中東呼吸器症候群(MERS) – 感染症

中東呼吸器症候群(MERS)(Middle East respiratory syndrome)とは、主にヒトコブラクダから人間に感染するウイルス性の呼吸器感染症です。

2012年にサウジアラビアで初めて確認されたこの病気は、中東地域を中心に発生しており、重症化すると肺炎や呼吸不全を引き起こす可能性があります。

症状には発熱、咳、息切れなどがあり、重症例では人工呼吸器が必要になることもあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

中東呼吸器症候群(MERS)の種類(病型)

中東呼吸器症候群(MERS)は、症状の重さに応じて軽症、中等症、重症に分類されます。

軽症型MERS

軽症型MERSは、自宅療養や外来診療で対応できることが多いです。

ただし、感染拡大防止のため、自宅待機や隔離措置が必要になることがあります。

特徴詳細
呼吸器症状軽度の咳や息切れ
全身症状微熱や倦怠感

中等症型MERS

中等症型MERSは、軽症型より症状が顕著であり、入院治療が必要となる場合があり、より慎重な経過観察が求められます。

重症型MERS

重症型MERSは、最も深刻な病型であり、集中治療室(ICU)での管理が必要となることが多いです。

特徴合併症
重度の肺炎急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
呼吸不全多臓器不全
ショック凝固異常

中東呼吸器症候群(MERS)の主な症状

中東呼吸器症候群(MERS)の主な症状には発熱、咳、息切れがあり、重症化すると肺炎や呼吸不全が起きることがあります。

症状の程度は個人差が大きく、無症状の感染者から集中治療を要する重症患者までさまざまです。

軽症の症状

軽症のMERS患者さんは、風邪やインフルエンザに似た症状を呈します。

症状特徴
発熱37.5〜38度程度の微熱
軽い乾咳
倦怠感軽度から中等度
喉の痛み軽度

軽症の場合、これらの症状が数日間続いた後、徐々に改善していくことが多いですが、症状が持続したり悪化することもあるので注意が必要です。

中等症の症状

中等症のMERS患者さんでは、症状がより顕著になり、日常生活に支障をきたす程度まで進行することがあります。

中等症の症状

  • 持続する高熱(38.5度以上)
  • 激しい咳込み
  • 息切れの悪化
  • 胸部不快感や胸痛
  • 食欲不振
  • 嘔気や嘔吐
  • 下痢

重症の症状

重症のMERS患者さんは、急速に状態が悪化し、集中治療を要する場合があります。

この段階では、肺炎や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの深刻な合併症が発生するリスクが高まり、早急な医療介入が必要です。

症状特徴
呼吸困難著しい息切れ、酸素吸入が必要
肺炎両側性の肺炎像
意識障害軽度から重度まで
多臓器不全腎不全、肝不全など

重症患者さんの中には、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)などの高度な医療支援を必要とする方もいます。

中東呼吸器症候群(MERS)の原因・感染経路

中東呼吸器症候群(MERS)は、MERS-CoVと呼ばれるウイルスが原因で、主にヒトコブラクダが宿主とされ、ヒトからヒトへの感染も確認されています。

MERSの原因ウイルス

MERSの原因となるMERS-CoVは、コロナウイルス科ベータコロナウイルス属に分類される一本鎖RNAウイルスです。

このウイルスは、2012年にサウジアラビアで初めて同定され、MERS-CoVは、他のコロナウイルスと比較して高い致死率を示すことが知られています。

ウイルスの特徴詳細
遺伝子型一本鎖RNAウイルス
分類コロナウイルス科ベータコロナウイルス属
発見年2012年

自然宿主と中間宿主

MERS-CoVの自然宿主はコウモリですが、ヒトへの主な感染源となっているのは、中間宿主であるヒトコブラクダです。

ヒトコブラクダは、ウイルスを保有していても明確な症状を示さないことがあり、これが感染拡大の一因になっています。

宿主の種類動物種
自然宿主コウモリ(推定)
中間宿主ヒトコブラクダ

動物からヒトへの感染

MERS-CoVは、主にヒトコブラクダからヒトへ感染します。

感染経路は、感染したラクダとの直接接触、未加熱のラクダ乳やラクダ肉の摂取、ラクダの分泌物や排泄物との接触などです。

特に、ラクダ農家や獣医、屠畜場の労働者など、ラクダと密接に関わる職業の人は感染リスクが高いとされています。

ヒトからヒトへの感染

MERS-CoVは、ヒトからヒトへの感染も確認されています。

主な感染経路

  1. 飛沫感染 感染者の咳やくしゃみによって放出されたウイルスを含む飛沫を吸入することで感染。
  2. 接触感染 感染者の体液や排泄物が付着した物品や環境表面に触れた後、自身の口や鼻、目を触ることで感染。

診察(検査)と診断

中東呼吸器症候群(MERS)の診断は、臨床症状の評価、渡航歴や接触歴の確認、および検査結果の総合的な判断に基づいて行われます。

臨床診断のプロセス

MERSの臨床診断は、患者さんの症状、渡航歴、および疫学的情報を総合的に評価することから始まります。

医療機関では、以下のような情報収集と評価が行われます。

  • 詳細な問診 症状の発症時期、経過、渡航歴、接触歴など
  • 身体診察 体温測定、呼吸音の聴診、酸素飽和度の測定など)
  • 胸部X線検査や CT検査 肺炎像の有無を確認
  • 血液検査 白血球数、CRP値などの炎症マーカーを評価

