自然毒素(natural toxins)とは、生物が作り出す有害な化学物質のことです。
これらの毒素は、植物、動物、菌類、微生物など、さまざまな生物によって産生され、自然界に広く存在しています。
自然毒素は食物連鎖を通じて人体に入り込む可能性があり、キノコや貝類に含まれる毒素、魚介類に蓄積される水銀などが代表的です。
自然毒素による中毒は、食品の摂取や環境曝露によって引き起こされることがあり、症状は軽度なものから重篤なものまであります。
自然毒素の種類(病型)
自然毒素は植物性と動物性の2つの主要な種類があります。
植物性自然毒素
植物性自然毒素は、植物が自己防衛のために生成する化学物質です。
植物のいろいろな部位に含まれており、人間が摂取することで健康被害を引き起こすことがあります。
日常的に接する機会のある植物にも含まれているものがあるので、注意が必要です。
代表的な植物性自然毒素と由来植物
毒素名 | 由来植物 |
ソラニン | ジャガイモ |
シアン化合物 | アーモンド、キャッサバ |
リシン | トウゴマ |
アマニチン | 毒キノコ(タマゴテングタケなど) |
植物性自然毒素の中には、調理や加工によって無毒化されるものもありますが、処理を行わないと危険な場合があります。
動物性自然毒素
動物性自然毒素は、動物の体内で生成され、咬傷や刺傷、あるいは摂取によって人体に影響を与え、中には非常に強力なものもあります。
代表的な動物性自然毒素を持つ生物
- ヘビ(コブラ、マムシなど)
- クモ(セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモなど)
- サソリ
- 魚類(フグ、オコゼなど)
- 両生類(ツボカビなど)
自然毒素の多様性
自然毒素の種類は非常に多く、作用機序もさまざまです。
自然毒素とその主な作用
毒素の種類 | 主な作用 |
神経毒 | 神経系に作用し、麻痺や痙攣を引き起こす |
細胞毒 | 細胞を破壊し、組織障害を引き起こす |
血液毒 | 血液凝固系に影響を与え、出血や血栓を引き起こす |
消化器毒 | 消化器系に作用し、嘔吐や下痢を引き起こす |
自然毒素の主な症状
自然毒素による感染症の症状の種類や程度は、種類や摂取量によって異なり、軽度なものから生命を脅かす重篤なものまでさまざまです。
植物性自然毒素による症状
植物性自然毒素による感染症は、摂取後比較的早く症状が現れることが多く、消化器系や神経系に影響を及ぼす傾向があります。
ジャガイモの芽や緑色の部分に含まれるソラニンは、悪心、嘔吐、腹痛などの消化器症状を引き起こし、摂取量が多い場合は神経症状や循環器系の問題が起きることもあります。
また、キノコ類に含まれる毒素によって起こる症状は、軽度の胃腸障害から肝不全や腎不全などです。
植物性毒素 | 主な症状 |
ソラニン | 悪心、嘔吐、腹痛 |
アマニチン | 肝不全、腎不全 |
リシン | 嘔吐、下痢、痙攣 |
動物性自然毒素による症状
動物性自然毒素は、主に海洋生物や昆虫、爬虫類などに由来する毒素です。
- フグ毒(テトロドトキシン) 口唇のしびれや麻痺から始まり、重症の場合は呼吸麻痺を引き起こす可能性があり、処置が行われない場合は致命的となることもあります。
- ハチ毒 局所的な痛みや腫れから、アレルギー反応による全身症状までさまざまです。
動物性毒素 | 主な症状 |
テトロドトキシン | 口唇のしびれ、麻痺、呼吸困難 |
ハチ毒 | 局所的な痛み、腫れ、アレルギー反応 |
ヘビ毒 | 出血、組織壊死、神経症状 |
神経系への影響
自然毒素の中には、特に神経系に強い影響を与えるものがあります。
- ボツリヌス毒素 筋肉の麻痺や呼吸困難を引き起こし、重症の場合は生命を脅かす可能性があります。
- 一部のキノコに含まれる毒素 幻覚や錯乱などの精神症状を引き起こすことがあります。
自然毒素の症状の特徴
自然毒素による症状の特徴
- 摂取後比較的早く症状が現れる(数分から数時間)
- 消化器症状と神経症状が同時に現れることがある
- 症状の進行が急速な場合がある
- 個人の感受性によって症状の程度が異なる
- 同じ毒素でも、摂取量によって症状が大きく異なる
自然毒素の原因・感染経路
自然毒素は、生物が生産する有害な化学物質で、原因と感染経路は多岐にわたります。
自然毒素の原因生物
自然毒素は、いろいろな生物が自己防衛や捕食のために毒素を進化させてきたものです。
主な原因生物
- 植物(キノコ、ジャガイモ、トウゴマなど)
- 動物(ヘビ、クモ、サソリ、フグなど)
- 微生物(細菌、藻類など)
毒素生成のメカニズム
自然毒素の生成メカニズムは、植物の場合、二次代謝産物として毒素を生産することが多いです。
動物の毒素は、特殊化した分泌腺で生成されることが一般的で、ヘビ毒は毒腺、フグ毒は体内の特定の組織で生成されます。
