老年期出血 – 婦人科

老年期出血(postmenopausal bleeding)とは、閉経後の女性に起こる予期せぬ出血のことです。

閉経は卵巣機能の低下により月経が永久に停止し、12ヶ月以上月経がない状態で、閉経後に再び出血が見られた場合、老年期出血となります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

老年期出血の種類(病型)

老年期出血は、子宮内膜癌、子宮内膜ポリープ、子宮内膜萎縮、子宮筋腫、子宮内膜増殖症、外陰・腟疾患、ホルモン補充療法関連、その他の悪性腫瘍に分類されます。

子宮内膜癌

子宮内膜癌は閉経後の女性に発生する子宮体部の悪性腫瘍で、老年期出血の原因として最も注意を要する病型の一つです。

子宮内膜癌の特徴詳細
好発年齢50-60代
リスク因子肥満、高血圧、糖尿病
主な症状不正出血

子宮内膜ポリープ

子宮内膜ポリープは、子宮内膜から発生する良性の腫瘍性病変で、閉経後の女性にも比較的よく見られ、老年期出血の主要な原因の一つになっています。

子宮内膜ポリープは、単発または多発することがあり、大きさもさまざまです。

子宮内膜萎縮

子宮内膜萎縮は、エストロゲンの減少により子宮内膜が薄くなり、脆弱化する状態のことです。

この状態では、わずかな刺激でも出血が起きることがあります。

子宮筋腫

子宮筋腫は、子宮の筋層から発生する良性腫瘍です。

子宮筋腫は、ホルモン環境の変化により閉経後に縮小することが多いですが、一部の症例では増大し、出血の原因になります。

子宮筋腫の分類特徴
粘膜下筋腫子宮内腔に突出
筋層内筋腫子宮筋層内に存在
漿膜下筋腫子宮外側に突出

子宮内膜増殖症

子宮内膜増殖症は、子宮内膜が異常に肥厚する状態のことです。

エストロゲンの過剰な刺激によって引き起こされることが多く、閉経後の女性でも発生する場合があります。

子宮内膜増殖症は、単純型と異型型に分類され、後者は子宮内膜癌のリスクが高いです。

外陰・腟疾患

外陰や腟の疾患も、老年期出血の原因になることがあります。

  • 外陰炎
  • 腟炎
  • 外陰・腟の良性腫瘍
  • 外陰・腟の悪性腫瘍

ホルモン補充療法関連

ホルモン補充療法を受けている閉経後の女性に、不正出血が生じることがあります。

ホルモン補充療法関連の出血は、治療開始初期や投与量の変更時に生じやすく、多くの場合は一過性です。

ただし、持続する場合や大量の出血がある場合には、他の疾患も考慮する必要があります。

その他の悪性腫瘍

子宮内膜癌以外の悪性腫瘍が、老年期出血の原因になることがあります。

悪性腫瘍の種類発生部位
子宮頸癌子宮頸部
卵巣癌卵巣
腟癌
外陰癌外陰部

老年期出血の主な症状

老年期出血の主な症状は不正出血ですが、病型によって症状の現れ方や特徴が異なります。

子宮内膜癌

子宮内膜癌の場合不正出血が主な症状で、出血の量や頻度は個人差があり、持続的または断続的な出血が見られるケースが多いです。

時に茶褐色の帯下増加を伴うこともあり、進行すると下腹部痛や腰痛などの症状が現れることがあります。

子宮内膜ポリープ

子宮内膜ポリープでは不規則な出血が特徴的で、多くの場合、少量の出血が断続的に起こります。

時に下腹部痛を伴うことがあり、ポリープの大きさや位置によっては、頻尿や排尿時の不快感を感じる方もいます。

子宮内膜萎縮

子宮内膜萎縮による出血は、一般的に少量で断続的です。時に性交後に出血が見られることがあり、下腹部の不快感を感じる方もいます。

また、腟の乾燥感や性交痛を伴うことがあります。

子宮筋腫

子宮筋腫の場合、出血の量や頻度は筋腫の大きさや位置によって違ってきます。

子宮筋腫の主な症状

  • 不規則な出血
  • 過多月経
  • 下腹部痛や圧迫感
  • 頻尿
  • 便秘や排便時の違和感
  • 腰痛

子宮内膜増殖症

子宮内膜増殖症では、不規則で持続的な出血が見られ、多量になることもあります。

その他の症状は、下腹部痛、貧血症状(めまい、倦怠感、息切れなど)です。

外陰・腟疾患

外陰・腟疾患による出血は、主に性交時や排尿時に起こります。

外陰・腟疾患の主な症状

症状特徴
出血性交時や排尿時に発生
痛み外陰部や腟の不快感や痛み
かゆみ外陰部のかゆみや刺激感
分泌物の変化異常な分泌物の増加
排尿障害排尿時の痛みや頻尿
性交痛性交時の痛みや不快感

