重症熱性血小板減少症候群(SFTS) – 感染症

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)とは、SFTSウイルスが原因で発症する急性の発熱性疾患です。

2011年に中国で初めて報告されたこの病気は、その後、日本や韓国など、アジア地域でも患者が確認されるようになりました。

SFTSウイルスは、主にマダニが媒介しますが、感染した動物や人との接触でも感染が拡大する可能性があります。

SFTSの主な症状は、発熱、消化器症状、血小板減少などであり、重症化した場合、多臓器不全を引き起こすこともあり、致死率は約30%と高いことから、注意が必要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の種類(病型)

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)には、感染経路や症状の違いから、いくつかの種類があることが分かっています。

ダニ媒介型SFTS

ダニ媒介型SFTSは、SFTSウイルスに感染したマダニに刺されることで発症します。

この病型は、SFTS患者の大多数を占めており、春から秋にかけて多く発生する傾向があります。

特徴詳細
感染経路SFTSウイルス保有マダニに刺される
好発時期春〜秋
リスク因子野外活動、農作業など

2型SFTS

2型SFTSは、ダニ媒介型とは異なり、感染した人からの直接的な接触によって感染が広がるタイプです。

医療従事者や家族内での感染例が報告されています。

  • 感染経路:感染者との直接接触(血液、体液など)
  • 二次感染リスクあり
  • 標準予防策の徹底が重要

人獣共通感染型SFTS

人獣共通感染型SFTSは、SFTSウイルスに感染した動物との接触によって発症するタイプです。

感染動物の血液や体液に曝露されることで感染リスクが高まります。

感染源となる動物リスク因子
イヌ、ネコ感染動物の血液・体液への曝露
ウシ、ブタ、シカなど感染動物の解体・処理

病型間の関連性

これらの病型は、感染経路こそ異なりますが、いずれもSFTSウイルスが原因となっており、互いに関連性を持っています。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の主な症状

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、さまざまな症状を示す感染症ですが、中でも主要な症状は発熱、消化器症状、血液系の異常であり、重症化した場合、致死率が高くなることが分かっています。

発熱

SFTSの初期症状として、ほとんどの患者で高熱が認められます。

発熱の特徴詳細
発熱時期発症から数日以内
体温38℃以上の高熱
持続期間1週間前後

消化器症状

発熱に伴って、消化器症状も高頻度で出現します。

  • 悪心・嘔吐
  • 腹痛
  • 下痢
  • 食欲不振

これらの症状は、患者のQOL(生活の質)を大きく低下させる要因となります。

血液系の異常

SFTSの特徴的な所見として、血小板減少と白血球減少が挙げられます。

血液検査所見概要
血小板減少重度の血小板減少を呈する
白血球減少リンパ球を中心とした白血球減少

これらの血液系の異常は、出血傾向や感染リスクの増大につながることがあります。

重症化と致死率

SFTSは、重症化すると多臓器不全を来たし、致死率が30%にも及ぶことが知られています。

意識障害、呼吸不全、出血傾向など、重篤な合併症を引き起こすことから、早期の診断と集中治療が大切です。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の原因・感染経路

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、SFTSウイルスによって引き起こされる感染症です。

主にマダニを介して感染が広がりますが、感染した人や動物との接触でも感染することがあります。

SFTSウイルス

SFTSの原因となるのは、ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類されるSFTSウイルスです。

このウイルスは、遺伝子構造が他のフレボウイルスと類似しているものの、独自の特徴を有しています。

ウイルスの特徴詳細
形状球形、エンベロープを有する
ゲノム3分節の一本鎖RNA
増殖様式細胞質内で増殖

マダニを介した感染

SFTSウイルスは、主にマダニによって媒介されます。

ウイルスに感染したマダニが吸血する際に、ウイルスが宿主に伝播されるのです。

  • フタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)
  • キチマダニ(Amblyomma testudinarium)
  • ヤマトマダニ(Ixodes ovatus)

これらのマダニは、日本を含むアジア地域に広く分布しています。

人獣共通感染

SFTSは、人獣共通感染症としての側面も持っています。

感染した動物との接触により、ヒトへの感染リスクが高まることが知られています。

感染リスクのある動物感染経路
イヌ、ネコ感染動物の血液・体液との接触
ウシ、ブタ、シカなど感染動物の解体・処理

ヒトからヒトへの感染

SFTSウイルスは、感染者の血液や体液を介してヒトからヒトへ感染することがあります。

医療従事者や家族内での二次感染例が報告されており、注意が必要です。

診察(検査)と診断

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の診断には、臨床症状や疫学的情報に加えて、特異的な検査結果が重要な役割を果たします。

