つつが虫病(tsutsugamushi disease)とは、ダニの一種であるツツガムシに刺されることにより発症する急性熱性感染症です。
ツツガムシに刺されると、2~10日の潜伏期間を経て高熱や頭痛、発疹などの症状が現れ、 重症化した際には、脳炎や心筋炎、肺炎などの合併症を引き起こすこともあります。
つつが虫病に感染するリスクが高まるのは、ツツガムシが生息している山林や草むらなどです。
つつが虫病の種類(病型)
つつが虫病は、古典型(高熱型)と非定型(軽症型)の2つの主要な病型に分類されます。
古典型は重症化のリスクが高く、治療が求められる一方、非定型は比較的軽症であることが多いです。
古典型(高熱型)の特徴
古典型(高熱型)は、つつが虫病の代表的な病型であり、高熱や全身の発疹、リンパ節腫脹などの症状が特徴的です。
症状 | 発現頻度 |
高熱 | 90%以上 |
全身の発疹 | 80%以上 |
リンパ節腫脹 | 70%以上 |
重症化した際には、多臓器不全などの合併症を引き起こすリスクがあるため、早期の診断と治療が求められます。
非定型(軽症型)の特徴
非定型(軽症型)は、古典型と比べて症状が軽微なことが多く、発熱や発疹などの典型的な症状を示さないこともあります。
- 発熱が軽度または無い
- 発疹が限局的または無い
- リンパ節腫脹が軽度または無い
病型の鑑別の重要性
つつが虫病の病型を正確に鑑別することは、治療方針を決定するうえで重要な意味を持ちます。
病型 | 治療方針 |
古典型 | 抗菌薬の投与と合併症の管理 |
非定型 | 症状に応じた対症療法 |
つつが虫病の主な症状
つつが虫病の症状は主に高熱、皮疹、リンパ節の腫れなどの症状です。
発熱
つつが虫病の初期症状は発熱で、39度以上の高熱が突然現れ、数日から1週間ほど続くことが多いです。
発熱期間 | 体温 |
1〜3日目 | 39〜40度 |
4〜7日目 | 38〜39度 |
熱型は、弛張熱や間欠熱を示すことが多く、頭痛や全身倦怠感を伴います。
皮疹
発熱後、数日して全身に皮疹が出現します。 皮疹は、直径1〜2cmの紅色の小紅斑が全身に散在性に現れるのが特徴です。
- 小紅斑
- 紅色の皮疹
- 全身に散在性に出現
皮疹は、数日から1週間ほど持続し、色素沈着を残して消退していきます。
リンパ節腫脹
つつが虫病では、皮疹が出現する部位のリンパ節が腫れることが多いです。 特に、鼠径部、腋窩、頸部などのリンパ節腫脹が顕著に見られます。
リンパ節腫脹部位 | 頻度 |
鼠径部 | 60〜70% |
腋窩 | 30〜40% |
リンパ節は、圧痛を伴って腫大し、周囲の皮膚が発赤することもあります。
その他の症状
つつが虫病では、上記の主要症状以外にも、眼球結膜の充血、咽頭痛、筋肉痛、関節痛などが見られることがあり、重症化すると肝機能障害や腎機能障害などの合併症を引き起こすこともあります。
つつが虫病の原因・感染経路
つつが虫病は、Orientia tsutsugamushiという細菌の感染が原因で発症する感染症です。
この細菌は、ツツガムシというダニの一種が媒介し、ツツガムシから人への感染により広がっていきます。
病原体について
Orientia tsutsugamushiは、グラム陰性の細胞内寄生性細菌です。 この細菌は、ツツガムシの体内で増殖し、ツツガムシから人へと感染します。
分類 | リケッチア科 |
属 | Orientia属 |
種 | Orientia tsutsugamushi |
媒介動物について
つつが虫病を媒介するのは、ツツガムシという小さなダニです。
ツツガムシの特徴
- 体長は0.2~0.4mm程度
- 幼虫のみが吸血し、寄生する
- 主に野ネズミなどの小動物に寄生する
感染経路について
つつが虫病の感染は、次のような経路で起こります。
- ツツガムシの幼虫が、病原体を保有する野ネズミなどに寄生し、吸血する際に病原体に感染する。
