無排卵性出血 – 婦人科

無排卵性出血(anovulatory bleeding)とは排卵が起こらないまま子宮内膜が剥がれ落ちることで生じる不規則な出血のことです。

通常は排卵後に分泌されるホルモンの影響で子宮内膜が肥厚し受精卵の着床に備えますが、無排卵性出血では排卵が起こらないためホルモンバランスが乱れ子宮内膜が不規則に剥がれ落ちます。

思春期や更年期などホルモンバランスが不安定になりやすい時期に多く見られる症状です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

無排卵性出血の種類(病型)

無排卵性出血は思春期・成熟期・更年期の3つの病型に分類され、各時期で異なる特徴を持ちホルモンバランスの乱れが主な要因です。

無排卵性出血の病型分類

無排卵性出血は女性のライフステージに応じて分類されます。

病型特徴
思春期ホルモンバランスの未成熟
成熟期ストレスや生活習慣の影響
更年期卵巣機能の低下

思春期の無排卵性出血

思春期の無排卵性出血は初経後数年間に見られることが多い病型です。

この時期は視床下部-下垂体-卵巣系の機能が未熟でありホルモンバランスが不安定になりやすく、月経周期の確立には時間がかかることがあります

成熟期の無排卵性出血

成熟期の無排卵性出血は20代後半から40代前半の女性に見られる病型です。

この時期は通常ホルモンバランスが安定していますが、さまざまな要因により乱れることがあります。

要因影響
ストレスホルモン分泌の乱れ
極端なダイエット栄養不足による機能障害
過度の運動体脂肪率の低下
不規則な生活体内リズムの乱れ

更年期の無排卵性出血

更年期の無排卵性出血は40代後半から50代にかけて見られる病型です。

この時期は卵巣機能が徐々に低下しホルモンバランスが大きく変わり、月経周期が不規則になったり出血パターンが変化することがあります。

特徴説明
エストロゲン低下子宮内膜の不安定化
排卵の不規則化周期の乱れ
プロゲステロン不足子宮内膜の増殖
FSH上昇卵巣刺激の増加

無排卵性出血の主な症状

無排卵性出血は不規則な出血パターンが共通する一方で、年齢に応じて特有の徴候が現れることがあります。

思春期の無排卵性出血

思春期の無排卵性出血の主な特徴として不規則な出血パターンが挙げられ、月経の間隔が一定せず予測が不可能です。

また、出血量も一定ではなく多かったり少なかったり、出血の持続時間も不安定で通常の月経よりも長引くことがあります。

思春期の症状特徴
出血パターン不規則
出血量変動あり
出血期間不安定

成熟期の無排卵性出血

成熟期では月経周期の乱れが顕著になり、規則的だった周期が突然不規則になるといった変化が見られます。

出血量は通常の月経よりも多くなることがあり、時に貧血の原因にもなるので注意が必要です。

成熟期の症状特徴
月経周期突然の乱れ
出血量増加または軽度
貧血リスク上昇の可能性

更年期の無排卵性出血

更年期に入るとホルモンバランスの変化に伴い無排卵性出血の様相が変化します。

この時期の特徴は、月経周期の短縮や延長が起こり、以前の周期とは全く異なるパターンになることです。

出血量に関しては非常に多くなったり、長期間出血が続くこともあります。

更年期の症状特徴
月経周期短縮または延長
出血量増加の可能性
出血期間長期化の傾向

年代共通の症状

年齢にかかわらず無排卵性出血に共通する症状もあります。

  • 下腹部痛や腰痛
  • 疲労感の増加
  • めまいや立ちくらみ(特に出血量が多い場合)
  • 気分の変動
共通症状影響
身体的症状痛み、疲労
精神的影響気分変動

