IgA血管炎(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病) – 血液疾患

IgA血管炎(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)(IgA vasculitis)とは、体の中にある小さな血管に炎症が生じる疾患のことです。

典型的な症状として皮膚に紫色の発疹が現れたり、関節に痛みを感じたり、腹部が痛くなったりします。

正確な原因は完全に解明されていませんが、感染症などが発症のきっかけとなることが多いです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

IgA血管炎(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)の主な症状

IgA血管炎(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)の症状は、皮膚、関節、消化器、腎臓に現れます。

皮膚症状

IgA血管炎の最も特徴的な症状は、皮膚に現れる赤紫色の紫斑(しはん)です。

下肢や臀部に集中して現れますが、上肢や体幹部にも拡大することがあります。

紫斑は左右対称に見られ、圧迫しても退色しません。

また、発疹に伴って掻痒感や疼痛を感じる患者さんもいます。

紫斑の特徴説明
赤紫色
主な部位下肢、臀部
性質圧迫しても退色しない
分布左右対称

関節症状

関節痛や関節腫脹は、IgA血管炎の患者さんに多く見られます。

膝関節や足関節などの大関節に症状が現れやすく関節可動域が制限されますが、関節症状は一過性のものが多いです。

消化器症状

IgA血管炎では腹痛も見られ、血管炎による腸管血流障害によって起きます。

また、悪心や嘔吐、下痢、便秘、消化管出血が生じ、血便や吐血することも。

消化器症状の例

  • 腹痛
  • 悪心・嘔吐
  • 下痢・便秘
  • 消化管出血(まれ)

腎症状

腎症状は、IgA血管炎の中でも注意を要する症状で、腎糸球体に炎症が生じることで、血尿や蛋白尿が生じます。

一部の患者さんでは遷延化し、腎機能に影響を及ぼすことがあるので注意が必要です。

腎症状特徴
血尿尿中に血液が混入する
蛋白尿尿中に蛋白質が混入する

その他の症状

主要症状以外にも、発熱や全身倦怠感、頭痛などの全身症状、また、稀精巣腫脹や精巣痛が現れます。

10歳の男児患者さんが、突発的な激烈な腹痛と両足関節腫脹を主訴に来院されたことがあります。

診察時、両下肢に特徴的な紫斑が認められ、血液検査でIgAの上昇が確認されたため、IgA血管炎と診断しました。

消化器症状と関節症状が先行し、その後皮膚症状が現れるという経過をたどった症例です。

症状の種類特徴
皮膚症状紫斑(赤紫色の発疹)
関節症状疼痛や腫脹(主に膝関節や足関節)
消化器症状腹痛、悪心、嘔吐など
腎症状血尿、蛋白尿

IgA血管炎(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)の原因

IgA血管炎(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)の発症には免疫系の異常反応が関与しています。

免疫系の異常反応

IgA血管炎の発症メカニズムの中心には、免疫系の過剰反応があります。

通常、免疫グロブリンAは体内の粘膜を守る大切な役割を果たしていますが、免疫グロブリンAが血管壁に沈着すると、炎症反応が起きてしまうのです。

炎症反応により血管が損傷を受け、いろいろな臓器に影響が及びます。

環境因子の影響

環境因子もIgA血管炎の発症に関与しています。

環境因子と影響

環境因子影響
感染症上気道感染がきっかけになることがある
アレルギー食物アレルギーが関連する場合がある
薬剤特定の薬剤が誘因となることがある

特に上気道感染症が、IgA血管炎の発症前に見られることが多いです。

遺伝的要因

遺伝子の型(遺伝子多型)がIgA血管炎のリスクを高めます。

IgA血管炎と関連が示唆されている遺伝子

  • HLA-DRB1(免疫応答に関与する遺伝子)
  • CTLA-4(免疫反応を抑制する遺伝子)
  • IL-1β(炎症を引き起こす物質の遺伝子)
  • TNF-α(炎症を促進する物質の遺伝子)

免疫複合体の形成

IgA血管炎の発生では、免疫複合体(抗体と抗原が結合したもの)の形成が関係しています。

免疫複合体の構成要素役割
IgA主要な抗体成分として働く
補体免疫反応を増強する
抗原免疫反応のきっかけとなる

結合して形成された免疫複合体が血管壁に沈着することで炎症反応が起き、この過程で、好中球(白血球の一種)やリンパ球(免疫細胞の一種)などの炎症細胞が集まり、血管壁の損傷が進行します。

