血友病 – 血液疾患

血友病(hemophilia)は、血液凝固に必要な特定のタンパク質が不足することで起こる遺伝性の出血性疾患です。

血友病は X染色体上の遺伝子変異に起因するため、男性に症状が現れます。

外傷を負ったときに出血が止まりづらく、皮下や筋肉内、関節内での自然出血が発生しやすいです。

軽い打撲でも大きな内出血を起こしたり、歯磨き後の歯茎からの出血が長時間続くことがあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

血友病の種類(病型)

血友病にはA型(第VIII因子欠乏症)とB型(第IX因子欠乏症)という主要な2つのタイプがあり、欠損している凝固因子の種類によって分類されます。

血友病A型

血友病A型は、血友病患者さんの約80%を占める最も多い型です。

この型では、第VIII凝固因子の量が少なすぎるか、うまく働いていません。

第VIII因子は、血液が固まる過程に必要で、足りないと深刻な出血の危険性が高くなります。

特徴詳細
原因となる因子第VIII凝固因子の不足または機能不全
発症する頻度血友病全体の約80%
遺伝の仕方X連鎖劣性遺伝(主に男性に現れやすい)

血友病B型

血友病B型はクリスマス病という名前で知られていて、血友病患者さんの約20%を占め、第IX凝固因子の量が少なかったりうまく働いていません。

第IX因子も血液が固まる過程で欠かせない役割をしているので、足りないと出血しやすくなります。

特徴詳細
原因となる因子第IX凝固因子の不足または機能不全
発症する頻度血友病全体の約20%
遺伝の仕方X連鎖劣性遺伝(主に男性に現れやすい)

血友病の主な症状

血友病の主な症状は、軽度から重度まで幅広い内出血や出血です。

血友病患者さんに共通して見られる症状

血友病の患者さんに共通して見られる症状は、出血が止まりにくいことです。

ちょっとした打撲でも皮膚の下に大きな内出血(あざ)ができたり、歯磨き後の歯ぐきからの出血がなかなか止まりません。

また、手術後の出血が長引くことも、血友病の典型的な症状です。

血液中の凝固因子が不足しているために、血液が固まりにくくなっていることが原因で起こります。

血友病A型と血友病B型

血友病A型とB型では欠乏している凝固因子の種類が異なるため、現れやすい症状にも若干の違いがあります。

血友病の型欠乏している凝固因子よく見られる症状
A型第VIII因子関節の中での出血、筋肉の中での出血
B型第IX因子皮膚や粘膜などの軟らかい組織での出血、鼻血

血友病A型の患者さんでは関節内出血や筋肉内出血が多く見られ、血友病B型の患者さんは、皮膚や粘膜などの軟らかい組織での出血や、鼻血が頻繁に起こりやすいです。

出血の種類

血友病の患者さんに見られる出血には、いくつかの種類があります。

  • 皮下出血:打撲などで皮膚の下に血液がたまり、大きなあざができる状態。
  • 関節内出血:膝や肘などの関節の中で出血が起こり、痛みや腫れを伴い、繰り返し起こると関節の変形につながる。
  • 筋肉内出血:筋肉の中で出血が起こり、腫れや痛み、さらには運動障害を起こす。
  • 粘膜出血:鼻、口の中、胃腸の粘膜で起こる出血で、鼻血や歯ぐきからの出血、血尿として現れる。

重症度による分類

血友病の症状の重症度は、血液中の凝固因子の活性レベル(正常な人を100%とした場合の割合)によって、以下のように分類されます。

重症度凝固因子の活性レベル見られる症状
重症1%未満外傷がなくても自然に出血が頻繁に発生
中等症1%~5%軽い打撲や切り傷でも出血が起こりやすい
軽症5%~40%大きなケガや手術をしたときに出血が起こりやすい

重症の患者さんは外傷がなくても自然出血が頻繁に発生し、中等症の患者さんは軽い打撲や切り傷でも予想以上に出血が起こりやすいです。

軽症の患者さんは普段の生活ではあまり問題が生じませんが、大きなケガや手術をしたときに出血のリスクが高まります。

日常生活に与える影響

血友病の症状は、患者さんの日常生活にさまざまな形で影響を及ぼします。

関節内出血が繰り返し起こると、関節の変形や動きが悪くなる機能障害につながる可能性があります。

また、頭を打ったときに頭蓋内出血のリスクがあるため、ラグビーやボクシングなどの激しい接触を伴うスポーツは控えてください。

日常生活の場面血友病による影響や注意点
運動・スポーツ激しい接触を伴う活動を控える必要がある
医療処置出血を防ぐための特別な準備や対応が必要
旅行緊急時の医療機関の確認や薬の携帯が重要

