モラクセラ・カタラーリス感染症

モラクセラ・カタラーリス感染症(Moraxella catarrhalis infection)とは、モラクセラ・カタラーリスという細菌が原因で発症する感染症のことです。

この細菌は健康な人の鼻咽頭に存在する場合もありますが、免疫力が低下していたり慢性呼吸器疾患を抱えていたりすると、感染症を引き起こすことがあります。

代表的な症状は、急性気管支炎、肺炎、中耳炎、副鼻腔炎などが挙げられ、これらの症状に加え咳や痰、発熱、胸の痛みなどを伴うことが多いです。

さらに、この感染症が原因で慢性閉塞性肺疾患(COPD)が急激に悪化してしまうこともあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

モラクセラ・カタラーリス感染症の種類(病型)

モラクセラ・カタラーリス感染症は、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎、肺炎、菌血症などがあり、それぞれの病型は、感染部位や重症度によって異なる臨床像を示します。

中耳炎

中耳炎は、モラクセラ・カタラーリス感染症において最も頻繁に見られます。

急性中耳炎や滲出性中耳炎を引き起こすことがあり、特に小児において発症リスクが高いです。

急性中耳炎は、急激な発熱や耳痛、難聴などの症状を伴い、鼓膜の発赤や膨隆が観察されることがあります。

一方、滲出性中耳炎は、中耳腔に液体が貯留することで難聴や耳閉感を引き起こしますが、急性中耳炎ほどの明らかな炎症所見は示さないことが多いです。

病型特徴
急性中耳炎急激な症状の発現、鼓膜の炎症所見
滲出性中耳炎中耳腔への液体貯留、難聴や耳閉感

副鼻腔炎

副鼻腔炎も、モラクセラ・カタラーリスによって引き起こされる病型の一つです。

急性副鼻腔炎は、鼻汁や鼻閉、頭痛などの症状を伴い、CT検査で副鼻腔の陰影が確認されることがあります。

慢性副鼻腔炎は、12週間以上続く副鼻腔炎症状を示し、鼻茸の形成や副鼻腔粘膜の肥厚など、慢性炎症に伴う所見が観察。

モラクセラ・カタラーリスは、急性副鼻腔炎の原因菌ですが、慢性副鼻腔炎においても関与が示唆されています。

気管支炎

気管支炎は、モラクセラ・カタラーリス感染症における呼吸器系の病型です。

急性気管支炎は、咳嗽や喀痰、呼吸困難などの症状を伴い、胸部聴診で喘鳴が聴取されることがあります。

慢性気管支炎は、2年連続で3ヶ月以上続く慢性的な咳嗽や喀痰を特徴とし、気道の慢性炎症が関与。

モラクセラ・カタラーリスは、急性気管支炎の原因菌の一つとして知られていますが、慢性気管支炎の急性増悪を起こすことが示唆されています。

病型特徴
急性気管支炎急性の気道炎症、咳嗽や喀痰、呼吸困難
慢性気管支炎長期的な気道炎症、慢性的な咳嗽や喀痰

肺炎

モラクセラ・カタラーリスによる肺炎は、重症化する可能性のある病型であり、特に高齢者や免疫低下者において注意が必要です。

市中肺炎として発症することが多く、発熱や咳嗽、喀痰、呼吸困難などの症状を伴います。

胸部X線検査で肺炎像が確認され、重症例では呼吸不全の恐れがあります。

また、院内肺炎の原因菌としても報告されており、特に人工呼吸器関連肺炎には注意が必要です。

菌血症

菌血症は、モラクセラ・カタラーリスによるまれな病型ですが、重篤な経過をたどる可能性があります。

血液中に菌が侵入し、発熱や悪寒、頻脈などの全身症状を伴い、ショックや多臓器不全に至ることもあります。

基礎疾患を有する患者さんや免疫低下者において発症リスクが高いです。

モラクセラ・カタラーリス感染症の主な病型

  • 中耳炎(急性中耳炎、滲出性中耳炎)
  • 副鼻腔炎(急性副鼻腔炎、慢性副鼻腔炎)
  • 気管支炎(急性気管支炎、慢性気管支炎)
  • 肺炎(市中肺炎、院内肺炎)
  • 菌血症(まれ)

