動脈管開存症(PDA) – 循環器の疾患

動脈管開存症(Patent ductus arteriosus:PDA)とは、胎児期に肺動脈と大動脈をつなぐ重要な血管である動脈管が、出生後も閉鎖せずに開存し続ける状態を指します。

健康な新生児では、肺呼吸の開始とともにこの血管は自然に閉じるのが正常ですが、PDAではこのプロセスが正常に進行しません。

動脈管の開存により本来とは異なる血液の流れが生じ、心臓や肺への負担が増加します。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

動脈管開存症(PDA)の種類(病型)

動脈管開存症(PDA)は、その形態学的特徴によって分類されたKrichenko分類を用いて評価します。

Krichenko分類の概要

Krichenko分類は、動脈管の形状や大きさに基づいて、PDAを5つの主要なタイプに分けています。

タイプ形状特徴
A型円錐型肺動脈側が狭く、大動脈側が広い
B型窓型肺動脈側が広く、大動脈側が狭い
C型管型全長にわたって同じ太さ
D型動脈瘤型複数の狭窄部位を持つ
E型進展円錐型細長く、最小部が気管より前方

A型(円錐型)

A型(円錐型)は最も頻繁に見られるタイプ(65%)です。

肺動脈側が狭く、大動脈側に向かって徐々に広がる形状を持ち、カテーテル治療に適している傾向があります。

B型(窓型)

B型(窓型)は大動脈と肺動脈の間に窓のような開存部があることから、この名前が付けられました。

C型(管型)

C型(管状型)は全長にわたってほぼ同じ太さを維持していて、カテーテル治療が難しいことがあります。

D型(動脈瘤型)

D型(動脈瘤型)は管の中に複数の狭窄部位があるのが特徴です。複雑な形状のため、治療方法の選択には慎重な検討が求められます。

E型(進展円錐型)

E型(進展円錐型)は長く蛇行した形状を持っています。この形状も、カテーテル治療が難しいことがあります。

Krichenko分類の臨床的意義

Krichenko分類は、PDAの重症度評価や治療方針の決定に用いられます。

例えば、A型のPDAはおおむねカテーテル治療に適しています。

一方、C型やE型はカテーテル治療が困難な場合があり、外科的治療が検討されます。

また、B型では、大きさによってはカテーテル治療か外科的治療かの判断が必要となります。

Krichenko分類の限界と今後の展望

Krichenko分類は広く使用されていますが、いくつかの限界も指摘されています。

例えば、以下のような点が挙げられます。

  • 3D画像での評価が困難な場合がある
  • 動脈管の動的な変化を捉えきれない
  • 個々の患者の特性を完全には反映できない

これらの限界を踏まえ、より精密な分類方法や評価手法の開発が進められています。

新しいアプローチ特徴
3D画像解析より詳細な形態評価が可能
動的評価法心周期による変化を考慮
AI支援診断より精密な分類と予後予測

動脈管開存症(PDA)の主な症状

動脈管開存症(PDA)は無症状の場合が多いですが、重症例では呼吸困難、多呼吸、哺乳困難、発育不良などが現れる場合があります。

心雑音

動脈管開存症(PDA)でみられる心雑音は、通常「機械音」や「連続性雑音」と表現され、独特の音を持ちます。

心雑音は、血液が開存した動脈管を通過する際に生じる乱流によって起こります。

ただし、欠損が小さい場合や新生児期には、心雑音が聴取されないケースもあります。

呼吸器症状

肺に過剰な血液が流れるため、呼吸困難や息切れが起こる場合があります。

また、肺の血流増加により肺の防御機能が低下するため、頻繁な呼吸器感染も見られます。

症状説明
呼吸困難息苦しさや息切れを感じる
頻呼吸呼吸数が増加する
喘鳴ゼーゼーやヒューヒューという音がする
咳嗽特に夜間や運動時に悪化する

成長と発達への影響

PDAは乳幼児の成長と発達に著しい影響を与える可能性があり、特に顕著なのは栄養摂取の困難さです。

疲れやすいために十分な量の母乳や粉ミルクを飲めず、体重増加不良や発育遅延が生じる場合があります。

重度のPDAの場合では全身の臓器に十分な酸素が供給されないため、全般的な発達の遅れが見られるケースもあります。

循環器症状:心不全のリスクと関連症状

PDAが長期間放置されると、心不全のリスクが高まります。心不全の症状には、息切れ、疲労感、浮腫(むくみ)などがあります。

特に乳幼児の場合、哺乳困難や発汗過多が見られます。

症状説明
息切れ特に運動時や活動時に悪化
疲労感通常の活動でも疲れやすい
浮腫足首や顔面のむくみ
哺乳困難乳児で特に顕著
発汗過多特に授乳中や睡眠中に多い

その他の症状

  • チアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色になる)
  • 易疲労感
  • 食欲不振
  • 不整脈
  • 失神

