心アミロイドーシス(Cardiac amyloidosis)とは、アミロイドという異常タンパク質が心筋組織へ沈着し、心臓の機能が低下してしまう病気です。
初期症状は息切れや倦怠感など非特異的な症状が多いため、診断するのが難しい病気だと言えます。
心アミロイドーシスの病状が進行した場合、心不全や不整脈などの重篤な合併症を引き起こす場合もあり、一般的に予後不良の疾患です。
心アミロイドーシスの種類(病型)
心アミロイドーシスは、ALアミロイドーシスとATTRアミロイドーシスの2つに大別され、原因となるタンパク質や発症年齢などの特徴が異なります。
ALアミロイドーシス
ALアミロイドーシスの原因は、形質細胞のがん化により異常なタンパク質が産生されることです。
多くの場合50〜60歳代で発症し、比較的急速に進行するのが特徴的です。
特徴 | 詳細 |
原因 | 形質細胞の異常 |
発症年齢 | 50〜60歳代が多い |
進行速度 | 比較的急速 |
ATTRアミロイドーシス
ATTRアミロイドーシスは、遺伝性と野生型の2種類に分類されます。
遺伝性ATTRアミロイドーシスはトランスサイレチン遺伝子の変異が原因で30〜50歳代での発症が多いのが特徴です。
野生型ATTRアミロイドーシスは、加齢に伴うトランスサイレチンタンパク質の構造変化により発症し、主に70歳以上の高齢者に見られます。
種類 | 原因 | 発症年齢 |
遺伝性 | トランスサイレチン遺伝子の変異 | 30〜50歳代 |
野生型 | 加齢に伴うトランスサイレチンの構造変化 | 70歳以上 |
心アミロイドーシスの主な症状
心アミロイドーシスでは、心不全症状や不整脈、失神、胸痛など、さまざまな心臓症状を示します。
病型による臨床症状の違い
ALアミロイドーシスでは、以下のような症状が多く見られます。
- 急速な心機能低下
- 全身の浮腫
- 腎機能障害
一方、ATTRアミロイドーシスの場合、心機能低下の進行は比較的緩やかで、末梢神経障害や自律神経障害を併発するケースがあります。
心不全症状
アミロイドの蓄積により心臓の拡張機能が低下し、心不全症状を示します。
具体的には、息切れ、体重増加、下腿浮腫などが挙げられます。
これらの症状は、心臓の機能低下により体内の水分が貯留することで生じます。
症状 | 詳細 |
息切れ | 安静時や軽労作時に呼吸困難を感じる |
体重増加 | 急激な体重増加が見られる |
下腿浮腫 | 足のむくみが生じる |
息切れは心不全症状の中でも特に頻度が高い症状の一つで、心アミロイドーシス患者の多くが日常生活の中で息切れを経験します。
体重増加や下腿浮腫も心不全の典型的な症状であり、これらの症状が見られた際には心アミロイドーシスの可能性を疑う必要があります。
不整脈
- 心房細動
- 心室性期外収縮
- 心室頻拍
- 房室ブロック
心アミロイドーシスでは不整脈が高頻度に認められ、特に心房細動や心室性不整脈の発症リスクが高いとされています。
不整脈が生じる機序としては、アミロイドの蓄積による心臓の刺激伝導系の障害が理由です。
心房細動
心房細動は心アミロイドーシス患者の約半数に認められるとされており、最も頻度の高い不整脈の一つです。
心房細動が生じると、動悸や息切れ、胸部不快感などの症状を示します。また、心房細動は脳梗塞のリスク因子でもあります。
心室性不整脈
心室性不整脈も、心アミロイドーシス患者でしばしば認められます。
心室性期外収縮や心室頻拍などが代表的な不整脈であり、これらの不整脈が頻発する際には、失神や心停止のリスクが高まります。
不整脈の種類 | 頻度 |
心房細動 | 約50% |
心室性期外収縮 | 約30% |
心室頻拍 | 約10% |
房室ブロック | 約5% |
失神
失神の原因としては、心室性不整脈や房室ブロックなどが挙げられます。
これらの不整脈により一時的に心拍出量が低下し、脳への血流が減少するため意識消失に至ると考えられています。
胸痛
胸痛の原因としては、心筋虚血や心膜炎などがあります。アミロイドの蓄積により冠動脈の血流が低下し、心筋虚血を来たします。
また、アミロイドの蓄積により心膜が肥厚し炎症を生じさせて胸痛を来たす場合もあります。
心アミロイドーシスの原因
アミロイドと呼ばれる、タンパク質の異常凝集・心臓への蓄積が心アミロイドーシス発症の主な原因です。
アミロイドとは
