ハンセン病 – 感染症

ハンセン病(Hansen’s disease)とは、らい菌という細菌によって引き起こされる慢性の感染症のことです。

皮膚や末梢神経に影響を及ぼし、場合によっては手足などに後遺症が残ってしまうこともあります。

ただし、ハンセン病は遺伝する病気ではなく、感染力は非常に弱く、他者に移す可能性も低いため、患者さんを隔離する必要はありません。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ハンセン病の種類(病型)

ハンセン病には、らい腫型(LL型)、類結核型(TT型)、境界群(BT型、BB型、BL型)、未分類群(I群)の病型があります。

らい腫型(LL型)

らい腫型(LL型)は、細胞性免疫が低下しているため、らい菌が皮膚や末梢神経に多数存在する病型です。

皮膚には、境界がはっきりとした赤い発疹や結節が多数見られます。

病型免疫応答皮膚症状
らい腫型(LL型)低い境界明瞭な浸潤性紅斑や結節が多発

類結核型(TT型)

類結核型(TT型)は、細胞性免疫が強いため、らい菌の増殖が抑えられている病型です。 皮膚には、境界がはっきりとした赤い発疹や局面が少数見られます。

境界群(BT型、BB型、BL型)

境界群は、らい腫型と類結核型の中間に位置する病型です。

  • BT型:類結核型に近い病型
  • BB型:らい腫型と類結核型の中間の病型
  • BL型:らい腫型に近い病型
病型免疫応答皮膚症状
BT型比較的強い境界明瞭な紅斑や局面が少数
BB型中程度境界不明瞭な紅斑や局面が多数
BL型比較的弱い境界不明瞭な浸潤性紅斑や結節が多数

未分類群(I群)

未分類群(I群)は、明確な病型に分類できない症例です。 皮膚症状は特徴的ではなく、確定診断には皮膚生検が必要になります。

ハンセン病の主な症状

ハンセン病は、病型ごとに異なる症状が出ます。

らい腫型(LL型)の症状

らい腫型は、らい菌に対する細胞性免疫が低下した状態で発症します。皮膚症状として、全身に多数の結節や斑紋が生じるのが特徴です。

結節は初期には小豆大の赤い丘疹として現れ、時間とともに増大。

表面は滑らかで光沢があり、触診すると柔らかく弾力があり、斑紋は境界がぼやけた紅色または褐色の斑点で、じんま疹様の外観を示すこともあります。

部位症状
顔面眉毛の脱落(マダラ眉)、鼻の変形(獅子鼻)
四肢手足の変形(爪の変形、指の短縮、手足の潰瘍)

末梢神経障害により、手足の感覚鈍麻、筋力低下、麻痺などが起こり、顔面神経の障害では、眼瞼下垂や顔面麻痺が見られる場合があります。

病気が進行すると、手足の変形や潰瘍形成、視力障害などの後遺症も。

類結核型(TT型)の症状

類結核型は、らい菌に対する細胞性免疫が保たれた状態で発症します。皮膚症状として特徴的なのは、境界のはっきりした局面です。

周りの健康な皮膚と明確に区別できる紅色または褐色の斑点のことで、表面が乾燥していて、落屑を伴うことがあります。

感覚鈍麻を伴い、毛孔の開大や毛髪の脱落が見られ、局面の数は少なく、限られた範囲に現れます。

  • 境界明瞭な局面(紅色・褐色の斑点)
  • 局面の表面は乾燥し、落屑を伴うことがある
  • 感覚鈍麻、毛孔の開大、毛髪の脱落を伴う
  • 局面の数は少なく、限局性

末梢神経障害は、らい腫型と比べて早期から現れ、神経幹の肥厚や圧痛、感覚鈍麻、筋力低下などが見られます。

境界群(BT型、BB型、BL型)の症状

境界群は、類結核型とらい腫型の中間的な症状を示します。

病型症状の特徴
BT型類結核型に近い。境界明瞭な局面が主体で、らい腫型の症状も一部見られる
BB型BT型とBL型の中間的な症状。局面と斑紋が混在する
BL型らい腫型に近い。境界不明瞭な斑紋や結節が主体で、類結核型の症状も一部見られる

境界群の症例では、皮疹の性状や分布が多岐にわたり、末梢神経障害の程度もさまざまです。病型間の移行が見られることもあります。

未分類群(I群)の症状

未分類群では、一過性の紅斑や局面が現れることがありますが、症状は非特異的です。

未分類群に分類される症例の多くは、自然に治癒していく傾向にあります。

ハンセン病の原因・感染経路

ハンセン病は、らい菌(Mycobacterium leprae)による慢性的な感染症です。

らい菌は、主に皮膚や末梢神経に感染し、長い時間をかけてゆっくりと症状が現れてきます。

感染から発症までの期間は、平均して5年ほどと言われていますが、個人差が大きく、数ヶ月から数十年に及ぶケースもあります。

らい菌の特徴

らい菌は、抗酸菌の一種で、他の多くの細菌と比べて増殖速度が非常に遅いことが特徴です。

らい菌の増殖速度は、結核菌の約1/100、大腸菌の約1/10000で、らい菌は低温環境を好み、皮膚や末梢神経のように体温より低い部位で増殖しやすい性質を持っています。

