無月経(amenorrhea)とは、月経が長期間にわたって来ない状態のことです。
通常女性の体は月に一度子宮内膜を剥がして体外に排出する月経周期を繰り返しますが、この周期が乱れることで無月経が起こります。
無月経の原因にはホルモンバランスの乱れや過度のストレス、極端な運動や食事制限、甲状腺機能の異常などがあります。
無月経の種類(病型)
無月経には主に原発性無月経と続発性無月経の2つの種類(病型)があり、病型は発症時期や原因によって区別され、それぞれ特徴的な要因を持っています。
原発性無月経
原発性無月経は初経を迎えることなく、18歳になってもまだ月経が始まらない状態です。
生まれつきの解剖学的異常や、染色体異常、ホルモンバランスの乱れなどが関与することがあります。
続発性無月経
続発性無月経は一度は正常な月経周期を経験した後に3か月以上月経が途絶えた状態で、ストレスや過度な運動、急激な体重変動、ホルモン異常などさまざまな要因が関与する可能性があります。
続発性無月経の場合生活習慣の改善や原因となる基礎疾患の管理が重要です。
原発性無月経と続発性無月経の比較
特徴 | 原発性無月経 | 続発性無月経 |
発症時期 | 18歳までに初経なし | 正常月経後に3か月以上の途絶 |
主な要因 | 先天的な異常が多い | 後天的な要因が多い |
診断アプローチ | 解剖学的・遺伝学的検査重視 | ホルモン検査・生活歴調査重視 |
無月経の主な症状
無月経は原発性無月経と続発性無月経の2つに分類され、それぞれ特徴的な症状があります。
無月経の主な症状
無月経の主な症状は月経の欠如ですが、月経が来ないこと以外にもさまざまな症状が現れることがあります。
無月経に伴う可能性のある症状
症状 | 説明 |
月経の欠如 | 3か月以上月経が来ない |
ホルモンの変化 | 体重変化、肌の変化、気分の変動 |
不妊 | 妊娠が困難になる場合がある |
骨密度の低下 | 長期的な無月経により骨が弱くなる |
症状は個人によって異なり、すべての症状が現れるわけではありません。
原発性無月経の症状
原発性無月経の主な症状
- 16歳までに初経がない
- 第二次性徴の発達が遅れる、または見られない
- 乳房の発育不全
- 恥毛や腋毛の発育不全
- 身長の伸びが遅い、または止まる
原発性無月経の場合身体的な発達の遅れが顕著に現れることがあり、これはホルモンバランスの乱れが体全体に影響を及ぼしているためです。
続発性無月経の症状
続発性無月経の場合、次のような症状が現れる可能性があります。
症状 | 詳細 |
月経の停止 | 3か月以上月経が来ない |
体重の変化 | 急激な増加または減少 |
乳房の変化 | 張りや痛みの変化 |
不規則な出血 | 不定期なスポッティング |
原発性無月経と続発性無月経の違い
原発性無月経と続発性無月経は発症のタイミングや背景が異なります。
特徴 | 原発性無月経 | 続発性無月経 |
発症時期 | 思春期 | 初経後 |
月経の有無 | 一度も経験なし | 一度は経験あり |
身体的特徴 | 第二次性徴の遅れ | 通常は正常発達 |
年齢の目安 | 16歳以上 | 年齢不問 |
無月経の症状に気づいたら
無月経の症状に気づいたら早めに婦人科を受診することが大切です。
特に以下のような場合は医療機関を受診してください。
- 16歳を過ぎても初経がない
- 3か月以上月経が来ない
- 無月経に加えて他の身体的な変化や不調がある
無月経の原因
無月経には身体的要因から心理的要因まで、さまざまな要素が関与しています。
主な原因はホルモンバランスの乱れ、器質的異常、全身疾患、心理的ストレスなどです。
ホルモンバランスの乱れによる無月経
ホルモンバランスの乱れは無月経の主要な原因の一つであり、視床下部-下垂体-卵巣軸の機能異常が月経周期の調節に影響を与えることがあります。
プロラクチン分泌過剰や甲状腺機能異常などが、無月経を引き起こす可能性があります。
ホルモン | 異常状態 | 無月経との関連 |
エストロゲン | 低下 | 高い |
プロゲステロン | 低下 | 中程度 |
プロラクチン | 上昇 | 高い |
甲状腺ホルモン | 異常 | 中程度 |
器質的異常
器質的異常も無月経の原因となることがあり、ミュラー管形成不全や子宮内膜癒着症などの、子宮や卵巣の先天的な形成異常や後天的な変化が関与する場合があります。
全身疾患による無月経
