本態性血小板血症(ET) – 血液疾患

本態性血小板血症(ET)(essential thrombocythemia)とは、骨髄で血小板を産生する細胞が必要以上に増えてしまい、血液中の血小板の数が多くなる血液の疾患です。

血小板が過剰に作られることで血液が凝固しやすく、血栓ができやすくなります。

本態性血小板血症(ET)は長期間にわたって進行するケースが多いです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

本態性血小板血症(ET)の主な症状

本態性血小板血症(ET)の症状は、血栓、血流障害、出血傾向などです。

血栓形成に起因する症状

ETで最もよく見られる症状は、血小板数の上昇で血液粘度の上がり血栓形成を促進することです。

脳血管における血栓形成は、一過性脳虚血発作(TIA)や脳卒中のリスクを上げ、冠動脈での血栓形成は、狭心症や心筋梗塞などの重篤な症状を起こします。

血栓好発部位主要症状
脳血管眩暈、視覚障害、言語障害
冠動脈胸痛、呼吸困難、動悸
末梢血管疼痛、浮腫、皮膚変色

微小循環障害に起因する症状

ETでは微小血管に血流障害が現れ、四肢末端に疼痛、異常感覚、冷感などの症状が生じます。

特に寒冷暴露により症状が悪化し、レイノー現象として現れます。

出血傾向

出血傾向は、血小板の質的異常や極度の増加に伴うvon Willebrand因子の消費が原因です。

鼻出血、歯肉出血、点状出血などの軽い出血症状から、重度の消化管出血や頭蓋内出血などの重篤な出血まであります。

出血部位臨床症状
皮膚紫斑、点状出血
粘膜歯肉出血、鼻出血
内臓消化管出血、血尿

全身症状

ETの患者さんの一部では、全身症状が発生することがあります。

  • 全身倦怠感
  • 微熱
  • 体重減少
  • 寝汗
  • 掻痒感

症状は、進行や血小板数の増加に伴い現れます。

無症候性症例

ETの患者さんの中には無症候の症例も多く、定期的な血液検査で偶発的に発見されることもあります。

ただし、無症候であっても血栓形成のリスクがあるため、経過観察が不可欠です。

症候の有無臨床的対応
有症候例迅速な医学的介入
無症候例定期的検査と慎重な経過観察

本態性血小板血症(ET)の原因

本態性血小板血症(ET)の原因は、造血幹細胞における体細胞遺伝子の変異です。

遺伝子変異

遺伝子変異は造血幹細胞の機能を変え、血小板産生の抑える機能を壊し、本態性血小板血症(ET)を引き起こします。

ETの患者さんで高頻度に検出される遺伝子変異

遺伝子名変異頻度
JAK250-60%
CALR20-25%
MPL5-10%

血小板産生調節機構の破綻

正常な造血系では血小板産生はきっちりと制御されていますが、ETでは遺伝子変異により、調節できなくなります。

起こる異常

  • トロンボポエチン受容体の恒常的活性化
  • JAK-STAT経路の持続的亢進
  • 細胞増殖シグナルの増強
  • アポトーシス抑制機構の亢進

環境要因と二次性変異の影響

ETの発症には、一次性遺伝子変異に加え、環境要因や二次性遺伝子変異も関与しています。

環境要因二次性変異
電離放射線ASXL1
化学物質曝露TET2
慢性炎症EZH2

クローン性造血の役割

クローン性造血は、遺伝子変異を有する造血幹細胞を増やし、血液細胞の産生を促します。

クローン性造血の特徴ETとの関連性
加齢依存性増加高齢発症
変異の蓄積病態進行

ETでは、JAK2、CALR、MPLなどの変異を持つクローンが増え、血小板を過剰に作るようになります。

ただし、症状は長期にわたりゆっくりと進行するので、ETは多くの場合、中高年以降に診断されます。

診察(検査)と診断

本態性血小板血症(ET)の診断は臨床評価から始まり、血液学検査を中心に進めます。

臨床評価

ETの診断では、まず病歴、血栓や出血傾向がないか、家族歴などの情報を聞き取り、身体診察では、脾腫(脾臓の腫れ)の有無、皮膚の色の変化、末梢循環障害の徴候を評価します。

臨床評価項目評価内容
病歴聴取血栓症・出血傾向の既往、家族歴
身体診察脾腫、皮膚色調変化、末梢循環障害

血液学的検査

末梢血液検査で血小板数が45万/μL以上であることが、ETの主要な所見です。

また、末梢血塗抹標本の評価も重要で、血小板の異常な形態を観察します。

骨髄検査

ETの確定診断には、骨髄穿刺・生検が必須です。

骨髄検査では、巨核球系の増殖や形態の異常、骨髄線維化の程度などを評価し、他の疾患との鑑別にも役立ちます。

骨髄検査項目評価内容
巨核球系増殖程度、形態異常
骨髄線維化線維化の程度

分子遺伝学的検査

ETの診断の確実性を高めるために、分子遺伝学的検査が活用されています。

JAK2 V617F変異はETの約50-60%で陽性となるため、診断の有力な根拠です。

鑑別診断

ETの診断では、似たような他の骨髄増殖性腫瘍や反応性血小板増多症を除外する必要があります。

鑑別が必要な疾患

  • 真性多血症
  • 原発性骨髄線維症
  • 慢性骨髄性白血病
  • 骨髄異形成症候群
  • 反応性血小板増多症
鑑別疾患鑑別のポイント
真性多血症赤血球増加を伴う
原発性骨髄線維症進行性の骨髄線維化
慢性骨髄性白血病BCR-ABL1融合遺伝子陽性

