本態性高血圧 – 循環器の疾患

本態性高血圧(Essential hypertension)とは、原因が特定できない高血圧を言います。高血圧患者全体の約90%が、この「本態性高血圧」です。

長期間にわたって血圧が高い状態が続くと、心臓や血管、腎臓などに負担がかかり、様々な合併症を引き起こす可能性があります。

本態性高血圧は自覚症状に乏しいので、定期的な血圧測定と健康診断が重要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

本態性高血圧の種類(病型)

高血圧には、測定場所によって測定値が変化する「仮面高血圧」「白衣高血圧」と呼ばれるタイプがあり、診察圧血圧と診察室外血圧の両方を調べると診断できます。

病型医療機関での血圧日常での血圧
仮面高血圧正常高血圧
白衣高血圧高血圧正常
持続性高血圧高血圧高血圧

仮面高血圧

仮面高血圧は、医療機関で測った血圧は正常ですが、日常生活では高血圧になる病型です。

自覚症状があまりないため、発見が遅れる傾向があります。

白衣高血圧

白衣高血圧は、医療機関では高血圧と判定されますが、日常生活では血圧が正常範囲内に収まる病型です。

医療機関特有の環境や心理的なストレスが原因で、一時的に血圧が上がると考えられています。

持続性高血圧

仮面高血圧、白衣高血圧のどちらにも当てはまらず、常に血圧の高い状態を持続性高血圧と呼んでいます。

放っておくと心臓や血管の病気のリスクが高くなります。

本態性高血圧の主な症状

本態性高血圧の主な症状としては、頭痛、めまい、耳鳴り、動悸、息切れ、胸の痛みなどが挙げられます。

しかし、初期段階では無症状であるケースが多いため、定期的な血圧測定が重要です。

症状が現れにくい初期段階

本態性高血圧は、初期の段階では無症状の方が多いのが特徴です。

そのため、定期的な血圧測定を行わない場合は、高血圧であると気づかないケースが少なくありません。

放置すると、以下のような合併症を引き起こす可能性があります。

  • 脳卒中
  • 心筋梗塞
  • 腎不全

頭痛やめまい

本態性高血圧が進行すると現れやすいのが、頭痛やめまいなどの症状です。

これらの症状は、血圧の上昇によって引き起こされると考えられています。

耳鳴りや動悸

耳鳴りは、血圧の上昇によって血管が拡張し、血流の増加により引き起こされると考えられています。

一方、動悸は心臓に負担がかかることで生じます。

息切れや胸の痛み

本態性高血圧が重症化すると、息切れや胸の痛みなどの症状が現れることがあります。

胸の痛みは心筋梗塞の前兆である可能性があるため、注意が必要です。

本態性高血圧の原因

本態性高血圧は、遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

遺伝的要因

本態性高血圧の発症には遺伝的な素因の関与が指摘されていて、家族歴がある人は、本態性高血圧を発症するリスクが高くなります。

複数の遺伝子が関与していると考えられていますが、詳細なメカニズムはまだ完全には解明されていません。

遺伝子関連する機能
AGT遺伝子レニン・アンジオテンシン系の調節
ADRβ1遺伝子交感神経系の調節

環境的要因

  • 高塩分食
  • 肥満
  • 運動不足
  • ストレス

これらは血管収縮や体液量の増加などを引き起こし、血圧を上昇させる原因となります。

ナトリウム感受性

本態性高血圧の患者さんの中には、ナトリウム感受性が高い人がいます。

ナトリウム感受性が高い人は、塩分の摂取量が増えると血圧が上昇しやすい傾向です。

レニン・アンジオテンシン系

レニン・アンジオテンシン系は、血圧調節に重要な役割を果たしています。

このシステムの異常な活性化が、本態性高血圧の発症に関与している可能性があります。

診察(検査)と診断

本態性高血圧の検査では、血圧測定や身体所見の確認、各種検査による評価を行います。

血圧測定

本態性高血圧の診察で、まず行われるのが血圧測定です。

測定方法特徴
外来血圧測定医療機関での標準的な血圧測定法
家庭血圧測定自宅での連続的な血圧測定

外来血圧測定と家庭血圧測定を組み合わせると、より正確な血圧評価ができます。

身体所見の確認

  • 肥満の有無
  • 心雑音の有無
  • 頸動脈雑音の有無
  • 下肢浮腫の有無

検査による評価

検査項目目的
血液検査腎機能や電解質異常の評価
心電図検査左室肥大や不整脈の評価
眼底検査高血圧性網膜症の評価
腎臓超音波検査腎臓の形態評価

これらの検査結果を総合的に判断し、本態性高血圧による臓器障害の有無や重症度を評価していきます。

臨床診断と確定診断

本態性高血圧の臨床診断は、血圧測定値と身体所見、検査結果を踏まえて行われます。また、二次性高血圧の除外(原因疾患がないかどうか調べる)も必要です。

確定診断には、24時間血圧測定や家庭血圧測定による血圧の確認が有用となります。

本態性高血圧と診断された場合は、リスク因子の評価と合併症の有無を調べ、治療方針を決定していきます。

本態性高血圧の治療法と処方薬

本態性高血圧は、生活習慣の改善と薬物療法の組み合わせで治療を行っていきます。

生活習慣の改善

本態性高血圧の治療において、生活習慣の改善は基本であり、とても重要です。

具体的には、塩分を控えめにする、体重を管理する、運動習慣を身につける、タバコを吸わない、などが挙げられます。

生活習慣の改善により、血圧のコントロールがしやすくなり、薬の効果も高まります。

生活習慣の改善目標
減塩1日6g未満
体重管理BMI 25未満
運動習慣1日30分以上の有酸素運動
禁煙完全禁煙

薬物療法

生活習慣の改善だけでは血圧のコントロールが十分でない場合は、薬による治療が行われます。

本態性高血圧の治療によく使われる薬は以下の通りです。

薬剤作用機序
ACE阻害薬レニン・アンジオテンシン系の抑制
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)アンジオテンシンII受容体の遮断
カルシウム拮抗薬血管平滑筋の弛緩
利尿薬体内の余分な水分・ナトリウムの排出