モラクセラ・カタラーリス感染症の主な症状

モラクセラ・カタラーリス感染症の主な症状は感染した部位によって異なり、耳痛、発熱、鼻の症状、咳や痰、呼吸症状などが見られます。

耳痛

耳痛は、急性中耳炎の代表的な症状の一つで、多くの患者さんが、激しい耳の痛みを訴えます。 痛みは持続的で、夜間に悪化することが多いです。

発熱

発熱も、モラクセラ・カタラーリス感染症でよく見られる症状です。 特に小児では、38℃以上の高熱を伴うことが少なくありません。

発熱に伴って、全身倦怠感や食欲不振を訴える患者さんも多いです。

症状頻度
38℃以上の発熱60%以上
全身倦怠感50%程度

鼻汁・鼻閉

鼻汁や鼻閉は、急性副鼻腔炎の主要な症状です。 鼻汁は、初期には水様性ですが、次第に膿性に変化します。

鼻閉により、鼻呼吸が困難になる患者さんもいます。

  • 鼻汁:水様性から膿性へと変化
  • 鼻閉:鼻呼吸困難を伴うことがある
  • 後鼻漏:のどの違和感や咳の原因になる

咳嗽・喀痰

咳嗽と喀痰は、気管支炎や肺炎の代表的な症状です。 咳は当初乾性咳嗽ですが、次第に湿性となり、痰を伴うようになります。

喀痰は膿性で、時に血液が混じることもあります。

症状特徴
咳嗽乾性から湿性へと変化
喀痰膿性痰、時に血痰を伴う

呼吸困難・胸痛

呼吸困難と胸痛は、気管支炎や肺炎の重要な症状です。 炎症により気管支が狭窄すると、呼吸が苦しくなります。

また、咳き込んだ際に胸部に痛みを感じることもあります。

モラクセラ・カタラーリス感染症の原因・感染経路

モラクセラ・カタラーリスという細菌の感染によって引き起こされるモラクセラ・カタラーリス感染症は、主に飛沫感染や接触感染を介して広がっていきます。

モラクセラ・カタラーリスについて

モラクセラ・カタラーリスは、グラム陰性の球菌で、ブドウ糖非発酵菌の一種です。

この細菌は、ヒトの上気道に常在しており、健康な成人の約1〜5%が保菌しています。

通常は無害な常在菌ですが、何らかの原因で宿主の抵抗力が低下した際に日和見感染を引き起こすことがあります。

特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支拡張症などの慢性呼吸器疾患を持つ患者さんでは、この菌による感染のリスクが高いです。

モラクセラ・カタラーリスの特徴詳細
グラム染色陰性
形状球菌
発酵能ブドウ糖非発酵菌

感染経路

モラクセラ・カタラーリス感染症の主な感染経路

  • 飛沫感染
  • 接触感染

感染者の咳やくしゃみなどによって生じた飛沫に含まれる細菌を、他の人が吸入することで感染が成立。

また、感染者との直接的な接触や、汚染された物品を介しての間接的な接触によっても感染が広がる可能性があります。

リスクファクター

モラクセラ・カタラーリス感染症の感染要因

  • 慢性呼吸器疾患(COPD、気管支拡張症など)の既往
  • 免疫抑制状態(HIV感染、抗がん剤治療中など)
  • 高齢者
  • 乳幼児
リスクファクター詳細
慢性呼吸器疾患COPD、気管支拡張症など
免疫抑制状態HIV感染、抗がん剤治療中など
年齢高齢者、乳幼児

診察(検査)と診断

モラクセラ・カタラーリス感染症の診断を行う際は、臨床症状と検査結果を総合的に判断します。

臨床診断

臨床診断では、患者さんの症状や身体所見を詳細に観察し、感染症の可能性を考慮します。

モラクセラ・カタラーリス感染症の特徴的な症状は、急性中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎などです。

医師は、これらの症状の有無や程度を確認し、臨床診断を行います。

ただし、臨床症状のみでは確定診断が難しい場合があるため、検査結果との組み合わせが重要です。

臨床診断に必要な要素詳細
症状の観察急性中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎などの症状の有無や程度を確認
身体所見耳鏡検査、鼻腔内観察、聴診などを実施

検査による診断

モラクセラ・カタラーリス感染症の確定診断には、検査が重要な役割を果たします。

検査方法

  • 細菌培養検査:感染部位から採取した検体を培養し、モラクセラ・カタラーリスの同定を行います。
  • PCR検査:感染部位から採取した検体から、モラクセラ・カタラーリスの遺伝子を検出します。

これらの検査により、モラクセラ・カタラーリスの存在が確認された場合、確定診断が下されます。

検査方法特徴
細菌培養検査感染部位から採取した検体を培養し、モラクセラ・カタラーリスを同定
PCR検査感染部位から採取した検体から、モラクセラ・カタラーリスの遺伝子を検出

診断における注意点

モラクセラ・カタラーリス感染症の診断においての注意点

  1. 他の細菌やウイルスによる感染症との鑑別が重要である。
  2. 検体の採取方法や保存方法が適切でない場合、検査結果に影響を与える可能性がある。
  3. 検査結果の解釈には、臨床症状との総合的な判断が求められる。

モラクセラ・カタラーリス感染症の治療法と処方薬、治療期間

モラクセラ・カタラーリス感染症の治療においては、抗菌薬の投与が中心的な役割を担います。

抗菌薬の選択

モラクセラ・カタラーリス感染症の治療に用いられる主な抗菌薬は、ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系、キノロン系などです。

