無月経 – 婦人科

無月経(amenorrhea)とは、月経が長期間にわたって来ない状態のことです。

通常女性の体は月に一度子宮内膜を剥がして体外に排出する月経周期を繰り返しますが、この周期が乱れることで無月経が起こります。

無月経の原因にはホルモンバランスの乱れや過度のストレス、極端な運動や食事制限、甲状腺機能の異常などがあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

目次[

無月経の種類(病型)

無月経には主に原発性無月経と続発性無月経の2つの種類(病型)があり、病型は発症時期や原因によって区別され、それぞれ特徴的な要因を持っています。

原発性無月経

原発性無月経は初経を迎えることなく、18歳になってもまだ月経が始まらない状態です。

生まれつきの解剖学的異常や、染色体異常、ホルモンバランスの乱れなどが関与することがあります。

続発性無月経

続発性無月経は一度は正常な月経周期を経験した後に3か月以上月経が途絶えた状態で、ストレスや過度な運動、急激な体重変動、ホルモン異常などさまざまな要因が関与する可能性があります。

続発性無月経の場合生活習慣の改善や原因となる基礎疾患の管理が重要です。

原発性無月経と続発性無月経の比較

特徴原発性無月経続発性無月経
発症時期18歳までに初経なし正常月経後に3か月以上の途絶
主な要因先天的な異常が多い後天的な要因が多い
診断アプローチ解剖学的・遺伝学的検査重視ホルモン検査・生活歴調査重視

無月経の主な症状

無月経は原発性無月経と続発性無月経の2つに分類され、それぞれ特徴的な症状があります。

無月経の主な症状

無月経の主な症状は月経の欠如ですが、月経が来ないこと以外にもさまざまな症状が現れることがあります。

無月経に伴う可能性のある症状

症状説明
月経の欠如3か月以上月経が来ない
ホルモンの変化体重変化、肌の変化、気分の変動
不妊妊娠が困難になる場合がある
骨密度の低下長期的な無月経により骨が弱くなる

症状は個人によって異なり、すべての症状が現れるわけではありません。

原発性無月経の症状

原発性無月経の主な症状

  • 16歳までに初経がない
  • 第二次性徴の発達が遅れる、または見られない
  • 乳房の発育不全
  • 恥毛や腋毛の発育不全
  • 身長の伸びが遅い、または止まる

原発性無月経の場合身体的な発達の遅れが顕著に現れることがあり、これはホルモンバランスの乱れが体全体に影響を及ぼしているためです。

続発性無月経の症状

続発性無月経の場合、次のような症状が現れる可能性があります。

症状詳細
月経の停止3か月以上月経が来ない
体重の変化急激な増加または減少
乳房の変化張りや痛みの変化
不規則な出血不定期なスポッティング

原発性無月経と続発性無月経の違い

原発性無月経と続発性無月経は発症のタイミングや背景が異なります。

特徴原発性無月経続発性無月経
発症時期思春期初経後
月経の有無一度も経験なし一度は経験あり
身体的特徴第二次性徴の遅れ通常は正常発達
年齢の目安16歳以上年齢不問