細菌名増殖速度倍加時間好む環境
らい菌非常に遅い約14日30~33℃
結核菌遅い約20時間37℃
大腸菌速い約20分37℃

感染経路

ハンセン病の主な感染経路は、らい菌に感染した患者さんとの長期的な濃厚接触によるものです。

らい菌は、患者さんの鼻腔粘膜や皮膚の傷から外部に排出され、それを鼻腔粘膜や皮膚の傷から取り込むことで感染が成立します。

  • 患者の鼻腔粘膜からの排出 → 鼻腔粘膜からの侵入
  • 患者の皮膚の傷からの排出 → 皮膚の傷からの侵入

ただし、らい菌の感染力は非常に弱く、短期間の接触や通常の生活での接触では感染が成立しにくいです。

WHO(世界保健機関)は、「ハンセン病は、らい菌に感染した患者との長期間の濃厚接触によってのみ感染する」と述べています。

感染リスク

ハンセン病の感染リスク

感染リスクが高い場合理由
患者と長期間にわたって濃厚接触するらい菌に曝露される機会が増える
免疫力が低下しているらい菌の増殖を抑えられない
不衛生な環境で生活しているらい菌が広がりやすい

特に、免疫力の低下している人は、らい菌に感染した場合に発症するリスクが高いです。

感染しても発症しない

ただし、らい菌に感染しても、必ずしも発症するわけではありません。

らい菌に感染した人の大多数は発症せず、そのまま免疫を獲得し、発症する割合は、感染者の約10%程度です。

発症するかどうかは、個人の免疫力などが関係していると考えられていますが、詳しいメカニズムはまだ明らかになっていません。

診察(検査)と診断

ハンセン病の診断では、皮膚症状や神経症状の観察、生検による病理組織学的検査、菌の検出などが行われます。

臨床症状と検査結果を総合的に判断して診断が下されますが、確定診断にはらい菌を検出することが必要です。

皮膚症状と神経症状の観察

ハンセン病の診察では、まず皮膚症状と神経症状を詳しく観察します。

皮膚症状は、結節、斑紋、局面などの有無や性状、分布を確認。神経症状は、末梢神経の腫大や圧痛、感覚障害、筋力低下などを評価します。

観察項目具体的な内容
皮膚症状結節、斑紋、局面の有無と性状、分布
神経症状末梢神経の腫大、圧痛、感覚障害、筋力低下

生検と病理組織学的検査

生検では、皮疹部の皮膚を一部切除し、組織標本を作製し、病理組織学的検査では、以下の所見を確認します。

  • 真皮内のらい菌の有無
  • 肉芽腫性炎症の有無
  • ラングハンス巨細胞の有無
  • 泡沫細胞の有無

病理組織学的検査は、ハンセン病の診断に有用な情報を提供しますが、らい菌の検出には至らないこともあります。

菌の検出方法

ハンセン病の確定診断には、らい菌の検出が必要です。

菌の検出方法

検出方法概要
皮膚塗抹検査皮疹部の皮膚を擦過し、抗酸菌染色を行ってらい菌を検出
鼻粘膜塗抹検査鼻腔内の粘膜を擦過し、抗酸菌染色を行ってらい菌を検出
PCR法皮膚や神経の検体かららい菌のDNAを検出

皮膚塗抹検査と鼻粘膜塗抹検査は、感度が低い検査法ですが、簡便に実施できる利点があり、PCR法は、感度が高く、少量の菌でも検出可能ですが、特殊な設備が必要です。

診断基準と臨床分類

ハンセン病の診断基準

  1. 皮膚症状または神経症状の存在
  2. 病理組織学的検査でのらい菌の検出または特徴的な所見
  3. 皮膚塗抹検査、鼻粘膜塗抹検査、PCR法でのらい菌の検出

臨床症状と検査結果から、ハンセン病の臨床分類(らい腫型、類結核型、境界群、未分類群)が判定されます。

ハンセン病の治療法と処方薬、治療期間

ハンセン病の治療では、多剤併用療法(MDT)が採用され、1年から2年の治療期間が求められます。

MDTでは、ダプソン、リファンピシン、クロファジミンという3種類の抗菌薬を組み合わせて使用するのが一般的です。

多剤併用療法(MDT)の詳細

MDTでは、以下の薬剤を併用します。

  1. ダプソン(diaminodiphenyl sulfone, DDS):100mg/日
  2. リファンピシン(rifampicin):600mg/月(1回/月)
  3. クロファジミン(clofazimine):50mg/日および300mg/月(1回/月)

