伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん) – 感染症

伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)(impetigo)いわゆる「とびひ」とは、黄色ブドウ球菌や溶血性レンサ球菌などの細菌感染によって引き起こされる皮膚の病気です。

皮膚の防御機能が低下している部分から細菌が侵入することで、表皮の浅い層で感染が広がり発症します。

この疾患は小児に多く見られますが、成人の感染者数も増加傾向にあります。

感染部位の皮膚には水疱やびらんが生じ、それが破れて黄色の浸出液が染み出し、黄色のかさぶた(痂皮)を形成するのが特徴です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)の種類(病型)

伝染性膿痂疹には、非角化型と角化型の2つの病型があります。

非角化型(痂皮型)

非角化型は、さらに浅在性膿疱型と蜂巣炎型に分類されます。

浅在性膿疱型:表皮の浅い部分に発生する小さな膿疱が特徴的で、この膿疱は容易に破れて黄色い痂皮を形成。

蜂巣炎型:皮膚の深部にまで炎症が及ぶため、より重症な症状を呈し、 発赤、腫脹、熱感を伴う境界明瞭な紅斑が出現し、発熱や倦怠感を伴う。

病型特徴
浅在性膿疱型表皮の浅い部分に発生する小さな膿疱
蜂巣炎型皮膚の深部にまで炎症が及ぶ

角化型(水疱型)