これらの症状は、重症度や年齢によって異なります。

症状の進行と長期的な影響

PDAの症状は時間とともに変化し、初期段階では軽微だった症状が、徐々に悪化する場合もあります。

長期的には肺高血圧症や心臓の拡大などの合併症のリスクが高まるため、定期的な医療機関での経過観察が大切です。

動脈管開存症(PDA)の原因

動脈管開存症(PDA)は、胎児期に肺動脈と大動脈をつなぐ動脈管が、出生後に正常に閉鎖しないために起こります。

胎児循環における動脈管の役割

動脈管は、胎児期に肺動脈と大動脈を結ぶ重要な血管構造です。この血管は胎児の血液循環を支える役割を担っています。

通常、出生後数日以内に自然に閉鎖するはずの動脈管が開存したままになると、動脈管開存症(PDA)となります。

動脈管開存症(PDA)発症の要因

PDAの発症には複数の要因が関与していて、遺伝的要因や環境要因などが複雑に絡み合い、発症リスクを高めます。

リスク要因説明
早産在胎週数が短いほどリスクが上昇
低出生体重2500g未満の出生児でリスクが高まる
高地居住海抜の高い地域での出生でリスクが増加
先天性風疹症候群妊娠初期の風疹感染による

遺伝的要因の影響

遺伝的要因もPDAの発症に関与しています。

例えば、TFAP2B遺伝子の変異は動脈管の閉鎖に必要不可欠なプロスタグランジンE2受容体の機能に影響を与えることが分かっています。

このような遺伝的要因により、動脈管が開存したまま残る確率が上昇します。

環境要因と母体の健康状態

母体の健康状態や妊娠中の環境要因も、胎児のPDAリスクに影響を与えます。

妊娠中の母体の感染症、特に風疹ウイルスへの感染は胎児の心臓発達に影響を及ぼし、PDAのリスクを高めます。

早産と低出生体重児のリスク

早産児や低出生体重児は、PDAのリスクが特に高いグループです。

これは、肺の未熟性や循環器系の発達が不十分であることが関係しています。

在胎週数PDA発症率(概算)
28週未満約40-50%
28-32週約25-30%
33-36週約5-10%
37週以降約0.05%

この表から分かるように、早産であるほどPDAの発症リスクが顕著に高まります。

診察(検査)と診断

PDAの診断は、聴診による特徴的な心雑音の確認と、心エコー検査による動脈管の開存、血流の評価によって確定されます。

臨床診断

動脈管開存症(PDA)の最も重要な手がかりは、特徴的な心雑音の聴取です。

左鎖骨下で聴こえる「機械音」と形容される連続性雑音が、PDAを示唆する典型的な所見となります。

加えて、脈圧の増大や頻脈などの循環動態の変化も診断の手がかりとなります。

非侵襲的検査

胸部X線検査では、心陰影の拡大や肺血管陰影の増強といった特徴的な所見がみられます。

また、心電図検査では左室肥大の徴候が認められます。

検査方法主な所見診断的意義
胸部X線心陰影拡大、肺血管陰影増強心臓や肺の血流増加を示唆
心電図左室肥大左心系への容量負荷を反映

心エコー検査による確定診断

心エコー検査により、動脈管の開存を直接視覚化できます。

特にカラードップラー法を用いることで、動脈管を通過する血流を明瞭に捉えられます。

追加検査の必要性と意義

一部の複雑な症例では、より精密な追加検査が必要となる場合があります。

  • 心臓カテーテル検査:血行動態の詳細な評価
  • CT検査:解剖学的構造の3次元的把握
  • MRI検査:軟部組織の詳細な描出 など

動脈管開存症(PDA)の治療法と処方薬、治療期間

動脈管開存症(PDA)は無症状で経過観察可能な場合もありますが、症状がある場合や早産児の場合は、インドメタシンやイブプロフェンなどの薬物療法で動脈管閉鎖を試みます。

効果がない場合や、外科的閉鎖が適応となる場合は手術が行われます。

薬物療法による治療

薬物療法は、主に未熟児や新生児のPDAに対して用いられる第一選択肢です。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)であるインドメタシンやイブプロフェンが一般的に使用されます。