微生物の毒素は、代謝過程の副産物として生成されるものが多く、環境条件の変化によって毒素の産生量が増加することがあります。
代表的な自然毒素とその生成メカニズム
毒素名 | 原因生物 | 生成メカニズム |
ソラニン | ジャガイモ | 二次代謝産物 |
アフラトキシン | カビ | 二次代謝産物 |
テトロドトキシン | フグ | 体内組織での生成 |
ボツリヌス毒素 | ボツリヌス菌 | 代謝副産物 |
自然毒素の感染経路
主な感染経路
- 経口摂取 食物や飲料水を通じて毒素を摂取するパターンです。毒キノコの誤食や、不適切に調理された食品の摂取などが該当します。
- 経皮感染 皮膚を通じて毒素が体内に侵入するパターンです。毒を持つ動植物との直接接触や、毒針による刺傷などがこれに当たります。
- 吸入感染 空気中に浮遊する毒素を吸い込むことで感染するパターンです。カビ毒などの微生物由来の毒素で見られることがあります。
- 注射・注入 医療行為や事故により、直接体内に毒素が入り込むパターンです。
代表的な自然毒素とその主な感染経路
毒素名 | 主な感染経路 |
キノコ毒 | 経口摂取 |
ヘビ毒 | 経皮感染(咬傷) |
カビ毒 | 経口摂取、吸入感染 |
フグ毒 | 経口摂取 |
診察(検査)と診断
自然毒素による感染症の診断は、問診、身体診察、臨床検査、および特殊検査を組み合わせて行われます。
問診と身体診察
自然毒素による感染症の診断では、患者さんの症状の発現時期、進行の速度、摂取した可能性のある食品や接触した生物について詳しく聴取します。
また、患者の既往歴、生活環境、職業などの情報も診断の手がかりとなることがあり、最近の旅行歴や野外活動の有無なども重要な情報です。
身体診察では、バイタルサインの確認、神経学的検査、皮膚や粘膜の状態、消化器症状の有無などを調べます。
臨床検査
一般的な血液検査や生化学検査に加え、毒素の種類や影響を受けた臓器に応じて、特殊な検査が行われます。
検査項目 | 目的 |
血液一般検査 | 炎症反応や臓器障害の評価 |
肝機能検査 | 肝臓への影響の評価 |
腎機能検査 | 腎臓への影響の評価 |
電解質検査 | 体液バランスの評価 |
特殊検査と毒素の同定
自然毒素による感染症の確定診断には、特殊な検査方法が用いられます。
代表的な検査方法
- ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)
- 液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)
- 免疫学的検査法(ELISA法など)
- バイオアッセイ
これらの検査は、患者さんの血液、尿、胃内容物、または摂取した可能性のある食品などを試料として行われ、時には環境サンプルや残った食品なども分析の対象です。
鑑別診断
自然毒素による感染症は、食中毒、アレルギー反応、薬物中毒などとの区別が必要です。
鑑別すべき疾患 | 共通する症状 |
細菌性食中毒 | 消化器症状 |
アナフィラキシー | 呼吸困難、皮膚症状 |
薬物中毒 | 意識障害、神経症状 |
自然毒素の治療法と処方薬、治療期間
自然毒素による感染症の治療は、対症療法と解毒療法を組み合わせた総合的なアプローチが取られます。
主な処方薬と治療法
代表的な自然毒素と治療法
毒素 | 主な処方薬・治療法 |
ヘビ毒 | 抗毒素血清、抗炎症薬 |
キノコ毒 | 活性炭、N-アセチルシステイン |
細菌性食中毒 | 抗生物質、補液療法 |
魚毒 | 対症療法、支持療法 |
これらの治療法は、患者さんの状態や毒素の種類、摂取量などによって調整されます。
解毒療法
解毒療法は、体内に入った毒素を除去または中和することを目的とした治療法です。
主な解毒療法
- 活性炭投与 経口摂取された毒素の吸着除去に効果的です。
- 血液浄化療法 血液中の毒素を直接除去する方法です。
- 抗毒素血清投与 特定の毒素に対する抗体を含む血清を投与します。
- 拮抗薬投与 毒素の作用を阻害する薬剤を使用します。
支持療法
自然毒素による臓器障害や全身症状に対して、支持療法を行うことがあります。
主な支持療法
支持療法 | 目的 |
輸液療法 | 体液・電解質バランスの維持 |
人工呼吸 | 呼吸機能のサポート |
血圧管理 | 循環動態の安定化 |
栄養管理 | 栄養状態の改善 |
支持療法は、患者さんの全身状態を改善し、自然治癒力を高めることを目的としています。
治療期間
自然毒素による感染症の治療期間
- 軽度の食中毒 数日から1週間程度
- 中等度のヘビ毒中毒 1〜2週間程度
- 重度のキノコ中毒 数週間から数か月
ただし、これはあくまで目安であり、個々の患者さんの回復状況によって治療期間は変動します。
予後と再発可能性および予防
自然毒素による感染症の予後は、毒素の種類、曝露量、および医療介入の迅速性によって大きく異なります。
