心臓サルコイドーシス – 循環器の疾患

心臓サルコイドーシス(Cardiac sarcoidosis)は、全身性の炎症性疾患であるサルコイドーシスによって心臓の心筋に炎症が生じる病気です。

サルコイドーシスは原因不明の難病であり、心臓以外にも肺、眼、皮膚など全身のさまざまな臓器に影響を及ぼします。

心臓サルコイドーシスでは心筋の炎症が原因となり、不整脈、心不全、心筋症などさまざまな心臓の症状を引き起こします。

初期の段階では無症状であるケースも多いため、定期的な検査を受けて早期発見につなげることが大切です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

心臓サルコイドーシスの種類(病型)

心臓サルコイドーシスは、サルコイドーシスの中でも心臓に病変が生じる特殊なタイプであり、その種類によって診断基準や特徴が異なります。

病型概要
心臓組織診断群心筋に肉芽腫が証明される
他臓器組織診断群他臓器の肉芽腫と心臓所見で診断
他臓器臨床診断群臨床的にサルコイドーシスと診断され心臓症状あり
心臓限局性サルコイドーシス群心臓のみにサルコイドーシスが発生

心臓組織診断群

心臓組織診断群は、心筋生検などで心筋に肉芽腫が直接証明されたものを指します。 心臓サルコイドーシスの確定診断となる病型です。

他臓器組織診断群

他臓器組織診断群は、心筋以外の臓器で肉芽腫が証明されており、さらに心電図異常や心エコー異常、心筋シンチグラフィでの集積亢進など、心臓病変を強く示唆する所見を満たすものを指します。

