咽頭結膜熱 – 感染症

咽頭結膜熱(pharyngoconjunctival fever)は、アデノウイルスが原因で発症する急性のウイルス感染症です。

主に5歳以下の小さなお子さんがかかりやすく、プールなどの水を介した感染や、咳やくしゃみによる飛沫感染、手指などを介した接触感染によって拡大していきます。

代表的な症状は、39度を超える高熱やのどの痛み、目の結膜炎、全身のだるさ、リンパ節の腫れなどです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

咽頭結膜熱の主な症状

咽頭結膜熱では、高熱やのどの痛み、目の結膜炎、全身のだるさなどの症状が急激に現れ、数日間続きます。

発熱

咽頭結膜熱にかかると、39度以上の高熱が突然出現し、数日間持続します。

解熱剤を使用しても完全に下がらないことが多く、時に40度近くまで上昇することも。

発熱に伴い、悪寒や発汗も見られることがあります。

症状詳細
発熱39度以上の高熱
持続期間数日間
付随症状悪寒、発汗

咽頭痛

咽頭結膜熱で必ずみられる症状が、のどの痛みです。

痛みは強く嚥下痛を伴うため、食事や水分摂取が困難になり、のどを観察すると、咽頭の発赤や腫脹、時に白苔の付着が認められます。

また、頸部リンパ節の腫脹や圧痛を伴うこともあります。

結膜炎

咽頭結膜熱では、目の充血や眼脂が特徴的な症状です。

結膜は赤く腫れ上がり、目やにが多量に分泌され、眼瞼の腫脹や結膜下出血を伴うこともあります。

目の症状は、両眼性に出現することが多いです。

部位症状
結膜充血、腫脹
眼脂増加
眼瞼腫脹
結膜下出血

倦怠感と全身症状

咽頭結膜熱では、全身倦怠感が強く、日常生活に支障をきたすことがあります。

頭痛や筋肉痛、関節痛などを伴うことが多いです。さらに、食欲不振や嘔気、下痢などの消化器症状を伴う場合もあります。

発疹が出現することはまれですが、斑状あるいは丘疹状の発疹を認めることも。

咽頭結膜熱の原因・感染経路

咽頭結膜熱は、主にアデノウイルスによって引き起こされる急性ウイルス性感染症で、ウイルスの特性と感染経路の理解が大切です。

アデノウイルスが主な原因

咽頭結膜熱の原因となるのは、アデノウイルス属に属するウイルスで、数十種類の血清型ありますが、主な原因となるのは、アデノウイルス3型と7型です。

血清型病原性
アデノウイルス3型高い
アデノウイルス7型高い

ウイルスの特性と感染力

アデノウイルスは、非常に安定したウイルスであり、環境中で長期間生存できるので、感染力が強く、容易に伝播します。

特に、学校やデイケアセンターなどの小児の集団生活の場では、アウトブレイクが発生しやすいです。

また、アデノウイルスは、上気道や結膜に親和性を持ち、これらの部位に感染・増殖することで、咽頭結膜熱の特徴的な症状を引き起こします。

ウイルスの特性感染への影響
環境中での安定性感染力が強い、伝播しやすい
上気道・結膜への親和性咽頭炎、結膜炎を引き起こす

感染経路

咽頭結膜熱の主な感染経路は、飛沫感染と接触感染です。

感染者の咳やくしゃみ、会話などで生じる飛沫を吸入することで、ウイルスが上気道に侵入し、感染が成立します。

また、感染者の眼や鼻、口の分泌物に触れた手指を介して、自分の眼や鼻、口に接触することでも感染が起こります。

咽頭結膜熱の主な感染経路

  • 飛沫感染:感染者の飛沫の吸入
  • 接触感染:感染者の分泌物への接触

感受性の高い集団と感染拡大のリスク

咽頭結膜熱は、主に小児に多く見られる感染症です。

乳幼児や学童は、アデノウイルスに対する免疫が未発達であるため、感染のリスクが高くなります。

また、小児は、手洗いなどの衛生習慣が十分に身についていないことが多く、感染が拡大しやすい環境にあります。

診察(検査)と診断

咽頭結膜熱の診断は、特徴的な症状や身体所見、検査所見などを総合的に判断します。

問診と身体診察

咽頭結膜熱の診断において、まず重要なのは問診と身体診察です。

発熱、咽頭痛、結膜炎などの特徴的な症状の有無や経過について詳しく聴取し、咽頭や結膜の発赤・腫脹、リンパ節腫脹などの身体所見を観察します。

問診項目身体診察項目
発熱の有無と経過咽頭の発赤・腫脹
咽頭痛の有無と程度結膜の充血・眼脂
結膜炎症状の有無リンパ節腫脹

検査所見

咽頭結膜熱の確定診断には、ウイルス学的検査が必要です。

咽頭ぬぐい液や結膜ぬぐい液から、アデノウイルスの分離・同定や抗原検出、PCR法によるウイルスゲノムの検出などが行われます。

ただし、これらの検査は特殊検査であり、一般の医療機関では実施されないことが多いです。

検査項目検査材料
ウイルス分離・同定咽頭ぬぐい液、結膜ぬぐい液
ウイルス抗原検出咽頭ぬぐい液、結膜ぬぐい液
PCR法咽頭ぬぐい液、結膜ぬぐい液

血液検査所見

咽頭結膜熱では、血液検査所見に特異的な変化は見られませんが、非特異的な所見を認めることがあります。

  • 白血球数の増加
  • CRP値の上昇
  • 肝機能障害(AST、ALTの上昇)