これらの薬剤は、動脈管の閉鎖を促進するプロスタグランジンの産生を抑制する作用を持ちます。

治療は通常、生後数日以内に開始され、3~4日間継続されます。

ただし、腎機能障害や消化管穿孔などの副作用リスクがあるため、綿密な経過観察が必要となります。

薬剤名投与方法治療期間
インドメタシン静脈内投与3日間
イブプロフェン静脈内投与3~4日間

最近では、アセトアミノフェンも代替薬として注目されており、特に腎機能低下のリスクが高い患者に有効である可能性が示唆されています。

カテーテル治療

カテーテル治療は、薬物療法が奏功しない例や、年長児から成人のPDAに対して選択されることが多い治療法です。

この方法では、大腿動脈や静脈からカテーテルを挿入し、動脈管にコイルやプラグなどのデバイスを留置して閉鎖します。

低侵襲性が最大の利点であり、開胸手術を必要とせず、多くのケースで処置後1~2日で退院可能となります。

ただし、動脈管の大きさや形状によっては適応外となります。

最新のデバイスでは、より小さな動脈管や複雑な形状にも対応できるようになっており、適応範囲が拡大しています。

外科的手術

外科的手術は、カテーテル治療が困難な大きな動脈管や、複雑な形状のPDAに対して実施される治療法です。

従来の開胸手術に加え、近年では胸腔鏡を用いた低侵襲手術も普及しています。

手術では、動脈管を直接結紮または切断し、確実な閉鎖を行います。

術後の入院期間は約1週間程度ですが、完全な回復には数週間を要します。

予後と再発可能性および予防

PDAの予後は早期発見・治療により良好で、再発の可能性は低いですが、稀に心不全や肺高血圧症のリスクがあります。

治療後の予後

動脈管開存症(PDA)の治療後、多くのケースで良好な経過が期待できます。

治療の成功率は高く、ほとんどの方が日常生活に支障なく戻れます。

ただし、予後は個々の症例によって異なるため、一人一人の状況に応じた対応が必要となります。

年齢層予後の一般的傾向
新生児良好
小児非常に良好
成人良好~中程度

また、治療後も定期的な経過観察が欠かせません。

再発のリスクと関連因子

PDAの再発率は一般的に低いものの、完全にゼロではありません。

治療法再発リスクの一般的傾向
外科的閉鎖非常に低い
カテーテル治療低い~中程度
薬物療法中程度
再発リスクを高める要因
  • 初回治療が不完全だった場合
  • 特定の遺伝的背景がある場合
  • 他の心臓疾患を併発している場合
  • 免疫系に問題がある場合

これらの要因がある患者さんでは、より慎重な経過観察が求められます。

動脈管開存症(PDA)の治療における副作用やリスク

動脈管開存症(PDA)の治療における副作用やリスクは、薬物療法では腎機能障害、消化管出血、血小板減少などがあり、外科的閉鎖では出血、感染、声帯麻痺などのリスクが考えられます。

薬物療法における副作用

インドメタシンやイブプロフェンといった非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の薬剤は、腎機能の悪化や消化管からの出血などの副作用を引き起こす可能性があります。

加えて、プロスタグランジン合成阻害薬の投与は、まれに壊死性腸炎のリスクを高めるとされています。

薬剤主な副作用
インドメタシン腎機能悪化、消化管出血
イブプロフェン腎機能悪化、消化管出血
プロスタグランジン合成阻害薬壊死性腸炎のリスク上昇

カテーテル治療のリスク

カテーテル治療では、血管の損傷や血栓の形成が起こる可能性があります。また、デバイスの脱落や位置のずれも、起こりうる合併症の一つです。

稀なケースとして、左肺動脈や下行大動脈の狭窄が報告されています。

さらに、感染症のリスクも考慮に入れる必要があります。

カテーテルを挿入した部位から細菌が侵入したり、デバイス自体が感染源となったりする場合があるためです。

外科的治療に伴うリスク

外科的治療では、全身麻酔に伴うリスクがあります。

乳児や基礎疾患を持つ方の場合は、麻酔による呼吸器系や循環器系への影響に注意が必要です。

その他、手術中の出血、周辺組織の損傷、術後の感染症(創部の感染や、心内膜炎など)が起こる可能性があります。

年齢や状態に応じたリスク

特に、早産児や低出生体重児では、薬物療法やカテーテル治療のリスクが高くなる傾向です。

一方、成人の患者さんでは、長期間のPDAの存在による心臓や肺血管への影響を考慮に入れる必要があります。

年齢や状態別のリスク管理のポイント
  • 早産児・低出生体重児:薬物療法の副作用に特に注意
  • 乳児:カテーテル治療時の血管サイズに注意
  • 小児:全身麻酔のリスクと長期的な予後を考慮
  • 成人:心臓や肺血管への長期的影響を評価

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

動脈管開存症(PDA)の治療費は、症状の有無、治療法(薬物療法、カテーテル治療、外科的治療)、入院期間などにより大きく異なります。

また、動脈管開存症は小児慢性特定疾病に指定されています。

検査費用の目安

心エコーや心電図などの必要な検査費用は、合計で3万円から5万円程度になることが一般的です。

薬物療法の場合

外来での治療が可能な場合は、薬剤費、検査費、診察費など数万円程度で済む場合もあります。

カテーテル治療にかかる費用

PDAの標準的治療である、カテーテル閉鎖術の費用の目安は以下のとおりです。

項目概算費用
手術費50万円〜80万円
入院費(3〜5日)10万円〜20万円
術後経過観察5万円〜10万円

外科的治療が必要な場合の費用

複雑な症例や重症例では外科的治療が選択され、費用はさらに高額になります。

項目概算費用
手術費100万円〜200万円
入院費(1〜2週間)30万円〜50万円
術後管理・リハビリテーション20万円〜40万円

以上

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