無顆粒球症 – 血液疾患

無顆粒球症(agranulocytosis)とは、血液中の白血球の一種である顆粒球(体内で異物を攻撃する細胞)が著しく減少する血液疾患です。

顆粒球は私たちの体内で細菌やウイルスから身を守る重要な役割があるため、この病気では感染症に対する抵抗力が極端に低下します。

症状は突然の高熱や喉の痛み、口内炎で、原因は、特定の薬剤の副作用や、他の血液疾患の合併症として発症することもあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

無顆粒球症の主な症状

無顆粒球症の症状は、突然の高熱、喉の痛み、口内炎などの感染症状です。

無顆粒球症の初期症状

無顆粒球症の初期段階では一般的な感染症と似た症状が見られますが、進行すると、通常の感染症よりも急速で深刻になります。

突然体温が38度以上に上昇し、一般的な解熱剤に反応しにくいです。

症状特徴注意点
発熱突然の高熱(38度以上)解熱剤が効きにくい
喉の痛み嚥下困難を伴うことも急速に悪化する可能性あり
悪寒体が震えるほどの寒気感染の兆候として重要

口腔内症状

口腔内の症状は無顆粒球症の診断に不可欠な手がかりです。

口内炎や歯肉炎が頻繁に観察され、口腔ケアでは改善せず急速に悪化し、舌や頬の内側に白斑や潰瘍が形成されます。

当初は単なる口内炎だと思っていた若い患者さんが、わずか数日で全身状態が悪化し、集中治療室での管理が必要になった症例もありました。

全身症状と感染リスク

無顆粒球症患者さんは全身の免疫機能が著しく低下しているため、体のあらゆる部位で感染症を発症する危険性が高まります。

注意すべき全身症状

  • 皮膚の感染(膿瘍や蜂窩織炎):小さな傷や虫刺されから重症化することがある
  • 肺炎(咳、痰、呼吸困難):呼吸器症状は急速に進行する可能性があるため、早期の対応が重要
  • 尿路感染症(排尿時の痛み、頻尿):通常は軽症で済む尿路感染も重症化しやすい
  • 消化器症状(下痢、腹痛):腸内細菌のバランスが崩れ、重度の消化器症状を引き起こすことがある
感染部位症状注意すべき点
皮膚発赤、腫れ、痛み小さな傷からでも重症化の可能性あり
呼吸器咳、痰、呼吸困難急速に悪化する可能性が高い
尿路排尿痛、頻尿、発熱高齢者では症状が不明瞭なことも
消化器下痢、腹痛、嘔吐脱水症状に注意が必要

無顆粒球症特有の症状パターン

感染部位の炎症反応が弱いため明確な症状が現れにくいですが、症状が急激に悪化することがあります。

一見軽症に見える状態から数時間で重篤な状態に陥るため、注意が必要です。

症状の経過と合併症

初期の発熱や口腔内症状から、全身性の感染症へと発展することがあり、この過程は通常の感染症よりもはるかに速く、数時間で状態が急変します。

敗血症や多臓器不全などの重篤な合併症のリスクも高くなるため、早期発見と迅速な対応が非常に大切です。

無顆粒球症の原因

血液疾患の原因には薬剤性、感染性、自己免疫性、先天性があります。

薬剤性無顆粒球症

薬剤性無顆粒球症は、最もよく見られる原因です。

特定の薬剤が骨髄機能を抑制したり、免疫系を介して顆粒球を破壊することで発症します。

抗生物質、抗甲状腺薬、抗てんかん薬などが代表的な原因薬剤です。

薬剤性無顆粒球症を引き起こす可能性のある薬剤

薬剤分類
抗生物質ペニシリン系、セファロスポリン系
抗甲状腺薬プロピルチオウラシル、メチマゾール
抗てんかん薬カルバマゼピン、バルプロ酸
解熱鎮痛薬ジピロン、インドメタシン

感染性無顆粒球症

ウイルスや細菌感染が無顆粒球症を起こすケースも珍しくありません。

ウイルス感染では、骨髄抑制や免疫介在性の顆粒球破壊が生じることがあります。

代表的な原因ウイルスは、Epstein-Barrウイルス(伝染性単核球症の原因ウイルス)、サイトメガロウイルス、HIVなどです。

感染性無顆粒球症の特徴

  • ウイルス感染が原因
  • 骨髄抑制や免疫介在性の顆粒球破壊が発症メカニズム
  • 一過性のことが多く、感染の回復とともに改善
  • 重症感染症を併発するリスクが高い

