インフルエンザ(influenza)とは、インフルエンザウイルスが原因で発症する急性の呼吸器感染症です。
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の3種類があり、中でもA型とB型が流行の主な原因となっています。
さらにA型インフルエンザウイルスは表面のたんぱく質の違いによって多くの亜型に分類され、流行株は年ごとに変化する傾向にあります。
インフルエンザの特徴的な症状は、発熱や頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身症状に加えて、のどの痛みや鼻水、咳などの呼吸器症状です。
多くの場合、症状は約1週間で改善に向かいますが、高齢者や基礎疾患を抱えている方では重症化するリスクが高くなります。
インフルエンザの種類(病型)
インフルエンザウイルスは、A型、B型、C型の3種類に分類され、各型のウイルスには、それぞれ異なる特徴や病型があります。
このうち、季節性インフルエンザの原因となるのはA型とB型です。
A型インフルエンザの主な亜型と病型
A型インフルエンザウイルスは、H1N1、H3N2、H5N1、H7N9などさまざまな亜型に分けられ、ウイルス表面のヘマグルチニン(H)とノイラミニダーゼ(N)の組み合わせによって区別されます。
A型は変異しやすく、新しい亜型が出現することで、大流行(パンデミック)を引き起こす可能性があります。
亜型 | 病型・特徴 |
H1N1 | – スペインかぜ(1918年)、新型インフルエンザ(2009年)として大流行<br>- 重症化リスクが高く、若年層にも影響 |
H2N2 | – アジアかぜ(1957年)として大流行<br>- 高齢者や基礎疾患のある人で重症化しやすい |
H3N2 | – 香港かぜ(1968年)として大流行<br>- 高齢者に重症化しやすい傾向 |
H5N1 | – 鳥インフルエンザ(1997年~)<br>- ヒトへの感染は限定的だが、致死率が高い |
H7N9 | – 中国で発生(2013年~)<br>- ヒトへの感染例が報告され、重症化のリスクあり |
B型のインフルエンザの病型と特徴
B型インフルエンザウイルスは、A型ほど大きな変異は起こさないものの、季節性インフルエンザの原因です。
ビクトリア系統とヤマガタ系統の2つの系統に分けられ、それぞれの系統で流行が見られます。 B型は、子供や青年層に感染しやすい傾向があります。
B型インフルエンザ
- 季節性インフルエンザの原因の一つ
- ビクトリア系統とヤマガタ系統に分けられ、交互に流行
- 子供や青年層に感染しやすい
- 重症化のリスクはA型よりも低い
C型のインフルエンザの病型と特徴
C型インフルエンザウイルスは、A型やB型と比べて症状が軽く、局所的な流行にとどまることが多いです。
感染例は少なく、主に乳幼児や子供に見られます。 C型による重症化はまれであり、合併症のリスクも低いです。
C型インフルエンザ
- 症状は比較的軽く、重症化はまれ
- 乳幼児や子供に感染が見られることが多い
- 局所的な流行にとどまり、大流行は起こしにくい
- 合併症のリスクは低い
インフルエンザの主な症状
インフルエンザは、突然の高熱、強い倦怠感、筋肉痛、頭痛などの全身症状と、咳、鼻水、喉の痛みといった呼吸器症状を特徴とするウイルス感染症です。
症状の程度は人によってさまざまで、軽症から重症まで幅広く見られます。
急性期の症状
インフルエンザの急性期に現れる症状
症状 | 特徴 |
発熱 | 38℃以上の高熱が突然出現し、数日間続く |
全身倦怠感 | 強い疲労感や脱力感を伴う |
筋肉痛 | 体のあちこちの筋肉が痛む |
頭痛 | 頭全体が痛むことが多い |
全身症状は、インフルエンザウイルスが体内で増殖し、免疫系が活性化されることで引き起こされ、症状の強さは、ウイルスの種類や量、個人の免疫状態などによって異なります。
呼吸器症状
インフルエンザでは、全身症状と同時に呼吸器症状も現れます。
- 咳: 乾いた咳が出ることが多い
- 鼻水: 水っぽい鼻水が出る
- 喉の痛み: 喉が赤く腫れ、痛みを伴う
これらの症状は、ウイルスが気道で増殖し、炎症を引き起こすことで生じ、咳や鼻水は、ウイルスを体外に排出するための生体防御反応でもあります。
症状の経過
インフルエンザの症状の経過
時期 | 症状の変化 |
発症初期 | 高熱、全身症状が先行して現れる |
発症後1~2日 | 呼吸器症状が加わり、症状がピークに達する |
発症後3~5日 | 解熱傾向となり、全身症状が改善し始める |
発症後1週間前後 | 咳や倦怠感が残るが、徐々に回復する |