無月経の症状に気づいたら

無月経の症状に気づいたら早めに婦人科を受診することが大切です。

特に以下のような場合は医療機関を受診してください。

  • 16歳を過ぎても初経がない
  • 3か月以上月経が来ない
  • 無月経に加えて他の身体的な変化や不調がある

無月経の原因

無月経には身体的要因から心理的要因まで、さまざまな要素が関与しています。

主な原因はホルモンバランスの乱れ、器質的異常、全身疾患、心理的ストレスなどです。

ホルモンバランスの乱れによる無月経

ホルモンバランスの乱れは無月経の主要な原因の一つであり、視床下部-下垂体-卵巣軸の機能異常が月経周期の調節に影響を与えることがあります。

プロラクチン分泌過剰や甲状腺機能異常などが、無月経を引き起こす可能性があります。

ホルモン異常状態無月経との関連
エストロゲン低下高い
プロゲステロン低下中程度
プロラクチン上昇高い
甲状腺ホルモン異常中程度

器質的異常

器質的異常も無月経の原因となることがあり、ミュラー管形成不全や子宮内膜癒着症などの、子宮や卵巣の先天的な形成異常や後天的な変化が関与する場合があります。

全身疾患による無月経

全身疾患が無月経の原因となることもあり、内分泌系の疾患や代謝異常が月経周期に影響を及ぼす可能性があります。

無月経を引き起こす可能性のある全身疾患

  • 多嚢胞性卵巣症候群
  • 甲状腺機能亢進症や低下症
  • 糖尿病
  • 副腎疾患

心理的要因による無月経

心理的ストレスも無月経の重要な原因の一つです。

過度のストレスや不安抑うつ状態はホルモンバランスに影響を与えます。

生活習慣と無月経の関係

生活習慣無月経との関連性
過度の運動高い
極端なダイエット高い
不規則な生活中程度
適度な運動低い

年齢別の無月経の主な原因

年齢層主な原因
思春期視床下部機能不全、摂食障害
20代~30代多嚢胞性卵巣症候群、ストレス
40代以降閉経前期、子宮内膜癒着症

診察(検査)と診断

無月経の診断は詳細な問診から始まり、身体診察各種検査を経て行われます。

問診の重要性

無月経の診断において問診は非常に重要です。

患者さんの月経歴、家族歴既往歴、生活習慣などについて詳しく聞き取りを行い患者さんの状態を総合的に把握します。

問診で確認される主な項目

  • 最終月経の時期
  • 月経の規則性
  • 妊娠の可能性
  • 体重変化の有無
  • ストレスや生活環境の変化
  • 薬物使用歴
  • 運動習慣

身体診察

問診に続いて医師は身体診察を行います。

身体診察でチェックする項目

診察項目確認内容
身長・体重栄養状態、BMIの確認
二次性徴乳房発育、陰毛の状態
甲状腺腫れや結節の有無
外性器発育状態、異常の有無

身体診察により無月経の原因となる身体的特徴や異常を見つけられます。

血液検査

血液検査はホルモンバランスや全身状態を評価するために行われます。

主な検査項目

検査項目目的
FSH・LH卵巣機能の評価
エストラジオール卵巣からのエストロゲン分泌の確認
プロラクチン高プロラクチン血症の有無
TSH・FT4甲状腺機能の評価
テストステロン多嚢胞性卵巣症候群の診断

検査結果は無月経の原因を特定するうえで重要な手がかりです。

画像検査

画像検査は生殖器官の構造や異常を確認するために行われます。

主な検査方法

  • 骨盤超音波検査 子宮や卵巣の状態を観察
  • MRI検査 より詳細な骨盤内の構造を確認
  • 骨密度検査 長期的な無月経による骨への影響を評価

検査により子宮や卵巣の形態異常腫瘍の有無などを確認することが可能です。

無月経の治療法と処方薬、治療期間

無月経の治療は原因に応じて個別化され、主な治療法にはホルモン療法薬物療法生活習慣の改善などがあり、治療期間は数週間から数か月、場合によってはそれ以上に及ぶこともあります。

処方薬はホルモン剤や排卵誘発剤が中心です。

ホルモン療法による無月経の治療

無月経のホルモン療法ではエストロゲンとプロゲステロンを組み合わせた治療が一般的で、用いられるのは経口避妊薬やホルモン補充療法です。

治療期間は通常3〜6か月程度ですが、個々の状況に応じて調整されます。

排卵誘発剤による治療

排卵障害が原因の無月経には排卵誘発剤が使用されることがあり、クロミフェンクエン酸塩やレトロゾールなどの薬剤が用いられ、治療期間は概ね3〜6か月程度です。

効果が見られない場合は他の治療法への変更が検討されます。

薬剤名主な効果投与期間
エストロゲン製剤子宮内膜の増殖2〜3週間
プロゲステロン製剤子宮内膜の分泌期変化10〜14日間
クロミフェンクエン酸塩排卵誘発5日間/月
ゴナドトロピン製剤卵胞発育・排卵誘発個別に判断

生活習慣の改善

生活習慣の改善は無月経治療において重要な要素です。

推奨される生活習慣

  • 適度な運動と休息のバランス
  • バランスの取れた食事
  • ストレス管理
  • 十分な睡眠

改善には数週間から数か月の期間を要することがあります。

無月経の原因別治療法と期間

治療期間は原因や治療法によって異なります。

原因主な治療法一般的な治療期間
ホルモン異常ホルモン療法3〜6か月
排卵障害排卵誘発剤3〜6か月
心理的要因カウンセリング3〜12か月
器質的異常手術療法個別に判断

無月経治療の経過観察と調整

治療期間中は経過観察が大切で、定期的な検診が必要です

観察項目頻度目的
基礎体温測定毎日排卵の確認
血中ホルモン検査月1〜2回ホルモンバランスの評価
超音波検査月1〜2回卵胞発育の観察
子宮内膜厚測定月1回子宮内膜の状態確認

無月経治療における併用療法

主な治療と併用して行われる治療もあります。

主治療併用療法目的
ホルモン療法漢方薬体質改善
排卵誘発栄養指導卵巣機能の向上
生活改善鍼灸治療全身状態の調整
心理カウンセリングリラクセーション療法ストレス軽減