感染症の重症度や患者さんの状態を考慮しながら、抗菌薬が選択されます。

抗菌薬の種類代表的な薬剤
ペニシリン系アモキシシリン、アンピシリン
セフェム系セファクロル、セフジトレン

抗菌薬の投与方法と期間

抗菌薬の投与方法は、感染症の重症度によって異なり、軽症から中等症の場合は、経口投与が選択されることが多いです。

一方で、重症例や合併症を有する患者さんに対しては、点滴による静脈内投与が行われます。

投与方法適応
経口投与軽症から中等症
静脈内投与重症例、合併症あり

抗菌薬の投与期間は、感染症の種類や重症度、治療への反応性などを総合的に判断して決定されます。

一般的には、7〜14日間の投与が行われることが多いですが、症状の改善状況に応じて、投与期間の延長や短縮が検討されることに。

治療効果の評価

抗菌薬投与開始後は、定期的な治療効果の評価が欠かせません。

注目すべき治療効果

  • 臨床症状の改善
  • 炎症反応の推移
  • 画像検査所見の変化

治療効果が不十分な場合は、抗菌薬の変更や追加、投与期間の延長などが検討されます。

また、治療に伴う副作用にも注意を払い、患者さんの状態を慎重に観察することが大切です。

治療後のフォローアップ

モラクセラ・カタラーリス感染症の治療終了後は、再発や合併症の有無を確認するためのフォローアップが必要です。

通常、治療終了後1〜2週間後に再診を行い、症状の再燃や副作用の出現がないかを確認します。

予後と再発可能性および予防

モラクセラ・カタラーリス感染症の治療後の予後は良好で、再発の可能性は低いですが、予防対策を講じることが大切です。

治療後の予後

モラクセラ・カタラーリス感染症の治療終了後、大半の患者さんは完治し、後遺症を残すことなく日常生活に戻れます。

抗菌薬治療を受けることで、感染症の諸症状は速やかに改善に向かい、予後は良好です。

治療後の状態割合
完治90%
再発10%

再発の可能性

モラクセラ・カタラーリス感染症の再発は、以下のような要因により引き起こされることがあります。

  • 免疫力の低下
  • 不十分な治療
  • 再感染

再発が疑われる際は、速やかに医療機関を受診し、治療を受けてください。

再発リスク因子対策
免疫力低下免疫力を高める生活習慣
不十分な治療適切な抗菌薬の選択と服用
再感染感染予防策の徹底

感染予防策

モラクセラ・カタラーリス感染症の予防に有効な対策

  • 手洗いの徹底
  • マスクの着用
  • 咳エチケットの実践
  • 人混みを避ける

予防策を日常生活に取り入れることにより、感染のリスクを低減することが可能です。

モラクセラ・カタラーリス感染症の治療における副作用やリスク

モラクセラ・カタラーリス感染症の治療では、抗菌薬の使用が欠かせませんが、副作用やリスクが伴う可能性があります。

抗菌薬の副作用

抗菌薬の使用により、下痢、悪心、嘔吐などの消化器系の症状が現れる場合があり、重症化すると脱水や電解質バランスの乱れにつながるリスクがあります。

また、アレルギー反応にも注意してください。

皮疹、発熱、呼吸困難などの症状が現れる可能性があり、アナフィラキシーショックなどの重篤な反応につながる危険性があります。

副作用リスク
消化器系の症状(下痢、悪心、嘔吐など)脱水、電解質バランスの乱れ
アレルギー反応(皮疹、発熱、呼吸困難など)アナフィラキシーショックなどの重篤な反応

抗菌薬耐性菌の出現

抗菌薬の不適切な使用や長期使用は、耐性菌の出現のリスクがあり、従来の抗菌薬が効かなくなったり、感染症の治療が困難になる恐れがあります。

耐性菌の出現を防ぐための注意点

  • 抗菌薬は必要な場合にのみ使用する
  • 処方された用法・用量を遵守する
  • 処方期間を守り、自己判断で服用を中止しない

免疫力の低下

抗菌薬の使用は、体内の正常な細菌叢にも影響を与え、腸内細菌叢のバランスが崩れると、免疫力の低下につながる可能性があります。

免疫力が低下すると、日和見感染のリスクが高まり、カンジダ症や他の感染症を引き起こしやすくなるため、注意が必要です。

抗菌薬の影響リスク
腸内細菌叢のバランス崩れ免疫力の低下
免疫力の低下日和見感染(カンジダ症など)のリスク増加

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料と再診料

初診料は、初めて医療機関を受診する際に必要な費用で、再診料は、同じ医療機関に2回目以降に受診する際の費用です。

費用項目金額
初診料3,000円~5,000円
再診料1,000円~2,000円

検査費と処置費

モラクセラ・カタラーリス感染症の診断には、血液検査や喀痰検査などが必要な場合があり、また、治療のために抗菌薬の処方や吸入療法などの処置が行われることもあります。

費用項目金額
検査費5,000円~10,000円
処置費数千円~数万円

入院費

重症のモラクセラ・カタラーリス感染症の場合、入院治療が必要です。

入院費は、1日あたり数万円から10万円以上で、入院期間によって総額が大きく変わります。

以上

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