緑膿菌感染症

緑膿菌感染症(pseudomonas aeruginosa infection)とは、緑膿菌という細菌が原因で発症する感染症の総称です。

この細菌は自然界に広く生息しており、健康な人が感染することはまれですが、免疫力が低下している人や呼吸器疾患を持っている人、入院中の患者さんなどでは日和見感染を引き起こす可能性があります。

感染した部位によって、肺炎、尿路感染症、創傷感染、敗血症など多岐にわたる症状が現れます。

この細菌は抗菌薬に対する耐性を獲得しやすいという特徴を持っているため、治療が難航するケースも少なくありません。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

緑膿菌感染症の種類(病型)

緑膿菌感染症は多様な病型を示し、それぞれに特有の症状や経過があります。

呼吸器感染症

緑膿菌は肺炎や気管支炎などの呼吸器感染症を引き起こします。

免疫力が低下している患者さんや慢性呼吸器疾患がある患者さんで発症しやすく、重症になると呼吸不全になることもあるので注意が必要です。

病型特徴
肺炎発熱、咳、膿性痰などの症状を呈する
気管支炎慢性的な咳や痰の増加を認める

尿路感染症

緑膿菌は尿路感染症の原因菌の一つです。

カテーテルを留置している患者さんや尿路に奇形がある患者さんで感染リスクが高く、膀胱炎や腎盂腎炎などを起こし、時には敗血症に進展することがあります。

敗血症

緑膿菌が血液中に入り込み、全身に感染が広がった状態が敗血症で、免疫力が極度に低下した患者さんで発症しやすく、治療を行わないと命に関わることがあります。

  • 発熱
  • 血圧低下
  • 意識障害
  • 多臓器不全

などの深刻な症状が現れます。

皮膚軟部組織感染症

怪我や熱傷などをきっかけに、緑膿菌が皮膚や軟部組織に感染することがあります。

病型特徴
創傷感染外傷や手術創から感染し、膿の貯留や炎症所見を認める
熱傷感染広範囲の熱傷部位に緑膿菌が定着し、感染を引き起こす
外耳道炎外耳道の炎症で、耳漏や耳痛などの症状を呈する

この他にも、角膜感染症、中枢神経系感染症(髄膜炎、脳膿瘍など)、骨関節感染症(化膿性関節炎、骨髄炎など)などの病型があります。

緑膿菌感染症の主な症状

緑膿菌感染症の主な症状は、感染部位や病型によって大きく異なります。

呼吸器感染症

呼吸器感染症の症状は、発熱、咳嗽、喀痰増加、呼吸困難などです。さらに、胸部画像検査で肺炎像や肺膿瘍が認められることも。

慢性呼吸器疾患を有する患者さんでは、既存の呼吸器症状が急速に悪化しやすく、重症例では、呼吸不全に至り、人工呼吸管理が必要となることもあります。

症状・所見詳細
発熱38度以上の高熱が持続し、抗菌薬治療に反応しにくいことがある
膿性痰緑色や黄色の膿性痰が特徴的で、量が増加する

尿路感染症

尿路感染症では、頻尿、排尿時痛、血尿などの症状に加え、腰背部痛や発熱を伴い、カテーテル留置患者さんでは、無症候性細菌尿から症候性の尿路感染症へと進展することがあります。

複雑性尿路感染症では、腎盂腎炎や前立腺炎などの上部尿路感染症に至る可能性も。

敗血症

敗血症では、高熱、低血圧、頻呼吸、意識障害などの全身症状が急速に進行し、感染源から血液培養で緑膿菌が検出されることが診断の決め手です。

敗血症性ショックでは、循環不全や多臓器不全を引き起こし、致死率が高くなります。

症状・所見詳細
高熱40度近くまで上昇し、抗菌薬治療に反応しにくい
低血圧収縮期血圧が90mmHg以下でショック状態に陥る

皮膚軟部組織感染症

皮膚軟部組織感染症では、感染部位の発赤、腫脹、疼痛、膿瘍形成などの局所症状が見られ外傷や、手術創からの創傷感染、熱傷部位からの感染では、感染が急速に拡大する場合があります。

重症化すると、ecthyma gangrenosum (エクティマ・ガングレノーズム))と呼ばれる特徴的な壊死性皮膚病変を形成することもあり、注意が必要です。

  • 発赤・腫脹:感染部位を中心に拡大する
  • 疼痛:自発痛や圧痛を伴う
  • 膿瘍形成:皮下や深部組織に膿瘍を形成する
  • 壊死性病変:ecthyma gangrenosum などの壊死性皮膚病変を伴うことがある

角膜感染症眼痛:視力低下、角膜潰瘍などの症状が見られ、初期症状として、眼の異物感や充血が現れることがあります。 角膜潰瘍が進行すると、角膜穿孔や眼内炎に至る可能性があります。