ホルモン補充療法関連

ホルモン補充療法を受けている方に見られる出血は治療開始初期に多く、不規則な出血が特徴で、量は少量から中等量程度です。

時間の経過とともに出血は減少していきますが、乳房の張りや下腹部の不快感、頭痛などの症状を伴うことがあります。

その他の悪性腫瘍

その他の悪性腫瘍による出血は、腫瘍の種類や進行度によって症状が異なります。

代表的な悪性腫瘍とその症状

腫瘍の種類主な症状
子宮頸癌接触出血、不正出血、帯下の増加、骨盤痛
腟癌不正出血、帯下の増加、排尿時痛、骨盤痛
外陰癌外陰部の痛み、かゆみ、出血、腫瘤形成
卵巣癌腹部膨満感、腹痛、不正出血、食欲不振

老年期出血の原因

老年期出血の主な原因は、ホルモンバランスの乱れ、子宮内膜の異常、子宮筋腫、子宮体がんなどです。

ホルモンバランスの乱れ

閉経後エストロゲンとプロゲステロンの分泌量が減少することで、子宮内膜の状態が不安定になり、身体全体にさまざまな影響を与えます。

ホルモン閉経後の変化
エストロゲン急激な減少
プロゲステロンほぼ消失

ホルモンバランスの乱れにより子宮内膜の不規則な増殖や剥離を引き起こすことが、出血の原因です。

子宮内膜の異常

子宮内膜ポリープや子宮内膜増殖症などの良性病変が、不正出血の要因となるケースも見られます。

ホルモンバランスの乱れ、加齢に伴う細胞の変化、遺伝的要因や環境因子も、子宮内膜の異常発生に関与しています。

子宮筋腫

閉経後の女性でも、ホルモン環境の変化や他の要因により、子宮筋腫が成長したり新たに発生したりする可能性があります。

子宮筋腫の種類特徴
粘膜下筋腫子宮内腔に突出
壁内筋腫子宮筋層内に存在

特に粘膜下筋腫は、子宮内膜を刺激し、出血を引き起こしやすいです。

子宮体がん

子宮体がんは閉経後の女性に多く見られる悪性腫瘍で、初期症状として不正出血が現れることがあります。

子宮体がんのリスクを高める要因

  • 肥満
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • エストロゲン単独療法の長期使用

その他の原因

上記以外にも、腟萎縮や子宮頸がん、卵巣腫瘍なども、出血の要因です。

原因特徴
腟萎縮エストロゲン低下による粘膜の脆弱化
子宮頸がん閉経後も発症のリスクあり

また、抗凝固薬の使用や全身疾患に伴う出血傾向なども、老年期出血の背景にある場合があります。

診察(検査)と診断

老年期出血の診断には問診、身体診察、各種検査が不可欠で、これらの段階を経て、臨床診断から確定診断へと進みます。

問診と身体診察

診察は詳細な問診から始まり、患者さんの年齢、閉経時期、出血の状況、既往歴、家族歴などを聞き取ります。

問診に続いて身体診察が行われ、一般的な身体診察に加え、婦人科的診察として内診が実施され、腟鏡診や双合診により、外陰部、腟、子宮の状態を確認します。

画像検査

画像検査は、内部の状態を確認するために行われます。

主な画像検査

  • 経腟超音波検査
  • 骨盤MRI検査
  • CT検査
  • 子宮鏡検査

これらの検査で、子宮や卵巣の状態、腫瘍の有無などを詳細に観察できます。

細胞診・組織診

細胞診や組織診は、悪性疾患の可能性を評価するために重要です。

主な細胞診・組織診検査

検査名主な目的
子宮頸部細胞診子宮頸癌のスクリーニング
子宮内膜細胞診子宮内膜の異常の検出
子宮内膜組織診子宮内膜の詳細な評価
外陰部生検外陰部病変の評価

血液検査

血液検査は、全身状態の評価や特定の疾患のマーカーを確認するために実施されます。

主な血液検査項目

検査項目主な評価内容
血算貧血の有無、炎症の程度
凝固機能検査出血傾向の評価
腫瘍マーカー悪性腫瘍の可能性の評価
ホルモン検査ホルモンバランスの確認
肝機能・腎機能検査全身状態の評価