無排卵性出血の原因

無排卵性出血の主な原因としてホルモンバランスの乱れが挙げられますが、背景には年齢やストレス生活習慣、体重変動、内分泌疾患などがあります。

ホルモンバランスの乱れ

無排卵性出血の最も基本的な原因は女性ホルモンのバランスが崩れることです。

ホルモン主な役割
エストロゲン子宮内膜の増殖
プロゲステロン子宮内膜の安定化

ホルモンバランスが乱れると排卵が起こらず、子宮内膜が不安定な状態になります。

年齢による影響

年齢は無排卵性出血の発生に大きく関わる要因の一つです。

思春期や更年期などホルモンバランスが大きく変化する時期に無排卵性出血が起こりやすくなります。

  • 思春期初経後数年間は視床下部-下垂体-卵巣系の機能が未熟
  • 更年期では卵巣機能の低下に伴いホルモン分泌が不安定化

これらの時期は体内のホルモン環境が大きく変動するため無排卵性出血のリスクが高まります。

ストレスと生活習慣

過度のストレスは視床下部-下垂体-卵巣系の機能に影響を与えホルモンバランスを乱す可能性があります。

生活習慣影響
不規則な睡眠体内リズムの乱れ
極端な食事制限栄養不足
過度の運動エネルギーバランスの崩壊

これらの要因が複合的に作用し排卵機能に影響を与えます。

体重変動の影響

体重の急激な変化も無排卵性出血の原因で、極端なダイエットによる急激な体重減少はホルモンバランスに大きな影響を与え、肥満も排卵機能に悪影響を及ぼすことがあります。

体重変化ホルモンへの影響
急激な減量エストロゲン低下
肥満インスリン抵抗性増加

内分泌疾患との関連

無排卵性出血は内分泌疾患と関連している場合があります。

代表的な疾患

  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
  • 甲状腺機能異常
  • 高プロラクチン血症
  • 副腎疾患

診察(検査)と診断

無排卵性出血の診断には詳細な問診、身体診察、各種検査が必要です。

問診の重要性

無排卵性出血の問診では、患者さんの月経歴、出血パターン、その他の症状について詳しく聴取します。

特に月経周期の規則性や不規則性、出血の量や持続期間、随伴症状などが重要な情報です。

また、既往歴、家族歴、生活習慣なども考慮に入れます。

問診項目確認内容
月経歴周期、規則性
出血状況量、持続期間
随伴症状痛み、不快感
既往歴関連疾患の有無

身体診察の実施

一般的な診察では体重、血圧、脈拍などのバイタルサインをチェックし、婦人科的診察では外陰部の観察、腟鏡診、内診などを行い子宮や卵巣の状態を評価します。

診察項目評価内容
一般診察バイタルサイン
婦人科診察子宮・卵巣の状態

各種検査の実施

無排卵性出血の診断を確実にするためさまざまな検査が行われます。

  • 血液検査 貧血の有無 ホルモン値(FSH LH エストラジオール プロゲステロン等)を調べる。
  • 経腟超音波検査 子宮や卵巣の状態を詳しく観察。

必要に応じて子宮内膜細胞診や子宮内膜組織診も実施されることがあります。

検査項目目的
血液検査貧血、ホルモン評価
超音波検査子宮、卵巣の観察
細胞診・組織診病変の有無確認

臨床診断と確定診断

無排卵性出血の臨床診断では不規則な出血パターン、ホルモン値の異常、超音波検査での卵胞発育の欠如などが重要な所見です。

無排卵性出血の診断に用いられる主な基準

  • 不規則な月経周期(21日未満または35日以上)
  • 持続的または頻繁な出血
  • エストロゲンとプロゲステロンのアンバランス
  • 超音波検査での卵胞発育不全
診断基準特徴
月経周期不規則
出血パターン持続的・頻繁
ホルモンバランス不均衡
卵胞発育不全

無排卵性出血の治療法と処方薬、治療期間

無排卵性出血の主な治療法としてホルモン療法が挙げられ、経口避妊薬や黄体ホルモン剤が用いられることが多く、治療期間は数週間から数か月にわたることがあります。

ホルモン療法による治療

無排卵性出血の主要な治療法としてホルモン療法が広く用いられ、体内のホルモンバランスを調整し正常な月経周期の回復を目指します。

ホルモン療法の種類

治療法主な目的
経口避妊薬周期の安定化
黄体ホルモン剤子宮内膜の安定化
ゴナドトロピン排卵誘発
  • 経口避妊薬 人工的に安定した周期を作り出すことにより不規則な出血を抑制する効果があります。
  • 黄体ホルモン剤 子宮内膜を安定させ不正出血を防ぐ目的で使用されます。
  • ゴナドトロピン 排卵を誘発する目的で使用されることがありますが主に妊娠を希望する場合に選択されます。

治療期間と経過観察

無排卵性出血では、数週間から数か月にわたる治療が必要になることが多いです。

治療段階期間の目安
初期治療1~3か月
経過観察3~6か月
長期管理6か月以上

処方薬の種類と使用方法

無排卵性出血の治療に用いられる主な処方薬は、医師の指示に従って正しく使用することが不可欠です。

経口避妊薬(低用量ピル)