複合的な要因の相互作用

IgA血管炎の原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症に至ります。

要因影響
免疫系の異常IgAの異常な沈着を起こす
環境因子免疫反応のトリガーとなる
遺伝的素因発症リスクを高める
免疫複合体血管炎を引き起こす

診察(検査)と診断

IgA血管炎(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)の診断は、問診や身体診察、そしていろいろな検査を組み合わせて行われます。

問診と身体診察

診断の最初のステップは、問診と全身の診察です。

患者さんの症状がどのように経過してきたか、本人と家族の病歴について、お聞きします。

体の診察では、紫色の発疹(紫斑)がないか、分布はどうか、関節が腫れていたり押すと痛みがないか、お腹を押すと痛みがないかなどを、確認していきます。

血液検査

血液検査は、IgA血管炎の診断において中心となる検査です。

通常の血液検査に加えて、体の炎症の程度を調べる検査や免疫系に関する検査も行われます。

血液中のIgAという物質が増えていることが、IgA血管炎の所見の一つです。

検査項目目的
血清IgAIgAが増えているかを確認
CRP体の炎症の程度を調べる
血算貧血や血小板の数を確認
腎機能腎臓への影響を調べる

尿検査

尿検査は、腎臓の健康度を調べるのに大切な検査です。

血尿、蛋白尿を確認し、ときには24時間分の尿をためてより詳しく検査をします。

画像検査

次に、超音波検査やCTスキャンなどの画像検査で、腹部の様子や腎臓の状態を調べます。

超音波検査では、腸の壁が厚くなっていないか、腹部に水がたまっていないか確認することが可能です。

CTスキャンは、臓器をより詳しく調べるときに使います。

生検

皮膚の生検では、血管の炎症を確認し、腎臓の生検は、腎臓の症状が強かったり診断が難しいときに行います。

採取した組織を顕微鏡で調べ、IgAがたまっていとことが診断の決め手です。

IgA血管炎の確定診断に用いられる検査

  • 血液検査(血清IgA値、炎症を示す物質の量など)
  • 尿検査(血尿、蛋白尿の有無)
  • 画像検査(腹部の超音波検査、CTスキャン)
  • 組織生検(皮膚や腎臓の一部を採取して調べる)

診断基準

IgA血管炎の診断には、世界中で認められている基準を使います。

症状や検査結果に点数をつけて、その合計が一定の点数を超えたら診断が確定するという仕組みです。

診断項目点数
紫斑2点
腹痛1点
組織生検1点
IgA沈着1点

6歳の女児の患者さんが全身に紫色の発疹が出て、お腹も痛いと訴えて病院に来られました。

血液検査でIgAが増えていて、尿検査で少量のタンパク質が混じり、さらに、皮膚の一部を採取して調べたところIgAがたまっているのが確認できたので、IgA血管炎だと確定診断しました。

診断のステップ内容
1. 問診症状の経過や病歴を聞く
2. 身体診察発疹や関節の腫れを確認
3. 血液・尿検査IgAの量や腎機能を調べる
4. 画像検査必要に応じて内臓を観察
5. 生検組織を採取して詳しく調べる

IgA血管炎(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)の治療法と処方薬、治療期間

IgA血管炎の治療は、症状を緩和する治療が中心になりますが、症状が重い時には免疫抑制剤を使うこともあります。

症状を緩和する治療

軽度から中度の症状のIgA血管炎の患者さんには、症状を緩和する治療が行われます。

治療の目的は、患者さんの痛みや不快感を減らし、普段の生活をより快適に過ごせるようにすることです。

症状治療
関節の痛み痛みや炎症を抑える薬(非ステロイド性抗炎症薬という種類の薬です)
皮膚のかゆみかゆみを抑える薬(抗ヒスタミン薬という種類の薬です)
むくみ休んで患部を高くする

多くの場合、2〜3週間程度で症状がよくなっていきます。

ステロイド治療

中度から重度の症状のIgA血管炎の患者さんには、ステロイド薬を使います。

ステロイドは体の中の炎症を強く抑える力を持つ薬で、血管の炎症が悪化するのを防ぎます。

  • プレドニゾロン(飲み薬)
  • メチルプレドニゾロン(点滴で使う薬)
  • デキサメタゾン(飲み薬または点滴で使う薬)

