Rubin SA. Mumps vaccine. Vaccines. 2008 Jan 1;5:435-65.

Lambert B. The frequency of mumps and of mumps orchitis. Acta Genet Stat Med. 1951;2(Suppl 1):1-66.

Leinikki P. Mumps. Principles and practice of clinical virology. 1999 Oct 28:419-26.

Rubin SA, Carbone KM. Mumps virus. InClinical neurovirology 2003 Aug 29 (pp. 450-465). CRC Press.

Mühlemann K. The molecular epidemiology of mumps virus. Infection, Genetics and Evolution. 2004 Sep 1;4(3):215-9.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。