アミロイドは本来可溶性のタンパク質が、何らかの原因で異常な構造変化を起こし、不溶性の線維状凝集体を形成したものを指します。
通常、体内のタンパク質は適切に折りたたまれた状態で機能を果たしますが、正常な立体構造が崩れるとアミロイドを形成する可能性があるのです。
アミロイドの種類 | 前駆体タンパク質 |
ALアミロイド | 免疫グロブリン軽鎖 |
ATTRアミロイド | トランスサイレチン |
アミロイドの心臓への沈着と心機能への影響
心臓に沈着したアミロイドは心筋細胞間の空間を埋めてしまい、心筋の伸縮性や電気的な伝導性を低下させてしまいます。
その結果、心臓のポンプ機能が低下し、心不全や不整脈などの症状が引き起こされるのです。
さらに、アミロイドの沈着は冠微小循環を障害し、心筋の虚血を引き起こす可能性もあります。
これにより心筋のエネルギー代謝が阻害され、心機能のさらなる低下につながります。
- 心筋の伸縮性低下
- 心臓の電気的伝導性低下
- 冠微小循環障害
- 心筋エネルギー代謝の阻害
アミロイド沈着による影響 | 心機能への作用 |
心筋の硬化・肥厚 | 拡張障害 |
心筋細胞間の電気伝導障害 | 不整脈 |
アミロイドーシス発症の背景因子
アミロイドーシスの発症には以下のような背景因子が関与していると考えられています。
- 遺伝的要因
- 家族性ATTRアミロイドーシスの場合、トランスサイレチン遺伝子の変異が原因となります。
- 加齢
- 野生型ATTRアミロイドーシスは加齢に伴うトランスサイレチンの構造変化が原因で発症します。
- 炎症
- 慢性的な炎症状態がアミロイド形成を促進する可能性があります。
- 酸化ストレス
- 酸化ストレスによるタンパク質の変性がアミロイド形成の一因となり得ます。
診察(検査)と診断
心アミロイドーシスの診察では、身体所見、心電図、心エコー検査、血液検査、心臓MRI検査などを行い、検査結果を総合的に判断します。
身体所見と心電図検査
心アミロイドーシスの身体所見では、下腿浮腫、頸静脈怒張、肝腫大などの右心不全の徴候がみられます。
心電図検査の所見では、低電位差、偽性心筋梗塞パターン、不整脈などが特徴です。
心エコー検査・心臓MRI検査
心エコー検査では、左室壁の肥厚、拡張障害、心室内腔の狭小化などの所見がみられます。
心臓MRI検査では、ガドリニウム遅延造影により心筋の瀰漫性の遅延造影像が認められます。
検査方法 | 特徴的所見 |
心エコー検査 | 左室壁の肥厚、拡張障害、心室内腔の狭小化 |
心臓MRI検査 | 心筋の瀰漫性の遅延造影像 |
血液検査と異常蛋白の検出
心アミロイドーシスの血液検査では、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やトロポニンTの上昇がみられます。
確定診断には、血液や尿中の異常蛋白(アミロイド蛋白)の検出が重要です。
アミロイド蛋白の種類の同定により、原発性(AL型)や続発性(AA型、ATTRm型、ATTRwt型など)の鑑別が可能となります。
- BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)
- トロポニンT
- 血清フリーライトチェーン(AL型の場合)
- トランスサイレチン(ATTR型の場合)
心筋生検による確定診断
心アミロイドーシスの確定診断には、心筋生検が必要です。
心筋生検ではアミロイド沈着の有無を確認し、Congo red染色により緑色偏光を呈することを確認します。
電子顕微鏡による観察ではアミロイド線維の特徴的な構造が認められ、免疫染色や質量分析によりアミロイド蛋白の種類を同定することが可能です。
心アミロイドーシスの治療法と処方薬、治療期間
心アミロイドーシスの治療は、原因疾患への対処と心不全や不整脈などの合併症管理を両軸として進めます。
原因となる基礎疾患の治療
心アミロイドーシスを引き起こす基礎疾患ごとに、治療方針が異なります。
ALアミロイドーシスでは、化学療法や自家末梢血幹細胞移植が選択されるケースがあります。
治療法 | 詳細 |
化学療法 | メルファラン、デキサメタゾンなどの薬剤を用いて、アミロイド前駆蛋白の産生を抑制 |
自家末梢血幹細胞移植 | 大量化学療法で骨髄を破壊した後、あらかじめ採取しておいた末梢血幹細胞を戻す |
ATTRアミロイドーシスでは、肝移植や新規薬物療法が治療選択肢となります。
治療法 | 詳細 |
肝移植 | 変異トランスサイレチンの主な産生臓器である肝臓を移植 |