再発の可能性は低いものの、一部の毒素では慢性的な影響があります。
予後の決定要因
自然毒素による感染症の予後の決定要因は、毒素の種類と量、患者さんの年齢や健康状態、医療介入の迅速性などです。
- キノコ毒のアマニチンによる中毒 早期の解毒療法が予後を大きく左右し、治療開始までの時間が生命予後に直結する場合があります。
- フグ毒(テトロドトキシン)による中毒 初期の呼吸管理が生存率を高める重要な要素となり、呼吸サポートにより致命的な結果を回避できる可能性が高まります。
毒素の種類 | 予後に影響する主な要因 |
アマニチン | 解毒療法の開始時期 |
テトロドトキシン | 初期の呼吸管理 |
ボツリヌス毒素 | 抗毒素投与のタイミング |
長期的な影響と再発可能性
自然毒素による感染症の多くは、対応により完治が期待できますが、一部の毒素では長期的な影響が懸念されます。
再発の可能性は低いものの、環境中に広く存在する毒素の場合、再曝露のリスクに注意が必要です。
毒素の種類 | 長期的影響 | 再発リスク |
シガテラ毒 | 神経症状の遷延 | 再曝露によるリスクあり |
サキシトキシン | 一般に低い | 再曝露によるリスクあり |
リシン | 臓器障害の可能性 | 極めて低い |
予防策と安全対策
自然毒素による感染症の予防には、正しい知識が欠かせません。
主な予防策
- 未知の植物や動物の摂取を避ける
- 野生のキノコや貝類の採取・摂取に注意する
- 食品の調理・保存方法を守る
- 海外旅行時は現地の注意事項に従う
自然毒素の治療における副作用やリスク
自然毒素の治療には、副作用やリスクが伴い、使用される薬剤や治療法の特性、患者さんの個体差、毒素の種類などによって異なります。
解毒療法に関連する副作用とリスク
解毒療法は自然毒素の除去や中和を目的としていますが、同時に副作用のリスクもあります。
活性炭投与の際には、以下のような副作用に注意が必要です。
副作用は、活性炭の物理的・化学的特性に起因するものであり、投与量や投与方法の調整によって軽減できる場合があります。
- 便秘や腸閉塞
- 肺への誤嚥
- 電解質バランスの乱れ
血液浄化療法においては、次のようなリスクが考えられます。
リスク | 詳細 |
血圧低下 | 急激な体液量の変化による |
感染症 | カテーテル挿入部位からの細菌侵入 |
出血傾向 | 抗凝固薬使用による |
これらのリスクを軽減するためには、患者さんの状態を綿密にモニタリングし、必要に応じて治療法を調整することが求められます。
抗毒素血清療法のリスク
抗毒素血清療法は、特定の毒素に対して効果的ですが、アレルギー反応のリスクがあります。
血清中のタンパク質が患者の免疫系を刺激することによって引き起こされる可能性があるためです。
主なリスク
- アナフィラキシーショック
- 血清病
- 遅発性アレルギー反応
リスクを避けるために、投与前のアレルギーテストや、段階的な投与法が採用されることがあります。
支持療法に伴うリスク
支持療法は患者さんの全身状態を維持するために重要ですが、それぞれの治療法に固有のリスクがあります。
治療法 | 主なリスク |
人工呼吸 | 肺炎、気胸 |
輸液療法 | 体液過剰、電解質異常 |
栄養管理 | 代謝異常、感染症 |
薬物相互作用のリスク
自然毒素の治療では、複数の薬剤が併用されることが多く、薬物相互作用のリスクが高まります。
- 抗凝固薬と解毒剤の相互作用による出血リスクの増大
- 解毒剤による他の薬物の吸収阻害
- 肝臓で代謝される薬剤同士の相互作用
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
自然毒素による感染症の治療では、外来診療から集中治療まで幅広い範囲で費用が発生し、数万円から数百万円に及ぶことがあります。
外来診療の費用
軽度の症状で外来診療のみの場合、治療費は比較的低額です。
初診料、検査費用、薬剤費を含めて、5,000円から20,000円程度となることが多く、症状の程度や必要な検査の種類によって変動します。
項目 | 概算費用 |
初診料 | 2,820円 |
検査費用 | 5,000円~10,000円 |
薬剤費 | 2,000円~5,000円 |
入院治療の費用
症状が重い場合や経過観察が必要な場合は入院治療となり、費用は高額です。
集中治療室での治療が必要な場合は100万円を超える可能性もあり、人工呼吸器管理や持続的な血液浄化療法が必要な場合はさらに高額になることがあります。
特殊治療の費用
一部の自然毒素中毒では、特殊な治療が必要です。
ボツリヌス毒素中毒の抗毒素療法では、1回の治療で100万円以上かかり、稀少な抗毒素の使用や特殊な医療機器の使用が必要な場合は、さらに高額になる可能性があります。
以上
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