自己免疫性無顆粒球症

自己免疫性無顆粒球症は、体の免疫系が誤って自分自身の顆粒球を攻撃することで発症します。

単独で起こるだけでなく、他の自己免疫疾患に随伴して発生する場合もあります。

全身性エリテマトーデスやリウマチ性関節炎などの患者さんで、無顆粒球症が併発することがあるため、注意が必要です。

自己免疫性無顆粒球症に関連する疾患

関連疾患特徴
全身性エリテマトーデス多臓器を侵す自己免疫疾患
リウマチ性関節炎関節を主に侵す慢性炎症性疾患
フェルティ症候群リウマチ性関節炎に脾腫と好中球減少を伴う
大顆粒リンパ球性白血病T細胞または NK細胞の増殖性疾患

先天性無顆粒球症

まれなケースですが、遺伝子の異常により先天的に無顆粒球症を発症することがあります。

コステルマン症候群やシュワッハマン・ダイアモンド症候群が代表的な先天性無顆粒球症です。

骨髄での顆粒球産生に関わる遺伝子に変異が生じており、生まれつき顆粒球の数が極端に少ない状態が続きます。

その他の原因

その他にも、栄養障害や放射線被曝など、さまざまな要因が無顆粒球症の原因になります。

栄養素無顆粒球症との関連
ビタミンB12顆粒球前駆細胞の成熟に必要
葉酸DNA合成に不可欠、細胞分裂に影響
造血に関与、欠乏で好中球減少
亜鉛免疫機能に関与、欠乏で感染リスク上昇

診察(検査)と診断

無顆粒球症の診断は、患者さんの症状や身体所見の詳細な観察から始まり、血液検査による白血球数と顆粒球数の測定、骨髄検査を通じて段階的に進められます。

初期診察と臨床診断

無顆粒球症の初診では、患者さんの症状の発症時期や経過、過去の感染症の既往歴、現在使用中の薬剤や過去に使用した薬剤の履歴を確認し、無顆粒球症の可能性を探ります。

身体診察では、発熱の有無や口腔内の状態、皮膚の異常を観察し、感染症の兆候や特徴的な症状がないかチェックします。

診察項目確認ポイント注意事項
病歴聴取症状の発症時期と経過急激な発症に注意
薬剤歴抗生物質や抗てんかん薬の使用最近の薬剤変更にも注目
身体診察発熱、口腔内病変、皮膚感染軽微な症状も見逃さない

血液検査

無顆粒球症の診断では、血液検査は不可欠です。

完全血球計算(CBC)を実施し、白血球数と顆粒球数を測定することで、無顆粒球症の可能性を評価します。

無顆粒球症の診断基準は、顆粒球数が500個/μL未満であることで、この値は正常値の約10分の1以下です。

さらに、顆粒球の割合が著しく低下しているか確認し、他の血球成分との比率を分析します。

検査項目正常値無顆粒球症の基準
白血球数4,000-9,000/μL通常低下
顆粒球数2,500-6,000/μL500/μL未満
顆粒球割合50-70%著しく低下

骨髄検査

血液検査で顆粒球減少が確認されると、次のステップとして骨髄検査を行い、血液細胞が作られる過程を観察します。

骨髄穿刺や骨髄生検を用い、骨髄中の顆粒球系細胞の量や成熟度を確認し、無顆粒球症の原因が骨髄レベルの問題なのか、末梢血中での破壊増加なのかを特定することが可能です。

追加検査と鑑別診断

無顆粒球症の確定診断のためには、他の可能性のある疾患を除外する必要があり、追加検査を行います。

追加検査

  • 自己抗体検査(自己免疫疾患の除外):抗好中球抗体などを測定し、自己免疫性の無顆粒球症の可能性を評価
  • ウイルス検査(特定のウイルス感染症の確認):EBウイルスやHIVなど、無顆粒球症を引き起こす可能性のあるウイルス感染の有無を調べる
  • 薬剤誘発性好中球減少症の検査(被疑薬の特定):薬剤リンパ球刺激試験(DLST)などを用いて、薬剤性の無顆粒球症の可能性を検討
  • 遺伝子検査(先天性好中球減少症の診断):若年性の患者さんや家族歴がある場合に考慮し、遺伝性疾患の可能性を調べる

無顆粒球症の治療法と処方薬、治療期間

無顆粒球症の治療は、抗生物質療法、G-CSF投与、原因薬剤の中止、支持療法が行われます。

抗生物質療法

感染症の予防と治療のため、広い範囲の細菌に効果を示す抗生物質が投与されます。

緑膿菌(院内感染の原因となることが多い細菌)にも効果のある抗菌薬が選ばれることが多いです。

無顆粒球症の治療で使用される抗生物質

抗生物質特徴
セフェピム第4世代セフェム系、広い範囲の細菌に効果あり
メロペネムカルバペネム系、強力な抗菌作用を持つ
タゾバクタム/ピペラシリンβ-ラクタマーゼ阻害剤配合、緑膿菌にも有効