臨床症状と病歴聴取

SFTSの診察では、まず特徴的な臨床症状の有無を確認します。

主要症状詳細
発熱38℃以上の高熱
消化器症状悪心、嘔吐、下痢、腹痛など
血小板減少血小板数が10万/μL以下

また、患者の病歴や疫学的情報を詳細に聴取することが重要です。

  • マダニに刺された歴
  • 野外活動の有無
  • 感染が疑われる地域への訪問歴
  • 感染者との接触歴

血液検査

SFTSを疑う場合、以下の血液検査を実施します。

検査項目目的
血算血小板減少、白血球減少の確認
生化学検査肝機能障害、腎機能障害の評価
凝固系検査DIC(播種性血管内凝固症候群)の評価

これらの検査結果は、SFTSの診断や重症度の判定に役立ちます。

ウイルス学的検査

SFTSの確定診断にはウイルス学的検査が必要で、以下の方法でSFTSウイルスの存在を直接的または間接的に証明します。

  • 血清中のSFTSウイルスRNA検出(RT-PCR法)
  • 血清中のSFTSウイルス特異的IgM抗体の検出(ELISA法)
  • ウイルス分離(細胞培養)

これらの検査は、専門の検査機関で行われます。

診断基準

SFTSの診断には、以下の診断基準が用いられます。

  • 臨床的特徴:発熱、血小板減少、白血球減少など
  • 疫学的特徴:マダニ刺咬歴、野外活動歴、感染地域への訪問歴など
  • ウイルス学的検査:SFTSウイルスの直接的または間接的証明

これらの項目を満たす場合、SFTSと診断されます。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の治療法と処方薬

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、特異的な治療法がなく、主に対症療法と支持療法が中心となりますが、病態に応じた適切な治療が患者の予後を左右します。

対症療法

SFTSの治療では、症状に応じた対症療法が重要です。

症状治療法
発熱解熱剤、冷却法
消化器症状制吐剤、整腸剤、補液
血小板減少血小板輸血

これらの治療により、患者の症状を緩和し、合併症を予防することが可能です。

支持療法

SFTSの治療では支持療法も不可欠で、以下の支持療法を行うことで、患者の全身状態を改善し、回復を促します。

  • 輸液・電解質補正
  • 栄養管理
  • 呼吸管理
  • 血圧管理

重症例では、集中治療室(ICU)での管理が必要となることがあります。

抗ウイルス薬

SFTSに対する特異的な抗ウイルス薬は確立されていませんが、一部の薬剤が治療に用いられることがあります。

薬剤名作用機序
リバビリンウイルスの増殖を抑制
ファビピラビルウイルスの増殖を抑制

ただし、これらの薬剤の有効性は限定的であり、副作用にも注意が必要です。

免疫療法

重症例では、免疫グロブリン製剤の投与が行われることがあります。

免疫グロブリン製剤は、ウイルスの中和や免疫調節作用を有し、病態の改善に寄与する可能性があります。

ただし、その効果は限定的であり、更なる研究が求められています。

治療に必要な期間と予後について

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の治療期間と予後は、症例ごとに大きく異なります。

軽症例では比較的良好な経過が期待できる一方、重症例では集中治療を要し、予後不良となることがあります。

軽症例の治療期間と予後

軽症例では、対症療法と支持療法により、以下のような経過をたどることが多いです。

経過期間
症状の改善発症から1週間程度
検査値の正常化発症から2〜3週間程度
回復発症から1ヶ月程度

軽症例の予後は良好であり、多くの患者が後遺症なく回復します。

ただし、一部の患者では、倦怠感や脱力感が遷延することがあります。

重症例の治療期間と予後

重症例では、集中治療を要し、治療期間が長期化する傾向があります。

経過期間
急性期の治療発症から2〜4週間程度
合併症の管理数週間〜数ヶ月
リハビリテーション数ヶ月〜数年

重症例の予後は、合併症の種類や程度によって大きく異なります。

  • 多臓器不全を来たした場合、死亡率が高い
  • 神経学的合併症を来たした場合、後遺症が残る可能性がある
  • 重度の血液凝固異常を来たした場合、出血合併症のリスクが高い

早期の診断と適切な治療介入が重要です。

予後に影響を与える因子

SFTSの予後は、以下のような因子によって影響を受けます。

因子詳細
年齢高齢者は予後不良
基礎疾患心疾患、糖尿病、免疫抑制状態などは予後不良
重症度多臓器不全、意識障害、出血傾向などは予後不良

これらの因子を考慮し、個々の患者に応じた治療戦略を立てることが求められます。

後遺症と長期予後

SFTSでは、神経学的後遺症を来たすことがあります。

  • 認知機能障害
  • 運動障害
  • 感覚障害

これらの後遺症は、患者のQOL(生活の質)を大きく低下させる可能性があります。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の治療における副作用やリスク

