慢性リンパ性白血病(CLL) – 血液疾患

慢性リンパ性白血病(CLL)(chronic lymphocytic leukemia)とは、血液中のリンパ球(白血球の一種)が異常に増える血液のがんです。

この疾患では、正常な機能を果たせないリンパ球が、体内にゆっくりと蓄積していきます。

高齢者に発症しやすく、初期の段階ではほとんど自覚症状がないものの、病気が進行するとさまざまな症状が現れます。

CLLの進行は緩やかで、多くの患者さんは長期間にわたり、定期的な検査を受けながら日常生活を送ることが可能です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

慢性リンパ性白血病(CLL)の主な症状

慢性リンパ性白血病(CLL)は初期段階では無症状のことが多いですが、進行に伴いリンパ節の腫れ、全身のだるさ、微熱、体重の減少などの症状が見られるようになります。

初期症状

CLLの初期段階では多くの患者さんが無症状で、定期健康診断や他の病気の検査時に偶然発見されることも少なくありません。

初期症状特徴
疲労感通常の活動でも疲れやすい
微熱37度前後の微熱が続く
寝汗夜間に異常な発汗がある
体重減少明確な理由なく体重が減る

このような症状は他の病気でも見られるため、CLLかどうか確定するには詳しい検査が不可欠です。

中期から後期の症状

病気が進行すると異常なリンパ球が体のさまざまな組織に蓄積し、より顕著な症状が現れます。

  • リンパ節腫脹:首、脇の下、足の付け根などのリンパ節が腫れる
  • 脾臓肥大:お腹の左上が張った感じや痛みがある
  • 肝臓肥大:お腹の右上が張った感じや痛みがある
  • 皮膚の掻痒感:全身的なかゆみを感じる

血液の異常に関連する症状

CLLが進行すると、正常な血液細胞の産生が妨げられ、さまざまな血液の異常が生じます。

血液の異常関連する症状
貧血疲れやすい、息切れ、めまい、動悸
血小板減少出血しやすい(あざができやすい、鼻血が出やすいなど)
白血球減少感染症にかかりやすくなる

免疱力低下に関連する症状

CLLでは免疫力が低下し、感染症にかかるリスクも高まります。

70代の男性患者さんの例では、CLLと診断される数か月前から何度も肺炎を繰り返しており、免疫力の低下が、CLLの初期症状として現れた典型的なケースでした。

感染症関連症状特徴
発熱持続的または反復的な熱の出現
呼吸器症状咳や痰が長引く、肺炎を繰り返す
尿路感染症頻尿、排尿時の痛み、尿の濁り
皮膚感染症傷の治りが遅い、皮膚の炎症が長引く

症状が長引いたり何度も繰り返し現れたりする場合は、CLLの可能性を考えて検査を受けることが大切です。

慢性リンパ性白血病(CLL)の原因

慢性リンパ性白血病(CLL)の原因は遺伝的要因と環境要因が深く関わっています。

遺伝子の影響

CLLの発症には、遺伝的な要素が大きな役割を果たしています。

遺伝子に変異が起きたり、染色体に異常が生じたりすることで、この病気にかかるリスクが高まり、家族の病歴も見逃せない要因の一つです。

CLLと診断された方のご家族は、この病気に罹患するリスクが2〜7倍高くなります。

遺伝子変異CLLとの関連性
TP53高リスク
ATM中程度リスク
NOTCH1予後不良

環境の影響

長期間にわたって化学物質に触れ続けることや、放射線を浴びることも、発症リスクを高める要因です。

農薬や除草剤などの化学物質に頻繁に接する機会がある方は、注意してください。

免疫システムの乱れ

CLLが発症する背景には、免疫系の機能不全も関係しています。

健康な免疫システムは、異常な細胞が増えすぎないように抑制する働きがありますが、機能がうまく働かなくなると、異常なリンパ球が増殖し、CLLの発症につながることがあるのです。

こうした免疫系の乱れは、遺伝的な要因や環境要因、あるいはその両方の影響を受けて起こります。

免疫異常の種類CLLとの関連性
T細胞機能低下リスク上昇
B細胞過剰活性化直接的原因となる
NK細胞減少病気の進行を促す

年を重ねることと性別による違い

CLLは、高齢の方々に多く見られる病気です。

年齢を重ねるにつれて、遺伝子に変異が蓄積されやすくなることが、理由の一つとして挙げられます。

また、男性の方が女性よりもCLLを発症するリスクが高いです。

男女差については、性ホルモンの違いや、仕事を通じて接する環境要因の差異などが関係している可能性が考えられます。

CLLのリスク要因

  • 高齢(特に60歳を過ぎてから)
  • 男性であること
  • 白人であること
  • 家族にCLL患者さんがいること
  • 特定の環境要因に長期間さらされること