予後と再発可能性および予防

無月経の予後は原因によって大きく異なりますが対応により多くの場合改善が期待できます。

ただし、再発のリスクもあるため継続的な管理が大切です。

予後の一般的な傾向

無月経の予後は原因や患者さんの状態によって異なってきます。

原因予後の傾向
ホルモン異常調整により改善が期待できる
器質的異常外科的処置後の改善率が高い
全身疾患基礎疾患の管理により改善
心理的要因カウンセリングで改善の可能性

多くの場合原因に応じた対応により月経の再開や正常化が期待できますが、中には長期的な管理が必要なケースもあります。

再発のリスクと要因

無月経は再発リスクもあります。

主な再発リスク要因

  • ストレスの再燃
  • 極端な体重変動
  • ホルモン環境の変化
  • 基礎疾患の悪化
  • 生活習慣の乱れ

これらの要因が重なると再発のリスクが高まる傾向があります。

特にホルモンバランスの維持が大切で、ストレスや生活習慣の乱れがホルモンに影響を与えることがあるので注意が必要です。

再発予防のための生活習慣

再発を予防するためには日々の生活習慣に気を配ることが不可欠です。

再発予防に効果的な生活習慣

項目具体的な取り組み
食事バランスの良い食事、適正体重の維持
運動適度な運動、過度な運動を避ける
ストレス管理リラックス法の実践、十分な睡眠
定期検診婦人科での定期的なチェック

無月経の治療における副作用やリスク

無月経の治療にはホルモン療法や薬物療法などいろいろなアプローチがあり、それぞれに副作用やリスクが伴います。

主な副作用は悪心、頭痛、体重変動などで、血栓症などの重篤な合併症のリスクもあり十分な注意が必要です。

ホルモン療法に伴う副作用とリスク

ホルモン療法の副作用は悪心、頭痛、乳房痛、体重増加などです。

さらに、血栓症や高血圧などの重篤な合併症のリスクも考慮する必要があります。

副作用頻度
悪心・嘔吐比較的多い
頭痛比較的多い
体重増加やや多い
血栓症まれだが重要

排卵誘発剤使用に関連する副作用

排卵誘発剤の使用には特有の副作用を伴い、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが増加する可能性があります。

排卵誘発剤使用時に注意すべき点

  • 定期的な超音波検査による卵胞発育のモニタリング
  • 血中エストラジオール値の測定
  • 腹部膨満感や呼吸困難などの症状出現時の速やかな受診
  • 多胎妊娠のリスクに関する十分な説明と同意

生活習慣改善に伴うリスク

生活習慣の改善は副作用が少ない治療法ですが、過度な取り組みにはリスクを伴います。

急激な体重減少や過度な運動は、かえってホルモンバランスを崩すので注意が必要です。

副作用・リスクの個人差

副作用やリスクには個人差があります。

要因副作用・リスクへの影響
年齢高齢ほどリスク増加
基礎疾患既往歴によりリスク変動
体質個人差が大きい
生活習慣喫煙などでリスク増加

ホルモン療法の種類別副作用

ホルモン療法は種類により副作用のタイプが違ってきます。

ホルモン療法の種類主な副作用頻度
エストロゲン単独療法子宮内膜増殖比較的高い
黄体ホルモン併用療法不正出血やや多い
GnRHアゴニスト更年期様症状高い
アロマターゼ阻害剤骨密度低下中程度

副作用モニタリングの重要性

治療中は副作用が現れないかモニタリング大切で、定期的な検診が欠かせません。

モニタリング項目頻度目的
血圧測定1-3ヶ月毎高血圧の早期発見
肝機能検査3-6ヶ月毎薬剤性肝障害の確認
凝固系検査6-12ヶ月毎血栓症リスクの評価
骨密度測定1-2年毎骨粗鬆症の予防

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

基本的な検査費用

無月経の診断にはまず基本的な検査が行われます。

検査項目費用(概算)
血液検査3,000~8,000円
超音波検査5,000~8,000円
ホルモン検査15,000~25,000円

これらの検査費用は保険適用となる場合が多いです。

専門的な検査費用

より詳細な診断が必要な際は追加の検査が行われることがあります。

  • MRI検査 30,000~50,000円
  • 骨密度検査 6,000~12,000円
  • 遺伝子検査 80,000~150,000円

検査は保険適用外の場合もあり、自己負担額が高くなる可能性があります。

治療費用

治療方法によって費用は大きく異なります。

治療法費用(概算)
ホルモン療法月8,000~15,000円
排卵誘発剤月15,000~25,000円
手術療法200,000~800,000円

治療期間や頻度によって総額は変動し、無月経では長期的な治療が必要な場合もあります。

以上

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