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の治療では、患者の症状を緩和し、合併症を予防するために、様々な薬剤や治療法が用いられますが、それぞれに特有の副作用やリスクが存在します。

対症療法に関連する副作用

SFTSの対症療法で用いられる薬剤には、以下のような副作用が報告されています。

薬剤主な副作用
解熱鎮痛剤消化器症状、肝機能障害、腎機能障害
制吐剤錐体外路症状、傾眠、口渇
止瀉薬便秘、腹部膨満感、肝機能障害

これらの副作用は、患者の状態に応じて適切な薬剤選択と用量調整を行うことで、最小限に抑えることが可能です。

輸血療法に伴うリスク

SFTSでは、血小板減少に対して血小板輸血が行われることがありますが、以下のようなリスクが伴います。

  • 輸血関連感染症(ウイルス、細菌、寄生虫など)
  • 輸血関連急性肺障害(TRALI)
  • 輸血関連免疫調節(TRIM)
  • 輸血後GVHD(移植片対宿主病)

これらのリスクを最小限に抑えるために、適切なドナースクリーニングと製剤管理が不可欠です。

抗ウイルス薬の副作用

SFTSの治療に用いられる抗ウイルス薬には、以下のような副作用が報告されています。

薬剤主な副作用
リバビリン溶血性貧血、teratogenicity
ファビピラビル高尿酸血症、消化器症状、精子数減少

これらの副作用は、患者の状態や併用薬を考慮し、慎重に薬剤選択を行うことが重要です。

特に、妊婦や授乳婦への投与は避けるべきです。

免疫療法に関連する副作用

SFTSの治療に免疫グロブリン製剤が用いられることがありますが、以下のような副作用が報告されています。

  • 発熱、悪寒、頭痛などのインフュージョンリアクション
  • アナフィラキシーショック
  • 無菌性髄膜炎
  • 血栓塞栓症

これらの副作用を早期に発見し、適切に対処することが重要です。

予防方法

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)を予防するためには、SFTSウイルスへの曝露を避け、感染リスクを最小限に抑えることが重要です。

マダニ刺咬の予防

SFTSウイルスは主にマダニによって媒介されるため、マダニ刺咬の予防が最も重要な対策です。

対策具体例
服装長袖・長ズボンの着用、裾の処理
忌避剤DEET、イカリジンなどの使用
入浴・シャワー野外活動後の入浴・シャワーによるマダニの早期発見・除去

これらの対策を講じることで、マダニ刺咬のリスクを大幅に減らすことができます。

感染動物との接触防止

SFTSウイルスは、感染した動物との接触によっても伝播する可能性があり、以下の点に注意し、感染動物との接触を避けることが重要です。

  • 野生動物や死亡動物への不用意な接触を避ける
  • ペットの健康管理を適切に行う
  • 動物由来の血液や体液への曝露を避ける

動物を扱う際には、手袋の着用や手指衛生の徹底が必要です。

ヒトからヒトへの感染予防

SFTSは、感染者の血液や体液を介してヒトからヒトへ感染する可能性があります。

対象者予防策
医療従事者標準予防策の徹底、適切な個人防護具の使用
患者の家族・介護者手指衛生の徹底、体液・排泄物の適切な処理

感染リスクの高い環境では、感染予防対策の厳格な実施が求められます。

社会的な取り組み

SFTSの予防には、個人レベルでの対策だけでなく、社会全体での取り組みが不可欠であり、以下のような取り組みが重要です。

  • 疫学調査の実施と情報共有
  • マダニ対策の推進(公園・緑地の管理、殺ダニ剤の使用など)
  • 感染リスクに関する啓発活動
  • サーベイランスシステムの構築

行政機関、医療機関、研究機関が連携し、効果的な予防対策を講じることが求められます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、ウイルス性の感染症であり、その治療には多額の費用がかかることがあります。

SFTSの治療費は、患者の症状の重症度、合併症の有無、入院期間などによって大きく異なります。

軽症例の治療費

軽症例では、対症療法と支持療法が中心となるため、比較的低コストで治療が可能です。

項目概算費用
診察・検査費数万円
投薬費数万円
入院費数十万円
保険適用により上記の1~3割負担になることがあります

ただし、合併症の発生や症状の遷延により、治療費が増加することがあります。

重症例の治療費

重症例では、集中治療を要するため、治療費が高額になる傾向があります。

項目概算費用
集中治療室(ICU)管理費数百万円
人工呼吸器管理費数百万円
血液浄化療法費数百万円
保険適用により上記の1~3割負担になることがあります

以上

References

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