ただし、実際には個人差が大きく、 特に、高齢者や基礎疾患のある人では、重症化のリスクが高くなります。
インフルエンザの原因・感染経路
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる急性の呼吸器感染症で、主に飛沫感染と接触感染を介して拡散します。
インフルエンザウイルスの感染経路
インフルエンザウイルスの主要な感染経路
- 飛沫感染:感染者の咳やくしゃみ、会話などで生じる飛沫に含まれるウイルスを、他の人が吸い込むことによって感染します。
- 接触感染:ウイルスが付着した手や物品を介して、粘膜(鼻、口、目など)から感染します。
感染経路 | 感染の仕組み |
飛沫感染 | 飛沫に含まれるウイルスの吸い込み |
接触感染 | ウイルスが付着した手や物品からの粘膜感染 |
インフルエンザウイルスの感染力は非常に強く、密閉された空間や人混みでは急速に感染が広がる傾向にあります。
潜伏期間は通常1~4日ほどですが、この期間中も感染を拡げる可能性があるため、注意が必要です。
インフルエンザウイルスの変異と流行
A型インフルエンザウイルスは、HA遺伝子とNA遺伝子の変異により抗原性が大きく変化する抗原シフトを起こすことがあります。
この抗原シフトが発生した場合、多くの人が免疫を獲得していないため、世界的な大流行(パンデミック)に発展する危険性も。
- スペインかぜ(1918年):H1N1亜型
- アジアかぜ(1957年):H2N2亜型
- 香港かぜ(1968年):H3N2亜型
- 新型インフルエンザ(2009年):H1N1亜型
他方、B型インフルエンザウイルスは抗原シフトを起こさないものの、徐々に変異を蓄積する抗原ドリフトによって、流行株が変化していきます。
ウイルス型 | 抗原変化の特徴 |
A型 | 抗原シフトと抗原ドリフトを起こす |
B型 | 抗原ドリフトのみを起こす |
動物からヒトへの感染
A型インフルエンザウイルスの本来の自然宿主は水禽類ですが、まれにブタやヒトにも感染することがあります。
とりわけブタは、ヒトと水禽類のインフルエンザウイルスの両方に感染しやすいです。
その結果、新しい亜型のインフルエンザウイルスが誕生する「混合容器」の役割を担います。
こうして誕生した新しい亜型のインフルエンザウイルスがヒトからヒトへの感染が起きると、新型インフルエンザとしてパンデミックを引き起ことに。
診察(検査)と診断
インフルエンザの診察では、臨床診断と確定診断が用いられます。
臨床診断の方法
臨床診断とは、患者さんの症状や身体所見、流行状況などから総合的に判断する方法のことです。
インフルエンザの典型的な症状としては、急激な発熱、倦怠感、筋肉痛、頭痛などが挙げられます。
症状 | 発現頻度 |
発熱 | 90%以上 |
倦怠感 | 80%以上 |
筋肉痛 | 60%以上 |
頭痛 | 50%以上 |
また、流行期においては、これらの症状がみられた際に、インフルエンザである可能性が高いと判断されます。
確定診断の方法
確定診断は、ウイルス学的検査により行われます。
インフルエンザウイルスの検出法
- 迅速診断キット
- ウイルス分離・同定
- PCR法
迅速診断キットについて
迅速診断キットは、鼻咽頭拭い液を用いて、短時間でインフルエンザウイルス抗原を検出する方法です。
感度は70~90%程度ではありますが、特異度は高く、陽性の場合はインフルエンザと診断できます。
キットの種類 | 検出可能なウイルス |
タイプA | インフルエンザA型 |
タイプB | インフルエンザB型 |
タイプA+B | インフルエンザA型とB型の両方 |
ウイルス分離・同定とPCR法について
ウイルス分離・同定は、ウイルスを分離培養し、同定する方法です。
PCR法は、ウイルスの遺伝子を増幅して検出する方法であり、高い感度と特異度を有しています。
ただし、これらの検査は時間と専門の設備を要するため、通常の診療では行われません。
インフルエンザの治療法と処方薬、治療期間
インフルエンザは、医師の診察を受け、抗インフルエンザ薬の処方を受けることが治療の中心になります。
抗インフルエンザ薬の種類
抗インフルエンザ薬にはいくつかの種類があります。
代表的なものは、オセルタミビル(商品名:タミフル)、ザナミビル(商品名:リレンザ)、ペラミビル(商品名:ラピアクタ)です。
これらの薬剤は、ウイルスの増殖を抑制することで症状の改善を促します。
薬剤名 | 商品名 |
オセルタミビル | タミフル |
ザナミビル | リレンザ |
ペラミビル | ラピアクタ |
抗インフルエンザ薬の服用方法
