希発月経(きはつげっけい) (oligomenorrhea)とは月経周期が異常に長くなる状態のことです。
通常月経周期は約21日から35日程度ですが、希発月経では35日を超え多くの場合3か月以上経過しても月経が来ないことが続きます。
体内でホルモンバランスの乱れが生じていることを示唆しており、ストレスや過度な運動、急激な体重変化、甲状腺機能の異常など生活習慣や他の健康上の問題などが原因です。
希発月経の主な症状
希発月経は思春期、成熟期、更年期の各段階で異なる症状を呈することがあります。
思春期の希発月経症状
思春期の希発月経で見られる症状
- 月経周期の不規則化
- 月経量の変動
- 体重変化
- にきびの増加
思春期の女性にとって規則的な月経の確立は重要な発達過程の一つですが、希発月経によりこの過程が遅れることがあります。
症状 | 特徴 |
月経周期の延長 | 35日以上の周期 |
月経量の変動 | 少量から多量まで変化 |
影響 | 詳細 |
心理的影響 | 不安や焦りの増加 |
身体的影響 | ホルモンバランスの乱れ |
成熟期の希発月経症状
月経周期の延長と不規則化は成熟期の希発月経でも主要な症状です。
これに加えて排卵の遅延や不規則化も起こりやすくなります。
症状 | 影響 |
排卵の遅延 | 妊娠計画への影響 |
月経周期の不規則化 | 生活リズムの乱れ |
関連症状 | 頻度 |
PMS症状の変化 | 月経前に増強 |
体重変動 | 周期に応じて変化 |
排卵の遅延や不規則化は妊娠を希望する女性にとって特に気がかりな症状です。
更年期の希発月経症状
更年期に入ると希発月経の症状はさらに複雑になることがあります。
主な症状
- 月経周期の極端な延長(数か月に1回程度)
- 月経量の減少
- ホットフラッシュ
- 寝汗
- 気分の変動
更年期の希発月経は閉経への移行過程の一部であることが多いです。
症状 | 頻度 |
ホットフラッシュ | 日中に複数回 |
寝汗 | 夜間に発生 |
希発月経の原因
希発月経の主な原因はホルモンバランスの乱れ、ストレス、体重変動、運動過多そして基礎疾患などです。
ホルモンバランスの乱れ
希発月経の最も一般的な原因は、卵巣から分泌されるエストロゲンとプロゲステロンのバランスが崩れることによるホルモンバランスの乱れです。
ホルモン | 役割 |
エストロゲン | 子宮内膜の増殖 |
プロゲステロン | 子宮内膜の維持 |
影響因子 | ホルモンへの影響 |
ストレス | 分泌リズムの乱れ |
体重変動 | 産生量の変化 |
ストレスと生活習慣の影響
過度のストレスは視床下部-下垂体-卵巣軸に影響を与えホルモン分泌のリズムを乱す可能性があります。
また不規則な生活習慣や睡眠不足も、体内リズムの乱れを通じて月経周期に影響を及ぼすことがあります。
希発月経に関連する生活習慣
- 不規則な睡眠パターン
- 過度の夜更かし
- 極端な食事制限
- 過度の飲酒や喫煙
体重変動と栄養状態
体重の急激な変化も希発月経の原因です。
極端な体重減少はエストロゲンの産生に影響があり月経周期の乱れを引き起こし、肥満もホルモンバランスに影響を与えることがあります。
体重変動 | 影響 |
急激な減量 | エストロゲン低下 |
肥満 | インスリン抵抗性増加 |
運動と希発月経の関係
長距離走やバレエなど高強度の運動を長時間続けると、体脂肪率の低下や代謝の変化によってホルモンバランスが乱れ、希発月経が発生しやすいです。
運動強度 | 影響 |
中程度 | 月経周期の安定化 |
過度 | ホルモン分泌の抑制 |
基礎疾患と希発月経
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は希発月経を引き起こす代表的な疾患の一つです。
PCOSでは卵巣にホルモンバランスの乱れが生じ排卵障害や月経不順が起こります。
その他甲状腺機能異常や高プロラクチン血症なども希発月経の原因となる場合があります。
診察(検査)と診断
希発月経の診断には詳細な問診、身体診察、各種検査が必要です、
問診と身体診察
希発月経の問診では、患者さんの月経歴、生活習慣ストレスレベル、運動量、食事内容、また既往歴や家族歴服用中の薬剤についても確認します。
その後、身長体重BMIの測定、甲状腺の触診、乳房や外性器の視診・触診などを行います。
問診項目 | 確認内容 |
月経歴 | 周期、持続日数、出血量 |
生活習慣 | 睡眠、運動、食事 |
ストレス | 仕事、人間関係 |