これらの薬は、単独で使ったり、組み合わせて使ったりします。

治療目標

本態性高血圧の治療では、75歳未満の場合は収縮期血圧を130mmHg未満、拡張期血圧を80mmHg未満を目指します。

75歳以上の後期高齢者の場合は、140/90mmHg未満が目標です。

※患者さんの年齢や合併症の有無によって、目標とする血圧の値は個人差があります。

治療に必要な期間と予後について

本態性高血圧の治療は、基本的に生涯にわたって継続する必要があります。

高血圧は慢性疾患であり、一時的な治療では十分な効果が得られないためです。

治療を中断すると、血圧が再び上昇し、合併症のリスクが高まります。

予後

治療の継続により、以下のような効果が期待できます。

  • 心血管系疾患のリスク減少
  • 腎機能の保護
  • 脳卒中のリスク減少

本態性高血圧の治療における副作用やリスク

本態性高血圧は、治療により高血圧のコントロールが可能となりますが、使用する薬によっては副作用が出るリスクがあります。

降圧薬がもたらす副作用

降圧薬の一つである利尿薬は、電解質のバランスを崩し、カリウムが不足したりナトリウムが体内に貯まったりする問題を引き起こす場合があります。

βブロッカーでは、脈拍数が低下したり気管支が収縮したりするなどの副作用が生じる可能性があります。

薬剤主な副作用
利尿薬電解質異常、脱水、高尿酸血症
βブロッカー徐脈、気管支収縮、倦怠感

治療を中断することのリスク

高血圧の治療を途中で止めてしまうと、心臓や血管に関連する問題が起きるリスクが高くなるとわかっています。

自分の判断だけで治療をやめるのは避け、医師に相談しながら治療を行っていきましょう。

生活習慣の見直しによるリスク

高血圧の治療では、薬による治療と同時に、日々の生活習慣改善も必要とされます。

ただし、急に食事を制限したりストレスを感じたりすると、逆に血圧を上げてしまうリスクがあるので注意が必要です。

予防方法

本態性高血圧の予防のためには、日々の生活習慣改善が不可欠です。

中でも、食事の内容を見直し、運動の習慣化が効果的だと言われています。

減塩と野菜中心の食事

食事療法のポイントは、塩分の摂り過ぎに注意することです。

1日の塩分摂取量は、6g未満を目指しましょう。

また、カリウムを多く含む野菜や果物を積極的に取り入れるのも予防に役立ちます。

食品1日の目安量
野菜350g以上
果物200g以上

適度な運動の習慣化

運動療法では、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が推奨されています。

週に3回以上、1回30分以上行うのが理想的ですが、無理のない範囲で続けることが何より大切です。

  • 散歩やストレッチから始める
  • 徐々に運動量を増やしていく
  • 一緒に運動する方がいると、継続しやすいです

禁煙と節酒

喫煙や過度の飲酒は、血圧を上昇させる原因となります。禁煙し、アルコールは1日1合程度に抑えるようにしましょう。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

本態性高血圧の治療費は、患者さんの症状や合併症の有無、治療方法によって大きく変動します。

治療費の目安

お薬代は処方される薬剤によって異なりますが、一般的な降圧薬の場合、1ヶ月分で2000円から5000円程度が目安です。

項目金額
初診料2820円
再診料720円
血圧測定200円
血液検査1000円前後
心電図検査1500円前後
降圧薬(1ヶ月分)2000円~5000円

上記の治療費は目安となります。費用について、詳しくは担当医や各医療機関で直接ご確認ください。

以上

References

STAESSEN, Jan A., et al. Essential hypertension. The Lancet, 2003, 361.9369: 1629-1641.

MESSERLI, Franz H.; WILLIAMS, Bryan; RITZ, Eberhard. Essential hypertension. The Lancet, 2007, 370.9587: 591-603.

CARRETERO, Oscar A.; OPARIL, Suzanne. Essential hypertension: part I: definition and etiology. Circulation, 2000, 101.3: 329-335.

CARRETERO, Oscar A.; OPARIL, Suzanne. Essential hypertension: part II: treatment. Circulation, 2000, 101.4: 446-453.

VIKRANT, Sanjay; TIWARI, S. C. Essential hypertension–pathogenesis and pathophysiology. Journal, Indian Academy of Clinical Medicine, 2001, 2.3: 140-161.

MEIN, Charles A., et al. Genetics of essential hypertension. Human molecular genetics, 2004, 13.suppl_1: R169-R175.

IQBAL, Arshad Muhammad; JAMAL, Syed F. Essential hypertension. In: StatPearls [Internet]. StatPearls Publishing, 2023.

KORNER, Paul I. Essential hypertension and its causes: neural and non-neural mechanisms. Oxford University Press, 2007.

PORTALUPPI, F.; BOARI, B.; MANFREDINI, R. Oxidative stress in essential hypertension. Current pharmaceutical design, 2004, 10.14: 1695-1698.

PORTALUPPI, F.; BOARI, B.; MANFREDINI, R. Oxidative stress in essential hypertension. Current pharmaceutical design, 2004, 10.14: 1695-1698.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。