抗インフルエンザ薬は、感染初期の服用が効果的です。 発症から48時間以内の服用開始が理想的ですが、遅れた際も服用する意義はあります。
オセルタミビルは1日2回5日間、ザナミビルは1日2回5日間の吸入、ペラミビルは単回点滴投与といった服用方法が一般的です。
その他の治療法
抗インフルエンザ薬の服用と並行して、対症療法を行うことも大切です。
- 十分な休養をとる
- 水分を十分に摂取する
- 解熱鎮痛剤を使用する
- 咳止めや鼻炎用の薬を使用する
対症療法を行うことで、より早い回復が見込めます。
治療期間と注意点
抗インフルエンザ薬の服用により、通常は5日から7日程度で症状が改善に向かいますが、完全に回復するまでには1週間から10日程度要することもあります。
項目 | 期間 |
症状改善 | 5~7日程度 |
完全回復 | 1週間~10日程度 |
また、感染力が残っている可能性があるため、解熱後も1〜2日は自宅療養が必要です。
体調を見極めながら、徐々に通常の生活に戻ってください。
予後と再発可能性および予防
インフルエンザの治療後の経過は一般的に良好で、再発の危険性は低いですが、予防法を実施することが大切です。
インフルエンザの治療後の経過
インフルエンザの治療後、多くの患者さんは数日から1週間程度で回復し、合併症がなければ、後遺症なく治癒します。
抗ウイルス薬の効果と経過の関係
抗ウイルス薬の使用 | 経過 |
あり | 良好 |
なし | 比較的良好 |
再発の危険性と予防の重要性
インフルエンザは一度罹患しても、同じシーズン内に再発する可能性もあります。
再発予防のために有効な措置
- ワクチン接種
- 手洗いやマスク着用などの感染予防策の徹底
- 十分な休養とバランスの取れた食事
ハイリスクグループにおける経過と予防の重要性
高齢者、基礎疾患を有する方、妊婦などのハイリスクグループでは、重症化の危険性が高いため、これらのグループでは特に予防と早期治療が重要です。
ハイリスクグループにおける経過と予防の関係
予防措置の実施 | 重症化リスク |
十分 | 低い |
不十分 | 高い |
インフルエンザの治療における副作用やリスク
インフルエンザの治療に用いられる薬には、副作用やリスクがあります。
抗ウイルス薬の副作用
抗ウイルス薬は、インフルエンザの治療にたくさん使われている薬です。
ウイルスが増えるのを抑え、症状をやわらげたり回復までの時間を短くしたりする効果がありますが、副作用の報告もあります。
副作用 | 症状 |
消化器症状 | 悪心、嘔吐、下痢 |
神経系症状 | 頭痛、めまい、不眠 |
副作用は普通は軽いもので、治療を止める必要はありませんが、ひどい時は医師に相談してください。
薬剤耐性の問題
抗ウイルス薬を長く飲み続けることは、耐性ウイルスが出てくるリスクを高めてしまいます。
薬に耐性のあるウイルスが広がってしまうと、治療の選択肢が少なくなってしまう恐れがあります。
抗ウイルス薬に関する注意点
- 必要な時だけ抗ウイルス薬を使うこと
- お医者さんの指示通りに適切な量と期間で飲むこと
- 処方してもらったお薬は最後まで飲み、自分の判断で止めないこと
合併症のリスク
インフルエンザは、特にリスクの高い人では重い合併症を起こすことがあります。
合併症 | 高リスク群 |
肺炎 | 高齢者、慢性呼吸器疾患患者 |
脳症 | 乳幼児、免疫抑制状態の患者 |
合併症を防いだり早く見つけるためには、治療と経過観察が必須です。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
インフルエンザの治療には、初診料や検査費用、薬代などを合わせると、数万円程度の費用がかかります。
初診料と再診料
インフルエンザの診察を受ける際、初診の場合は初診料が、再診の場合は再診料が必要です。
診察種類 | 費用 |
初診 | 2,820円~3,900円 |
再診 | 720円~1,800円 |
検査費用
インフルエンザの確定診断のために、インフルエンザ迅速検査が行われます。
検査項目 | 費用 |
インフルエンザ迅速検査 | 3,000円~6,000円 |
その他の検査 | 2,000円~10,000円 |
投薬料
インフルエンザの治療には、抗インフルエンザ薬が処方され、約3,000円から6,000円程度かかります。
入院費
インフルエンザが重症化した場合、入院治療が必要になることがあります。入院費は1日あたり約1万円から3万円程度です。
ただし、公的医療保険の適用や高額療養費制度の利用によって、自己負担額を抑えられます。
以上
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