梅毒(syphilis)は、スピロヘータ属の細菌であるトレポネーマ・パリダムが原因で発症する感染症です。
性的接触による感染が主な感染経路ですが、妊婦から胎児への垂直感染も起こる可能性があります。
初期段階では無症状であったり、症状が現れてもそれが梅毒特有のものでないことから、感染に気付きにくいです。
しかし、放置すると全身に症状が広がり、重篤な合併症を引き起こすこともあります。
梅毒の主な症状
梅毒の症状は、一次梅毒、二次梅毒、早期潜伏梅毒、後期潜伏梅毒、第三期梅毒(ゴム腫性梅毒、神経梅毒、心血管梅毒)、先天梅毒によって、違ってきます。
一次梅毒:初期硬結(硬性下疳)の形成
一次梅毒は、梅毒トレポネーマが体内に侵入してから3週間から90日後に発症します。
この時期は、感染部位に初期硬結(硬性下疳)が形成されるのが特徴です。
硬性下疳は、平均1cmほどの大きさで、境界明瞭な無痛性の硬結として認められます。
硬性下疳は自然に治癒する傾向があるため、放置すると数週間で消失する場合があります。
病型 | 発症時期 | 特徴 |
一次梅毒 | 感染から3週間から90日後 | 初期硬結(硬性下疳)の形成 |
二次梅毒 | 感染から6週間から6ヶ月後 | 全身症状の出現 |
二次梅毒:全身症状の出現
二次梅毒は、感染から6週間から6ヶ月後に発症し、全身にさまざまな症状が現れます。
代表的な症状は、全身の皮膚や粘膜に認められる、バラ疹と呼ばれる梅毒疹です。
他にも、発熱、倦怠感、頭痛、リンパ節腫脹などの全身症状を伴うことがあります。
二次梅毒の症状は自然に消失する傾向がありますが、治療を受けないと再発を繰り返すことも。
早期潜伏梅毒と後期潜伏梅毒:無症状
早期潜伏梅毒は、感染後1年以内の無症状期、 後期潜伏梅毒は、感染後1年以上経過した無症状期のことです。
潜伏梅毒の時期は、症状がない代わりに梅毒血清反応が陽性となるため、血液検査によって診断されます。
病型 | 感染からの期間 | 特徴 |
早期潜伏梅毒 | 感染後1年以内 | 無症状、梅毒血清反応陽性 |
後期潜伏梅毒 | 感染後1年以上 | 無症状、梅毒血清反応陽性 |
第三期梅毒:重篤な合併症の発症
第三期梅毒は、感染後数年から数十年を経て発症する病期で、重篤な合併症を引き起こします。
第三期梅毒の症状
- ゴム腫性梅毒:皮膚、骨、内臓などにゴム腫と呼ばれる肉芽腫性病変が形成され、組織の破壊を引き起こします。
- 神経梅毒:脳、脊髄、脳神経などに病変が生じ、進行性麻痺や脊髄癆などの多様な神経症状を呈します。
- 心血管梅毒:大動脈の拡張や大動脈弁閉鎖不全症などの心血管合併症を引き起こします。
先天梅毒:母子感染による影響
先天梅毒は、妊娠中の母体から胎児に梅毒が感染することによって発症し、感染時期によって、流産、死産、新生児梅毒などを引き起こす恐れがあります。
早期先天梅毒と晩期先天梅毒の症状
- 早期先天梅毒:新生児期から乳児期に発症し、鼻水、肝脾腫、骨膜炎などの症状を呈します。
- 晩期先天梅毒:学童期以降に発症し、Hutchinson歯、実質性角膜炎、内耳性難聴などの症状を呈します。
梅毒の原因・感染経路
梅毒という感染症は、トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)という細菌が原因で発生し、主に性行為による接触で人から人へと感染が広がっていきます。
梅毒の原因菌
梅毒の原因となる細菌であるトレポネーマ・パリダムは、スピロヘータ目に属するグラム陰性の細菌です。
この細菌は非常に繊細で、宿主の体外では長期間生存できません。
特徴 | 詳細 |
形状 | らせん状 |
大きさ | 長さ6-20μm、幅0.1-0.2μm |
運動性 | 活発な運動性を持つ |
主な感染経路
梅毒に感染する主な経路
- 性的な接触で感染
- 妊娠中の母親から胎児へ感染(母子感染)
- 輸血で感染することもありますが、まれなケース
中でも、性行為での接触による感染が最もよく見られ、梅毒に感染した人と性的な接触をすることで広がっていきます。
加えて、感染した妊婦から胎児へ感染が伝わるケースもあり、これが先天梅毒です。
感染経路 | リスク |
性的接触 | 高い |
母子感染 | 中程度 |
輸血 | 低い |
感染リスクの高い行為
梅毒に感染してしまうリスクが高い行動パターンは、次のようなものがあります。
- コンドームを使わずに性行為をすること
- 複数の相手と性的な接触を持つこと
- 性感染症に感染している人と性行為をすること
診察(検査)と診断
梅毒を診断する際は、問診と身体診察、血液検査を組み合わせた総合的な評価が必要です。
