5q-症候群(5q-syndrome)とは、血液を作る造血幹細胞に異常が生じる骨髄異形成症候群です。
この疾患では、5番染色体の長腕(染色体の長い方の腕)に欠失があり、女性に多く見られます。
貧血症状が現れるので定期的な輸血が必要で、また、感染症のリスクが高く出血傾向もあります。
症状の進行は比較的ゆっくりで、他の骨髄異形成症候群と比べて予後は良好です。
5q-症候群の主な症状
5q-症候群は、貧血や血小板減少、白血球減少など、血球系統に影響を及ぼす症状が起こります。
貧血による症状
5q-症候群で最もよく見られる症状は、貧血に起因するものです。 赤血球数の減少により酸素運搬能力が低下し、いろいろな身体的影響が生じます。
- 倦怠感や疲労感
- 息切れや動悸
- めまいや立ちくらみ
- 皮膚の蒼白化
高齢の患者さんでは、貧血による影響がより顕著に現れます。
血小板減少に伴う症状
5q-症候群では血小板の産生にも影響が及び、血小板数の減少は出血傾向を起こす主要な原因です。
症状 | 特徴 |
皮下出血 | 軽微な接触でも皮膚に青あざができやすい |
粘膜出血 | 歯肉からの出血や鼻血が頻繁に起こる |
点状出血 | 皮膚や粘膜に小さな赤い点が出現 |
血小板減少が進行するとより深刻な出血性合併症のリスクが高まるため、注意深い観察が重要になります。
白血球減少による影響
5q-症候群での白血球、特に好中球(細菌感染と戦う主要な白血球)の減少は、免疫機能の低下を招きます。
現れる症状
- 易感染性の上昇
- 発熱や悪寒の頻発
- 慢性的な疲労感
- 軽微な感染症の重症化
ただし、一見して5q-症候群特有のものと判断するのが難しい場合があります。
その他の血液学的異常
5q-症候群では主要な症状以外にも、さまざまな血液学的な異常が観察されます。
異常 | 臨床的意義 |
大赤血球症 | 赤血球の形態異常を示唆 |
好塩基性斑点 | 赤血球前駆細胞の成熟障害を反映 |
単球増加 | 免疫システムの異常を示唆 |
骨髄芽球の増加 | 病態の進行を示す可能性 |
これらの所見は、骨髄での造血異常を示す重要な指標です。
5q-症候群の原因
5q-症候群の原因は、5番染色体長腕(染色体の長い方の腕)の一部が欠失することで造血に重要な遺伝子が失われ、正常な血液細胞の産生が妨げられることです。
5q-症候群における染色体異常
5q-症候群では、5番染色体長腕の特定領域(q31-q33)に欠失が生じることが特徴的です。
欠失領域には造血に関わる重要な遺伝子群があり、この遺伝子の喪失が血液細胞の正常な発達を阻害します。
染色体 | 欠失領域 |
5番 | q31-q33 |
遺伝子欠失のメカニズム
5q-症候群における遺伝子欠失には放射線被ばくや化学物質への暴露、加齢などの外的要因も関与しています。
影響を受ける主要な遺伝子
5q-症候群で欠失する領域には、いくつかの重要な遺伝子が含まれています。
- RPS14遺伝子 赤血球の産生に関与
- CSNK1A1遺伝子 細胞周期(細胞の分裂や成長の過程)の制御に重要
- miR-145/miR-146a 造血幹細胞(血液細胞の元となる細胞)の分化を調節
遺伝子の欠失により、正常な血液細胞の産生が妨げられ、5q-症候群特有の症状が生じます。
遺伝子名 | 機能 |
RPS14 | 赤血球産生 |
CSNK1A1 | 細胞周期制御 |
miR-145/miR-146a | 造血幹細胞分化調節 |
遺伝子欠失が血液細胞に与える影響
5q-症候群では、赤血球と巨核球(血小板を産生する細胞)の成熟過程に大きな影響を及ぼします。
一方で、白血球の数は保たれていることが多く、他の骨髄異形成症候群との鑑別点です。
診察(検査)と診断
5q-症候群(5q-syndrome)の診断は、臨床症状の評価、血液検査、骨髄検査、そして遺伝子解析を組み合わせて行われます。
臨床症状の評価
5q-症候群の診断では患者さんの訴えを聞き取り、身体診察を行います。
貧血や出血傾向、感染症の既往歴などに注目し、症状が5q-症候群の特徴的な所見と一致するかどうかを評価することが大切です。