既往歴 | 婦人科疾患、全身疾患 |
血液検査とホルモン検査
問診と身体診察の後血液検査とホルモン検査を行うことがあります。
- 血液検査 貧血の有無や甲状腺機能肝機能腎機能などを確認。
- ホルモン検査 卵胞刺激ホルモン(FSH)黄体形成ホルモン(LH)エストラジオールプロゲステロンプロラクチンテストステロンなどの値を測定。
検査結果から希発月経の背景にある内分泌系の異常を特定することが可能です。
ホルモン | 主な役割 |
FSH | 卵胞の成熟促進 |
LH | 排卵の誘発 |
エストラジオール | 子宮内膜の増殖 |
プロゲステロン | 子宮内膜の維持 |
画像診断
- 超音波検査 非侵襲的で安全な検査方法であり、卵巣や子宮の状態を詳細に観察。
- 経腟超音波検査 卵巣の大きさ卵胞の数や大きさ子宮内膜の厚さなどを確認。
場合によってはMRIやCTスキャンを用いて骨盤内の詳細な構造を把握することで、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や子宮内膜症などの器質的疾患を除外したり診断したりすることが可能となります。
画像診断法 | 特徴 |
超音波検査 | 非侵襲的、リアルタイム観察可能 |
MRI | 軟部組織の詳細な描出が可能 |
CT | 骨盤内全体の構造を把握可能 |
臨床診断と確定診断
全ての検査結果を総合的に判断し、希発月経の臨床診断を行います。
臨床診断で考慮する点
- 月経周期が35日以上である
- 年間の月経回数が9回未満である
- 3か月以上月経がない状態が続いている
確定診断には以下の要素が含まれます。
- 他の内分泌疾患(甲状腺機能異常など)の除外
- 器質的疾患(多嚢胞性卵巣症候群子宮内膜症など)の有無の確認
- ホルモンバランスの詳細な評価
原因によってはさらなる専門的な検査や他科との連携が必要です。
高プロラクチン血症が疑われる場合は下垂体MRIを、多嚢胞性卵巣症候群が疑われる場合は、インスリン抵抗性の評価のために75g経口ブドウ糖負荷試験を行うこともあります。
確定診断のポイント | 内容 |
他疾患の除外 | 甲状腺機能異常、高プロラクチン血症など |
器質的疾患の確認 | PCOS、子宮内膜症など |
ホルモン評価 | FSH、LH、エストラジオール、プロゲステロンなど |
希発月経の治療法と処方薬、治療期間
希発月経の治療法には生活習慣の改善ホルモン療法薬物療法があります。
治療期間は症状の改善具合や基礎疾患の有無によって異なりますが、通常は数か月から1年程度続けることが多いです。
生活習慣の改善
希発月経の治療において生活習慣の改善は基本的かつ重要なアプローチで、ストレス管理、適度な運動、バランスの取れた食事などが含まれます。
生活習慣の改善点
- 規則正しい睡眠習慣の確立
- バランスの良い食事摂取
- 適度な運動の実施
- ストレス軽減のためのリラックス法の習得
改善項目 | 目標 |
睡眠時間 | 7-8時間/日 |
運動量 | 30分/日以上 |
食事バランス | 推奨比率 |
タンパク質 | 20-30% |
炭水化物 | 50-60% |
ホルモン療法
希発月経の治療においてホルモン療法は効果的な選択肢の一つで、低用量ピルやプロゲステロン製剤が使用されます。
- 低用量ピル エストロゲンとプロゲステロンの合剤で月経周期の安定化に効果。
- プロゲステロン製剤 子宮内膜の安定化と月経誘発に用いられる。
薬剤名 | 主な効果 |
低用量ピル | 月経周期の調整 |
プロゲステロン製剤 | 子宮内膜の安定化 |
服用期間 | 一般的な目安 |
低用量ピル | 3-6か月 |
プロゲステロン製剤 | 10-14日/月 |
ホルモン療法の治療期間は通常3〜6か月程度ですが、症状の改善具合によって延長されることもあります。
薬物療法
希発月経の原因となっている基礎疾患がある場合、薬物療法が行われます。
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS) メトホルミンやクロミフェンなど
- 甲状腺機能異常 甲状腺ホルモン製剤
- 高プロラクチン血症 ドパミン作動薬
基礎疾患 | 主な処方薬 |
PCOS | メトホルミン |
甲状腺機能低下症 | レボチロキシン |
薬物療法の治療期間は基礎疾患の種類や重症度によって大きく異なり、長期的な服用が必要になることもあります。
予後と再発可能性および予防
