Bernard-Soulier症候群 – 血液疾患

Bernard-Soulier症候群(Bernard-Soulier syndrome)とは、血小板の機能に問題が生じる遺伝性の病気です。

血小板の表面にあるはずの特定のタンパク質が不足しているか、まったくないため血小板が本来の役割を果たせず、少しのことで出血しやすくなったり、一度出血すると止まるまでに時間がかかります。

Bernard-Soulier症候群は非常に発症例の少ない疾患で、子どもの頃から何らかの兆候が見られます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

Bernard-Soulier症候群の主な症状

Bernard-Soulier症候群の症状は、持続性の出血傾向と血小板の形態・機能異常です。

出血傾向

Bernard-Soulier症候群では、止血機能の低下が現れます。

これは血小板膜上の糖タンパク複合体Ib-IX-Vの欠損が原因で、血管損傷部位での血小板粘着が正常に行われないためです。

鼻出血の頻発や遷延性の歯肉出血などが観察され、また、軽い力でも皮下出血(紫斑)が生じやすくなります。

症状臨床的特徴
鼻出血頻発し、止血に長時間を要する
歯肉出血歯科処置や歯磨き時に発生し、遷延する
皮下出血軽度の接触でも紫斑形成が顕著

月経過多と周産期出血

女性患者さんの場合、月経過多や周産期の大量出血に注意が必要です。

また、分娩時や産褥期における止血困難は、大量出血のリスクを高めるので、Bernard-Soulier症候群を有する女性患者さんの妊娠・出産管理には、特別な配慮と準備が欠かせません。

血小板数異常と形態変化

Bernard-Soulier症候群では血小板減少症を伴い、末梢血液検査で血小板数の減少が確認できます。

ただし、血小板減少の程度は軽度から中等度であることが多く、重度の血小板減少症はまれで、血小板数の異常に加え巨大血小板も所見の一つです。

血液学的所見正常値Bernard-Soulier症候群患者さん
血小板数15-35万/μL5-15万/μL程度が多い
平均血小板容積7-11 fL12 fL以上に増大

その他の臨床所見

Bernard-Soulier症候群では、以下のような症状も見られます。

  • 術後の異常出血
  • 消化管出血
  • 血尿
  • 関節内出血(血友病様症状)

Bernard-Soulier症候群の原因

Bernard-Soulier症候群の原因は、血小板膜糖タンパク質複合体GPIb-IX-Vの遺伝子異常です。

遺伝子異常

Bernard-Soulier症候群は、常染色体劣性遺伝形式をとる遺伝性疾患です。

この疾患の原因となる遺伝子異常は、3つの遺伝子(GPIbα、GPIbβ、GPIX)のいずれかに生じます。

遺伝子名染色体位置
GPIbα17p13.2
GPIbβ22q11.21
GPIX3q21.3

GPIb-IX-V複合体の重要性

GPIb-IX-V複合体は、血管壁の損傷部位にある von Willebrand 因子(vWF)と結合し、血小板の粘着を促進します。

また、血栓形成の初期段階で重要な働きをする他のタンパク質とも相互作用します。

遺伝子異常によりGPIb-IX-V複合体の形成や機能が阻害されると、血小板の正常な粘着や凝集が妨げられ、出血傾向が生じるのです。

遺伝子変異のタイプ

Bernard-Soulier症候群を引き起こす遺伝子変異には、さまざまなタイプがあります。

  • ミスセンス変異(遺伝子の一部が別のアミノ酸に置換される変異)
  • ナンセンス変異(途中で終止する変異)
  • フレームシフト変異(遺伝子の読み枠がずれる変異)
  • スプライシング変異(遺伝子の情報をつなぎ合わせる過程での変異)

