リーシュマニア症 – 感染症

リーシュマニア症(leishmaniasis)とは、リーシュマニア原虫への感染によって引き起こされる感染症です。

この感染症は主に熱帯・亜熱帯地域で流行しており、サシチョウバエやサンドフライといった昆虫が媒介して広がります。

世界保健機関(WHO)の推定では、毎年約100万人が新たにリーシュマニア症に感染しています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

目次[

リーシュマニア症の種類(病型)

リーシュマニア症には、主に皮膚リーシュマニア症、粘膜皮膚リーシュマニア症、内臓リーシュマニア症の3つの病型があります。

皮膚リーシュマニア症

皮膚リーシュマニア症は、リーシュマニア症の中で最も一般的な病型で、皮膚に限局した病変を引き起こし、潰瘍や結節などの皮膚症状が特徴的です。

病変部位皮膚
症状潰瘍、結節
予後比較的良好

粘膜皮膚リーシュマニア症

粘膜皮膚リーシュマニア症は、皮膚症状に加えて、粘膜の病変を伴い、口腔内や鼻腔内の粘膜に潰瘍や腫脹が見られることがあります。

  • 皮膚と粘膜の両方に病変が生じる
  • 口腔内や鼻腔内の粘膜症状が特徴的
  • 治療が奏功しない場合、重症化のリスクがある

内臓リーシュマニア症

内臓リーシュマニア症は、リーシュマニア症の中で最も重篤な病型です。

肝臓、脾臓、骨髄などの内臓に寄生虫が感染し、全身性の症状を引き起こします。

病変部位内臓(肝臓、脾臓、骨髄など)
症状発熱、肝脾腫、貧血など
予後適切な治療がなければ致死的

病型による重症度の違い

リーシュマニア症の病型によって、重症度は大きく異なります。

粘膜皮膚リーシュマニア症は、皮膚と粘膜の両方に症状が現れ、重症化のリスクがあり、内臓リーシュマニア症は致死的になることがあります。

リーシュマニア症の主な症状

リーシュマニア症の症状は、感染したリーシュマニア原虫の種類や感染部位によって違ってきます。

皮膚リーシュマニア症の症状

皮膚リーシュマニア症では、皮膚に潰瘍や結節が形成され、潰瘍は徐々に拡大し、治癒までに数ヶ月から数年を要することがあります。

多くのケースで自然治癒しますが、瘢痕を残すことも。

症状特徴
潰瘍徐々に拡大し、治癒まで数ヶ月から数年
結節皮膚に形成される

粘膜皮膚リーシュマニア症の症状

皮膚と粘膜の両方に症状が現れ、皮膚には潰瘍や結節が形成され、鼻腔や口腔粘膜に潰瘍が生じます。

重症化すると、鼻中隔穿孔や口蓋欠損などの顔面変形を引き起こすことにも。

内臓リーシュマニア症の症状

発熱、脾腫、肝腫、貧血、体重減少などの全身症状が現れます。

症状特徴
発熱不規則な発熱が継続
脾腫脾臓が腫大
肝腫肝臓が腫大
貧血ヘモグロビン値の低下
体重減少徐々に体重が減少

その他の症状

その他の症状が現れることもあります。

  • リンパ節腫脹
  • 汎血球減少
  • 低アルブミン血症

リーシュマニア症の原因・感染経路

リーシュマニア症は、リーシュマニア属の原虫が原因で、サシチョウバエの媒介によって感染します。

リーシュマニア原虫

リーシュマニア症の原因となるのは、リーシュマニア属の原虫で、ヒトや動物の体内で増殖し、さまざまな症状を引き起こします。

リーシュマニア原虫の種類引き起こす病型
L. tropica皮膚リーシュマニア症
L. braziliensis粘膜皮膚リーシュマニア症
L. donovani内臓リーシュマニア症

サシチョウバエによる媒介

リーシュマニア原虫は、サシチョウバエによって媒介され、サシチョウバエがリーシュマニア原虫に感染した動物やヒトを吸血すると、原虫がサシチョウバエの体内で増殖します。