角化型は、角層下に水疱が形成されるのが特徴です。 水疱は比較的大きく、破れにくい傾向があります。

また、水疱内容物は清明であり、膿性になることはまれです。

角化型の特徴

  • 角層下に形成される水疱
  • 比較的大きな水疱
  • 水疱内容物は清明
病型頻度
非角化型高い
角化型低い

病型による臨床像の違い

非角化型と角化型では、臨床像に違いがみられます。

非角化型は、急性の経過をたどり、自覚症状を伴うことが多いのに対し、角化型は、比較的緩徐な経過をたどり、自覚症状に乏しいです。

また、非角化型では、リンパ節腫脹を伴うことがありますが、角化型ではリンパ節腫脹を伴うことはまれです。

伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)の主な症状

伝染性膿痂疹では、それぞれの病型に特有の症状が現れます。

非角化型の症状

非角化型のうち、浅在性膿疱型では、皮膚に直径2〜5mmほどの小さな水疱が多数発生します。

これらの水疱は表皮内にとどまり、すぐに破れて黄色の浸出液を漏出するのが特徴です。 浸出液が乾燥すると、分厚い痂皮が形成されます。

部位特徴
顔面口周り、鼻周り、眼瞼などに好発
四肢手足の関節部、特に屈側に多発
体幹腋窩、鼠径部などの間擦部に見られる

痂皮は黄褐色を呈し、融合して大きなものになることもあり、 びらんが広がると、ジュクジュクした湿潤面が現れます。

一方、蜂巣炎型は、皮膚の深部にある毛嚢や汗腺にまで感染が及ぶタイプです。

発赤、腫脹、圧痛が顕著で、丘疹や結節を触れることができ、リンパ管や所属リンパ節の腫脹・疼痛を伴う場合もあります。

病型炎症の深さ自覚症状
浅在性膿疱型表皮内軽度の痒み
蜂巣炎型真皮まで疼痛、熱感

角化型の症状

角化型は、水疱ができ、大きさは直径5mm以上と比較的大きく、周りに赤みが見られ、中身は白濁した膿性で、時間が経つにつれて混濁してきます。

水疱が破れた後は、びらんを形成し、漿液性の浸出液が出て、その後黄色〜茶色の分厚い痂皮で覆われるように。

  • 水疱は多房性のことがある
  • びらんは不整形で、融合傾向がある
  • 痂皮が剥がれると、紅色のびらん面が現れる
  • 掻破により線状の痂皮を形成する

角化型では、非角化型よりも痒みが強いです。 掻きむしることで二次感染が生じやすく、症状が長引く可能性があります。

また、免疫力が低下している患者さんの場合、全身に皮疹が広がることがあるため、注意が必要です。

このようなケースでは、全身倦怠感や発熱などの全身症状を伴うことがあります。

伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)の原因・感染経路

とびひは、主にブドウ球菌属の細菌感染が原因で発症する皮膚の感染症です。 また、まれにA群溶血性レンサ球菌の感染によっても引き起こされることがあります。

ブドウ球菌属による感染

とびひの原因として最も一般的なのは、ブドウ球菌属の細菌感染です。 特に、黄色ブドウ球菌が主要な原因菌として知られています。

原因菌特徴
黄色ブドウ球菌・最も一般的な原因菌・健常人の皮膚や鼻腔内にも常在する
表皮ブドウ球菌・比較的まれな原因菌・健常人の皮膚に常在する

黄色ブドウ球菌は、健康な人の皮膚や鼻腔内にも存在していますが、皮膚のバリア機能が低下したり、免疫力が低下したりした際に感染を起こすことがあります。

また、毒素を産生する能力の高い特定の株に感染した場合、重症化のリスクが高いです。

A群溶血性レンサ球菌による感染

とびひの原因として、A群溶血性レンサ球菌による感染も報告されています。 ただし、ブドウ球菌属による感染と比べると、頻度は低いです。

A群溶血性レンサ球菌は、咽頭炎や丹毒などの原因菌としても知られており、皮膚の感染症の原因になることがあります。

感染経路

とびひの感染経路には

  • 直接接触による感染
    • 感染者の皮膚の病変部分や鼻腔内の細菌が、直接的な接触によって伝播する
  • 間接接触による感染
    • 感染者が使用したタオル、衣類、寝具などを介して伝播する
  • 自家感染
    • 感染者自身の他の部位(鼻腔内など)からの細菌が、皮膚に伝播する

特に、乳幼児や高齢者、免疫力が低下している人は、感染のリスクが高く、また、皮膚に傷や湿疹がある際も、細菌が侵入しやすくなるため注意が必要です。

感染リスクが高い人理由
乳幼児免疫力が未発達であるため
高齢者免疫力の低下や皮膚のバリア機能の低下があるため
免疫力の低下した人基礎疾患や治療によって感染防御能が低下しているため

診察(検査)と診断

伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)の診断には、詳細な病歴聴取と身体所見の観察が必要です。

病歴聴取の重要性

伝染性膿痂疹の診断において、まず重要なのは詳細な病歴聴取です。

発症時期、症状の経過、接触者の有無、基礎疾患の有無などを確認することで、伝染性膿痂疹かどうかを診断します。

特に、以下のような情報を聴取することが大切です。

  • 発症時期と症状の経過
  • 接触者の有無
  • 基礎疾患の有無
  • 既往歴(アトピー性皮膚炎など)
聴取項目内容
発症時期いつ頃から症状が出現したか
症状の経過症状がどのように変化してきたか

身体所見の観察

次に、身体所見の詳細な観察が必要です。

伝染性膿痂疹では、特徴的な皮疹が認められ、 浅在性の小水疱や膿疱が多発し、それらが破れて黄色の痂皮を形成する所見が観察されます。

また、皮疹の分布や性状も重要な情報です。

観察項目内容
皮疹の種類小水疱、膿疱、痂皮など
皮疹の分布顔面、四肢などの好発部位

細菌学的検査の役割

臨床所見から伝染性膿痂疹が強く疑われる場合、確定診断のために細菌学的検査を行うことがあります。

膿疱内容物のグラム染色や培養検査により、原因菌の同定が可能です。ただし、通常は臨床所見だけで、細菌学的検査は必ずしも必要ではありません。

鑑別診断の重要性

伝染性膿痂疹の診断においては、他の皮膚感染症との鑑別が重要です。

特に、以下のような疾患との鑑別を考慮する必要があります。

  • 伝染性軟属腫
  • 膿痂疹
  • 単純ヘルペス
  • 水痘

これらの疾患は、伝染性膿痂疹と類似した皮疹を呈することがあるため、詳細な病歴聴取と身体所見の観察に基づいた慎重な鑑別が求められます。

伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)の治療法と処方薬、治療期間

とびひの治療は、原因となる細菌を除去し、感染拡大を防ぐことを目的として行われます。

局所療法

局所型のとびひに対しては、局所療法が第一選択です。 局所療法では、抗菌薬を含んだ軟膏やクリームを患部に塗布し、細菌の増殖を抑制します。

処方薬特徴
ゲンタマイシン軟膏アミノグリコシド系抗菌薬を含有
バシトラシン軟膏ポリペプチド系抗菌薬を含有
ムピロシン軟膏ムピロシンを含有

軟膏やクリームは、1日数回、患部に塗布し、7~14日間の治療期間で症状の改善が得られます。

ただし、病変が広範囲に及ぶ際や全身状態が不良な際は、全身療法の併用が検討されることに。

全身療法

全身型のとびひや、局所療法で改善が得られない症例に対しては、全身療法が選択されます。

全身療法は、経口または静脈内投与による抗菌薬の全身投与です。

処方薬特徴
セファレキシン第一世代セフェム系抗菌薬
セフジニル第三世代セフェム系抗菌薬
クラリスロマイシンマクロライド系抗菌薬

予後と再発可能性および予防

伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん) は、治療により予後は良好ですが、再発の可能性があり、予防が極めて重要です。

伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん) の予後

伝染性膿痂疹は、抗菌薬による治療で多くの場合は速やかに改善し、通常、治療開始から数日で皮疹は乾燥し、痂皮化が始まります。

完全治癒までには1〜2週間程度を要しますが、合併症がなければ予後は良好です。

ただし、治療が遅ると、皮疹が拡大し重症化する可能性があります。

また、まれではありますが、敗血症などの全身性合併症を引き起こすこともあるため注意が必要です。

治療開始時期予後
早期良好
遅延重症化の可能性あり

伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん) の再発

伝染性膿痂疹は、一度治癒しても再発することがあります。

再発の原因

  • 不十分な治療
  • 抵抗力の低下
  • 不適切なスキンケア
  • 濃厚接触者からの再感染

再発を防ぐためには、十分な期間の抗菌薬投与と、スキンケアが重要です。

また、家族内での感染拡大を防ぐために、患者さんの隔離や濃厚接触者の治療も必要となります。

再発リスク因子対策
不十分な治療抗菌薬の選択と十分な治療期間の確保
濃厚接触者からの再感染患者の隔離と濃厚接触者の治療

伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん) の予防

伝染性膿痂疹の予防には、以下のような対策が有効です。

  • 手洗いの徹底
  • 皮膚の清潔な状態の維持
  • 皮膚の乾燥予防
  • 傷やあかぎれの処置
  • 感染者との接触の回避

特に、保育園や学校などでの集団生活では、感染拡大のリスクが高まります。

伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)の治療における副作用やリスク

とびひの治療には、抗菌薬の使用に伴う副作用やリスクがあります。

抗菌薬による副作用

とびひの治療に用いられる抗菌薬は、局所療法、全身療法を問わず、副作用を引き起こす可能性があります。

副作用の種類具体的な症状
アレルギー反応発疹、掻痒感、蕁麻疹など
消化器症状悪心、嘔吐、下痢、腹痛など
肝機能障害肝酵素値の上昇、黄疸など
血液障害貧血、白血球減少、血小板減少など

副作用は、使用する抗菌薬の種類や投与量、患者さんの個人差によって、発現頻度や重症度が異なります。

菌交代現象とカンジダ症

抗菌薬の使用によって、本来の原因菌以外の細菌やカビが異常増殖することがあります。

この現象を菌交代現象と言い、とびひの治療においても注意が必要です。

菌交代現象の代表例として、カンジダ症が挙げられます。

カンジダは、通常は常在菌として存在しますが、抗菌薬の使用によって増殖が促進され、以下のような症状を引き起こすことがあります。

  • 口腔カンジダ症:口内の白斑、痛み、灼熱感など
  • 外陰部カンジダ症:外陰部の発赤、腫脹、掻痒感など
  • 爪カンジダ症:爪の変色、肥厚、変形など

耐性菌の出現と拡散

抗菌薬の乱用は、耐性菌の出現と拡散を促進します。

耐性菌の例特徴
MRSAメチシリン耐性黄色ブドウ球菌
VREバンコマイシン耐性腸球菌
PRSPペニシリン耐性肺炎球菌

耐性菌の出現を防ぐための注意点

  • 細菌検査による原因菌の同定と薬剤感受性の確認
  • 必要最小限の抗菌薬使用(不必要な抗菌薬の使用を避ける)
  • 用法・用量の遵守
  • 規定の治療期間の遵守

耐性菌の拡散を防ぐためには、医療機関における感染対策の徹底も大切です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料と再診料

診察には、初診料(2,820円)と再診料(720円)がかかります。

検査費

とびひの診断に必要な細菌培養検査は、約3,000円から5,000円程度です。

検査項目費用
細菌培養検査3,000円〜5,000円
血液検査5,000円〜10,000円

処置費

とびひの治療には、外用薬の塗布や包帯交換などの処置が必要です。

処置内容費用
外用薬塗布500円〜1,000円
包帯交換500円〜1,000円

入院費

重症例や合併症を伴う場合は入院治療が必要となり、1日あたり約1万円から3万円の費用がかかります。

以上

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