確定診断をするには、血液検査が欠かせませんが、症状や感染リスクに関しても考慮に入れます。
病歴聴取と身体診察
梅毒の診察では、まず詳細な問診を行います。
感染リスクのある性交渉があったかどうか、過去に性感染症にかかったことがないか、さらに、全身の皮膚と粘膜をくまなく観察する身体診察を実施します。
梅毒に特有の症状である硬性下疳、バラ疹、粘膜のただれ、リンパ節の腫れ具合もチェックが必要です。
病期 | 主な症状 |
第1期(初期梅毒) | 硬性下疳、鼠径リンパ節の腫れ |
第2期(二期梅毒) | バラ疹、粘膜のただれ、全身のリンパ節腫脹 |
血清学的検査
梅毒の確定診断には、血液検査が必須です。 RPR法やVDRL法という非特異的検査と、TPHA法やFTA-ABS法という特異的検査を組み合わせて評価します。
- RPR法やVDRL法:感度が高い検査で、ふるい分けに用います。ただし、偽陽性になることもあります。
- TPHA法やFTA-ABS法:梅毒トレポネーマに特化した確認検査で、偽陽性が出にくいのが特徴です。
RPR法やVDRL法で陽性だった場合、TPHA法やFTA-ABS法で確認し、どちらも陽性なら梅毒と確定診断が可能です。
ただし、感染の初期や晩期では偽陰性になる可能性があるため、症状と合わせて総合的に判断することが求められます。
診断のポイント
梅毒の診断では、以下の点に注意が必要です。
- 感染リスクのある性交渉の有無や全身症状の確認を詳しく行う。
- 全身の皮膚と粘膜を入念にチェックし、特徴的な症状がないか確認する。
- RPR法やTPHA法などの血液検査を組み合わせて評価する。
- 感染時期によっては偽陰性になることもあるため、症状と血液検査の結果を総合的に判断する。
検査法 | 概要 |
RPR法、VDRL法 | 非特異的検査、ふるい分けに用いる |
TPHA法、FTA-ABS法 | 特異的検査、確認診断に用いる |
梅毒の治療法と処方薬、治療期間
梅毒の治療は、ペニシリン系抗菌薬の投与が必要です。
梅毒の治療法
梅毒の治療では、ペニシリン系抗菌薬が使用されます。
ペニシリンは梅毒の原因菌である梅毒トレポネーマに対して高い効果を発揮し、感染拡大を防ぐことが可能です。
医師は患者さんの状態を見極めたうえで、ペニシリン系抗菌薬の種類と投与量、投与期間を決定します。
早期の梅毒においては、単回のペニシリン筋肉注射で治療が終了することも。
一方で、感染後の期間が長い患者さんや合併症がある患者さんの場合、より長期的な治療が必要なこともあります。
ペニシリンアレルギーがある場合の代替治療
薬剤名 | 投与方法 |
ドキシサイクリン | 経口 |
アジスロマイシン | 経口 |
ペニシリンアレルギーのある患者さんには、ドキシサイクリンやアジスロマイシンといった代替薬が用いられ、これらの薬剤もペニシリンと同様に、梅毒トレポネーマに対する抗菌作用を有しています。
ただし、ペニシリンほどの高い効果は期待できないため、より長期的な投与が必要です。
治療後のフォローアップ
梅毒の治療後は、再発や合併症の有無を確認するために定期的な検査が大切です。 通常、治療終了後の3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月の時点で血液検査を実施します。
フォローアップ時期 | 検査項目 |
治療終了3ヶ月後 | 血清学的検査 |
治療終了6ヶ月後 | 血清学的検査 |
治療終了12ヶ月後 | 血清学的検査 |
検査結果に異常が見られなければ、治癒したと判断されます。
パートナーへの検査と治療
梅毒は主に性的接触を通じて感染が広がるため、感染者のパートナーも検査と治療が必要です。
パートナーが感染している場合は、本人と同様の治療を行います。
- ペニシリン系抗菌薬の投与が中心
- 重症度や合併症の有無で治療期間は異なる
- 早期発見・早期治療が肝要
- 治療後も定期検査で再発・再感染をチェック
予後と再発可能性および予防
梅毒は治療を行えば完治が見込める感染症ですが、再発のリスクもあるため、予防と定期的なチェックが欠かせません。
早期の発見と治療が良好な予後と再発防止の鍵となり、合併症のリスクを最小限に抑えることにつながります。
梅毒の治療の予後
梅毒は抗菌薬による治療で完治が可能な感染症です。 ペニシリンを中心とした抗菌薬の投与により、ほとんどの場合で症状の改善と治癒が期待できます。
特に感染初期の段階で治療を開始できれば、治療効果は高く、後遺症なく完治できる確率が高いです。
しかし、治療が遅れたり、不十分だったりした場合には、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