血友病の原因

血友病は血液凝固に必須の凝固因子の欠乏、または機能不全が原因の遺伝性疾患です。

遺伝子変異

血友病の発症は、X染色体上の特定の遺伝子に生じる変異によって起こります。

遺伝子が変異することで、血液凝固に不可欠な因子の産生が阻害されたり、機能が低下したりします。

血友病A型とB型では、異なる遺伝子の変異が原因です。

血友病の型関連遺伝子影響を受ける凝固因子
A型F8遺伝子第VIII因子
B型F9遺伝子第IX因子

X連鎖劣性遺伝

血友病はX連鎖劣性遺伝形式をとります。 X連鎖劣性遺伝形式では、女性は保因者となり、男性が発症する確率が高くなります。

女性は2本のX染色体を有するため、1本のX染色体に変異があっても、もう1本の正常なX染色体によって代償されるものの、男性はX染色体を1本のみ保有するため、変異があると発症しやすいのです。

凝固因子欠乏と血友病

血友病の原因となる凝固因子の欠乏は、以下のような機序で生じます。

  • 遺伝子変異による凝固因子の産生量低下
  • 凝固因子の構造異常による機能不全
  • 凝固因子に対する自己抗体の産生
凝固因子活性血友病の重症度
1%未満重症
1-5%中等症
5-40%軽症

後天性血友病の特殊性

まれなケースとして、遺伝性ではない後天性血友病があります。

成人期以降に見られ、自己免疫疾患や悪性腫瘍、妊娠などが誘因です。

後天性血友病は体内で凝固因子に対する自己抗体が産生され、凝固因子の機能を阻害することで発症します。

診察(検査)と診断

血友病の診断は、患者さんの症状や家族の病歴を聞ことから始まり、血液検査を行って確定診断をくだします。

臨床診断

血友病の臨床診断では、患者さんが経験している症状と、家族の中に同じような症状の人がいるかが、重要な手がかりです。

出血がどのくらいの頻度でどのぐらい起こるか、体のどの部分で出血が起きやすいかを質問します。

その際、関節内出血や筋肉内出血が起きていないか、小さな怪我でも予想以上に出血が多くないかに注目します。

また、血友病は遺伝性疾患なので、家族の中に出血が止まりにくい人がいないかを聞くことも、診断を進めるうえで大切な要素です。

臨床診断で注目するポイント確認すること
症状の詳しい確認出血の頻度、程度、起こりやすい場所
家族の病歴を聞く血縁者に出血が止まりにくい人がいないか

血液検査

臨床診断で血友病の可能性が考えられた場合、血液検査を行います。

まず最初にスクリーニング検査として、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を行います。この検査は、血液が固まるまでの時間を測るものです。

APTTの結果、血液が固まるまでの時間が通常より長いときは、さらに凝固因子の量を測定します。

血友病A型では第VIII因子(8因子)の量を、B型では第IX因子(9因子)の量を測ることに。

検査の種類目的
APTT血液の固まり方に異常がないかを大まかに調べる
凝固因子の量の測定血友病の型(AかB)と、どのくらい重症かを判断する

遺伝子検査

遺伝子検査は診断を確実なものにするだけでなく、家族の中に血友病の保因者がいないかを調べるために役立ちます。

診断を難しくする要因

血友病の診断には、いくつか注意が必要な点があります。

  • 症状が軽いと、普段の生活では問題が現れにくく、気づかれにくい。
  • 新生児ではおへその出血や頭中での出血に気をつける。
  • 女性でも保因者の中には、軽い症状が出ることがある。
  • 後天性血友病との見分けも。

診断が確定した後の定期的な検査

血友病と診断された後は、定期的に検査や状態の確認を行います。

凝固因子の量を定期的に測ったり関節の状態を調べたり、また、インヒビター(体内で作られる、治療に使う凝固因子の働きを邪魔する物質)ができていないかにも注意が必要です。

