破傷風 – 感染症

破傷風(tetanus)とは、クロストリジウム・テタニという嫌気性のグラム陽性桿菌が産生する外毒素によって引き起こされる疾患です。

この菌は土壌や動物の腸管内など、自然界に広く存在していて、 菌が傷口から体内に侵入し神経毒素のテタノスパスミンを産生することで、破傷風を発症します。

テタノスパスミンという毒素は神経筋接合部に作用し、筋肉の持続的な収縮を引き起こします。

その結果、全身の筋肉が強直したり痙攣したりという症状が現れ、重症化した際には呼吸困難から死に至る恐れも。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

破傷風の種類(病型)

破傷風は、感染部位や症状の範囲に応じて、全身性破傷風、新生児破傷風、局所性破傷風に分けられます。

全身性破傷風

全身性破傷風は、破傷風菌が産生する毒素が全身に広がり、体全体の筋肉が硬直する病型です。

初期症状として、口が開きにくくなる開口障害や表情筋の硬直による苦笑様顔貌が特徴的です。

さらに病状が進行すると、背中や四肢の筋肉にも硬直が広がり、重篤な呼吸障害を引き起こす可能性があります。

症状特徴
開口障害口が開きにくくなる
苦笑様顔貌表情筋の硬直による特徴的な顔貌
全身の筋硬直背中や四肢の筋肉にも硬直が広がる

新生児破傷風

新生児破傷風は、出生時や臍帯処理の際に破傷風菌に感染することで発症します。

生後28日以内の新生児に見られ、哺乳力低下や啼泣などの初期症状から、全身の筋硬直や痙攣発作へと進行します。

処置が行われないと、致死率が非常に高くなる危険な病型です。

  • 生後28日以内の新生児に発症
  • 哺乳力低下や啼泣が初期症状
  • 全身の筋硬直や痙攣発作を引き起こす

局所性破傷風

局所性破傷風は、破傷風菌に汚染された創傷部位の周辺のみに症状が限局します。

感染部位の筋肉の硬直や攣縮が主な症状で、全身への広がりは見られません。

局所性破傷風は、処置により比較的予後良好ですが、全身性破傷風への移行を防ぐためにも注意が必要です。

種類感染部位症状の広がり
局所性破傷風創傷部位周辺局所のみ
全身性破傷風全身体全体に広がる

病型に応じた対応の必要性

破傷風の病型を理解することは、症状の進行を予測し、処置を行ううえで非常に大切です。

全身性破傷風や新生児破傷風では、迅速な集中治療が必要となる一方、局所性破傷風では局所の管理に重点を置きます。

病型に応じた対応が、患者さんの予後を大きく左右します。

破傷風の主な症状

破傷風の主な症状は特徴的で、重篤なものが多くあります。

全身性破傷風の症状

全身性破傷風は、最も一般的な破傷風の病型です。

初期症状として、口が開けにくくなる開口障害や、喉の奥が痛むなどの症状が現われます。

症状概要
開口障害口が開けにくくなる
喉の奥の痛み喉の奥が痛む

その後、全身の筋肉が強直し、激しい痙攣が起こり、特に、背中の筋肉が持続的に収縮するため、体が反り返るような姿勢(後弓反張)をとることがあります。

症状概要
全身の筋肉の強直全身の筋肉が硬直する
激しい痙攣全身に激しいけいれんが起こる
後弓反張背中の筋肉が収縮し、体が反り返る

痙攣発作は、刺激によって誘発されやすく、痙攣が起こると呼吸困難に陥ることも。

重症の際は、心臓への負担が大きくなり、心不全を引き起こす可能性も出てきます。

新生児破傷風の症状

新生児破傷風は、生後28日以内の新生児に発症する破傷風です。

主な症状

  • 哺乳力の低下
  • 泣き声の変化
  • 全身の筋肉の硬直
  • けいれん

特に、哺乳力の低下は早期に現れる症状であり、注意が必要です。

