疥癬(かいせん)- 感染症

疥癬(かいせん)(scabies)とは、ヒゼンダニという虫が皮膚に寄生することで起こる皮膚病です。

ヒゼンダニは肉眼では見えないほど小さな虫で、皮膚の表面を這いまわったり、皮膚に潜り込んだりし、激しいかゆみが生じます。

疥癬は感染力が非常に強く、接触や衣服、寝具などを介して感染が拡大することがあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

疥癬(かいせん)の種類(病型)

疥癬は、通常疥癬、角化型疥癬(ノルウェー疥癬)、結節性疥癬の3つの主要な病型に分類されます。

通常疥癬

通常疥癬は、疥癬の最も一般的な病型で、疥癬ダニの感染によって、かゆみを伴う発疹が現れます。

感染者との接触を通じて、感染が拡大します。

角化型疥癬(ノルウェー疥癬)

角化型疥癬は、通常疥癬と比べてより重症な病型で、ノルウェー疥癬という呼称でも知られています。

特徴説明
感染ダニ数通常疥癬と比較して、はるかに多くのダニが感染
症状皮膚の角化(肥厚)が顕著に見られる
感染力非常に高い感染力を有する

免疫力が低下した人に発症しやすい病型です。

結節性疥癬

結節性疥癬は、疥癬の特殊な病型の一つとされています。

結節性疥癬の特徴

  • 皮膚に結節(しこり)が形成される
  • 結節には、色素沈着を伴うことがある
  • 治療後も結節が残存することがある
病型感染ダニ数症状の特徴
通常疥癬少数かゆみを伴う発疹が現れる
角化型疥癬多数皮膚の角化(肥厚)が顕著
結節性疥癬少数皮膚に結節(しこり)が形成される

疥癬(かいせん)の主な症状

疥癬の主な症状は、激しいかゆみと特徴的な皮疹です。

激しいかゆみ

疥癬の最も特徴的な症状は、激しいかゆみで、このかゆみは、ヒゼンダニが皮膚に穴を掘ることで起こり、特に夜間に症状が悪化することが多く、睡眠が妨げられることもあります。

症状特徴
かゆみ夜間に悪化することが多い
皮疹手首、指の間、腋の下などに現れやすい

特徴的な皮疹

疥癬では、特徴的な皮疹が現れます。

  • 手首、指の間、腋の下、乳首の周囲などに現れやすい
  • 小さな赤いプツプツした発疹
  • ヒゼンダニが皮膚に穴を掘った跡である線状の皮疹(疥癬トンネル)
部位皮疹の特徴
手首、指の間小さな赤い発疹
乳首の周囲疥癬トンネルがみられることがある

感染拡大のリスク

疥癬は感染力が非常に強く、症状が現れている人との接触や共有物の使用により感染が拡大するリスクがあります。

疥癬(かいせん)の原因・感染経路

疥癬は、ヒゼンダニという寄生虫への感染が原因で、主に皮膚の直接的な接触を介して感染が拡大します。

疥癬の原因

疥癬の原因となるのは、ヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)という寄生虫です。

疥癬の原因説明
ヒゼンダニ肉眼では確認できないほど小さな寄生虫
メスメスのダニが皮膚の表面に トンネルを形成し、 そこに卵を産みつける

ヒゼンダニは、皮膚の角質層に寄生し、トンネルを掘りながら移動します。

感染経路

疥癬の主な感染経路

  • 感染者との直接的な皮膚の接触
  • 感染者が使用したタオルや寝具などの共有
  • 感染者が着用した衣服の共有
感染経路リスク
直接的な皮膚の接触感染リスクが高い
タオルや寝具の共有感染リスクがある
衣服の共有感染リスクがある

疥癬は、感染力が非常に強く、容易に感染が拡大します。

潜伏期間と感染可能期間

疥癬は感染してから発症するまでに、潜伏期間があります。

  • 初感染の場合:2~6週間
  • 再感染の場合:1~4日

感染リスクが高い環境

疥癬の感染リスクが高いのは、濃厚な接触や物品の共有が生じやすい場です。

  • 高齢者施設
  • 児童福祉施設
  • 免疫力が低下している人が多い医療機関

診察(検査)と診断

疥癬の診察では、特徴的な症状や皮疹の分布を視診し、確定診断のために、ヒゼンダニの虫体や虫卵を顕微鏡で確認します。

問診と視診

疥癬が疑われる場合、まず問診で症状の特徴や経過を確認し、次に、視診で皮疹の分布や形態を観察します。

疥癬の特徴的な所見

  • 手首、指の間、腋の下などに小さな赤い発疹
  • 線状の皮疹(疥癬トンネル)
  • 夜間の激しいかゆみ
診察方法確認事項
問診症状の特徴や経過
視診皮疹の分布や形態

顕微鏡検査

疥癬の確定診断には、ヒゼンダニの虫体や虫卵を顕微鏡で確認する必要があります。

皮膚の表面をこすり取ったサンプルを顕微鏡で観察し、ヒゼンダニの存在を確認します。

検査方法目的
顕微鏡検査ヒゼンダニの虫体や虫卵の確認

皮膚生検

皮疹部分を採取して病理検査を行う皮膚生検も、疥癬の診断に用いられる場合があり、皮膚生検では、ヒゼンダニの虫体や虫卵、炎症反応などを調べます。

臨床診断と確定診断

疥癬の診断の手順

  1. 問診と視診による臨床診断
  2. 顕微鏡検査による確定診断
  3. 必要に応じて皮膚生検を実施

臨床所見からの診断が難しかったり、確定診断が求められるときは、顕微鏡検査や皮膚生検を行います。

疥癬(かいせん)の治療法と処方薬

疥癬の治療は、感染したダニを駆除し、症状をやわらげることを目的としており、主に外用薬と内服薬を組み合わせた治療が行われます。

外用薬による治療

疥癬の治療では、外用薬が第一選択です。

外用薬特徴
ペルメトリン軟膏効果が高く、副作用の発生が少ない
クロタミトン軟膏ペルメトリン軟膏と同等の効果が期待できるが、 副作用の発生がやや多い
ベンジルベンゾエート液古くから使用されている薬剤で、 比較的安価だが、刺激性を有する