定期的に行う検査や確認頻度
凝固因子の量を測る3-6ヶ月に1回
関節の状態を確認する年に1回
インヒビターの検査定期的に実施

血友病の治療法と処方薬、治療期間

血友病の治療の中心は、欠乏している凝固因子を補充する療法です。

凝固因子補充療法

凝固因子補充療法は、患者さんの体内で不足している凝固因子を静脈内投与することで、出血リスクを減らします。

補充療法

  • オンデマンド療法:出血発生時に凝固因子を投与
  • 定期補充療法:予防的に定期的な凝固因子投与を実施
療法の種類特徴
オンデマンド療法出血時のみ投与、急性期対応
定期補充療法予防的定期投与、出血予防と関節症進行抑制に有効

凝固因子製剤の種類

血友病治療に用いられる凝固因子製剤は、製造方法や特性により複数の種類があります。

  • 血漿由来製剤:ヒト血漿から抽出・精製された凝固因子
  • 遺伝子組換え製剤:遺伝子工学技術を用いて作製された凝固因子
  • 半減期延長型製剤:体内での滞留時間を延長させた新世代の製剤

投与頻度

血友病は慢性疾患で、生涯にわたる継続的な治療が必要です。

治療方針投与頻度
定期補充療法週2〜3回
オンデマンド療法出血発生時

定期補充療法では週2〜3回凝固因子を投与し、オンデマンド療法では出血時のみの投与です。

新しい治療法

血友病治療の分野では、従来の補充療法に代わる革新的な治療法の研究が進んでいます。

  • 遺伝子治療:体内で持続的に凝固因子を産生させる
  • バイスペシフィック抗体:凝固因子の機能を模倣する抗体製剤
  • RNA干渉療法:凝固阻害因子の産生を抑制する新しいアプローチ

血友病の治療における副作用やリスク

血友病の治療は生活の質を大幅に向上させますが、同時に副作用やリスクを伴います。

凝固因子製剤による副作用

血友病の主要な治療法である凝固因子補充療法では、いくつかの副作用が生じます。

最も頻度が高いのはアレルギー反応で、発熱、悪寒、蕁麻疹が現れ、ときには重度のアレルギー反応(アナフィラキシー)も報告されています。

副作用症状
軽度のアレルギー反応発熱、悪寒、蕁麻疹
重度のアレルギー反応呼吸困難、血圧低下

インヒビターの発生

血友病治療での最も重大な合併症の一つが、インヒビター(凝固因子に対する抗体)の発生です。

インヒビターは投与された凝固因子の効果を低下させ、治療を困難にし、重症の血友病A患者で発生リスクが高くなっています。

血栓塞栓症のリスク

凝固因子製剤の使用により深部静脈血栓症や肺塞栓症のリスクが上昇し、高用量投与や長期使用時に注意が必要です。

高齢患者や他のリスク因子がある患者さんでは、より慎重な管理が求められます。

リスク因子管理上の注意点
高齢凝固因子製剤の投与量調整
肥満適切な体重管理
長期臥床早期離床、運動療法の実施

感染症のリスク

現在の凝固因子製剤は安全性が高いですが、感染症のリスクを完全には排除できません。

血漿由来製剤使用時はウイルス感染のリスクがあり、HIV、B型肝炎、C型肝炎などの感染症の報告がありましたが、現在は厳格な製造管理と検査体制により、リスクは低減されています。

副作用・リスクの管理と対策

血友病治療における副作用やリスクを最小限に抑えるため、対策を取ることが重要です。

  • 定期的な医療機関での検査と評価
  • インヒビター検査の実施
  • 凝固因子製剤の適切な選択と投与量の調整
  • 患者自身による症状の観察と報告
  • 感染予防策の徹底

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

凝固因子製剤の費用

血友病治療の中心となる凝固因子製剤は、高額です。

製剤種類1回あたりの費用
血漿由来5-10万円
遺伝子組換え10-20万円

重症患者さんは週2-3回の定期投与が必要となるため、月額で100万円以上の費用がかかります。

年間治療費の試算

年間の治療費は患者さんの重症度や治療方法によります。

重症度年間治療費の目安
軽症100-500万円
中等症500-1000万円
重症1000-3000万円以上

以上

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