最初に多めの量から始めて、症状がよくなるにつれて少しずつ量を減らしていきます。

免疫抑制剤

症状がかなり重度だったり、ステロイドを使っても思うように症状がよくならない場合は、免疫抑制剤の使用を考慮します。

免疫抑制剤は体の免疫反応が必要以上に強くなるのを抑えることで、血管の炎症が進むのを止めます。

免疫の働きを抑える薬特徴
シクロホスファミド免疫の働きを強く抑える
アザチオプリン免疫の働きをやや穏やかに抑える
ミコフェノール酸モフェチル腎臓の働きを守る効果もある

使用期間は、数か月から1年以上です。

血漿交換療法

普通の薬による治療ではうまくいかない患者さんに対しては、患者さんの血液から、病気の原因となっている物質を取り除く血漿交換療法を行うことがあります。

ただし、短い期間で大きな効果が期待できますが、体への負担が大きいです。

治療は数日間続けて行い、その後の経過を見ながら再度行うかどうかを決めます。

治療の種類特徴
対症療法症状を和らげる
ステロイド療法炎症を強く抑える
免疫抑制剤免疫反応を抑える
血漿交換療法血液から有害物質を除去

治療にかかる期間

症状が軽い方は2〜3週間程度でよくなり、症状が重い方や、何度も症状を繰り返す患者さんでは、数か月から1年以上治療が続きます。

IgA血管炎(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)の治療における副作用やリスク

IgA血管炎の治療では、ステロイド薬や免疫抑制剤が使用されますが、副作用やリスクがあります。

ステロイド薬の副作用

ステロイド薬は短期間の使用でも、食欲亢進、体重増加、不眠、気分の変動が現れます。

長期使用では、骨粗鬆症、高血圧、糖尿病、白内障の発症リスクが上昇。また、免疫機能が低下し、感染症に対する抵抗力が弱くなります。

副作用発現時期
食欲亢進短期使用
骨粗鬆症長期使用
感染リスク上昇短期・長期使用

免疫抑制剤のリスク

重症例や再発を繰り返す患者さん投与される免疫抑制剤は、免疫機能を抑制する作用があるため、感染症のリスクが高まります。

また、長期使用により臓器障害や二次的な悪性腫瘍の発生リスクが上昇するので経過観察が欠かせません。

消化器系への影響

ステロイド薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、消化器系に悪影響があります。

胃潰瘍、消化管出血、悪心などの症状が現れるリスクがあるので、胃粘膜保護剤の併用を検討します。

薬剤の種類消化器系への影響
ステロイド薬胃潰瘍、消化管出血
NSAIDs胃潰瘍、悪心

成長への影響

小児患者さんでは、ステロイド薬の長期使用による成長抑制が懸念されます。

骨の成長や骨密度に影響を与えることがあるため、最小限の使用にとどめ、定期的な身長・体重測定が重要です。

腎機能への影響

ステロイド薬や免疫抑制剤を使うことで一時的に腎機能が低下することがあり、定期的な尿検査や血液検査を通じて、腎機能を慎重にモニタリングします。

腎機能モニタリングの項目

  • 尿蛋白量
  • 血清クレアチニン値
  • 推算糸球体濾過量(eGFR)
  • 尿中赤血球数

薬物相互作用

IgA血管炎の治療に用いる薬剤と、他の疾患で使用中の薬剤との相互作用に注意が必要です。

抗凝固薬や抗血小板薬との併用では出血リスクが上昇します。

また、免疫抑制状態下での生ワクチン接種は避けてください。

注意が必要な併用薬理由
抗凝固薬・抗血小板薬出血リスク上昇
生ワクチン感染リスク上昇

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来治療の費用

軽症から中等症のIgA血管炎では、外来で治療を受けます。

項目概算費用(3割負担の場合)
非ステロイド性抗炎症薬500〜1,500円/月
ステロイド薬1,000〜3,000円/月
血液検査1,500〜3,000円/回

入院治療の費用

重症例や合併症がある方は入院治療が必要です。

入院日数概算費用(3割負担の場合)
1週間70,000〜100,000円
2週間140,000〜200,000円
1ヶ月280,000〜400,000円

費用には、入院基本料、食事療養費、薬剤費、検査費用が含まれます。

免疫抑制療法の費用

重症例や難治性の場合、免疫抑制剤を使用します。

免疫抑制剤の費用

  • シクロホスファミド 約5,000〜10,000円/月
  • アザチオプリン 約3,000〜6,000円/月
  • ミコフェノール酸モフェチル 約15,000〜30,000円/月

以上

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