- 感染したツツガムシの幼虫が、人の皮膚に付着し、吸血する際に病原体を人体に注入する。
- 注入された病原体が、人の細胞内で増殖することで発症する。
感染源 | 感染経路 |
病原体保有動物 | ツツガムシ幼虫の吸血 |
ツツガムシ幼虫 | 人への直接的な吸血 |
リスクのある地域と時期
つつが虫病に感染するリスクが高い環境
- ツツガムシの生息地である、藪や下草の茂った場所
- 野ネズミなどのツツガムシの宿主となる動物が多く生息する地域
また、ツツガムシの活動が活発になる春から秋にかけて、特に感染リスクが高くなります。
診察(検査)と診断
つつが虫病の診断を行う際は、臨床症状と検査結果を総合的に判断します。
確定診断をするためには特異抗体の検出が必要不可欠ですが、発症してから日が浅いうちは抗体価がまだ十分に上昇していないことがあるので、臨床診断も必要です。
臨床診断の重要性
発症初期は特異抗体価が上昇していない場合があるため、特徴的な臨床症状からつつが虫病を疑うことが早期診断につながります。
臨床症状 | 頻度 |
発熱 | 90%以上 |
刺し口 | 70-80% |
全身倦怠感 | 60-70% |
確定診断に用いる検査
つつが虫病の確定診断に用いられる検査
- 血清学的検査(間接蛍光抗体法、免疫ペルオキシダーゼ法など)
- PCR法によるリケッチアDNAの検出
- 分離培養によるリケッチアの検出
検査のタイミング
検査方法 | 検査時期 |
血清学的検査 | 発症1-2週間後 |
PCR法 | 発症初期(1週間以内) |
分離培養 | 発症初期(1週間以内) |
発症からの経過日数によって、検査方法が異なるということを念頭に置いておく必要があります。
診断のポイント
つつが虫病の可能性がある患者さんを診察する際は、以下の点を確認します。
- 特徴的な臨床症状の有無を確認する
- 発症からの経過日数を聴取する
- 感染リスクのある地域への訪問歴を確認する
- 正しいタイミングで確定診断のための検査を行う
これらのことを考慮しながら、総合的な判断を行います。
つつが虫病の治療法と処方薬、治療期間
つつが虫病の治療は抗菌薬が基本であり、早期発見と早期治療が非常に大切です。
抗菌薬を使用することで、大半の場合は数日から2週間ほどで治癒します。
主な治療薬
抗菌薬 | 投与方法 |
ミノサイクリン | 経口 |
ドキシサイクリン | 経口 |
アジスロマイシン | 経口 |
シプロフロキサシン | 経口 |
これらの抗菌薬はつつが虫病の原因菌であるオリエンチア・ツツガムシに対して高い効果があります。
治療期間
一般的なつつが虫病の治療期間
- ミノサイクリンやドキシサイクリンは通常7〜14日間投与する。
- アジスロマイシンは一般的に3日間の投与となる。
- シプロフロキサシンは7〜14日間投与するのが一般的。
ただし、症状や病状の回復具合によっては治療期間の調整が行われることもあります。
治療中の注意点
抗菌薬の投与期間中は定期的な検査と医師の診察を受け、治療効果と副作用の確認が必要です。
また、処方された薬は指示通りに服用し、自分の判断で中止しないでください。
治療後のフォローアップ
治療が終わった後も再発や合併症がないか確認するために、しばらくの間経過観察が必要です。
医師と相談してフォローアップを受けることが、つつが虫病の完治につながります。
予後と再発可能性および予防
つつが虫病は治療を行うことで良好な経過をたどりますが、再発の可能性も皆無ではないため、予防対策を講じることが大切です。
つつが虫病の治療と予後
つつが虫病は抗菌薬による治療と、早期の診断と治療開始により多くの患者が回復に向かいます。
治療が奏功した場合、発熱などの症状は数日で改善が見られることが一般的です。
しかし、治療が遅れたり不十分だったりした場合、重症化のリスクが高まります。
可能性のある合併症は、肺炎、髄膜炎、腎不全です。
治療開始時期 | 予後 |
発症から48時間以内 | 良好 |