全身疾患が無月経の原因となることもあり、内分泌系の疾患や代謝異常が月経周期に影響を及ぼす可能性があります。
無月経を引き起こす可能性のある全身疾患
- 多嚢胞性卵巣症候群
- 甲状腺機能亢進症や低下症
- 糖尿病
- 副腎疾患
心理的要因による無月経
心理的ストレスも無月経の重要な原因の一つです。
過度のストレスや不安抑うつ状態はホルモンバランスに影響を与えます。
生活習慣と無月経の関係
生活習慣 | 無月経との関連性 |
過度の運動 | 高い |
極端なダイエット | 高い |
不規則な生活 | 中程度 |
適度な運動 | 低い |
年齢別の無月経の主な原因
年齢層 | 主な原因 |
思春期 | 視床下部機能不全、摂食障害 |
20代~30代 | 多嚢胞性卵巣症候群、ストレス |
40代以降 | 閉経前期、子宮内膜癒着症 |
診察(検査)と診断
無月経の診断は詳細な問診から始まり、身体診察各種検査を経て行われます。
問診の重要性
無月経の診断において問診は非常に重要です。
患者さんの月経歴、家族歴既往歴、生活習慣などについて詳しく聞き取りを行い患者さんの状態を総合的に把握します。
問診で確認される主な項目
- 最終月経の時期
- 月経の規則性
- 妊娠の可能性
- 体重変化の有無
- ストレスや生活環境の変化
- 薬物使用歴
- 運動習慣
身体診察
問診に続いて医師は身体診察を行います。
身体診察でチェックする項目
診察項目 | 確認内容 |
身長・体重 | 栄養状態、BMIの確認 |
二次性徴 | 乳房発育、陰毛の状態 |
甲状腺 | 腫れや結節の有無 |
外性器 | 発育状態、異常の有無 |
身体診察により無月経の原因となる身体的特徴や異常を見つけられます。
血液検査
血液検査はホルモンバランスや全身状態を評価するために行われます。
主な検査項目
検査項目 | 目的 |
FSH・LH | 卵巣機能の評価 |
エストラジオール | 卵巣からのエストロゲン分泌の確認 |
プロラクチン | 高プロラクチン血症の有無 |
TSH・FT4 | 甲状腺機能の評価 |
テストステロン | 多嚢胞性卵巣症候群の診断 |
検査結果は無月経の原因を特定するうえで重要な手がかりです。
画像検査
画像検査は生殖器官の構造や異常を確認するために行われます。
主な検査方法
- 骨盤超音波検査 子宮や卵巣の状態を観察
- MRI検査 より詳細な骨盤内の構造を確認
- 骨密度検査 長期的な無月経による骨への影響を評価
検査により子宮や卵巣の形態異常腫瘍の有無などを確認することが可能です。
無月経の治療法と処方薬、治療期間
無月経の治療は原因に応じて個別化され、主な治療法にはホルモン療法薬物療法生活習慣の改善などがあり、治療期間は数週間から数か月、場合によってはそれ以上に及ぶこともあります。
処方薬はホルモン剤や排卵誘発剤が中心です。
ホルモン療法による無月経の治療
無月経のホルモン療法ではエストロゲンとプロゲステロンを組み合わせた治療が一般的で、用いられるのは経口避妊薬やホルモン補充療法です。
治療期間は通常3〜6か月程度ですが、個々の状況に応じて調整されます。
排卵誘発剤による治療
排卵障害が原因の無月経には排卵誘発剤が使用されることがあり、クロミフェンクエン酸塩やレトロゾールなどの薬剤が用いられ、治療期間は概ね3〜6か月程度です。
効果が見られない場合は他の治療法への変更が検討されます。
薬剤名 | 主な効果 | 投与期間 |
エストロゲン製剤 | 子宮内膜の増殖 | 2〜3週間 |
プロゲステロン製剤 | 子宮内膜の分泌期変化 | 10〜14日間 |
クロミフェンクエン酸塩 | 排卵誘発 | 5日間/月 |
ゴナドトロピン製剤 | 卵胞発育・排卵誘発 | 個別に判断 |
生活習慣の改善
生活習慣の改善は無月経治療において重要な要素です。
推奨される生活習慣
- 適度な運動と休息のバランス
- バランスの取れた食事
- ストレス管理
- 十分な睡眠
改善には数週間から数か月の期間を要することがあります。
無月経の原因別治療法と期間
治療期間は原因や治療法によって異なります。
原因 | 主な治療法 | 一般的な治療期間 |
ホルモン異常 | ホルモン療法 | 3〜6か月 |
排卵障害 | 排卵誘発剤 | 3〜6か月 |
心理的要因 | カウンセリング | 3〜12か月 |
器質的異常 | 手術療法 | 個別に判断 |
無月経治療の経過観察と調整
治療期間中は経過観察が大切で、定期的な検診が必要です
観察項目 | 頻度 | 目的 |