その後、感染したサシチョウバエが別のヒトを吸血する際に、リーシュマニア原虫がヒトの体内に侵入し、感染。

  • – サシチョウバエは、リーシュマニア原虫の主要な媒介動物である
  • – サシチョウバエの吸血によって、リーシュマニア原虫がヒトからヒトへと伝播される
  • – サシチョウバエの生息地域では、リーシュマニア症のリスクが高い

感染動物からヒトへの感染

リーシュマニア原虫に感染した動物からヒトへの感染も報告されています。

感染動物の体内で増殖したリーシュマニア原虫が、動物からヒトへと直接的または間接的に伝播されます。

感染動物の例感染経路
イヌサシチョウバエ媒介
ネズミサシチョウバエ媒介
キツネ直接接触

リーシュマニア症の発生地域

リーシュマニア症は、主に熱帯および亜熱帯地域で発生し、サシチョウバエの生息地域と重なっています。

診察(検査)と診断

リーシュマニア症の診断では、臨床症状と検査所見を総合的に判断します。

問診と身体診察

患者の渡航歴や症状の詳細を聞き、皮膚や粘膜の病変を観察します。

問診項目身体診察
渡航歴皮膚の病変
症状の詳細粘膜の病変

臨床検査

行われる臨床検査

  • 血液検査:貧血、白血球減少、血小板減少などを確認
  • 生化学検査:肝機能、腎機能などを評価
  • 血清学的検査:リーシュマニア原虫に対する抗体を検出

病理組織検査

皮膚や粘膜の病変部から組織を採取し、リーシュマニア原虫の有無を顕微鏡で確認します。

検査目的
病理組織検査リーシュマニア原虫の有無を確認
免疫組織化学染色リーシュマニア原虫を特異的に検出

分子生物学的検査

病変部の組織や血液からDNAを抽出し、PCR法によりリーシュマニア原虫のDNAを検出し、種の同定も可能で、確定診断に使用されます。

リーシュマニア症の治療法と処方薬

リーシュマニア症の治療は、病型や重症度に応じて治療法と処方薬が選択されます。

抗リーシュマニア薬

リーシュマニア症の治療には、抗リーシュマニア薬が使用され、五価アンチモン剤であるメグルミン・アンチモン酸ナトリウムやステボグルコン酸ナトリウムが第一選択薬です。

薬剤名投与経路
メグルミン・アンチモン酸ナトリウム筋肉内注射
ステボグルコン酸ナトリウム静脈内注射

ペンタミジンとアムホテリシンB

五価アンチモン剤が効かなかった場合、ペンタミジンやアムホテリシンBが代替薬として使用され、重症例や難治性の症例に対して有効性が期待できます。

  • – ペンタミジン: 筋肉内注射または静脈内注射で投与
  • – アムホテリシンB: 静脈内注射で投与
  • – いずれも副作用のリスクが高く、慎重なモニタリングが必要