老年期出血の治療法と処方薬、治療期間

老年期出血の治療はホルモン療法や手術など、さまざまなものがあり、個々の状況に合わせて治療期間が決定されます。

ホルモン療法による治療

ホルモン療法はエストロゲンとプロゲステロンを組み合わせた治療が一般的で、子宮内膜の過剰な増殖を抑制する効果があります。

主に用いられる薬剤

薬剤名主な作用
結合型エストロゲン子宮内膜の増殖を促進
メドロキシプロゲステロン酢酸エステル子宮内膜の増殖を抑制

治療期間は通常3〜6ヶ月程度です。

外科的治療法

ホルモン療法が効果的でない場合や、悪性腫瘍が疑われる際には外科的治療が検討されます。

  • 子宮内膜掻爬術
  • 子宮鏡下手術
  • 子宮全摘出術

薬物療法による治療

ホルモン療法以外にも、いくつかの薬物療法が老年期出血の治療に用いられます。

薬剤分類代表的な薬剤名主な効果
抗線溶薬トラネキサム酸出血の抑制
NSAIDsイブプロフェン疼痛緩和、出血量減少

治療期間は1〜2週間程度です。

予後と再発可能性および予防

老年期出血の予後は原因疾患により大きく異なり、再発のリスクもさまざまです。

予後の概要

老年期出血の予後は良性疾患の場合、良好です。

一方、悪性腫瘍は、早期発見と迅速な対応が予後に大きく影響します。

主な原因疾患と予後

原因疾患予後の傾向
子宮内膜萎縮良好
子宮内膜ポリープ良好
子宮筋腫良好
子宮内膜癌早期発見で良好
子宮頸癌早期発見で良好
外陰・腟疾患疾患により異なる

再発リスクと経過観察

良性疾患の場合治療後の再発リスクは比較的低いですが、定期的な経過観察が必要です。

悪性腫瘍では再発リスクが高くなる傾向があるため、より慎重な経過観察が求められます。

経過観察の項目

  • 定期的な婦人科検診
  • 画像検査(超音波検査、MRI、CTなど)
  • 細胞診・組織診
  • 血液検査(腫瘍マーカーを含む)
  • 症状の自己観察と報告

検査を定期的に受けることで、再発や新たな異常を早期に発見できます。

予防策

老年期出血の予防には、健康的な生活習慣の維持と定期的な検診が大切です。

主な予防策

予防策期待される効果
定期的な婦人科検診早期発見・早期対応
適正体重の維持ホルモンバランスの安定化
バランスの良い食事全身の健康維持
適度な運動循環改善、ストレス軽減
禁煙発癌リスクの低減
ストレス管理全身の健康維持、免疫機能の向上
十分な睡眠身体の回復、ホルモンバランスの維持

ホルモン補充療法と予防

閉経後のホルモン補充療法(HRT)は、老年期出血の予防に関して議論の的となっています。

HRTの使用については慎重な判断が必要で、個々の状況や希望を考慮し、医師と十分に相談のうえで決定することが重要です。

HRTには以下のようなメリットとデメリットがあります。

メリット

  • 更年期症状の緩和
  • 骨粗鬆症の予防
  • 心血管疾患リスクの低減(特定の年齢群)

デメリット

  • 乳癌リスクの上昇
  • 血栓症リスクの上昇
  • 子宮内膜癌リスクの上昇(エストロゲン単独使用の場合)

老年期出血の治療における副作用やリスク

老年期出血の治療にはホルモン療法や手術があり、それぞれに副作用やリスクがあります。

ホルモン療法の副作用

エストロゲンとプロゲステロンを組み合わせた治療では、以下のような副作用が生じることがあります。

副作用発生頻度
乳房痛比較的多い
浮腫まれ

副作用は一般的に軽度で、時間とともに改善することが多いです。

手術療法のリスク

手術療法には一般的な手術に伴うリスクに加え、婦人科特有のリスクもあります。

  • 出血
  • 感染
  • 周辺臓器の損傷
  • 麻酔に関連する合併症

リスクは患者さんの年齢や全身状態、手術の種類によって異なります。

薬物療法の副作用

薬物療法の副作用

薬剤主な副作用
抗線溶薬消化器症状
NSAIDs胃腸障害

副作用は多くの場合一時的なものですが、長期使用の際には注意が必要です。

放射線療法のリスク

放射線療法は照射部位の皮膚炎や粘膜炎、さらには長期的な組織の線維化などが生じる可能性があるため、治療中だけでなく治療後も継続的なフォローアップが必要です。

治療後の長期的なリスク

老年期出血の治療後も、長期的なリスクに注意が必要です。

ホルモン療法を長期間継続する場合、血栓症のリスクが上昇する可能性があります。

特に喫煙者や肥満の方、高血圧や糖尿病などの基礎疾患がある患者さんでは、このリスクがさらに高まるため、定期的な検査と生活習慣の改善が重要です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来診察と基本的な検査費用

外来での検査にかかる費用

項目費用(概算)
超音波検査5,000円〜8,000円
細胞診3,000円〜5,000円
血液検査3,000円〜10,000円
尿検査1,000円〜2,000円

精密検査の費用

より詳細な診断が必要な場合、精密検査が行われることがあります。

  • MRI検査:20,000円〜40,000円
  • CT検査:10,000円〜30,000円
  • 子宮鏡検査:20,000円〜40,000円
  • 子宮内膜生検:15,000円〜25,000円

処置・手術の費用

診断結果によっては、処置や手術が必要です。

処置・手術費用(概算)
子宮内膜全面掻爬術50,000円〜100,000円
子宮鏡下手術200,000円〜500,000円
子宮全摘出術(腹腔鏡下)800,000円〜1,500,000円
子宮全摘出術(開腹)600,000円〜1,200,000円

入院費用

入院が必要な場合、1日あたり10,000円〜30,000円程度の費用が発生します。

以上

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