発症から48時間以降 | 重症化リスク高い |
つつが虫病の再発リスク
つつが虫病は再発のリスクがある感染症の一つです。 治療後も完全に病原体が排除されない場合があり、数週間から数ヶ月後に再発することがあります。
再発のリスク因子
- 免疫力の低下
- 不十分な治療
- 病原体の薬剤耐性
再発リスク因子 | 対策 |
免疫力低下 | 生活習慣の改善 |
不十分な治療 | 適切な治療期間の確保 |
薬剤耐性 | 感受性のある薬剤の選択 |
つつが虫病の予防策
つつが虫病の予防には、ダニに刺されないようにすることが最も効果的です。
ダニの生息地となる草むらや藪に入る際は、長袖・長ズボンを着用し、肌の露出を避けてください。
ダニに刺されてしまった場合は、速やかに刺された部位を石鹸で洗浄し、ダニを除去する際は、ピンセットなどを使って丁寧に行います。
つつが虫病の治療における副作用やリスク
つつが虫病の治療で使用される、抗菌薬の副作用やリスクについて理解しておくことが大切です。
抗菌薬の副作用
つつが虫病の治療では、テトラサイクリン系やニューキノロン系などの抗菌薬が使われます。
これらの薬は、細菌の増殖を抑えて感染症を治療する効果がありますが、同時に副作用のリスクも。
消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢)、光線過敏症、肝機能障害などが起こる可能性があります。
抗菌薬 | 主な副作用 |
テトラサイクリン系 | 消化器症状、光線過敏症、歯の着色 |
ニューキノロン系 | 消化器症状、中枢神経症状、腱障害 |
副作用の出方には個人差がありますが、重い副作用が出たときはすぐに医療機関に相談してください。
免疫抑制状態のリスク
つつが虫病の治療中は、患者さんの免疫力が下がっている状態になり、このような免疫抑制状態では、日和見感染症のリスクが高くなります。
日和見感染症とは、健康な人ではあまり発症しない感染症のことです。
治療期間の長期化によるリスク
つつが虫病の治療では、通常2週間ぐらいの抗菌薬投与が行われますが、症状が長引いたり再発を繰り返したりすると、治療期間が長くなることがあります。
長期間の抗菌薬使用は、薬が効かない菌が出てくるリスクを高めるだけでなく、副作用が起こる頻度も増やしてしまいます。
- 治療期間が長引くリスク因子
- 高齢の方
- 基礎疾患がある患者さん
- 免疫力が下がっている患者さん
リスク因子 | 長期化の理由 |
高齢者 | 免疫力の低下、臓器機能の低下 |
基礎疾患を有する患者 | 感染症に対する脆弱性 |
フォローアップの重要性
つつが虫病の治療が終わった後は、しばらくの間フォローアップが必要です。
治療が終わった後も、再発や合併症がないかを確認するために定期的な受診が勧められます。
また、副作用のチェックや免疫力の回復具合の評価も欠かせません。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
初診料と再診料
医療機関を初めて受診するときに支払う初診料は、2,820円から5,000円ぐらいで、 2回目以降の受診の際に支払う再診料は、600円から1,500円程度です。
検査費と処置費
つつが虫病の診断をするために必要な血液検査などの検査費用は、5,000円から10,000円です。
また、症状に合わせて行う投薬や点滴などの処置にも、数千円から数万円程度の費用が必要になるケースがあります。
検査名 | 費用目安 |
血液検査 | 5,000円~10,000円 |
画像検査 | 10,000円~20,000円 |
入院費
つつが虫病が重症化した場合、入院して治療を受けなければならないことがあります。
入院期間 | 費用目安 |
1週間 | 35,000円~70,000円 |
2週間 | 70,000円~140,000円 |
以上
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