さらに、 遺伝性の要因が関与している可能性を考慮し、家族内に似た症状や血液疾患の既往がないかを確認します。
血液検査
臨床症状の評価に続いて、血液検査を実施します。
検査項目 | 所見 |
血球計数 | 貧血、血小板減少、白血球減少 |
末梢血塗抹 | 大赤血球、好塩基性斑点 |
網赤血球数 | 低値(骨髄の造血機能低下を反映) |
血清鉄・フェリチン | 正常~高値(鉄利用障害を示唆) |
大赤血球性貧血と血小板減少の組み合わせは、5q-症候群を疑う重要な所見です。
骨髄検査
血液検査で異常が見られた場合、骨髄検査を行います。
骨髄検査で評価する点
- 骨髄細胞の形態学的特徴
- 造血細胞の分布と成熟過程
- 染色体異常の有無
- 骨髄の細胞密度と線維化の程度
5q-症候群特有の所見は、巨核球の形態異常や赤芽球系細胞の減少です。
染色体解析
5q-症候群の確定診断には、染色体解析が不可欠です。
解析方法 | 特徴 |
G分染法 | 染色体の構造異常を広く検出 |
FISH法 | 5番染色体長腕の欠失を特異的に検出 |
SKY法 | 複雑な染色体転座を検出 |
G分染法では5番染色体長腕の欠失を視覚的に確認し、FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)法は、より高感度で特異的な検出ができます。
遺伝子解析
遺伝子解析は5q-症候群の分子レベルでの異常を把握することが可能です。
次世代シーケンサーを用いた解析により、5q-症候群に関連する遺伝子変異を特定します。
この方法は、従来の手法では検出困難だった微小な遺伝子異常も捉えられ、診断の精度を飛躍的に向上させました。
解析対象 | 意義 |
TP53遺伝子 | 予後不良因子の評価 |
RPS14遺伝子 | 5q-症候群の中核的な異常 |
CSNK1A1遺伝子 | レナリドミド感受性の予測 |
5q-症候群の治療法と処方薬、治療期間
5q-症候群の治療はレナリドミドを中心とし、輸血や造血刺激因子(血液を作るのを助ける物質)の投与を補助的に行いながら、長期的に継続されます。
レナリドミドによる治療
レナリドミドは異常な造血幹細胞の増殖を抑え、正常な血液細胞の産生を促す効果があります。
薬剤名 | 効果 |
レナリドミド | 造血機能の改善 |
輸血依存からの脱却 |
レナリドミドは飲み薬として処方され、多くの患者さんで治療を始めてから数ヶ月以内に血液検査の数値が良くなります。
輸血療法
貧血の症状が強いときは。患者さんの体調や血液検査の結果を見て、必要な時に輸血が実施されます。
レナリドミドによる治療が効果を示すと輸血を受ける回数が減り、最終的には輸血が不要になることが多いです。
造血刺激因子の使用
エリスロポエチン(赤血球を作るのを促す物質)などの造血刺激因子は、赤血球の産生を増やすために使われます。
造血刺激因子はレナリドミドによる治療と一緒に使うことで、より効果的に貧血を改善できます。
造血刺激因子 | 効果 |
エリスロポエチン | 赤血球産生促進 |
G-CSF | 白血球産生促進 |
治療期間と経過観察
5q-症候群の治療は数年にわたることも珍しくなく、定期的に病状の変化を確認することが欠かせません。
レナリドミドによる治療は、効果が続く限り継続されます。
治療段階 | 内容 |
初期 | 血液検査、薬の調整 |
中期 | 効果の確認、副作用のチェック |
長期 | 定期的な検査、生活の質の評価 |
治療効果の評価
治療効果の評価は、以下の点を考慮して行われます。
- 輸血を受ける回数の減少または不要になる
- 血液検査の数値が良くなる(ヘモグロビン値、血小板数など)
- 染色体の異常が改善する
- 全体的な生活の質が向上する
定期的に骨髄検査も行われ、病気の進み具合や治療への反応を評価することが大切です。
5q-症候群の治療における副作用やリスク
5q-症候群(5q-syndrome)の治療には、免疫調節薬や造血刺激因子が用いられますが、骨髄抑制や血栓症などの副作用やリスクが伴います。