新しい薬物療法 | トランスサイレチンの四量体安定化薬(タファミジス)やRNAi療法(パチシラン)などが使用可能 |
心不全の管理
心アミロイドーシスに伴う心不全の管理として、以下のような治療が実施されます。
ただし、心アミロイドーシスの場合は一般的な心不全治療で用いられるβ遮断薬やACE阻害薬が有効でない場合や、忍容性が低いケースもあるため注意が必要です。
不整脈の管理
心アミロイドーシスは致死性不整脈のリスクが高いため、慎重な不整脈管理が求められます。
- ペースメーカー:徐脈性不整脈に対して適応
- 植込み型除細動器(ICD):心室頻拍や心室細動などの致死性不整脈のリスクが高い場合に適応
治療期間
心アミロイドーシスの治療は、生涯にわたる継続が必要です。
予後と再発可能性および予防
心アミロイドーシスは進行性の疾患であり、治療を行わない場合では予後は非常に悪いとされています。
しかし、近年の治療法の進歩により、早期発見と早期治療により予後の改善が期待できるようになりました。
未治療の場合の平均生存期間
病型 | 未治療の場合の平均生存期間 |
---|---|
AL(原発性) | 6ヶ月 |
ATTRm(遺伝性) | 2.5年(Val30Met) |
ATTRwt(野生型) | 3.5年 |
予後を左右する因子
因子 | 詳細 |
診断時の病期 | 早期発見・早期治療が予後改善に重要 |
原因たんぱく質の種類 | ALアミロイドーシスは予後不良 |
心機能障害の程度 | 心機能が低下するほど予後不良 |
治療への反応性 | 治療に良好な反応を示すほど予後良好 |
治療により生存期間の延長が期待され、中には長期生存ができる患者さんもいます。
反対に、診断が遅れたケースや心機能障害が高度なケースでは、治療を行っても予後不良であることが多いのが実情です。
再発の可能性と予防
再発予防のポイント | 内容 |
原疾患のコントロール | 多発性骨髄腫やALアミロイドーシスの再発予防が重要 |
定期的な経過観察 | 心機能や血液検査などで再発の早期発見に努める |
心アミロイドーシスの再発については十分なエビデンスがない状況ですが、原疾患である多発性骨髄腫やALアミロイドーシスが再発すると、心アミロイドーシスの再発リスクが高まると考えられています。
そのため、原疾患の再発を防ぎ、定期的な経過観察が心アミロイドーシスの再発予防に欠かせません。
心アミロイドーシスの治療における副作用やリスク
心アミロイドーシスの治療を行う際には、副作用やリスクが伴います。
心不全治療薬の副作用
心不全治療薬は心機能の低下を改善するために用いられますが、副作用として低血圧、徐脈、電解質異常などが起こるおそれがあります。
副作用 | 症状 |
低血圧 | めまい、ふらつき、失神 |
徐脈 | 動悸、息切れ、めまい |
電解質異常 | 筋肉痛、筋力低下、不整脈 |
化学療法の副作用
化学療法はアミロイド前駆蛋白の産生を抑制するために用いられます。副作用として骨髄抑制、消化器症状、末梢神経障害などが起こる可能性があります。
副作用 | 症状 |
骨髄抑制 | 貧血、感染症、出血傾向 |
消化器症状 | 悪心、嘔吐、食欲不振 |
末梢神経障害 | 手足のしびれ、痛み、筋力低下 |
臓器移植の合併症
心臓移植や肝臓移植は重度の臓器障害に対して行われますが、合併症として感染症、拒絶反応、移植片対宿主病などが起こるリスクがあります。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
心アミロイドーシスを治療するには高額な費用が必要です。
初期段階で発見し、速やかな治療開始が非常に大切であり、 継続的な検査と治療が欠かせません。
検査費
検査名 | 費用目安 |
心エコー検査 | 8,000円~9,000円程度 |
心臓MRI検査 | 35,000円程度 |
さらに、核医学検査を実施する際は10万円以上の費用がかかることも珍しくありません。
処置費・入院費
一般的に入院費は1日あたり1万円前後ですが、 実施する処置の内容次第ではさらに費用が上乗せされるケースもあります。
処置名 | 費用目安 |
薬物療法 | 10,000円/月~ |
ペースメーカー埋め込み術 | 200万円程度 |
以上
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