ミルテホシンとパロモマイシン

経口投与可能な抗リーシュマニア薬としてミルテホシンが、また、局所治療薬としてパロモマイシン軟膏の有効性も報告されています。

薬剤名投与経路
ミルテホシン経口投与
パロモマイシン軟膏局所塗布

病型に応じた治療戦略

リーシュマニア症の治療は、病型によって異なるアプローチが必要で、皮膚リーシュマニア症では局所治療が中心となりますが、粘膜皮膚型や内臓型では全身治療が必須です。

また、免疫抑制状態の患者さんでは、免疫機能の回復を図ることも大切になってきます。

治療に必要な期間と予後について

リーシュマニア症の治療期間と予後は、感染したリーシュマニア原虫の種類や感染部位、患者さんの免疫状態などによって異なります。

膚リーシュマニア症の治療期間と予後

皮膚リーシュマニア症の治療期間は通常数週間から数ヶ月です。

多くのケースで自然治癒することがありますが、瘢痕を残すことがあります。

治療法治療期間
局所治療数週間から数ヶ月
全身治療数週間から数ヶ月

治療を行えば、予後は良好です。

粘膜皮膚リーシュマニア症の治療期間と予後

粘膜皮膚リーシュマニア症の治療期間は、数ヶ月から1年以上に及ぶことがあります。

治療に反応しなかったり再発することがあり、顔面変形などの後遺症を残すこともあります。

治療法治療期間
全身治療数ヶ月から1年以上
局所治療数ヶ月から1年以上

内臓リーシュマニア症の治療期間と予後

内臓リーシュマニア症の治療期間は、通常数週間から数ヶ月で、治療を行わないと、致死率が高くなり、また、治療開始が遅れると、予後不良となる可能性があります。

リーシュマニア症の治療における副作用やリスク

リーシュマニア症の治療では、用いられる薬剤による副作用やリスクがあります。

五価アンチモン剤の副作用

五価アンチモン剤は、リーシュマニア症の第一選択薬ですが、副作用のリスクが高いです。

副作用発生頻度
肝機能障害10-20%
心電図異常10-30%
膵炎5-10%

副作用は、定期的なモニタリングにより早期発見と対処が可能ですが、重篤な副作用が疑われる場合は、速やかに薬剤の中止を検討する必要があります。

ペンタミジンとアムホテリシンBの副作用

ペンタミジンとアムホテリシンBは、五価アンチモン剤が無効または禁忌のときに使用されますが、重大な副作用のリスクがあります。

  • – ペンタミジン: 低血糖、急性膵炎、腎機能障害など
  • – アムホテリシンB: 発熱、悪寒、腎機能障害、電解質異常など

ミルテホシンの副作用

ミルテホシンは、経口投与可能な抗リーシュマニア薬として注目されると同時に、副作用のリスクも報告されています。

副作用発生頻度
消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)20-30%
肝機能障害5-10%
血球減少1-5%

免疫抑制状態における感染リスク

リーシュマニア症の患者が免疫抑制状態にある場合、日和見感染のリスクが高まります。

特に内臓リーシュマニア症では、免疫抑制状態が治療抵抗性や再発のリスク因子です。

また、薬剤の相互作用にも注意が必要です。

予防方法

リーシュマニア症の一番の予防は、サシチョウバエやサンドフライといった媒介昆虫に刺されないようにすることで、流行地域への渡航者は特に注意してください。

媒介昆虫に刺されないための対策

以下のような対策を行うことで、媒介昆虫に刺されるリスクを減らせます。

  • 長袖シャツや長ズボンを着用する
  • 虫除けスプレーや虫除けクリームを使用する
  • 網戸や蚊帳を使用する
  • 屋外での活動を減らす
対策効果
長袖シャツや長ズボンの着用肌の露出を減らし、刺されるリスクを低減
虫除けスプレーや虫除けクリームの使用媒介昆虫を寄せ付けにくくする

住環境の改善

媒介昆虫の生息地となる場所を減らすことも、予防には大切です。

対策効果
ごみの適切な処理媒介昆虫の繁殖を防ぐ
植生の管理媒介昆虫の隠れ家を減らす

動物との接触に注意

感染動物との接触によって感染することもあるため、注意が必要です。

  • 感染が疑われる動物との接触を避ける
  • 動物に触れた後は手洗いを徹底する

ワクチンと予防薬

現在、リーシュマニア症に対する有効なワクチンはありませんが、一部の地域では、犬用のワクチンが使用されています。

また、ある種の抗マラリア薬が予防薬として使用されることがあります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

リーシュマニア症の治療費用は、一般的に高額となる傾向にあります。

検査費

リーシュマニア症の確定診断には、血液検査や組織検査が必要で、これらの検査費用は数万円に上ることがあります。

PCR検査は1回につき約3万円、血清抗体検査は約1万円です。

検査名費用
PCR検査約3万円
血清抗体検査約1万円

処置費

リーシュマニア症の治療には、抗寄生虫薬の投与が必要で、薬剤費として数十万円かかることがあり、また、重症例では入院治療が必要となり、入院費も高額になります。

治療内容費用
抗寄生虫薬数十万円
入院治療数十万円~数百万円

以上

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