心臓粘液腫(Cardiac myxoma)とは、心臓内の心房中隔や心房壁、心室壁から発生する良性腫瘍を指します。
心臓腫瘍の中で最も頻度が高く(50%)、特に30~60歳代の女性に多く見られる傾向です。
息切れや動悸、胸痛などが現れ、腫瘍の一部が剥がれて脳梗塞などの塞栓症状を引き起こすリスクもあるため、正確な診断と対応が求められます。
心臓粘液腫の主な症状
心臓粘液腫の主な症状は、全身倦怠感や体重減少、発熱、関節痛などが代表的です。
- 発熱、体重減少などの全身症状
- 脳梗塞、心筋梗塞などの塞栓症状
- 息切れ、むくみなどの心不全症状
- 特徴的な心雑音
全身症状
心臓粘液腫の方では、発熱、体重減少、倦怠感、食欲不振などの全身的な症状がみられます。
これらの症状は、腫瘍から分泌される物質が原因だと考えられています。
塞栓症状
心臓粘液腫では、腫瘍の一部が剥がれて血液に乗って全身に運ばれ、塞栓症を引き起こすリスクがあります。
脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓症などを発症するリスクがあり、注意が必要です。
心不全症状
腫瘍が心臓内で大きくなると、心臓の機能に影響を与え、息切れ、むくみ、倦怠感などの心不全症状を引き起こす可能性もあります。
心雑音
心臓粘液腫では、心臓内で腫瘍が成長することで血流に影響を与え、聴診により特徴的な心雑音が確認されます。
心臓粘液腫の原因
心臓粘液腫の正確な原因は不明ですが、一部の症例は遺伝性であることが知られており、遺伝子変異が関与している可能性が示唆されています。
遺伝子要因
特定の遺伝子異常が心臓粘液腫の発生に関連しているのではないかと推測されています。
また、ホルモンバランスの異常や、慢性的な炎症反応なども腫瘍形成に何らかの影響を及ぼしている可能性が指摘されています。
要因 | 概要 |
遺伝的要因 | 家族性発生の報告あり |
ホルモンバランスの異常 | 腫瘍形成への関与の可能性 |
その他の要因
特定の遺伝子変異と心臓粘液腫の関連性以外では、以下のような知見が得られています。
- 炎症性サイトカインの関与の可能性
- 組織増殖因子の異常発現との関連
これらの研究結果は断片的であり、全体像を説明するには至っていません。
診察(検査)と診断
心臓粘液腫の診断は、心エコー検査で腫瘍の有無や位置を確認し、必要に応じてCT検査やMRI検査などの画像診断を組み合わせ確定します。
身体所見
身体所見 | 所見例 |
心雑音 | 収縮期雑音、拡張期雑音 |
心不全症状 | 呼吸困難、浮腫 |
塞栓症状 | 脳梗塞、四肢の疼痛・チアノーゼ |
画像検査
心臓粘液腫を確実に診断するためには、心エコー検査やCT、MRIなどの画像検査が用いられます。
心エコー検査では、腫瘍がどこにあるのか、どのくらいの大きさなのか、動きはあるのかといった点を評価できます。
造影剤を用いたCTやMRI検査では、腫瘍の形や性質をさらに詳しく観察できるため、質的な診断に役立ちます。
検査方法 | 評価項目 |
心エコー | 腫瘍の位置、大きさ、可動性 |
造影CT | 腫瘍の形態、性状 |
造影MRI | 腫瘍の形態、性状 |
病理検査
手術で取り除かれた腫瘍は、病理検査に提出されます。
肉眼で見ると、粘液腫は柔らかくてゼリーのように半透明で、出血や壊死を伴っているのが特徴です。
顕微鏡で観察すると、粘液様の基質を背景に腫瘍細胞が散らばるように増殖している像が確認できます。
免疫組織化学的な検査を行うと、腫瘍細胞がvimentinなどの間葉系マーカーに陽性反応を示します。
病理所見 | 特徴 |
肉眼所見 | 柔らかく半透明のゼリー状、出血・壊死を伴う場合あり |
組織所見 | 粘液様基質を背景に腫瘍細胞が散在性に増殖 |
免疫組織化学 | 腫瘍細胞はvimentinなどの間葉系マーカーに陽性 |
心臓粘液腫の治療法と処方薬、治療期間
心臓粘液腫の可能性が高いと考えられる場合は、早急な外科的切除の実施が原則となっています。
手術療法
心臓粘液腫の治療の中心は、開心術による腫瘍の完全切除です。手術は体外循環下で行われ、腫瘍を心房壁や心室壁ごと切除します。
腫瘍の完全切除により良好な予後が期待できます。
手術方法 | 内容 |
体外循環下手術 | 人工心肺を用いて心臓を停止させた状態で行う |
腫瘍切除術 | 腫瘍を心房壁や心室壁ごと切除する |