基礎体温測定 | 毎日 | 排卵の確認 |
血中ホルモン検査 | 月1〜2回 | ホルモンバランスの評価 |
超音波検査 | 月1〜2回 | 卵胞発育の観察 |
子宮内膜厚測定 | 月1回 | 子宮内膜の状態確認 |
無月経治療における併用療法
主な治療と併用して行われる治療もあります。
主治療 | 併用療法 | 目的 |
ホルモン療法 | 漢方薬 | 体質改善 |
排卵誘発 | 栄養指導 | 卵巣機能の向上 |
生活改善 | 鍼灸治療 | 全身状態の調整 |
心理カウンセリング | リラクセーション療法 | ストレス軽減 |
予後と再発可能性および予防
無月経の予後は原因によって大きく異なりますが対応により多くの場合改善が期待できます。
ただし、再発のリスクもあるため継続的な管理が大切です。
予後の一般的な傾向
無月経の予後は原因や患者さんの状態によって異なってきます。
原因 | 予後の傾向 |
ホルモン異常 | 調整により改善が期待できる |
器質的異常 | 外科的処置後の改善率が高い |
全身疾患 | 基礎疾患の管理により改善 |
心理的要因 | カウンセリングで改善の可能性 |
多くの場合原因に応じた対応により月経の再開や正常化が期待できますが、中には長期的な管理が必要なケースもあります。
再発のリスクと要因
無月経は再発リスクもあります。
主な再発リスク要因
- ストレスの再燃
- 極端な体重変動
- ホルモン環境の変化
- 基礎疾患の悪化
- 生活習慣の乱れ
これらの要因が重なると再発のリスクが高まる傾向があります。
特にホルモンバランスの維持が大切で、ストレスや生活習慣の乱れがホルモンに影響を与えることがあるので注意が必要です。
再発予防のための生活習慣
再発を予防するためには日々の生活習慣に気を配ることが不可欠です。
再発予防に効果的な生活習慣
項目 | 具体的な取り組み |
食事 | バランスの良い食事、適正体重の維持 |
運動 | 適度な運動、過度な運動を避ける |
ストレス管理 | リラックス法の実践、十分な睡眠 |
定期検診 | 婦人科での定期的なチェック |
無月経の治療における副作用やリスク
無月経の治療にはホルモン療法や薬物療法などいろいろなアプローチがあり、それぞれに副作用やリスクが伴います。
主な副作用は悪心、頭痛、体重変動などで、血栓症などの重篤な合併症のリスクもあり十分な注意が必要です。
ホルモン療法に伴う副作用とリスク
ホルモン療法の副作用は悪心、頭痛、乳房痛、体重増加などです。
さらに、血栓症や高血圧などの重篤な合併症のリスクも考慮する必要があります。
副作用 | 頻度 |
悪心・嘔吐 | 比較的多い |
頭痛 | 比較的多い |
体重増加 | やや多い |
血栓症 | まれだが重要 |
排卵誘発剤使用に関連する副作用
排卵誘発剤の使用には特有の副作用を伴い、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが増加する可能性があります。
排卵誘発剤使用時に注意すべき点
- 定期的な超音波検査による卵胞発育のモニタリング
- 血中エストラジオール値の測定
- 腹部膨満感や呼吸困難などの症状出現時の速やかな受診
- 多胎妊娠のリスクに関する十分な説明と同意
生活習慣改善に伴うリスク
生活習慣の改善は副作用が少ない治療法ですが、過度な取り組みにはリスクを伴います。
急激な体重減少や過度な運動は、かえってホルモンバランスを崩すので注意が必要です。
副作用・リスクの個人差
副作用やリスクには個人差があります。
要因 | 副作用・リスクへの影響 |
年齢 | 高齢ほどリスク増加 |
基礎疾患 | 既往歴によりリスク変動 |
体質 | 個人差が大きい |
生活習慣 | 喫煙などでリスク増加 |
ホルモン療法の種類別副作用
ホルモン療法は種類により副作用のタイプが違ってきます。
ホルモン療法の種類 | 主な副作用 | 頻度 |
エストロゲン単独療法 | 子宮内膜増殖 | 比較的高い |
黄体ホルモン併用療法 | 不正出血 | やや多い |
GnRHアゴニスト | 更年期様症状 | 高い |
アロマターゼ阻害剤 | 骨密度低下 | 中程度 |
副作用モニタリングの重要性
治療中は副作用が現れないかモニタリング大切で、定期的な検診が欠かせません。
モニタリング項目 | 頻度 | 目的 |
血圧測定 | 1-3ヶ月毎 | 高血圧の早期発見 |
肝機能検査 | 3-6ヶ月毎 | 薬剤性肝障害の確認 |