新生児破傷風は、治療を行わないと予後不良となることが多いため、早期発見と治療開始が重要となります。

局所性破傷風の症状

局所性破傷風は、感染部位の周辺のみに症状が現れる病型です。

主な症状

症状概要
感染部位の筋肉の硬直感染部位周辺の筋肉が硬直する
感染部位の筋肉の痙攣感染部位周辺の筋肉に痙攣が起こる

局所性破傷風は、全身性破傷風と比べると症状は軽いことが多いですが、治療を行わないと全身性破傷風に移行することがあります。

破傷風は重篤な感染症であるため、疑わしい症状が現れた際は速やかに医療機関を受診し、治療を受けることが大切です。

破傷風の原因・感染経路

破傷風は、クロストリジウム・テタニという細菌の感染によって引き起こされる疾患です。

この細菌は、土壌中に広く存在する嫌気性菌であり、芽胞を形成することで長期間環境中で生存できます。

破傷風菌は、傷口から体内に侵入し、神経毒素を産生することで発症に至ります。

感染の主な原因

破傷風菌による感染が起こる状況

  • 土壌や動物の排泄物などで汚染された傷口からの感染
  • 不衛生な環境下での外傷や熱傷による感染
  • 使用済みの注射針や医療器具を介した感染
感染源感染リスク
土壌高い
動物の排泄物高い
使用済み注射針中程度

感染経路

破傷風菌は、傷口から体内に侵入することで感染が成立します。特に、深い刺し傷や裂傷、火傷などの傷口は、破傷風菌の侵入がしやすいです。

また、破傷風菌は酸素の少ない環境を好むため、傷口が深く、空気に触れにくい状態であるほど、感染のリスクが高まります。

感染リスクを高める要因

破傷風菌感染のリスクを高める要因

  • 不適切な傷の処置や管理
  • 免疫力の低下(高齢者、慢性疾患を持つ人など)
  • 破傷風トキソイドワクチンの未接種または不完全な接種
要因リスク増加の程度
不適切な傷の処置
免疫力の低下
ワクチン未接種

診察(検査)と診断

破傷風では、傷の状態とリスクの有無を調べ、確定診断にいくつかの検査を用います。

破傷風の診察方法

破傷風の診察は、患者さんの症状や傷の状態を詳しく観察することが欠かせません。

筋肉のこわばりやけいれん、口が開きにくいなどの特有の症状があるかどうかを確認します。

また、傷の場所や深さ、汚れ具合なども評価し、破傷風になる危険性を判断。

状況に応じて、血液検査や画像検査などの追加検査を実施する場合もあります。

検査項目目的
血液検査炎症反応や臓器機能の評価
画像検査傷の深さや範囲の評価

破傷風の臨床診断

破傷風の臨床診断は、主に以下の点を基に行われます。

  • 特有の症状(筋肉のこわばり、けいれん、口が開きにくいなど)の有無
  • 傷の状態(深さ、汚れ具合など)
  • 破傷風のリスク要因(ワクチン接種歴、免疫状態など)

これらの情報を総合的に評価し、破傷風である可能性が高いと判断された場合、臨床診断がつきます。

破傷風の確定診断

破傷風の診断をするには、破傷風菌を検出する必要があり、傷の部位から採取したサンプルを用いて、細菌学的検査を実施します。

検査方法内容
培養検査検体から破傷風菌を分離・同定
PCR検査破傷風菌の遺伝子を検出

ただし、破傷風菌の検出は難しいことが多く、臨床診断が重要です。

破傷風の治療法と処方薬、治療期間

破傷風の治療では、開始のタイミングが、患者さんの予後に大きな影響を与えるため、迅速な対応が必要です。

破傷風の標準的な治療法

破傷風治療の中心となるのは、抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG)の投与です。 TIGは破傷風菌の毒素を中和する効果があります。

