神経性やせ症 – 婦人科

神経性やせ症(anorexia nervosa)とは、極端な食事制限や過度な運動によって著しい体重減少が起こる深刻な摂食障害で、主に思春期から青年期の女性に多く見られます。

体重や体型に対する強い不安が特徴的で、患者さんは実際の体型にかかわらず自分が太っていると感じ、極端なダイエットや食事制限を行うことがあります。

神経性やせ症は身体的な健康問題だけでなく心理的な苦痛も引き起こすことがあり、早期の対応が重要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

神経性やせ症の主な症状

神経性やせ症は極端な体重減少や食事制限、体型への強いこだわりなどが特徴的な摂食障害で、主な症状には身体的症状と心理的症状があります。

身体的症状

神経性やせ症の身体的症状は極端な体重減少に伴う健康上の問題として現れ、患者さんは年齢や身長に対して著しく低い体重を示します。

体重減少の程度は個人によって異なりますが、標準体重の85%未満になることも珍しくありません。

このような急激な体重減少は体内のホルモンバランスを崩し、月経不順や無月経などの症状を引き起こします。

症状特徴
体重減少標準体重の85%未満
月経異常不順や無月経

また、極端な食事制限や栄養不足により、皮膚の乾燥や脱毛、爪の変形、体温低下、便秘などの症状が、重度の場合は心臓や腎臓などの臓器機能に影響を及ぼす可能性もあるので注意が必要です。

栄養不足による症状影響を受ける臓器
皮膚の乾燥、脱毛心臓
爪の変形、体温低下腎臓
便秘消化器系

心理的症状

神経性やせ症の患者さんは、体重や体型に対する強い不安を持っており、自分の体型を実際よりも太っていると認識し、体重増加に対して極度の恐怖を感じます。

この認識は食事量の制限や過度な運動につながりさらなる体重減少を引き起こす悪循環を生み出し、食事や体重に関する強迫的な思考や行動が見られることもあります。

心理的症状具体例
体型認識の歪み実際より太っていると感じる
体重増加への恐怖わずかな体重増加にも強い不安を感じる

食行動の変化

神経性やせ症の患者さんは、食事に関する独特の行動パターンを示すことがあります。

  • 極端な食事制限や食べる量の制御
  • 特定の食品を避ける傾向
  • 食事中や食後の過度な不安や緊張
  • 他人と一緒に食事をすることへの抵抗

神経性やせ症の原因

神経性やせ症は遺伝的素因や脳の機能異常といった生物学的な背景に加え、完璧主義的な性格傾向や低い自己評価などの心理的要因、さらには痩せた体型を理想とする社会的プレッシャーなどが複雑に絡み合って発症リスクを高めます。

生物学的要因

家族や双子の研究から、遺伝的要因が発症リスクを高める可能性が示唆されています。

また、脳の神経伝達物質の異常も原因の一つです。

セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質のバランスが崩れることで、食欲や気分の調節に影響を与えます。

神経伝達物質関連する症状
セロトニン気分の変動、不安
ドーパミン報酬系の機能異常

さらに、視床下部-下垂体-副腎軸の機能異常も指摘されており、ストレス反応や食欲調節に影響を及ぼす可能性があります。

心理的要因

神経性やせ症の発症には完璧主義的な傾向や自己評価の低さ、ボディイメージの歪みなどが関連しています。

また、トラウマ体験や家族関係の問題なども発症リスクを高める要因です。

社会文化的要因

現代社会における痩せた体型への憧れや過度な美意識も、神経性やせ症の発症に大きく関わっています。

特定の職業や競技において体重管理が厳しく求められる環境も、発症リスクを高める原因です。

  • モデルやダンサー
  • 体重階級制のスポーツ選手
  • 芸能人やインフルエンサー
文化的要因影響
食文化の違い食事に対する価値観の形成
ジェンダー規範女性の外見への期待
社会的プレッシャー影響
メディアの影響理想体型の固定化
SNSの普及自己比較の増加

診察(検査)と診断

神経性やせ症の診断は、身体的検査、心理的評価、および行動観察を組み合わせて行われます。

初診時の問診と身体検査

神経性やせ症の問診では患者さんの体重履歴、食事パターン、運動習慣、月経状況などについて聞き取りを行い、また家族歴や社会的背景についても確認することがあります。

身体検査で行われるのは身長と体重の測定、バイタルサインのチェック、皮膚や爪の状態の観察などです。

検査項目目的
体重測定低体重の程度を確認
バイタルサインチェック全身状態の評価
皮膚・爪の観察栄養状態の把握

血液検査と画像診断

神経性やせ症の診断には血液検査や画像診断が用いられることがあり、血液検査では電解質バランス、肝機能、腎機能、甲状腺機能などを確認。

また、画像診断として骨密度検査や心エコー検査が行われることもあります。

検査種類主な評価項目
血液検査電解質、肝機能、腎機能
画像診断骨密度、心機能

心理的評価

神経性やせ症の診断には患者さんの心理状態を評価することも不可欠で、医師や臨床心理士は体重や体型に対する考え方、食事に関する態度や行動、自己イメージや自尊心、ストレスや不安の程度について詳しく聞き取りを行います。

評価項目使用ツール
食行動食行動質問票
自己認識ボディイメージ尺度

神経性やせ症の治療法と処方薬、治療期間

神経性やせ症の治療は身体的・心理的・社会的側面から総合的に行われ、主な治療法として、栄養療法、精神療法、薬物療法があります。

栄養療法

栄養療法は神経性やせ症の治療の基本で、低体重状態の改善と栄養状態の回復を目指し段階的に食事量を増やしていきます。

初期段階では少量の食事から始め、徐々に増量していくことが一般的です。

栄養療法の段階目標
初期体重増加の開始
中期正常体重の回復
後期体重維持と食行動の正常化

精神療法

精神療法は神経性やせ症の根底にある心理的問題に取り組むために不可欠な治療法です。

  • 認知行動療法 食事や体型に関する歪んだ考え方や行動パターンを修正することを目指す。
  • 家族療法 特に若年患者の場合に効果的で、家族全体での問題解決を図る。