凝固系検査 | 6-12ヶ月毎 | 血栓症リスクの評価 |
骨密度測定 | 1-2年毎 | 骨粗鬆症の予防 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
基本的な検査費用
無月経の診断にはまず基本的な検査が行われます。
検査項目 | 費用(概算) |
血液検査 | 3,000~8,000円 |
超音波検査 | 5,000~8,000円 |
ホルモン検査 | 15,000~25,000円 |
これらの検査費用は保険適用となる場合が多いです。
専門的な検査費用
より詳細な診断が必要な際は追加の検査が行われることがあります。
- MRI検査 30,000~50,000円
- 骨密度検査 6,000~12,000円
- 遺伝子検査 80,000~150,000円
検査は保険適用外の場合もあり、自己負担額が高くなる可能性があります。
治療費用
治療方法によって費用は大きく異なります。
治療法 | 費用(概算) |
ホルモン療法 | 月8,000~15,000円 |
排卵誘発剤 | 月15,000~25,000円 |
手術療法 | 200,000~800,000円 |
治療期間や頻度によって総額は変動し、無月経では長期的な治療が必要な場合もあります。
以上
Master-Hunter T, Heiman DL. Amenorrhea: evaluation and treatment. American family physician. 2006 Apr 15;73(8):1374-82.
Klein DA, Poth MA. Amenorrhea: an approach to diagnosis and management. American family physician. 2013 Jun 1;87(11):781-8.
Golden NH, Carlson JL. The pathophysiology of amenorrhea in the adolescent. Annals of the New York Academy of Sciences. 2008 Jun;1135(1):163-78.
Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Current evaluation of amenorrhea. Fertility and sterility. 2004 Sep 1;82:33-9.
Klein DA, Paradise SL, Reeder RM. Amenorrhea: a systematic approach to diagnosis and management. American family physician. 2019 Jul 1;100(1):39-48.
Timmreck LS, Reindollar RH. Contemporary issues in primary amenorrhea. Obstetrics and Gynecology Clinics. 2003 Jun 1;30(2):287-302.
Heiman DL. Amenorrhea. Primary Care: Clinics in Office Practice. 2009 Mar 1;36(1):1-7.
Deligeoroglou E, Athanasopoulos N, Tsimaris P, Dimopoulos KD, Vrachnis N, Creatsas G. Evaluation and management of adolescent amenorrhea. Annals of the New York Academy of Sciences. 2010 Sep;1205(1):23-32.
Doody KM, Carr BR. Amenorrhea. Obstetrics and gynecology clinics of North America. 1990 Jun 1;17(2):361-87.
Bachmann GA, Kemmann E. Prevalence of oligomenorrhea and amenorrhea in a college population. American journal of obstetrics and gynecology. 1982 Sep 1;144(1):98-102.