  • 使用方法一般的に21日間連続で服用し7日間休薬
  • 効果月経周期の安定化不正出血の抑制

黄体ホルモン剤

  • 使用方法月経周期の後半に10~14日間服用
  • 効果子宮内膜の安定化不正出血の予防

ゴナドトロピン

  • 使用方法医師の指示に従い注射により投与
  • 効果排卵誘発卵胞発育促進

治療効果の評価と長期的な管理

治療効果の主な評価指標

評価項目内容
月経周期の規則性28~35日周期の確立
出血量の正常化過多月経や過少月経の改善
排卵の有無基礎体温や超音波検査による確認
ホルモン値血中エストロゲンプロゲステロン値の正常化

治療効果が認められた後も一定期間の経過観察が必要です。

予後と再発可能性および予防

無排卵性出血は対応により改善が期待できる疾患ですが、予後は個人差が大きく再発の可能性も考慮する必要があります。

年齢別の予後傾向

無排卵性出血の予後は年齢によって異なる傾向があります。

  • 思春期 ホルモンバランスが自然に整うことで改善する例が多く見られる。
  • 成熟期 生活習慣の改善やストレス管理により良好な予後が期待できる。
  • 更年期 ホルモン補充療法などの介入により症状のコントロールが可能となることが多い。
年齢層予後傾向
思春期自然改善が多い
成熟期生活改善で好転
更年期介入で管理可能

再発の可能性と要因

無排卵性出血は一度改善しても再発する可能性があります。

再発のリスク要因

再発リスク要因影響度
ストレス
食事制限中~高
激しい運動中~高
ホルモン疾患

再発予防のための生活習慣

再発を予防するためには日常生活での注意が大切です。

  • 規則正しい生活リズムの維持
  • バランスの取れた食事
  • 適度な運動
  • ストレス管理
  • 十分な睡眠

無排卵性出血の治療における副作用やリスク

無排卵性出血の治療には主にホルモン療法が用いられ、副作用として悪心や頭痛体重変動などが挙げられます。

また血栓症のリスク増加や長期使用による骨密度への影響などにも注意が必要です。

ホルモン療法の副作用

ホルモン療法の副作用

副作用頻度
悪心比較的多い
頭痛比較的多い
体重変動しばしば見られる
乳房の張り時々見られる

血栓症のリスク

ホルモン療法特に経口避妊薬の使用に関連して血栓症のリスク増加が報告されています。

以下のような要因がある患者さんは特に注意が必要です。

  • 35歳以上の喫煙者
  • 肥満
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 血栓性素因を持つ方

血栓症のリスクは薬剤の種類や投与量使用期間によっても異なります。

長期使用による影響

ホルモン療法の長期使用に関してはいくつかのリスクが指摘されています。

長期的影響関連する要因
骨密度低下エストロゲン低用量
乳がんリスクホルモン剤の種類と使用期間
子宮内膜がんリスクプロゲステロン不足
肝機能への影響薬剤代謝の個人差

骨密度への影響は低用量のエストロゲンを長期間使用する場合に懸念され、乳がんリスクについてはホルモン剤の種類や使用期間によります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来診療の基本的な費用

外来での診察と基本的な検査にかかる費用は、おおよそ5,000円から15,000円程度です。

ただし詳細な血液検査や特殊な画像診断が必要な場合は、追加の費用が発生することがあります。

項目費用範囲
超音波検査2,000円~5,000円
血液検査3,000円~10,000円
内分泌検査5,000円~15,000円

薬物治療にかかる費用

無排卵性出血の治療では、ホルモン剤や漢方薬が処方されることがあります。

これらの薬剤費用は種類や投与期間によって異なり、月額5,000円から20,000円程度です。

薬剤種類月額費用範囲
ホルモン剤5,000円~15,000円
漢方薬3,000円~10,000円

特殊検査や処置の費用

より詳細な診断や治療が必要な際は、特殊な検査や処置が行われることがあります。

  • ホルモン負荷試験 15,000円~35,000円
  • 子宮内膜生検 20,000円~30,000円
  • 子宮鏡検査 25,000円~45,000円

入院治療が必要な場合の費用

重度の症状や合併症がある場合、入院治療が必要となることがあります。

入院費用は1日あたり25,000円から60,000円程度です。

治療期間が長期化する場合、総額で数十万円に達することもあります。

入院期間概算費用
3日間75,000円~180,000円
1週間175,000円~420,000円

以上

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