診察(検査)と診断

慢性リンパ性白血病(CLL)の診断は、最初の臨床診断から最終的な確定診断に至るまでは、さまざまな検査と綿密な診察が欠かせません。

初診

初診では患者さんの体調の変化や気になる点についてお聞きし、ご家族の病歴や普段の生活環境についても情報を集めます。

体の診察では、首や脇の下、足の付け根などのリンパ節が腫れていないか、また触診で脾臓が大きくなっていないかを確認します。

初診で確認すること内容
問診体調の変化、過去の病気、家族の病歴など
体の診察リンパ節や脾臓が腫れていないかを確認
全身の状態疲れやすくなった、体重が減ったなどの変化

血液検査

CLLを見つけ出すために、完全血球計算検査(CBC)で白血球の数が増えていないか、また普通とは少し違う形のリンパ球がないかを調べます。

CLLに特徴的な所見は、成熟したリンパ球が通常よりもかなり多く見られることです。

さらに、フローサイトメトリー方法を使い、リンパ球の表面にある物質(マーカー)を分析し、CLLに特有のCD5を持つB細胞(リンパ球の一種)の有無を確認します。

骨髄検査

CLLを確実に診断するためには、骨髄の検査が欠かせません。

骨髄穿刺(こつずいせんし)で骨の中の髄液を少量採取する検査や、骨髄生検という骨の一部を採取して調べる検査を通じて、骨髄の中にあるリンパ球の状態を観察します。

異常なリンパ球がどのくらいの割合であるか、形はどうなっているかを詳しく調べ、CLLとよく似た他の血液の病気との鑑別にも役立てます。

同時に染色体検査や遺伝子検査も行うことで、病気の進み具合や、どの治療が効果的かを予測するための情報を得ることが可能です。

骨髄を調べる検査内容
骨髄穿刺リンパ球の数や形
骨髄生検骨髄全体の様子、異常細胞の広がり方
染色体・遺伝子検査病気の進み方や治療の効き目を予測する手がかり

画像検査

CT検査やMRI検査といった方法を使い、首や脇の下、腹部にあるリンパ節が腫れていないか、脾臓が大きくなっていないか、他の臓器に影響が出ていないかを調べます。

PET-CT検査は、CLLを診断すること自体には必要でありませんが、CLLとよく似た他のリンパ腫との違いを見分けたり、リヒター症候群(CLLから、より悪性度の高いリンパ腫に変化すること)を見つける際に役立ちます。

CLLを診断するために行う検査

  • 血液検査(血球の数を数えたり、リンパ球の特徴を調べる)
  • 骨髄検査(骨の中の髄液や組織を採取)
  • 画像検査(CTやMRI、必要に応じてPET-CTを使う)
  • 染色体・遺伝子検査(病気の性質を調べる)

病気の進行度の判定

最終診断のあと、Rai分類やBinet分類といった世界中で使われている判定基準を用いて、CLLがどの程度進んでいるかを判断します。

慢性リンパ性白血病(CLL)の治療法と処方薬、治療期間

慢性リンパ性白血病(CLL)の治療方法には、経過観察のほかに、化学療法、分子標的療法、免疫療法があり、いくつかの方法を組み合わせて最も効果的な治療方針を決めます。

経過観察

CLLの初期段階ではすぐに治療を始めず、定期的な検査で病気の進み具合を見守ります。

症状がない、あるいは軽い症状しかない患者さんに対して選ばれることが多いです。

経過を見ている間は3~6ヶ月ごとに血液検査や体の診察を行い、病気が進んでいないか確認します。

化学療法

化学療法は、がん細胞の増殖を抑制したり、破壊したりする薬を使う治療法です。

薬の名前特徴
フルダラビン代表的な核酸アナログ製剤(がん細胞のDNAを攻撃する薬)
シクロホスファミドアルキル化剤の一種(がん細胞のDNAに損傷を与える薬)
ベンダムスチンアルキル化作用と代謝拮抗作用を持つ(がん細胞のDNAを攻撃し、増殖も抑える薬)

単独、または組み合わせて使い、治療サイクルは4~6回です。

1回のサイクルは28日間で構成され、薬を投与した後に休止期間を設けます。

分子標的療法

分子標的療法は、がん細胞に特有の分子だけを狙い撃ちする薬を使います。

  • イブルチニブ:BTK(がん細胞の生存に関わる酵素)を阻害する薬で、B細胞(リンパ球の一種)の異常な増殖を抑える
  • ベネトクラクス:BCL-2(がん細胞の生存を助ける蛋白質)を阻害する薬で、がん細胞を自然死に導く
  • アカラブルチニブ:より選択的にBTKを阻害する新しい世代の薬