薬物療法

薬物療法は主に精神症状の改善を目的として行われます。

抗うつ薬や抗不安薬が使用されることがありますが、神経性やせ症に特化した薬剤はまだ確立されていません。

薬剤の種類主な効果
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)うつ症状の改善
抗不安薬不安症状の軽減

入院治療

重度の低体重や身体合併症がある場合、入院治療が必要です。

入院治療の目的具体的な内容
身体状態の安定化電解質バランスの回復
体重増加計画的な栄養摂取
心理的サポート集中的な精神療法

入院期間は個人差が大きく数週間から数か月に及ぶこともあり、退院後も外来での継続的なフォローアップが重要です。

治療期間と経過

神経性やせ症では一般的に、6か月から2年程度の治療期間が必要とされることが多いです。

治療段階期間の目安主な目標
急性期3〜6か月体重回復、身体状態の安定化
回復期6〜12か月心理的問題への対処、食行動の正常化
維持期1年以上再発予防、社会適応の改善

治療経過中は定期的な体重測定や血液検査、心理評価などを行い、進捗状況を確認します。

予後と再発可能性および予防

神経性やせ症は長期的な経過をたどる疾患で、予後は個人によって大きく異なります。

早期発見と包括的なケアが回復の鍵となる一方で、再発のリスクも考慮することが必要です。

予後の多様性

神経性やせ症の予後は個人の状況や環境によって大きく異なり、早期に介入を受けた患者さんは比較的良好な経過をたどることが多いです。

一方で、長期にわたり症状が持続する場合もあり、完全な回復までに時間を要します。

予後に影響する要因影響の内容
発症からの期間早期発見ほど予後良好
支援体制の有無家族や周囲のサポートが重要

再発のリスクと要因

神経性やせ症は再発のリスクが比較的高い疾患の一つとされており、回復後も、ストレスや環境の変化をきっかけに症状が再燃することがあります。

再発のリスクを高める要因

  • 完全な体重回復に至っていない状態
  • 体型や食事に対する歪んだ認識の残存
  • ストレス対処能力の低さ
  • 社会的サポートの不足
再発リスク要因対策
不十分な体重回復栄養管理
歪んだ認識認知行動療法

長期的なフォローアップの重要性

神経性やせ症からの回復には長期的なフォローアップが大切で、定期的な医療機関の受診や心理的サポートの継続が推奨されます。

フォローアップの内容目的
定期的な体重測定体重維持の確認
心理カウンセリング心理状態の評価と支援

再発予防のための生活習慣

再発を予防するためには日常生活における習慣づくりが重要です。

予防策具体的な方法
食生活の改善バランスの良い食事
運動習慣過度にならない範囲で

神経性やせ症の治療における副作用やリスク

神経性やせ症の治療において栄養療法、薬物療法、心理療法のそれぞれに特有の課題があり、患者さんの身体的・精神的状態に応じて慎重に対応する必要があります。

栄養療法に関する副作用とリスク

栄養療法で特に注意すべきなのが再栄養症候群です。

長期間の低栄養状態から急激に栄養摂取を増やすと、電解質バランスの乱れや心臓への負担が生じる危険性があります。

リスク症状
低リン血症筋力低下、呼吸困難
低カリウム血症不整脈、筋肉痛

リスクを避けるため栄養摂取は段階的に行い、定期的な血液検査によるモニタリングが大切です。

薬物療法における副作用

神経性やせ症の治療で使用される薬物には、それぞれ副作用のリスクがあります。

抗うつ薬や抗不安薬の使用に伴う主な副作用

  • 嘔気・吐き気
  • 食欲不振または食欲増進
  • 不眠または眠気
  • 性機能障害
  • 口渇

副作用は個人差が大きく、症状の程度もさまざまです。

薬剤主な副作用
SSRI性機能障害、消化器症状
抗不安薬眠気、依存性

身体的合併症のリスク

神経性やせ症の治療中は長期の低栄養状態による身体的合併症のリスクにも注意が必要です。

骨密度の低下による骨粗しょう症や、心臓の機能低下、貧血などが問題となる可能性があります。

合併症は治療開始後も一定期間持続することがあるため、継続的なモニタリングが重要です。

合併症影響
骨粗しょう症骨折リスクの増加
心機能低下不整脈、低血圧

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来診療の費用

神経性やせ症の外来診療では定期的な検査や投薬などが行われます。

一般的な外来診療の場合血液検査費用が3,000円から7,000円、栄養指導料が2,000円から5,000円程度です。

項目費用(目安)
血液検査3,000円〜7,000円
栄養指導料2,000円〜5,000円

心理療法・カウンセリングの費用

神経性やせ症の治療では心理療法やカウンセリングが重要な役割を果たします。

費用はセッションの回数や時間によって異なりますが、一般的に以下のような範囲です。

  • 1回50分のカウンセリング 8,000円〜20,000円
  • 認知行動療法(1クール10回) 80,000円〜200,000円

入院治療の費用

重症の場合や外来治療が難しいときは、入院治療が必要になることがあります。

項目費用(1日あたり)
入院基本料8,000円〜25,000円
食事療養費460円〜780円

長期入院の場合、1ヶ月で50万円から150万円程度の費用がかかることもあります。

保険適用と自己負担

神経性やせ症の治療は多くの場合健康保険が適用されますが、一部の心理療法やカウンセリングは保険適用外となることがあります。

以上

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