薬物療法
心臓粘液腫には特異的な薬物療法はありません。手術前後に、以下のような薬剤が使用されます。
- 抗凝固薬:血栓形成予防のために使用
- 利尿薬:心不全症状がある場合に使用
- 抗不整脈薬:不整脈がある場合に使用
術後管理と経過観察
手術後は、心機能の評価や合併症の有無を確認するために定期的な経過観察が必要です。
一般的な術後管理は以下の通りです。
術後管理項目 | 内容 |
心機能評価 | 心エコー検査や心電図検査などで心機能を評価 |
抗凝固療法 | 血栓形成予防のために抗凝固薬を使用 |
創部管理 | 手術創の感染予防と適切な治癒の確認 |
治療期間
心臓粘液腫の手術時間は腫瘍の大きさや位置、合併症の有無などによって異なりますが、通常2~4時間程度です。
術後の入院期間は1~2週間程度で、その後は経過観察となります。
予後と再発可能性および予防
心臓粘液腫の術後再発率は低く、完全切除された症例の予後は良好です。ほとんどの場合、術後の経過は良好で、通常の生活に戻ることができます。
しかし、稀に遠隔転移や再発が報告されているため、長期的な経過観察が推奨されます。
心臓粘液腫の再発リスク因子
心臓粘液腫には再発のリスクが存在します。 再発の頻度は低いものの、完全切除後も数年から数十年後に再発したケースが報告されています。
特に、家族性心臓粘液腫症などの遺伝性の場合や、腫瘍が心臓の壁に深く浸潤している場合は再発のリスクが高まります。
再発のリスク因子としては、以下のようなものが考えられます。
リスク因子 | 説明 |
若年発症 | 若い年齢で発症した場合は再発リスクが高くなる |
多発性病変 | 複数の腫瘍が存在する場合は再発しやすい傾向にある |
不完全切除 | 腫瘍の一部が取り残されると再発の原因となり得る |
再発予防
手術後は定期的な心エコー検査やMRI検査などの画像検査を実施し、再発の有無をチェックします。
定期検査の項目 | 目的 |
心エコー検査 | 心臓内の腫瘍再発の有無を確認する |
胸部CT検査 | 肺や縦隔への転移の有無を調べる |
脳MRI検査 | 脳への塞栓症の有無を評価する |
心臓粘液腫の治療における副作用やリスク
心臓粘液腫の治療における主なリスクは、開胸手術に伴う一般的な合併症(出血、感染、不整脈など)や、まれに人工心肺の使用による合併症(脳梗塞、腎不全など)が挙げられます。
手術に伴う合併症のリスク
外科的切除の手術では、出血、感染、不整脈、心機能低下などの合併症が起こるリスクがあります。
合併症 | 発生率 |
出血 | 1-5% |
感染 | 1-3% |
人工心肺の使用による合併症のリスク
- 神経系合併症(脳梗塞、脳出血など)
- 循環器系合併症(不整脈、心機能低下)
- 腎機能障害
- 肺合併症
これらの合併症の発生率は、手術の種類や状態によって異なりますが、一般的には数%程度とされています。
重篤な合併症はまれであり、ほとんどの患者さんは術後順調に回復します。
抗凝固療法に伴う出血リスク
心臓粘液腫では術前・術後に血栓塞栓症予防のため抗凝固療法が行われますが、出血のリスクが高まります。
高齢者や腎機能低下患者では、特に慎重な管理が必要です。
- 頭蓋内出血
- 消化管出血
- 血尿
など、重篤な出血の可能性に注意が必要です。
術後の心機能への影響
腫瘍切除に伴う心筋切除により、術後に心機能が低下することがあります。
心不全症状が顕在化するリスクもあり、術後の心機能評価と管理が重要です。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
心臓粘液腫の治療費用は、症状の重篤度や治療方針によって大きく異なります。
高額療養費制度を利用した場合、自己負担額は数十万円程度となる場合が多いです。
検査費の目安
- 心エコー検査:10,000円〜20,000円程度
- 心臓カテーテル検査:100,000円〜200,000円程度
処置費の目安
心臓粘液腫の治療では開胸手術により腫瘍を切除するのが一般的で、手術の費用は、100万円〜200万円程度と高額になります。
入院費
心臓粘液腫の治療では、手術後に1〜2週間程度の入院が必要です。
入院費は、1日あたり10,000円〜20,000円程度が目安となります。
以上
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