重症度に応じ、3,000〜10,000単位のTIGを1回投与するのが一般的です。

重症度TIG投与量
軽症3,000単位
中等症6,000単位
重症10,000単位

加えて、破傷風菌の増殖抑制のため抗菌薬投与も行われ、 第一選択薬はペニシリン系抗菌薬とメトロニダゾールです。

抗菌薬投与量投与間隔
ペニシリンG200〜400万単位4〜6時間毎
メトロニダゾール500mg6〜8時間毎

集中治療の重要性

重症の破傷風患者さんは、呼吸筋の痙攣から呼吸不全を起こすリスクがあります。 そのため、集中治療室(ICU)での全身管理が欠かせません。

人工呼吸や鎮静、筋弛緩薬投与などを行い、バイタルサインを注意深く監視します。

集中治療で行われる処置

  • 気管挿管および人工呼吸管理
  • 鎮静薬・筋弛緩薬の持続投与
  • 循環動態のモニタリングと管理
  • 栄養管理と褥瘡予防

リハビリテーションの役割

破傷風の回復期には、リハビリテーションが重要な意味を持ちます。

長期の臥床による筋力低下や関節拘縮の予防のため、早期からリハビリを開始することが大切です。

理学療法士や作業療法士とともに、患者の状態に即したリハビリプログラムを立案します。

治療期間

破傷風の治療期間は、軽症の場合2〜3週間ほどで回復しますが、重症例では数ヶ月かかることもあります。

予後と再発可能性および予防

破傷風は治療により予後は良好ですが、再発予防が大切です。

破傷風の治療の予後

破傷風の治療では、抗毒素の投与や感染部位の洗浄、抗菌薬の投与などが行われます。 早期に治療が行われれば、多くの場合、予後は良好です。

抗毒素の投与により、毒素の作用を抑えられ、また、感染部位の洗浄により、細菌の増殖を抑制し、症状の悪化を防げます。

治療法効果
抗毒素の投与毒素の作用を抑制
感染部位の洗浄細菌の増殖を抑制

ただし、重症例では呼吸障害や自律神経障害などの合併症を引き起こすおそれがあり、集中治療が必要になることもあります。

高齢者や基礎疾患を持つ患者さんでは、予後が悪化する可能性が高いです。

破傷風の再発可能性

破傷風は一度罹患しても、再発する可能性があります。

破傷風の再発が起こりやすい状況

  • 免疫力の低下
  • 不十分な治療
  • 再度の感染

特に、免疫力の低下している患者さんでは、再発のリスクが高く、 また、治療が不十分な場合や、再度破傷風菌に感染した際にも、再発するおそれがあります。

再発リスク因子理由
免疫力の低下破傷風菌に対する抵抗力が低下
不十分な治療菌の完全な排除ができない
再度の感染新たな感染により発症

破傷風の予防の重要性

破傷風の再発を防ぐためには、予防が欠かせません。

破傷風の予防法

  • ワクチンの接種
  • 創傷の適切な処置
  • 衛生的な環境の維持

破傷風のワクチンは、破傷風菌の毒素に対する抗体を産生させ、感染を防ぐ効果があり、定期的なワクチン接種により、破傷風の発症の予防ができます。

また、怪我をした際には、創傷を処置することが大切です。 創傷を清潔に保ち、必要に応じて医療機関を受診することで、破傷風菌の感染を防げます。

さらに、衛生的な環境を維持することも、破傷風の予防に大切です。

破傷風の治療と予防の両輪

破傷風の治療では、早期の治療開始が予後の改善につながります。

一方で、再発予防のためには、ワクチンの接種や創傷の処置、衛生的な環境の維持など、予防策を講じることが必要です。

破傷風の治療における副作用やリスク

破傷風の治療を受ける際には、副作用やリスクについて理解しておくことが大切です。

破傷風トキソイド注射の副作用

破傷風トキソイド注射は、破傷風の予防に効果的ですが、副作用が起こる可能性があります。

副作用頻度
注射部位の発赤、腫れ、痛み比較的多い
発熱、倦怠感まれ

痛みや腫れは通常一時的で、数日以内に改善します。

破傷風免疫グロブリン投与の副作用

破傷風免疫グロブリンは、感染後の治療に用いられ、副作用のリスクがあります。

  • アレルギー反応(発疹、発熱、呼吸困難など)
  • 血栓症(血管内の血液凝固)
  • 腎障害

これらの副作用は重篤になる場合があるため、慎重なモニタリングが不可欠です。

抗菌薬治療の副作用

破傷風の治療では、感染部位の洗浄とともに抗菌薬が投与されます。

抗菌薬主な副作用
ペニシリン系アレルギー反応、下痢、腎障害
テトラサイクリン系消化器症状、光線過敏症、歯の着色

副作用の発現には個人差がありますが、重篤な場合は治療の変更が必要です。

集中治療における合併症のリスク

破傷風の重症例では、呼吸障害や自律神経系の異常から集中治療を要することがあります。

人工呼吸管理や鎮静薬の使用に伴う合併症のリスク

  • 人工呼吸器関連肺炎
  • 褥瘡(床ずれ)
  • 薬剤性の肝障害や腎障害

これらの合併症は、治療期間の延長や予後の悪化につながる可能性があるため、予防と早期発見が大切です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料と再診料

項目金額
初診料1,500円 – 3,000円
再診料700円 – 1,500円

検査費と処置費

破傷風の診断には、血液検査や細菌検査が必要で、検査費用は数万円に及ぶケースもあり、また、傷の洗浄や破傷風トキソイドの投与などの処置費も数万円程度かかります。

入院費

重症の破傷風の場合、集中治療室での管理が必要となり、1日あたりの入院費が10万円以上になることもあります。

項目金額
集中治療室の入院費10万円以上/日
長期入院の総額数百万円 – 1,000万円以上

以上

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