中枢神経系感染症:発熱、頭痛、意識障害、痙攣などの重篤な症状が見られます。 髄液検査で多核白血球増加や緑膿菌の検出が診断の手がかりとなります。

髄膜炎:髄膜刺激症状や脳神経症状を伴います。

脳膿瘍:局所神経症状や頭蓋内圧亢進症状が現れます。

骨関節感染症:発熱、疼痛、腫脹、関節可動域制限などの症状が見られます。

人工関節感染:持続する関節痛や感染徴候が特徴的です。

化膿性関節炎:急性発症の単関節炎が典型的であり、関節液からの緑膿菌の検出が診断の決め手となります。

骨髄炎:深部の疼痛や発赤、腫脹などの局所症状に加え、骨破壊や骨硬化などの画像所見が認められます。

緑膿菌感染症の原因・感染経路

緑膿菌感染症は、緑膿菌という細菌が原因となって発症する感染症です。

緑膿菌とは

緑膿菌は、自然環境中に広く存在するグラム陰性桿菌の一種です。

湿った環境を好み、土壌や水中、植物の表面、また、健康な人の皮膚や腸管内にも常在菌として存在することも。

緑膿菌は日和見感染を起こすことで知られており、健康な人への感染力は弱いものの、免疫力の低下した人や呼吸器疾患のある人などに感染すると重篤な症状を引き起こす可能性があります。

特徴説明
グラム陰性桿菌細胞壁の構造によって分類されるグラム陰性菌に属する
環境への適応力湿った環境を好み、幅広い環境で生息可能

感染経路

緑膿菌感染症の主な感染経路

  1. 接触感染
  2. 飛沫感染
  3. 医療器具を介した感染

緑膿菌は環境中に広く存在するため、汚染された手指や医療器具などを介して感染が広がる場合があり、特に病院内での感染拡大が問題視されており、感染対策が不可欠です。

感染経路具体例
接触感染汚染された手指や物品との接触
飛沫感染咳やくしゃみなどによる飛沫の吸入

ハイリスク群

緑膿菌感染症は、特定のハイリスク群に感染しやすい傾向があります。

緑膿菌感染症のリスクが高い人

  • 免疫力が低下している人(がん患者、移植患者など)
  • 呼吸器疾患のある人(慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症など)
  • 長期入院患者や医療処置を受けている人

これらのハイリスク群に属する人は、感染予防に十分な注意を払う必要があります。

診察(検査)と診断

緑膿菌感染症の診断は、臨床症状と各種検査所見を総合的に評価して行われます。

病歴聴取と身体診察

まず、発熱や感染徴候などの臨床症状を確認し、感染部位を特定し、基礎疾患や医療関連因子などの背景情報も重要な手がかりとなります。

病歴聴取身体診察
発熱の有無と経過バイタルサイン
感染症状の部位と程度感染局所の視診・触診

細菌学的検査

確定診断には、感染部位からの検体採取と細菌学的検査が不可欠です。 検体から緑膿菌が分離・同定されることで診断が確定します。

  • 喀痰や気管吸引液の塗抹検査とグラム染色
  • 膿や浸出液の培養検査
  • 血液培養検査(敗血症が疑われる場合)
  • 薬剤感受性試験
検体検査方法
呼吸器検体塗抹検査、培養検査
尿検体尿沈渣検査、培養検査

画像検査

感染巣の評価や合併症の診断には、画像検査が有用です。

  • 呼吸器感染症:胸部X線検査やCT検査で肺炎像や膿瘍形成の有無を評価します。
  • 尿路感染症:腎盂造影検査や腹部CT検査で腎盂腎炎や膿瘍形成の有無を確認します。

侵襲的検査

重症感染症や深部感染症では、局所検体採取のための侵襲的検査が必要になることがあります。

肺炎や膿胸では気管支鏡検査、髄膜炎では腰椎穿刺、骨髄炎では骨生検などを考慮することに。

緑膿菌感染症の治療法と処方薬、治療期間

緑膿菌感染症の治療は、感染部位や重症度に応じて抗菌薬の投与を中心に行われます。

抗菌薬治療の重要性

緑膿菌は多剤耐性を獲得しやすい細菌であるため、感受性のある抗菌薬を選択することが重要です。

抗菌薬感受性試験の結果に基づいて、抗菌薬を使用することが治療の成功につながります。

抗菌薬の種類具体例
ニューキノロン系シプロフロキサシン、レボフロキサシン
アミノグリコシド系ゲンタマイシン、トブラマイシン

抗菌薬の投与方法と治療期間

抗菌薬の投与方法は、感染部位や重症度によって異なります。 軽症の場合は経口投与、重症の場合は点滴静注による投与が行われることが多いです。

治療期間は、感染症の種類や重症度によって異なりますが、通常は2〜3週間程度の投与が必要とされています。

ただし、免疫力が低下している患者や難治性の感染症の場合は、さらに長期の治療を要することも。

感染症の種類治療期間の目安
肺炎2〜3週間
尿路感染症7〜14日間

外科的治療の適応

抗菌薬治療に反応しない難治性の感染症や、膿瘍形成を伴う感染症などでは、外科的治療が必要となる場合があります。

外科的治療の適応を考慮する状態

  • 抗菌薬治療に反応しない感染症
  • 膿瘍や壊死組織を伴う感染症
  • 人工物関連感染症(カテーテル感染など)