変異はGPIb-IX-V複合体の構造や機能に影響を与え、血小板の機能不全をもたらします。

遺伝子異常の影響

GPIb-IX-V複合体の遺伝子異常は、血小板の形態や機能に多様な影響を及ぼします。

影響詳細
血小板形態異常巨大血小板の出現
血小板数減少正常値より少ない血小板数
粘着能低下vWFとの結合障害による血小板粘着の低下
凝集能異常リストセチン誘発凝集の欠如

軽度の外傷や切創でも、遷延性出血や大量出血が起こります。

診察(検査)と診断

Bernard-Soulier症候群を診断するには、問診と身体診察を行い、血液検査や血小板の働きを調べる検査、遺伝子検査が必要です。

症状の観察と病歴

Bernard-Soulier症候群を診断は、患者さんの症状を観察し、これまでの病気の経過を聞くことから始まります。

小さい頃から出血が止まりにくい傾向があるか、家族の中に同じ症状の人がいないかは、重要な手がかりです。

身体診察では、皮膚や口の中などの粘膜に小さな出血の跡や青あざがないかを見ていきます。

観察するポイント特徴
出血が止まりにくい傾向小さい頃から続いている
家族の中の似た症状両親から受け継ぐ形で起こる病気
体の様子皮膚や口の中に小さな出血の跡や青あざ

血液検査と血小板の働きを調べる

Bernard-Soulier症候群を診断する次の段階では、血液検査を行い、血小板がどのように働いているかを調べます。

血小板の数が少なくなっていることと、血小板が大きくなっていることが特徴的な所見です。

血小板の働きを調べる検査では、リストセチンを使い血小板が固まる力を観察し、この病気では血小板がほとんど固まらなくなっています。

また、フローサイトメトリーを使って、血小板の表面にある特定のタンパク質(GPIb-IX-V複合体)があるかどうかを調べることも必要です。

検査の種類結果
血小板の数減っている(普通は1マイクロリットルあたり5-15万個程度)
血小板の大きさ大きくなっている(12フェムトリットル以上)
リストセチンでの血小板凝集ほとんど固まらない

遺伝子検査

Bernard-Soulier症候群は、両親から受け継いだ遺伝子の変化によって起こり、GPIbα、GPIbβ、GPIXの遺伝子のどれかに問題があると発症します。

最近では、次世代シーケンサーという最新の機械を使い、多数の遺伝子を一度に調べられるようになり、今まで見つけられなかった珍しい遺伝子の変化も発見できるようになりました。

似た病気との鑑別

Bernard-Soulier症候群を診断する際には、血小板型フォンウィルブランド病や特発性血小板減少性紫斑病(ITP)との鑑別が不可欠です。

鑑別に用いられる検査

  • フォンウィルブランド因子の分析
  • 血小板に対する抗体の検査
  • 骨髄の検査
  • 血小板が固まる力を調べる

Bernard-Soulier症候群の治療法と処方薬、治療期間

Bernard-Soulier症候群の治療は、出血の予防と管理に焦点を当てた対症療法が中心です。

出血予防と管理

Bernard-Soulier症候群患者の治療目標は、出血の予防と迅速な対応です。

出血リスクの高い状況では、予防的な処置が必要になります。

状況予防的処置
手術前血小板輸血
抜歯前局所止血剤の使用

血小板輸血は、一時的に止血機能を改善するための行われる治療法です。

薬物療法

Bernard-Soulier症候群に使われる処方薬

  • デスモプレシン:血管内皮細胞からのvon Willebrand因子(止血に関与するタンパク質)放出を促進
  • 抗線溶薬(トラネキサム酸など):血栓の分解を抑制
  • ホルモン療法:月経過多の管理に使用(女性患者の場合)

生活指導

Bernard-Soulier症候群患者の日常生活管理は、治療の一環として重要です。

指導項目内容
運動制限接触スポーツの回避
薬物注意アスピリン等の抗血小板薬の使用制限
歯科ケア定期的な歯科検診と適切な口腔衛生
栄養指導鉄分摂取の重要性(慢性的な出血による貧血予防)