この治療法は、多菌型のハンセン病患者に対して推奨され、一方、少菌型の患者さんには、ダプソンとリファンピシンのみの2剤併用療法が用いられることもあります。

薬剤名投与量投与頻度
ダプソン100mg1日1回
リファンピシン600mg月1回
クロファジミン50mg<br>300mg1日1回<br>月1回

治療期間

多菌型のハンセン病に対しては、少なくとも12ヶ月のMDTが推奨され、 一方、少菌型の場合は、6ヶ月間のMDTで十分です。

ただし、患者さんの状態によっては、さらに長期の治療が必要になる場合もあります。

ハンセン病のタイプ推奨治療期間
多菌型12ヶ月以上
少菌型6ヶ月

治療効果の判定

MDTによる治療効果は、皮膚の病変の改善や菌の減少によって判定されます。

多菌型の場合、少なくとも12ヶ月のMDTを完了し、菌指数がnegativeとなった時点で、治療終了です。

一方、少菌型では、6ヶ月のMDT完了後、臨床的に病変の改善が認められれば、治療終了と判断されます。

治療後のフォローアップ

MDT完了後も、再発のリスクがあるため、定期的なフォローアップが重要です。

多菌型の場合は、治療終了後も少なくとも5年間は年1回の経過観察が推奨されています。

少菌型では、治療終了後2年間は、6ヶ月ごとのフォローアップが望ましいです。

予後と再発可能性および予防

ハンセン病は、早期発見と治療により完治することが可能です。

再発のリスクも低いとされていますが、診断が遅れたり、治療が不十分だったりすると、後遺症が残ってしまう場合があります。

また、接触者検診や啓発活動などの予防対策も重要です。

ハンセン病の治療予後

ハンセン病の治療は、多剤併用療法(MDT)が基本となります。

MDTは、らい菌に対して異なる作用機序を持つ複数の抗菌薬を組み合わせて使用する治療法です。

病型治療期間使用薬剤
らい腫型12ヶ月リファンピシン、クロファジミン、ダプソン
類結核型・境界群6ヶ月リファンピシン、ダプソン

MDTを適切に実施することで、ほとんどの患者が完治します。治療終了後の再発率は、らい腫型で1%未満、類結核型・境界群で1〜2%程度です。

後遺症と障害の予防

ハンセン病の後遺症として、神経障害による感覚障害や運動障害、手足の変形などがあります。

後遺症を予防するための対策

  • 早期発見と早期治療の徹底
  • 治療中の定期的な経過観察
  • 神経障害に対するリハビリテーション
  • 手足の保護と自己管理指導

後遺症が残った場合でも、ケアと社会的支援により、生活の質の維持・向上が可能です。

再発の可能性と対策

ハンセン病の再発は、治療終了後数年以内に起こることが多いとされています。

再発のリスク因子

リスク因子概要
不規則な治療MDTを規定通りに実施しなかった場合
治療期間の不足病型に応じた十分な治療期間が確保されなかった場合
薬剤耐性らい菌が治療薬に対して耐性を獲得した場合

ハンセン病の予防対策

ハンセン病の予防に有効な対策

  • 接触者検診の実施
  • 早期発見・早期治療体制の整備
  • 正しい知識の普及と啓発活動
  • 患者の社会復帰支援と差別の解消

特に、患者さんとの長期的な接触者に対する定期的な検診は、二次感染の予防に重要な役割を果たします。

ハンセン病の治療における副作用やリスク

ハンセン病の治療では、副作用やリスクが避けられない問題です。

治療薬の副作用

ハンセン病の治療に使用される薬剤の最も一般的な副作用は、皮膚の発疹や色素沈着です。

また、吐き気、嘔吐、食欲不振などの消化器症状や、末梢神経障害による手足のしびれなども報告されています。

薬剤名主な副作用
ダプソン溶血性貧血、皮疹、発熱
リファンピシン肝機能障害、皮疹、消化器症状
クロファジミン皮膚の色素沈着、消化器症状

まれではありますが、Stevens-Johnson症候群や中毒性表皮壊死融解症(TEN)などの重症薬疹が発生することがあり、これらは生命に関わる可能性もあるため、十分な注意が必要です。

耐性菌の出現リスク

長期の多剤併用療法では、薬剤耐性菌の出現リスクが高まることがあります。

ハンセン病の治療に使用される薬剤に対する耐性菌が出現すると、治療効果が減弱し、病状が悪化する恐れがあります。

後遺症のリスク

ハンセン病の治療が遅れると、後遺症のリスクが高まります。

  • 末梢神経障害による手足の変形や麻痺
  • 眼病変による視力障害や失明
  • 皮膚の萎縮や潰瘍形成

これらの後遺症は、患者さんの生活の質を大きく低下させ、社会生活に支障をきたす可能性があります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

ハンセン病の治療費は、公的医療保険の適用対象となりますが、一部自己負担が必要です。

初診料と再診料

初診料は、医療機関を初めて受診する際にかかる費用で、3,000円~5,000円程度、再診料は、2回目以降の受診時にかかる費用で、1,000円~2,000円程度です。

検査費と処置費

ハンセン病の診断や経過観察に必要な検査費用は、数千円から数万円程度です。

検査名費用目安
皮膚生検10,000円前後
神経伝導検査5,000円前後

処置費は、皮膚潰瘍の処置などに必要な費用で、数千円程度かかる場合があります。

入院費

ハンセン病の治療で入院が必要となった場合、入院費用が発生します。 入院費は、1日当たり10,000円~30,000円程度です。

入院期間費用目安
1週間35,000円~70,000円
1ヶ月150,000円~300,000円

以上

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