希発月経は治療で多くの場合改善が期待でき、再発の可能性はありますが、生活習慣の改善や定期的な医療機関の受診によりリスクを軽減できます。
希発月経の予後
希発月経の原因が特定され対処すれば予後は一般的に良好です。
極度のダイエットやストレスが原因であった場合、生活習慣の改善により比較的短期間で正常化することもあります。
一方で多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの内分泌疾患が背景にある場合は長期的な管理が必要となりますが、治療により症状の改善が見込まれます。
原因 | 予後の傾向 |
生活習慣 | 比較的短期間で改善 |
内分泌疾患 | 長期的な管理が必要 |
再発の可能性と対策
原因となった要因が完全に除去されてなかったり、新たなストレス要因が加わった際に再発のリスクが高まります。
再発を防ぐための注意点
- 規則正しい生活リズムの維持
- バランスの取れた食事
- 適度な運動
- ストレス管理
- 定期的な医療機関の受診
予防法
希発月経の予防には日常生活における取り組みが重要で、健康的な生活習慣の維持が基本です。
バランスの取れた栄養摂取を心がけ極端なダイエットを避け、運動を定期的に行うことでホルモンバランスの維持ができます
希発月経の治療における副作用やリスク
希発月経の治療にはホルモン療法や薬物療法などが用いられ、それぞれの治療法には副作用やリスクが伴う可能性があります。
ホルモン療法の副作用
ホルモン療法の副作用
- 吐き気
- 頭痛
- 乳房の張り
- 体重増加
- 気分の変動
副作用の多くは服用開始から数か月以内に軽減または消失することが多いです。
副作用 | 発生頻度 |
吐き気 | 比較的多い |
頭痛 | やや多い |
副作用 | 対処法 |
吐き気 | 食後の服用 |
頭痛 | 水分補給 |
血栓症のリスク
ホルモン療法における最も重大なリスクの一つが血栓症です。
エストロゲンを含む製剤の使用時に血栓形成のリスクが若干上昇すると言われており、血栓症は静脈血栓塞栓症や動脈血栓症として現れる可能性があります。
リスク因子は喫煙肥満高血圧糖尿病などです。
リスク因子 | 血栓症リスク |
喫煙 | 上昇 |
肥満 | 上昇 |
年齢 | 相対リスク |
20-30歳 | 1.0 |
40-50歳 | 1.5-2.0 |
長期使用によるリスク
希発月経の治療で長期的にホルモン療法を行う際にはいくつかの潜在的なリスクがあります。
- 乳がんリスクの微増
- 子宮内膜がんリスクの変化
- 骨密度への影響
- 肝機能への影響
これらのリスクは定期的な健康診断やモニタリングによって管理することが可能です。
特定の患者さんにおける禁忌事項
希発月経の治療、特にホルモン療法は一部の患者さんには禁忌となります。
- 血栓症の既往歴がある患者さん
- 重度の高血圧患者さん
- 肝機能障害のある患者さん
- エストロゲン依存性腫瘍がある、またはその疑いがある患者さん
- 妊娠の可能性がある患者さん
禁忌事項 | 代替療法の検討 |
血栓症既往歴 | 必要 |
重度高血圧 | 必要 |
薬物相互作用のリスク
希発月経の治療に用いられる薬剤と他の薬剤との相互作用にも注意が必要です。
特に抗てんかん薬、抗生物質、抗うつ薬などとの併用時には効果の減弱や副作用の増強が起こる可能性があり、またセイヨウオトギリソウ(St. John’s Wort)などのハーブ製品との相互作用も報告されています。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
血液検査・ホルモン検査費用
希発月経の診断には、血液検査やホルモン検査が行われます。
検査項目 | 概算費用(3割負担の場合) |
甲状腺機能検査 | 1,500円~2,500円 |
プロラクチン値測定 | 2,000円~3,000円 |
画像診断の費用
超音波検査やMRI検査などの画像診断も行われることがあります。
検査項目 | 概算費用(3割負担の場合) |
経腟超音波検査 | 2,500円~4,500円 |
骨盤MRI検査 | 15,000円~25,000円 |
薬物療法の費用
ホルモン療法や排卵誘発剤などの薬物療法が必要な場合があります。
- 低用量ピル(月額) 3,000円~6,000円
- クロミフェン(1クール) 4,000円~8,000円
- プロゲステロン製剤(月額) 4,000円~8,000円
以上
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