免疫調節薬の副作用
5q-症候群の治療ではレナリドミドなどの免疫調節薬を用い、副作用があります。
副作用 | 発現頻度 | 対処法 |
骨髄抑制 | 高頻度 | 定期的な血球数モニタリング、必要に応じて投与量調整 |
皮疹 | 中頻度 | 抗ヒスタミン薬の併用、重症例では一時的な休薬 |
下痢 | 中頻度 | 適切な水分補給、整腸剤の使用 |
疲労感 | 中頻度 | 十分な休息、必要に応じて投与スケジュールの調整 |
特に注意が必要な副作用は骨髄抑制です。
血球減少が進行すると感染症や出血のリスクが高まり、患者さんの生命を脅かす危険があります。
造血刺激因子の副作用
エリスロポエチンなどの造血刺激因子も5q-症候群の治療に用いられることがあり、貧血の改善に効果を示す一方で、いくつかの副作用があります。
造血刺激因子の副作用
- 高血圧
- 血栓症
- 頭痛
- 関節痛
- インフルエンザ様症状
血栓症は、肺塞栓症や脳梗塞などの重篤な状態につながるため、早期発見と対応が大事です。
長期使用に伴うリスク
5q-症候群の治療は長期に及ぶことが多く、薬剤の長期使用に伴うリスクがあります。
リスク | 対策 | 頻度 |
二次発がん | 定期的な全身スクリーニング | 低頻度だが重要 |
耐性獲得 | 治療効果の定期的評価 | 中頻度 |
臓器障害 | 定期的な臓器機能検査 | 低頻度 |
免疫調節薬の長期使用では、二次発がん(治療に関連して新たに発生するがん)のリスクが懸念されます。
また、薬剤への耐性獲得も長期使用に伴うリスクの一つです。
耐性が生じると治療効果が低下し、病状の進行につながるため、定期的な治療効果の評価と、治療戦略の見直しが重要となります。
感染症のリスク
5q-症候群の患者さんは疾患自体や治療の影響により、免疫機能が低下し感染症のリスクが高まります。
治療期間中だけでなく治療終了後もしばらく続く可能性があるため、長期的な注意が必要です。
注意すべき感染症
- 細菌性肺炎
- 尿路感染症
- 帯状疱疹(水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化による皮膚症状)
- 真菌感染症(カンジダ症やアスペルギルス症)
薬物相互作用
5q-症候群の治療薬は、他の薬剤と相互作用を起こすことがあります。
相互作用により、治療薬の効果が増強されたり減弱されたりするだけでなく、予期せぬ副作用の危険も。
高齢の患者さんでは複数の疾患を抱えていることが多く、薬物相互作用のリスクが高まります。
併用薬 | 起こりうる相互作用 | 注意点 |
抗凝固薬 | 出血リスクの増大 | 定期的な凝固能検査 |
CYP3A4阻害薬 | レナリドミドの血中濃度上昇 | 副作用モニタリングの強化 |
降圧薬 | 過度の血圧低下 | 血圧の頻回チェック |
モニタリングの重要性
副作用やリスクを最小限に抑えるためには、定期的なモニタリングが不可欠です。
血球数、肝機能、腎機能などの検査を定期的に行い、異常の早期発見に努めます。
定期的なモニタリングの項目
- 血球数(白血球、赤血球、血小板)
- 肝機能検査(AST、ALT、ビリルビン)
- 腎機能検査(クレアチニン、eGFR)
- 電解質バランス
- 凝固機能検査
- 全身症状の評価(倦怠感、発熱、痛み)
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
薬剤費の内訳
主要治療薬であるレナリドミドの1カ月分の薬価は、約50万円から80万円です。
薬剤名 | 1カ月あたりの薬価 |
レナリドミド | 50万円〜80万円 |
検査費用
定期的な血液検査や骨髄検査が必要、月額で1万円から3万円程度かかります。
長期的な治療費
5q-症候群の治療は長期にわたるため、総治療費は数百万円から数千万円に及ぶことがあります。
以上
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