外用薬は、感染部位に十分に塗布することが大切です。

内服薬による治療

外用薬だけでは十分な効果が得られない場合や、重症例においては内服薬が使用されることがあります。

処方される内服薬

  • イベルメクチン
  • ストロメクトール

治療期間と注意点

疥癬の治療期間

治療法期間
外用薬1週間から2週間程度
内服薬1回から2回の内服で効果が期待できる

治療中は、以下の点に注意が必要です。

  • 清潔な寝具やタオルを使用すること
  • 感染拡大を防ぐために、治療が完了するまで他者との接触を控えること
  • 家族や濃厚接触者も同時に治療を受けること

治療後のフォローアップ

疥癬の治療後は、再発や感染拡大を防ぐために、フォローアップが必要です。

  • 治療効果の確認
  • 再感染の有無のチェック
  • 適切な衛生管理の指導

定期的な診察を受け、再発の兆候がないかを確認します。

治療に必要な期間と予後について

疥癬の治療は、早期発見と薬剤の使用により、比較的短期間で完治が期待できますが、再感染予防のための対策も大切です。

治療薬

疥癬の治療には、ヒゼンダニを駆除するための外用薬が処方されます。

代表的な治療薬

  • イベルメクチン外用薬
  • クロタミトン外用薬
  • ベンジルベンゾエート外用薬
治療薬特徴
イベルメクチン外用薬高い効果と安全性を示す
クロタミトン外用薬古くから使用されている

治療期間

治療薬を使用することで、疥癬は通常1~2週間程度で改善がみられますが、症状が完全に消失するまでには数週間を要することがあります。

期間経過
1~2週間症状の改善がみられる
数週間症状が完全に消失する

予後

適切な治療を行えば、疥癬の予後は良好です。 ただし、免疫力が低下していたり、治療が遅れると、重症化するリスクがあります。

疥癬(かいせん)の治療における副作用やリスク

疥癬の治療は、感染したダニを駆除するために欠かせませんが、使用する薬剤によっては副作用やリスクを伴うことがあります。

外用薬の副作用

疥癬の治療に用いられる外用薬の副作用には、皮膚の刺激感、赤みなどがあります。

外用薬副作用
ペルメトリン軟膏皮膚の刺激感、発赤、かゆみ、灼熱感
クロタミトン軟膏皮膚の刺激感、発赤、かゆみ、接触性皮膚炎
ベンジルベンゾエート液皮膚の刺激感、発赤、かゆみ、灼熱感、 アレルギー反応

副作用は、通常は一時的なものです。

内服薬の副作用とリスク

疥癬の治療に用いられる内服薬であるイベルメクチンやストロメクトールにも、副作用やリスクがあります。

  • 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢)
  • 頭痛
  • めまい
  • 発疹
  • アレルギー反応
内服薬リスク
イベルメクチン妊婦や小児への投与は慎重に検討する必要がある
ストロメクトール妊婦や小児への投与は慎重に検討する必要がある、 肝機能障害のリスク

治療中の注意点

疥癬の治療中の注意点

  • 外用薬を適切に使用し、塗布し残しがないように
  • 内服薬は医師の指示通りに服用
  • 治療中の皮膚は、過度な洗浄や掻破を避ける
  • 副作用が現れた際は、速やかに医師に相談

予防方法

疥癬の予防には、日常生活での衛生管理に加え、感染者との接触を避けることが必要です。

手洗いの徹底

疥癬予防の基本は、手洗いの徹底で、外出先からの帰宅時や、感染が疑われる人との接触後は、石鹸と流水で手をよく洗います。

場面手洗いの重要性
外出先からの帰宅時高い
感染が疑われる人との接触後非常に高い

感染者との接触回避

疥癬は、感染者との直接的な皮膚接触によって感染が広がるので、感染が疑われる人との接触は避け、必要な場合は手袋などで防護します。

感染経路リスク
直接的な皮膚接触高い
衣類や寝具の共有高い

共有物の消毒

疥癬は、感染者が使用した衣類やタオル、寝具などを介しても感染が広がります。

共有物は、高温洗濯や熱乾燥、アイロンがけにより消毒し、必要に応じて、医療機関で処方される薬剤を使用できます。

定期的な健康チェック

疥癬の早期発見には、定期的な健康チェックが欠かせません。 自身の皮膚の状態を観察し、かゆみやプツプツした発疹がないかを確認します。

疥癬の感染リスクを下げる予防策

  • 手洗いの徹底
  • 感染者との接触回避
  • 共有物の消毒
  • 定期的な健康チェック

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

健康保険の適用

疥癬は、健康保険が適用されます。

治療費の内訳

疥癬の治療費

  • 診察費
  • 投薬料(外用薬、内服薬)
  • 処置料(軟膏の塗布など)
治療内容自己負担額の目安
外来診療数千円程度
入院治療数万円程度

ただし、実際の自己負担額は、医療機関や治療内容によって異なることがあります。

実際の治療費に関しては、事前に医療機関に確認してください。

以上

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