神経梅毒や心血管梅毒などの合併症は、患者さんの生活の質を大きく低下させることも。
治療開始時期 | 予後 |
感染後早期(1年以内) | 良好(後遺症なく完治の可能性大) |
感染後長期経過(1年以上) | 合併症の可能性あり |
梅毒の再発可能性
梅毒は一度治療で完治しても、再感染によって再発する可能性があり、過去に梅毒に罹患したことがある人は、再感染のリスクが高いとされています。
これは、初回感染時に獲得した免疫が完全ではないため、再び梅毒トレポネーマに感染するリスクが高いためです。
再発した場合、初回感染時と同様の症状が現れますが、症状があまり出ず、気付きにくいことがあります。
再発を早期に発見し治療を開始することが、重症化や合併症の防止につながるので、過去に梅毒に罹患したことがある人は、定期的な検査を受けることが望ましいです。
梅毒の予防
梅毒の予防には、以下のような取り組みが有効です。
- コンドームの使用
- 定期的な検査の実施
- パートナーへの感染の告知と検査の勧め
コンドームを正しく使用することで、性的接触による梅毒の感染を防ぐことができます。
また、定期的な梅毒検査を受けることも重要な予防策の一つです。
特に性的に活発な人や過去に梅毒に罹患したことがある人は、年に1~2回の検査が推奨されています。
予防法 | 効果 |
コンドーム使用 | 感染リスクを大幅に低減 |
定期検査(年1~2回) | 早期発見・早期治療が可能 |
さらに、無症状の感染者から知らないうちに感染することを防ぐためにも、梅毒に感染したことをパートナーに伝え、検査を勧めることが大切です。
梅毒の治療における副作用やリスク
梅毒治療の際に用いられる抗菌薬には、副作用やリスクがあります。
抗菌薬による副作用
抗菌薬の使用は梅毒治療の中心ですが、副作用のリスクがあります。
最も一般的な副作用は、消化器系の問題(悪心、嘔吐、下痢など)、皮膚発疹、かゆみなどです。
抗菌薬 | 主な副作用 |
ペニシリン | アレルギー反応、発疹、発熱 |
ドキシサイクリン | 消化器系の問題、光線過敏症 |
まれではありますが、重篤なアレルギー反応(アナフィラキシーショック)が生じる可能性もあり、さらに、抗菌薬を長期間使用することで、耐性菌が出現するリスクが高まります。
治療後の再感染リスク
梅毒治療後も、再感染のリスクがあることを認識する必要があり、パートナーが治療を受けていない場合、再感染の可能性が高くなります。
- 治療後のフォローアップ検査の重要性
- パートナーへの通知と治療の必要性
- セーファーセックスの実践
治療後は、定期的な検査を受けて再感染の有無を確認することが大切です。
神経梅毒や先天梅毒のリスク
梅毒の治療が遅れたり、不十分だったりすると、重篤な合併症を引き起こす危険性があります。
神経梅毒は、梅毒感染が中枢神経系に及んだ状態で、認知機能障害や運動障害などの症状が現れます。
合併症 | 主な症状 |
神経梅毒 | 認知機能障害、運動障害 |
先天梅毒 | 発育障害、視聴覚障害 |
妊婦が梅毒に感染している場合、治療を受けないと、胎児に先天梅毒を起こし、流産、死産、早産のほか、新生児に重篤な発育障害や視聴覚障害などをもたらすことがあります。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
初診料と再診料
梅毒の診断と治療のための初診料は、医療機関によって異なりますが、3,000円から5,000円程度が一般的です。 再診料は、1,000円から2,000円程度が相場となっています。
項目 | 金額 |
初診料 | 3,000円~5,000円 |
再診料 | 1,000円~2,000円 |
検査費用
梅毒の確定診断には、血液検査が必須で、 検査費用は、5,000円から10,000円ほどです。
検査項目 | 金額 |
血液検査 | 5,000円~10,000円 |
髄液検査(神経梅毒の場合) | 20,000円~30,000円 |
神経梅毒が疑われる場合は、髄液検査が必要となり、これには20,000円から30,000円程度の費用がかかります。
処置費と薬剤費
ペニシリン系抗菌薬の注射や内服薬の処方に際しては、処置費と薬剤費が発生し、合わせて5,000円から10,000円程度が一般的です。
入院費
重度の梅毒や合併症がある場合、入院治療が必要となることがあり、入院費は、1日あたり10,000円から30,000円程度かかります。
以上
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