心筋生検で肉芽腫が証明されていなくても、他臓器の肉芽腫と心臓所見から総合的に診断されます。

他臓器臨床診断群

他臓器臨床診断群は、いずれの臓器でも肉芽腫が証明されていないものの、サルコイドーシスの臨床診断基準を満たし、かつ心臓病変を示唆する所見があるものを指します。

組織学的な裏付けはないものの、臨床的にサルコイドーシスと診断され、心臓症状を呈する病型と言えます。

心臓限局性サルコイドーシス群

心臓限局性サルコイドーシス群は、心臓以外の臓器にサルコイドーシスを疑う所見がなく、心臓限局性サルコイドーシスの診断基準を満たすものを指します。

心臓のみにサルコイドーシスが発生している稀な病型です。

診断には心筋生検や心臓MRIなどの詳細な検査が求められます。

心臓サルコイドーシスの主な症状

心臓サルコイドーシスの症状は非特異的で、他の心疾患と類似している場合が少なくありません。そのため、診断が困難なケースがあります。

動悸や胸痛、息切れなどの症状がある場合は、早期に医療機関を受診することが重要です。

動悸や胸痛

症状特徴
動悸突然の動悸発作や持続的な動悸を感じる
胸痛狭心痛に類似した胸部の痛みを自覚する

心臓サルコイドーシスの患者さんでよく見られるのが、動悸や胸痛の症状です。

これは、心筋の炎症や線維化によって心臓の機能が低下するためだと考えられています。

息切れや疲労感

  • 軽度の運動でも息切れを感じる
  • 日常生活での疲労感が強い
  • 安静時でも息切れを感じる

心臓サルコイドーシスでは、息切れや疲労感を感じる場合もあります。心機能の低下により、体に十分な血液が送られなくなることが原因です。

失神発作

心臓サルコイドーシスによる重症の不整脈が原因で、失神発作を起こす場合があります。

心不全症状

心臓サルコイドーシスが進行すると、心不全を発症する可能性があります。心不全では以下のような症状が現れます。

  • 息切れや呼吸困難が悪化
  • 安静時でも息苦しさを感じる
  • 体重が増加する
  • むくみが出現する

心臓サルコイドーシスの原因

心臓サルコイドーシスは原因不明の難病であり、その発症メカニズムには未解明な部分が多く残されています。

しかし近年の研究により、いくつか重要な原因が明らかになってきました。

自己免疫反応の関与

心臓サルコイドーシスの主な原因の一つとして、自己免疫反応の関与が考えられています。

体内の免疫システムが何らかの理由で心臓の組織を異物と認識し、攻撃を始めることで炎症が引き起こされるという説です。

この自己免疫反応が生じる詳しいメカニズムはまだ分かっていませんが、遺伝的な要因や環境因子が関与している可能性が指摘されています。

サルコイド結節の形成

心臓サルコイドーシスでは、心臓の組織内にサルコイド結節と呼ばれる肉芽腫性病変が形成されます。

このサルコイド結節が心臓の正常な機能を妨げ、不整脈や心不全などの症状を引き起こします。

サルコイド結節が形成される原因としては、以下のような説が有力です。

  • 活性化したマクロファージが集積し、肉芽腫を形成する
  • T細胞が過剰に反応し、炎症を引き起こす
  • サイトカインの異常な産生が組織の損傷を招く

これらの異常な免疫反応が複雑に絡み合い、サルコイド結節が形成されると考えられています。

全身性サルコイドーシスとの関連

心臓サルコイドーシスは、全身性サルコイドーシスの一部分症として発症するケースが多いです。

全身性サルコイドーシスは、肺や眼、皮膚など全身の様々な臓器に肉芽腫性病変を形成する疾患であり、その原因も十分に解明されていません。

全身性サルコイドーシスの好発部位
  • 皮膚
  • リンパ節

診察(検査)と診断

心臓サルコイドーシスと確実な診断を下すためには、心筋組織を採取して顕微鏡で調べる心筋生検が必要です。

ただし、体への負担が大きい検査なので、まずは負担の少ない検査を行います。

臨床所見・検査

心臓サルコイドーシスの臨床所見(不整脈、伝導障害、心不全症状など)がある場合、心電図、心エコー、心臓MRI、ガリウムシンチグラフィなどの検査を行います。

検査名目的
心電図不整脈や伝導障害の評価
心エコー心機能の評価

心臓MRIでは心筋の炎症や線維化を検出できます。また、ガリウムシンチグラフィでは、全身の炎症部位を検出できます。

臨床診断基準

心臓サルコイドーシスの臨床診断基準としては、以下のものがあります。

  • 不整脈や伝導障害などの臨床所見
  • 心電図異常
  • 心エコーや心臓MRIでの異常所見
  • ガリウムシンチグラフィでの集積亢進

これらの項目を組み合わせ、心臓サルコイドーシスを疑う場合には心筋生検を考慮します。

心筋生検

心筋生検は心臓サルコイドーシスの確定診断に必要な検査です。

右室または左室から心筋組織を採取し、顕微鏡で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の有無を確認します。

生検部位特徴
右室比較的安全に施行可能
左室心尖部からのアプローチが一般的

ただし、心筋生検は侵襲的であり合併症のリスクもあるため、適応を慎重に判断する必要があります。

心臓サルコイドーシスの治療法と処方薬、治療期間

心臓サルコイドーシスの治療の中心となるのはステロイド薬ですが、病状に応じて免疫抑制薬や不整脈治療も併用されます。

治療期間は患者さんごとに異なりますが、通常は長期的な管理が必要です。

ステロイド治療

心臓サルコイドーシスの第一選択薬はステロイド薬です。

プレドニゾロンを1日30~60mgから開始し、症状の改善に応じて徐々に減量していきます。

ステロイド治療により、心機能の改善や不整脈の抑制効果が期待できます。

ステロイド薬初期投与量
プレドニゾロン30~60mg/日
メチルプレドニゾロン500~1000mg/日(パルス療法)

免疫抑制薬の併用

ステロイド単独では十分な効果が得られない場合や、ステロイドの副作用が懸念される際には免疫抑制薬の併用が検討されます。

代表的な薬剤としてはメトトレキサートやアザチオプリンなどがあり、サルコイドーシスの炎症反応を抑制し、ステロイドが減量できる可能性があります。

不整脈治療

心臓サルコイドーシスでは心室性不整脈のリスクが高いため、β遮断薬やアミオダロンなどの抗不整脈薬が予防的に使用される場合があります。

重症な不整脈に対しては、カテーテルアブレーションや植込み型除細動器(ICD)の適応も検討されます。

抗不整脈薬用法・用量
ソタロール80~160mg/日
アミオダロン400mg/日(導入期)→200mg/日(維持期)

長期的な管理

心臓サルコイドーシスは慢性的な経過をたどる疾患であり、治療終了後も再燃のリスクがあります。

そのため、定期的な経過観察と治療の継続が重要です。 具体的には以下のような管理が推奨されます。

  • 定期的な心電図、心エコー検査による心機能評価
  • ホルター心電図による不整脈の監視
  • 血清ACE値などの炎症マーカーのモニタリング
  • ステロイド薬の漸減と再燃の有無の確認

予後と再発可能性および予防

心臓サルコイドーシスは、長期的な薬物治療・管理により、多くの患者さんで症状のコントロールと生命予後の改善が期待できます。

予後

治療抵抗性の症例や重症例も存在しますが、治療によって、心臓サルコイドーシス患者の5年生存率は60~90%程度まで改善できるとされています。

再発のリスクと予防

治療によって一旦は寛解しても、再発するケースも少なくありません。

治療後も約25〜40%の患者で再発が見られ、ステロイド治療を受けた患者の約30%で再発が確認されています。

再発のリスク因子
  • 若年発症(特に40歳未満)
  • 左室駆出率の低下
  • 心室性不整脈の存在
  • 心臓以外の臓器へのサルコイドーシスの浸潤
  • ステロイド治療の早期中止や急速な減量

特に、ステロイド薬の減量・中止時には再燃のリスクが高まります。

再発を防ぐためのポイント
  • 定期的な検査による経過観察を怠らない
  • ストレス管理と十分な休養をとる
  • バランスの取れた食事と適度な運動を心がける

心臓サルコイドーシスの治療における副作用やリスク

心臓サルコイドーシスの治療には、副作用やリスクが伴います。

ステロイド療法の副作用

ステロイド療法は心臓サルコイドーシスの治療の中心ですが、長期使用により、感染症のリスク増加、骨粗鬆症、糖尿病、高血圧、体重増加などの副作用が生じる可能性があります。

免疫抑制療法の副作用

免疫抑制剤の使用も、感染症のリスク増加、肝機能障害、腎機能障害、血球減少などの副作用を引き起こす場合があります。

  • 感染症のリスク増加
  • 肝機能障害
  • 腎機能障害
  • 血球減少

不整脈の合併症リスク

心臓サルコイドーシスでは不整脈が合併するケースがあり、突然死のリスクが高まります。

不整脈の種類リスク
心室頻拍突然死のリスクが高い
心房細動心不全や脳梗塞のリスクが高まる

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

心臓サルコイドーシスは、治療費が高額になる可能性が高い疾患です。

検査費の目安

心臓サルコイドーシスの診断や経過観察では、心電図、心エコー、心臓MRI、心筋生検など、複数の検査が必要です。

検査名金額
心電図1,500円
心エコー8,800円
心臓MRI33,000円
心筋生検100,000円以上

入院費

心臓サルコイドーシスが重症化すると、入院治療が必要になるケースがあります。

入院が必要な場合、1日あたり10,000円程度の入院費が発生します。また、個室を利用した場合は別途個室代がかかります。

以上

References

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