本態性血小板血症(ET)の治療法と処方薬、治療期間

本態性血小板血症(ET)の治療は、患者さんの年齢、リスク因子、血小板数に基づいて計画し、治療の目的は血栓症を防ぐこと、血小板の数を正常な範囲に抑えることです。

リスク層別化に基づく治療

ETの治療方針は、患者さんのリスクの程度によって分けて決められます。

リスク因子は年齢(60歳以上)、過去に血栓症になったことがあるか、心臓病や脳卒中になりやすい要因があるかなどです。

リスク分類治療方針
低リスク様子を見るか、低用量アスピリンを使う
高リスク細胞を減らす薬と低用量アスピリンを組み合わせて使う

リスクが低いと判断された患者さんでは、血小板の数が極端に多くなければ、定期的に検査をして様子を見るか、低用量のアスピリンだけを使うことが多いです。

一方、リスクが高いと判断された患者さんでは、細胞を減らす薬を使い、同時に低用量のアスピリンも使います。

薬物療法の選択肢

ETの治療に使われる薬剤には、次のようなものがあります。

  • 低用量アスピリン(血小板をくっつきにくくする)
  • ヒドロキシウレア(血液細胞の数を減らす)
  • アナグレリド(血小板の数だけを減らす)
  • インターフェロンα(免疫系に働きかける)
  • ルキソリチニブ(JAKという酵素の働きを抑える)

若い患者さんや妊娠の可能性がある女性の患者さんでは、インターフェロンαが最初に選ばれることが多いです。

治療効果のモニタリングと用量調整

ETの治療がうまくいっているかどうかは、定期的な血液検査と症状の確認によって判断します。

血小板の数の目標は、40万/μL未満です。

確認する項目頻度
血液検査1-3ヶ月ごと
症状の確認3-6ヶ月ごと

治療の効果が十分でなかったり副作用が出た場合は、薬の量を調整したり、別の薬に変更したりします。

例:ヒドロキシウレアがあまり効果を示さないときは、アナグレリドやインターフェロンαに切り替えることを検討。

長期的な治療管理

ETは慢性的な病気なので、治療は一生涯続けていく必要があります。

長期的な治療管理には、定期的に医療機関を受診して、薬による治療を継続することが欠かせません。

長期管理で大切なポイント内容
定期的な評価血液検査、症状の確認
薬物療法の調整効果と副作用のバランスを取る
合併症の予防心臓病や脳卒中のリスクを管理する

治療と管理により、多くのET患者さんはほぼ正常に近い生活を送ることができますが、一部の患者さんでは骨髄線維症や急性白血病に進む危険性があるため、長期的に経過を見ていくことが大切です。

本態性血小板血症(ET)の治療における副作用やリスク

本態性血小板血症(ET)の治療薬には、多様な副作用とリスクが伴います。

低用量アスピリンの副作用とリスク

低用量アスピリンはETの血栓予防に広く使用されますが、消化器系の副作用に注意が必要です。

副作用発生率
胃腸出血1-2%
消化性潰瘍0.5-1%

重篤なアレルギー反応や出血傾向の悪化もまれに見られます。

細胞減少療法の副作用

ヒドロキシウレアはETの第一選択薬として広く使用され、副作用は用量によることが多く、定期的な血液検査と症状観察が大切です。

  • 骨髄抑制(白血球減少、貧血)
  • 皮膚粘膜症状(口内炎、皮膚潰瘍)
  • 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢)
  • 二次発癌のリスク増加(長期使用時)

アナグレリドの副作用

アナグレリドは心血管系の副作用に注意を要します。

副作用発生率
頭痛20-30%
動悸15-25%
浮腫10-15%

心疾患の既往がある患者さんでは、慎重な投与と定期的な心機能評価が必須で、重篤な不整脈や心不全の悪化も報告されています。

インターフェロンαの副作用管理

インターフェロンαは若年患者さんや妊娠可能な女性に使用され、特有の副作用があります。

初期にはインフルエンザ様症状(発熱、倦怠感、筋肉痛)が高頻度で現れ、長期使用では、甲状腺機能異常や精神神経症状(うつ状態、不安)に注意が必要です。

JAK阻害剤のリスク

ルキソリチニブなどのJAK阻害剤は新しい治療選択肢ですが、免疫抑制作用に関連する副作用があります。

感染症リスクの増加、特に帯状疱疹の再活性化が起こり、長期使用による骨髄線維症進行の可能性についても、今後の研究が待たれます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

薬物療法の費用

ETの治療ではヒドロキシウレアやアナグレリドが使用され、月額5,000円から20,000円程度です。

薬剤名月額費用(概算)
ヒドロキシウレア5,000円 – 10,000円
アナグレリド10,000円 – 20,000円

血液検査の費用

ETの経過観察には定期的な血液検査が必要で、1回あたり3,000円から5,000円です。

骨髄検査の費用

診断時や病状の変化が疑われる際に、骨髄検査を行います。

骨髄穿刺・生検の費用は、20,000円から30,000円程度です。

その他の関連費用

ETの治療に関連して、以下のような費用が発生します。

  • 血栓症予防のための抗血小板薬
  • 合併症に対する追加の治療や検査
  • 専門医への紹介状作成料
項目費用(概算)
抗血小板薬(月額)2,000円 – 5,000円
専門医紹介状作成3,000円 – 5,000円

以上

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