外科的治療では、感染部位のデブリードマンや膿瘍のドレナージ、感染組織の切除などが行われます。

予後と再発可能性および予防

緑膿菌感染症の治療予後は、感染部位や患者背景によって大きく異なり、再発のリスクは比較的高いです。

治療予後を左右する因子

治療予後は、感染症の重症度や患者の基礎疾患、免疫状態などによって影響を受け、敗血症や人工呼吸器関連肺炎などの重症感染症では、死亡率が高くなります。

予後不良因子詳細
重症感染症敗血症、人工呼吸器関連肺炎など
基礎疾患免疫不全、慢性呼吸器疾患など

再発のリスク因子

緑膿菌感染症では、治療後も再発することがあります。

再発のリスクが高くなる要因

  • 医療関連感染のリスク因子(人工呼吸器、尿道カテーテルなど)の存在
  • 感染巣の不十分なドレナージや外科的処置
  • 間違った抗菌薬の選択や治療期間の不足
  • 薬剤耐性緑膿菌の関与
再発リスク因子対策
医療関連因子早期抜去、定期的な管理
感染巣の残存ドレナージや外科的処置

再発予防のための対策

再発を予防するための対策

  1. 医療関連感染のリスク因子を可能な限り早期に除去する
  2. 感染巣に対する適切なドレナージや外科的処置を行う
  3. 薬剤感受性に基づいた適切な抗菌薬の選択と十分な治療期間の確保
  4. 薬剤耐性緑膿菌の監視と感染対策の徹底

長期的な予後改善のために

長期的な予後を改善するためには、基礎疾患の管理と感染予防対策の徹底が不可欠です。

特に、医療関連感染のハイリスク患者さんでは、日常的な感染対策の遵守が求められます。

緑膿菌感染症の治療における副作用やリスク

緑膿菌感染症の治療に使用される抗菌薬は、副作用やリスクを伴う場合があります。

抗菌薬の副作用

緑膿菌感染症の治療に抗菌剤の副作用

抗菌薬の種類主な副作用
ニューキノロン系消化器症状(悪心、下痢など)、中枢神経症状(頭痛、めまいなど)、アキレス腱炎
アミノグリコシド系腎障害、聴力障害、前庭機能障害

アレルギー反応のリスク

抗菌薬の使用により、アレルギー反応を起こすリスクがあります。

アレルギー反応の可能性を考慮すべき症状

  • 皮疹や発疹
  • 呼吸困難や喘鳴
  • 血圧低下やショック症状

アレルギー反応が疑われる場合は、直ちに抗菌薬の投与を中止し、処置を行うことが大切です。

アレルギー反応の種類症状
即時型アレルギー反応薬剤投与後数分から数時間以内に発症、蕁麻疹、血管浮腫、アナフィラキシーショックなど
遅延型アレルギー反応薬剤投与後数日から数週間後に発症、薬疹、血液障害、臓器障害など

耐性菌の出現リスク

緑膿菌は抗菌薬に対する耐性を獲得しやすい細菌であり、抗菌薬の乱用により耐性菌が出現するリスクがあります。

耐性菌の出現を防ぐための注意点

  • 抗菌薬の不必要な使用を避ける
  • 感受性試験の結果に基づいて適切な抗菌薬を選択する
  • 十分な用量と期間の投与を行う

基礎疾患による合併症のリスク

緑膿菌感染症の治療中は、基礎疾患による合併症のリスクにも注意が必要です。

合併症のリスクが高い基礎疾患

  • 糖尿病
  • 悪性腫瘍
  • 慢性呼吸器疾患
  • 免疫抑制状態

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料と再診料

初診料は、3,000円から5,000円程度、再診料は、1,000円から2,000円程度です。

項目費用
初診料3,000円~5,000円
再診料1,000円~2,000円

検査費と処置費

検査費は、細菌培養検査や薬剤感受性試験などで数万円から10万円以上かかり、処置費は、膿瘍のドレナージや外科的処置などで数万円から数十万円かかる場合もあります。

項目費用
細菌培養検査数万円
薬剤感受性試験数万円

入院費

重症感染症では、入院治療が必要で、 1日あたりの入院費は、1万円から5万円程度です。

以上

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