これらの所見は、ウイルス感染に伴う炎症反応を反映したものです。

咽頭結膜熱の治療法と処方薬、治療期間

咽頭結膜熱の治療は、主に対症療法が中心となり、ウイルスに直接作用する治療薬はありません。

治療の基本

咽頭結膜熱は、多くの場合治療を行わなくても自然治癒するので、治療の基本は、症状の緩和を目的とした対症療法です。

発熱に対しては、解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)を使用し、脱水に対しては、十分な水分補給を行います。

症状対症療法
発熱解熱鎮痛薬
脱水水分補給

咽頭炎と結膜炎への対応

咽頭結膜熱の主要症状である咽頭炎と結膜炎には、局所的な治療を行います。

咽頭炎に対しては、トローチやうがい薬などを用いて、咽頭の不快感や痛みをやわらげ、結膜炎に対しては、人工涙液や抗菌点眼薬を使用し、眼の症状を緩和します。

ただし、結膜炎に対するステロイド点眼薬の使用は、アデノウイルス感染を悪化させる可能性があるため注意が必要です。

抗ウイルス薬の使用

一部の重症例や免疫不全患者さんでは、アデノウイルスに対する抗ウイルス薬(シドフォビルなど)の使用が検討されることがありますが、一般的な治療ではありません。

薬剤使用対象
シドフォビル重症例、免疫不全患者
一般的な抗ウイルス薬推奨されていない

治療期間と自然経過

咽頭結膜熱は、通常、発症後1〜2週間で自然治癒し、治療はこの間の症状を緩和することが主な目的です。

発熱は、通常3〜5日程度で改善しますが、咽頭炎や結膜炎の症状は、1週間以上持続することがあります。

合併症がない限り、後遺症を残すことはほとんどありません。

予後と再発可能性および予防

咽頭結膜熱は、対症療法を行うことで予後は良好であり、再発することはまれですが、予防するためには感染対策を徹底することが大切です。

予後

咽頭結膜熱は通常、1週間から10日程度で自然に軽快します。

まれに、急性胃腸炎や肺炎などの合併症を起こすことがありますが、重症化することはほとんどありません。

治療内容
対症療法解熱鎮痛薬、安静、水分補給
抗ウイルス薬なし
抗菌薬原則使用しない

再発可能性

咽頭結膜熱は、一度罹患すると免疫を獲得するため、再発はまれです。

ただし、アデノウイルスには多くの血清型が存在するため、異なる血清型のウイルスに感染した場合は、再び発症する可能性があります。

再発頻度
同じ血清型のウイルスまれ
異なる血清型のウイルス可能性あり

予防方法

咽頭結膜熱の予防には、感染対策が重要です。

感染リスクを下げるための対策

  • 手洗いの徹底
  • 咳エチケットの実践
  • 人込みを避ける
  • 流行時期の海水浴や公衆浴場の利用を控える
  • タオルや食器の共用を避ける

特に、保育園や幼稚園などの集団生活の場では、感染対策の徹底が求められます。

咽頭結膜熱の治療における副作用やリスク

咽頭結膜熱の治療では、対症療法が中心となりますが、使用する薬剤や治療法によっては、副作用やリスクを伴う場合があります。

解熱鎮痛薬の副作用

咽頭結膜熱の発熱に対して用いられる解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)は、一般的に安全性が高い薬剤ですが、まれに副作用を引き起こすことがあります。

主な副作用は、皮疹、肝機能障害、腎機能障害などです。

また、アスピリンを小児に使用した場合、ライ症候群と呼ばれる重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

薬剤主な副作用
アセトアミノフェン皮疹、肝機能障害、腎機能障害
アスピリン(小児)ライ症候群

抗菌点眼薬の副作用と耐性菌のリスク

抗菌点眼薬の主な副作用として、眼の刺激感、アレルギー反応、角膜上皮障害などがあります。

また、不必要な抗菌点眼薬の使用は、耐性菌の出現を促進するリスクがあるため、注意が必要です。

抗菌点眼薬の使用における注意点

  • 副作用の可能性を考慮し、必要最小限の使用にとどめる
  • 耐性菌出現のリスクを考慮し、不必要な使用は避ける

ステロイド点眼薬の使用リスク

咽頭結膜熱の結膜炎に対するステロイド点眼薬の使用は、アデノウイルス感染を悪化させるリスクがあるため、原則として避けるべきです。

ステロイド点眼薬は、眼の炎症を抑制する作用がありますが、ウイルスの増殖を促進し、感染を長引かせる可能性があります。

また、ステロイド点眼薬の長期使用は、白内障や緑内障などの眼合併症を引き起こすリスクがあります。

ステロイド点眼薬の使用リスク理由
アデノウイルス感染の悪化ウイルス増殖の促進
眼合併症(白内障、緑内障など)長期使用による副作用

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料と再診料

初診料は2,820円、再診料は720円が目安となっています。咽頭結膜熱の場合、数回の再診が必要になることが多いです。

費用項目金額
初診料2,820円
再診料720円

検査費

咽頭結膜熱の診断に必要な検査として、血液検査や細菌培養検査などがあり、これらの検査費用は、それぞれ数千円から数万円程度です。

処置費

咽頭結膜熱では、点眼薬や解熱鎮痛薬などの処方が行われます。

処置内容費用目安
点眼薬2,000円~5,000円
解熱鎮痛薬1,000円~3,000円

入院費

重症例では入院治療が必要になることがありますが、咽頭結膜熱ではまれです。

以上

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