従来の化学療法と比べると副作用が少なく、長い期間続けて飲め、治療期間は1年以上です。

免疫療法

免疫療法は、患者さん自身の体の防御システムを活性化させて、がん細胞を攻撃します。

薬の名前作用機序
リツキシマブCD20(B細胞の表面にある目印)に対する抗体薬
オビヌツズマブより強力に作用する新しい世代のCD20に対する抗体薬
アレムツズマブCD52(多くの白血球の表面にある目印)に対する抗体薬

化学療法や分子標的療法と一緒に使うことが多く、治療期間は6~8回のサイクルで、各サイクルは28日間です。

治療期間と長期的な管理

化学療法や免疫療法の場合4~6ヶ月の治療期間が設定され、分子標的療法では1年以上薬を飲み続けることが多いです。

治療が終わった後も定期的に病院に来ていただいて状態を確認することが欠かせません。

治療法治療期間
経過観察症状や検査結果に応じて(数ヶ月~数年)
化学療法4~6ヶ月(4~6サイクル)
分子標的療法1年以上の継続投与が多い
免疫療法6~8ヶ月(6~8サイクル)

慢性リンパ性白血病(CLL)の治療における副作用やリスク

慢性リンパ性白血病(CLL)ではどの治療法を選んでも、ある程度の副作用やリスクが避けられません。

抗がん剤治療(化学療法)に伴う副作用

抗がん剤治療はCLLに対する主要な治療法の一つで、体にさまざまな影響を与えます。

血液を作る骨髄の働きが弱り、白血球(体を守る細胞)、赤血球(酸素を運ぶ細胞)、血小板(出血を止める細胞)の数が減り、感染症、貧血、出血傾向が生じるので、注意が必要です。

また、吐き気や嘔吐、下痢、脱毛が現れることもあります。

副作用影響
骨髄抑制感染症にかかりやすい、貧血、出血しやすくなる
消化器の症状吐き気、嘔吐、下痢
髪の毛が抜ける一時的に髪の毛が薄くなる

免疫療法に伴うリスク

モノクローナル抗体療法などの免疫療法には、特有の注意点があります。

点滴を受けている最中や直後に、発熱、寒気、発疹が現れるインフュージョンリアクションと呼ばれる反応が起きることがあり、治療の初期には注意が不可欠です。

また、B細胞(リンパ球の一種で、抗体を作る細胞)を標的とする治療法では、体内の免疫グロブリン(抗体)が減ってしまい、感染症にかかりやすくなる懸念があります。

70代の男性患者さんのケースでは、モノクローナル抗体療法を受けた後、重症の帯状疱疹を発症。

免疫力が低下していたため広い範囲に症状が現れ、回復にも時間がかかりました。

免疫療法を受けた後の感染症対策が、いかに大切かを表している症例です。

新しいタイプの治療薬(分子標的薬)の副作用

BTK阻害剤やBCL-2阻害剤などの分子標的薬は、従来の抗がん剤と比べて、がん細胞により的確に働きかけるように設計されていますが、それでも独自の副作用があります。

がん細胞が急速に壊れることで体内の化学物質のバランスが崩れ、BTK阻害剤では出血や不整脈、BCL-2阻害剤では腫瘍崩壊症候群に注意が必要です。

新しい治療薬気をつけるべき副作用
BTK阻害剤出血しやすくなる、心臓の拍動が乱れる
BCL-2阻害剤腫瘍崩壊症候群、下痢

長期的に見たリスク

CLLの治療は長い期間に渡るため、時間が経ってから現れるリスクにも気を付けることが必要です。

皮膚がんや、骨髄異形成症候群という別のタイプの血液の病気のリスクが高まり、また、長く免疫力が抑えられた状態が続くと、普段なら問題にならない病原体による感染症(日和見感染症)にかかりやすくなります。

長期的に気をつけるべきリスクと注意点

  • 別の種類のがん(特に皮膚がんと血液の病気)
  • 日和見感染症
  • 骨がもろくなる(骨密度低下)
  • 心臓や血管に関する合併症

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来治療の費用

外来でのCLL治療費は、薬剤費と検査費用で構成されます。

治療法月額概算費用
経過観察2万円~5万円
化学療法15万円~25万円
分子標的療法20万円~30万円

入院治療の費用

症状が重かったり集中治療が必要な際は、入院治療が必要です。

入院期間概算費用
1週間30万円~50万円
2週間50万円~80万円
1ヶ月80万円~120万円

入院費用には、病室代、治療費、薬剤費、検査費用が含まれます。

治療法別の費用比較

  • 化学療法 1クール(4週間) 約40万円~60万円
  • 免疫療法 1回の投与につき約20万円~30万円
  • 分子標的療法 1ヶ月の薬剤費約30万円~50万円

長期的な治療費の見通し

CLLは長期的な管理が必要な疾患です。

1年間の治療費を概算

治療段階年間概算費用
初期治療期300万円~500万円
維持療法期200万円~300万円
経過観察期50万円~100万円

以上

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