G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)療法

G-CSFは、骨髄で顆粒球の産生を促進する体内物質です。

無顆粒球症の治療ではG-CSFを外部から投与することで、顆粒球数の回復を早める方法が用いられます。

G-CSF製剤

  • フィルグラスチム:短時間作用型で、1日1回皮下注射で投与
  • ペグフィルグラスチム:持続型で、1回の投与で長期間の効果
  • レノグラスチム:糖鎖が付加されており、体内での安定性が高い

G-CSF投与により、顆粒球数の回復が1-2週間程度早まります。

原因薬剤の中止

薬剤が原因で起こる無顆粒球症の場合、原因と考えられる薬剤をすぐに中止することが最も効果的な治療です。

中止後、1-3週間程度で顆粒球数の回復が見られます。

支持療法

感染のリスクを減らすため、個室での管理や無菌食の提供などの支援療法も重要です。

また、症状が重い場合は、健康な人から採取した顆粒球を輸血する方法(顆粒球輸血)が考慮されることもあります。

無顆粒球症の治療期間は、1-4週間程度です。

無顆粒球症の治療における副作用やリスク

無顆粒球症の治療には、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)療法や抗生物質投与、原因となる薬剤の中止などの方法があり、治療法にはそれぞれ副作用やリスクがあります。

G-CSF療法の副作用

G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)療法は無顆粒球症の主要な治療法の一つですが、体内で白血球の生成を促進する一方で、いくつかの副作用があります。

起こりやすい副作用は骨痛で、特に長管骨(腕や脚の長い骨)や骨盤、胸骨などに痛みを感じます。

その他、発熱、頭痛、筋肉痛なども見られ、治療開始後数日間続きますが、多くの場合は一時的なものです。

まれではありますが、脾臓破裂や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)といった重篤な副作用も報告されており、急な左上腹部痛や肩の痛みがある場合は直ちに医療機関を受診する必要があります。

副作用頻度対処法
骨痛高頻度鎮痛剤の使用、温熱療法
発熱中頻度解熱剤、水分補給
頭痛中頻度鎮痛剤、休息
脾臓破裂低頻度緊急手術が必要な場合あり

抗生物質治療のリスク

無顆粒球症患者は感染症のリスクが高いため、予防的または治療的に抗生物質が投与されるものの、リスクも伴います。

抗生物質使用に伴うリスク

  • 耐性菌の出現:抗生物質の長期使用や不適切な使用により、薬が効かない細菌が増える可能性
  • アレルギー反応:軽度の発疹から重度のアナフィラキシーショックまで、いろいろな過敏反応が起こる可能性
  • 消化器系の副作用:下痢、悪心、嘔吐などの症状が現れ、腸内環境のバランスを崩す
  • 腎機能や肝機能への負担:特定の抗生物質は腎臓や肝臓に負担をかける
抗生物質の種類副作用注意点
ペニシリン系アレルギー反応、下痢アレルギー歴の確認が重要
セフェム系肝機能障害、血液障害定期的な肝機能検査が必要
キノロン系腱障害、光線過敏症日光への露出を避ける

免疫抑制療法のリスク

免疫抑制剤の使用は、自己免疫反応を抑える一方で、感染症のリスクをさらに高めます。

また、長期使用による骨粗鬆症や糖尿病、高血圧などの副作用も懸念され、特にステロイド剤の長期使用は全身性の影響があるので注意が必要です。

造血幹細胞移植の合併症

重症例や他の治療法が効果を示さないときは、造血幹細胞移植が最後の選択肢として考慮されることがありますが、移植片対宿主病(GVHD)、重症感染症、臓器障害などの深刻な合併症が生じる可能性があります。

また、移植前処置として行われる高用量化学療法や全身放射線照射にも強い副作用があり、患者さんの体に大きな負担をかけます。

合併症発症時期症状
急性GVHD移植後100日以内皮疹、下痢、肝機能障害
慢性GVHD移植後100日以降皮膚硬化、口腔乾燥、呼吸困難
重症感染症移植前後高熱、全身倦怠感、臓器不全

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

入院治療費の内訳

無顆粒球症の治療では、入院が必要になることもあります。

項目概算費用(円)
病室料(1日)10,000 – 30,000
血液検査(1回)5,000 – 15,000
抗生物質投与(1日)10,000 – 50,000

G-CSF療法の費用

G-CSF療法は無顆粒球症の主要な治療法の一つです。

  • フィルグラスチム(1回投与)約20,000円
  • ペグフィルグラスチム(1回投与)約100,000円
  • レノグラスチム(1回投与)約30,000円

以上

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