総合的に判断し、MERSの可能性が高いと考えられる場合には、確定診断のための検査へと進みます。

確定診断のための検査方法

MERSの確定診断には、ウイルスの遺伝子を直接検出する検査が用いられます。

主な検査方法は、リアルタイムRT-PCR法です。

検査方法特徴
リアルタイムRT-PCR法高感度、短時間で結果が得られる
ウイルス分離培養確実だが時間がかかる

検体は、上気道からの検体(鼻咽頭ぬぐい液など)や下気道からの検体(喀痰、気管吸引液など)が用いられます。

検査の実施タイミングと注意点

MERSの検査を実施するタイミングは、症状の発現時期や接触歴などを考慮して決定されます。

  • MERSが疑われる症状がある
  • 中東地域への渡航歴がある
  • MERS患者との濃厚接触歴がある

検査の精度を高めるためには、検体採取のタイミングが大切です。

検体採取のタイミング留意点
症状発現後早期ウイルス量が多く、検出しやすい
複数回の検査偽陰性を避けるため推奨される

診断基準と判定

MERSの診断基準は、臨床症状、疫学的情報、および検査結果を組み合わせて設定されています。

診断基準

  • 臨床的特徴(発熱、呼吸器症状など)を有する
  • 疫学的リンク(渡航歴、接触歴)がある
  • 検査でMERSコロナウイルスが検出される

中東呼吸器症候群(MERS)の治療法と処方薬、治療期間

中東呼吸器症候群(MERS)の治療は、主に対症療法と支持療法が中心で、現時点で治療薬はありません。

対症療法

対症療法は、患者の症状をやわらげることを目的とした治療法です。

主な対症療法

症状治療法
発熱解熱剤の投与
咳嗽鎮咳薬の投与
呼吸困難酸素療法

支持療法

支持療法は、患者の生命維持機能をサポートするための治療法です。

重症例での支持療法

  • 人工呼吸器による呼吸管理
  • 体外式膜型人工肺(ECMO)による呼吸・循環補助
  • 輸液療法による水分・電解質バランスの維持
  • 血圧維持のための昇圧剤投与

抗ウイルス薬の使用

MERSに対する特異的な抗ウイルス薬は現時点で確立されていませんが、一部の薬剤が試験的に使用されています。

薬剤名作用機序
レムデシビルRNAポリメラーゼ阻害
リバビリン核酸アナログ

免疫調整療法

重症例では、過剰な免疫反応(サイトカインストーム)が生じることがあり、免疫調整療法が考慮され、ステロイド薬や免疫グロブリン製剤の投与が行われる場合があります。

ただし、免疫調整療法は、感染症の重症化を防ぐ一方で、ウイルスの排除を遅らせる可能性もあるため、注意が必要です。

治療期間

MERSの治療期間は、患者さんの状態や重症度によって大きく異なります。

治療期間の目安

  • 軽症例 2週間程度
  • 中等症例 3週間程度
  • 重症例 4週間以上

予後と再発可能性および予防

中東呼吸器症候群(MERS)の予後は、軽症から重症まで幅広い経過をたどります。また、再発のリスクは比較的低いものの、完全に否定はできません。

MERSの予後

MERSの予後は、患者さんの年齢や基礎疾患の有無、医療体制によって大きく異なります。

予後因子影響
高齢予後不良のリスク増加
基礎疾患あり重症化リスク上昇
早期発見・対応予後改善の可能性

一般的に、若年者や基礎疾患のない患者さんの予後は比較的良好です。

一方、高齢者や慢性疾患を有する患者さんでは、重症化のリスクが高くなる傾向があります。

死亡率と回復の見込み

MERSの死亡率は、過去の統計によると約30〜40%とされており、他の呼吸器感染症と比較して高い値を示しています。

回復の見込みに影響のある要因

  • 発症からの経過時間
  • 合併症の有無
  • 医療機関のケア体制

再発のリスクと可能性

MERSの再発リスクは比較的低いですが、再発することもあります。

予防策と感染対策

MERSの予防には、発生地域での個人レベルの対策が重要です。

主な予防策

  • こまめな手洗いと手指消毒
  • マスクの着用
  • 咳エチケットの徹底
  • 密閉・密集・密接の「3密」を避ける

中東呼吸器症候群(MERS)の治療における副作用やリスク

中東呼吸器症候群(MERS)の治療には、さまざまな副作用やリスクが伴います。

薬剤関連の副作用

MERSの治療に使用される薬剤には、それぞれ特有の副作用があります。

薬剤主な副作用
抗ウイルス薬肝機能障害、腎機能障害
ステロイド免疫抑制、血糖上昇

人工呼吸器関連合併症

重症例では人工呼吸器管理が必要になることもあり、一定のリスクがあります。

主な合併症

  • 人工呼吸器関連肺炎
  • 気道損傷
  • 肺圧傷
  • 筋力低下

また、長期の人工呼吸器使用は、患者さんの全身状態に大きな影響を与える可能性があります。

免疫調整療法のリスク

重症例で用いられることがある免疫調整療法は、過剰な免疫反応を抑制する一方で、ウイルスの排除を遅らせることがあります。

リスク影響
二次感染免疫抑制による感染リスク増大
ウイルス排除遅延治療期間の延長

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

中東呼吸器症候群(MERS)の治療費は、重症例では数百万円から1000万円以上かかり、高額になります。

治療費の概要

MERSの治療費は、主に入院費、検査費、薬剤費などです。

治療内容概算費用
一般病棟入院(1日)1〜3万円
ICU入院(1日)10〜15万円
胸部CT検査1.5〜2万円

軽症例の治療費

軽症例では、外来治療で済むことが多いです。

  • 血液検査(複数回)5〜8万円
  • 抗ウイルス薬 10〜15万円

重症例の治療費

重症例では、長期の ICU入院や人工呼吸器の使用が必要となる場合があり、治療費が高額になります。

治療内容概算費用
ICU入院(30日間)300〜450万円
人工呼吸器使用(1日)5〜7万円
ECMO使用(1日)10〜15万円

以上

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