生活指導は患者さんの生活の質を維持しつつ、出血リスクを最小限に抑えることが目的です。

長期的な管理と経過観察

Bernard-Soulier症候群の治療は、生涯にわたる長期的な管理が必要で、定期的な血液検査や臨床評価で患者さんの状態を管理します。

チェックする項目

  • 血小板数
  • ヘモグロビン値
  • 凝固機能検査
  • 出血症状の有無と程度

Bernard-Soulier症候群の治療における副作用やリスク

Bernard-Soulier症候群の治療に用いられる血小板輸血、抗線溶療法、止血剤の使用、そして実験段階の遺伝子治療には、いずれも副作用とリスクがあります。

血小板輸血に関連するリスク

血小板輸血はBernard-Soulier症候群の出血管理に行われ、いくつかの副作用やリスクを伴います。

頻繁な輸血により、患者さんが血小板に対する同種抗体を作ることがあり、後続の輸血の効果が減弱し、輸血不応状態に陥る危険があります。

また、輸血関連急性肺障害(TRALI)や輸血後GVHDのような重篤な合併症のリスクも。

リスク発生頻度
同種抗体産生10-20%
TRALI0.1% 未満
輸血後GVHD極めてまれ

抗線溶療法と止血剤使用のリスク

抗線溶薬や止血剤の使用は出血のコントロールに有効ですが、血栓症のリスクを高めます。

トラネキサム酸などの抗線溶薬の長期使用では、深部静脈血栓症や肺塞栓症に注意が必要です。

また、デスモプレシンの使用では、水中毒や低ナトリウム血症のリスクがあります。

遺伝子治療の潜在的リスク

Bernard-Soulier症候群に対する遺伝子治療は現在研究段階ですが、将来の治療選択肢として期待されています。

遺伝子治療のリスク

  • 挿入変異によるがん化のリスク
  • 免疫反応による炎症や臓器障害
  • 目的外の細胞や組織への遺伝子導入
  • 既存の遺伝子機能の予期せぬ変化

感染症リスクの増大

Bernard-Soulier症候群患者さんは繰り返し行われる医療処置や輸血により、感染症のリスクが高まります。

血液由来感染症(HIV、B型肝炎、C型肝炎)には注意が必要で、また、出血傾向により局所感染が重症化するリスクもあります。

感染症予防策
血液由来感染症スクリーニング検査の徹底
局所感染早期発見と積極的な治療

長期的な合併症

Bernard-Soulier症候群の治療に伴う長期的な合併症もあります。

  • 慢性貧血
  • 鉄過剰症(頻回輸血による)
  • 関節症(反復する関節内出血による)
  • 慢性疼痛

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

血小板輸血の費用

血小板輸血の費用は、使用する血小板製剤の種類と量によって変動します。

血小板製剤1回あたりの費用(概算)
濃厚血小板30,000円 〜 50,000円
成分採血血小板50,000円 〜 80,000円

重度の出血時や手術前後には、複数回の輸血が必要です。

薬物療法の費用

Bernard-Soulier症候群の症状管理に使う薬剤の費用

  • デスモプレシン点鼻薬 月額約5,000円〜10,000円
  • トラネキサム酸 月額約2,000円〜5,000円
  • ホルモン療法薬(女性患者さんの場合) 月額約3,000円〜8,000円

定期検査の費用

Bernard-Soulier症候群患者さんは、定期的に血液検査や凝固機能検査を行います。

検査項目1回あたりの費用(概算)
血液一般検査1,500円 〜 2,500円
凝固機能検査3,000円 〜 5,000円

検査は、3〜6ヶ月ごとに実施されることが多いです。

合併症対応の費用

Bernard-Soulier症候群に関連する合併症の治療費用もあります。

重度の出血に対する入院治療が必要となった際、1回の入院で数十万円の費用が発生します。

また、鉄欠乏性貧血の治療のための鉄剤投与や、慢性的な出血による貧血の管理なども、追加の医療費です。

以上

References

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