免疫性血小板減少症(ITP) – 血液疾患

免疫性血小板減少症(ITP)(immune thrombocytopenia)とは、体を守るはずの免疫システムが、自分自身の血小板を標的にして攻撃してしまう血液の病気です。

血小板は傷ついた血管を修復する重要な役割がありますが、ITPでは数が極端に少なくなっています。

体のあちこちで出血が起きやすくなり、皮膚や粘膜に紫色のあざや小さな赤い点のような出血斑が現れます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

免疫性血小板減少症(ITP)の種類(病型)

免疫性血小板減少症(ITP)は、症状の持続期間や発症パターンに基づいて急性型と慢性型の2つの主要な病型に分類されます。

急性型ITP

急性型ITPは、小児に見られる病型です。

症状が突然現れ、3か月以内に自然寛解することが特徴的です。

多くの場合、ウイルス感染後に発症します。

年齢層発症頻度
2-5歳最多
10代中程度
成人比較的稀

慢性型ITPの特徴

慢性型ITPは、症状が6か月以上持続する病型です。

成人に多く見られ、中年以降の女性に多い傾向があります。

慢性型ITPが自然寛解することは少なく、長期的な管理が必要です。

  • 症状の増悪と寛解を繰り返す
  • 血小板数の変動が顕著
  • 感染症や他の自己免疫疾患との関連性が指摘

病型の移行と経過観察

急性型と診断された患者さんの中には、時間の経過とともに慢性型へ移行するケースがあるため、初期診断後も定期的な血液検査と経過観察が必要です。

病型別の特徴

特徴急性型ITP慢性型ITP
好発年齢小児期成人期(中年以降)
性差ほぼ同等女性に多い
持続期間3か月未満6か月以上
自然寛解多いまれ

免疫性血小板減少症(ITP)の主な症状

免疫性血小板減少症(ITP)は、自己抗体が血小板や巨核球を攻撃することで血小板数が著しく減少し、さまざまな出血症状を起こします。

急性ITPの症状

急性ITPはウイルス感染後に2~3週間で発症し、数週間から数ヶ月で自然寛解することがほとんどです。

急性ITPでよく見られる症状

  • 点状出血(皮膚や粘膜に現れる1~2mm程度の赤色斑点)
  • 紫斑(皮膚の紫色のあざ)
  • 鼻出血(特に10分以上止血困難な場合)
  • 口腔内出血(歯肉出血や口腔粘膜の水疱形成)
  • 月経過多(思春期女子の場合)

症状は、血小板数が50,000/μL以下になると顕著になり、20,000/μL未満では重度の出血リスクが高まるため、注意深い経過観察が必須です。

慢性ITPの症状

慢性ITPは症状の進行がゆっくりで、初期段階では気づかれにくいです。

慢性ITPの主要症状

症状特徴
点状出血四肢遠位部や体幹に多発
紫斑直径2cm以上の大型のものも出現
粘膜出血口腔内、鼻腔内、消化管など
網状皮斑下肢に好発する網目状の皮下出血
疲労感慢性的な出血による貧血に起因

血小板数と症状

ITPの重症度は血小板数によって判断されますが、臨床症状との相関は必ずしも一致しません。

血小板数と観察される症状

血小板数 (/μL)臨床症状
50,000-100,000多くの場合無症状。外傷時に出血延長の可能性あり
30,000-50,000軽度の紫斑や点状出血。月経過多の可能性
10,000-30,000明らかな紫斑、粘膜出血。軽度の外傷で出血リスク増大
10,000未満重度の皮膚粘膜出血。自然出血や臓器出血のリスク顕著

血小板数が10,000/μL未満の重症例では、脳出血などの重篤な内臓出血のリスクが高まるため、緊急の医療介入が不可欠です。

見逃されやすい非典型的症状

ITPの症状の中には、一見して血液疾患と結びつきにくいものもあります。

  • 慢性疲労:持続的な軽度出血による鉄欠乏性貧血の結果として現れる
  • 関節痛:免疫複合体の沈着による関節症状を呈する
  • 不明熱:自己免疫反応の一環として、微熱が持続する

15歳の女子高校生が2ヶ月間続く微熱と全身倦怠感を主訴に来院し、精査の結果、慢性ITPと診断されたケースがありました。

この症例では、皮膚粘膜出血は軽微でしたが、血小板数は8,000/μLと明らかに低下していました。

免疫性血小板減少症(ITP)の原因

免疫性血小板減少症(ITP)は自己免疫疾患の一つで、患者さんの免疫系が自身の血小板を標的とし攻撃することで血小板数の減少を起こし、遺伝的素因、環境因子、免疫系の調節異常が絡み合っています。

自己抗体の産生

ITPの主たる原因は、血小板に対する自己抗体の産生です。

自己抗体は血小板表面の糖タンパク質を認識し、血小板の破壊を促進します。

自己抗体産生には、T細胞とB細胞の異常な相互作用が関与していると考えられています。

自己抗体の種類標的となる糖タンパク質
抗GPIIb/IIIa抗体GPIIb/IIIa複合体
抗GPIb/IX抗体GPIb/IX複合体

遺伝的素因

HLA(ヒト白血球抗原)も、ITPの発症リスク増加と関連しています。

ただし、ITPは単一の遺伝子異常によって起きるのではなく、複数の遺伝子が相互作用している疾患です。

関係している遺伝子

  • HLA-DRB1*04:05
  • HLA-DQB1*04:01
  • FcγRIIa遺伝子多型

環境因子と感染

ウイルス感染や細菌感染が、ITPの発症トリガーとなることがあります。

感染により免疫系が活性化され、その過程で血小板に対する自己抗体が産生されるのです。

関連する感染症種類
ヘリコバクター・ピロリ細菌
HIVウイルス
C型肝炎ウイルスウイルス

感染症以外にも関与している可能性がある環境因子は、ストレスや環境中の化学物質への暴露です。

免疫調節機構の異常

通常、免疫系には自己に対する寛容を維持するメカニズムがありますが、ITPではこの機構に不具合が生じ、制御性T細胞(Treg)の機能不全や、サイトカインバランスの崩れが起こります。

免疫調節因子ITPにおける異常
制御性T細胞数の減少または機能低下
IL-10産生低下
IFN-γ産生増加

免疫調節機構の異常により自己反応性T細胞やB細胞の活性化が抑制されず、自己抗体の産生が促進されるます。

診察(検査)と診断

免疫性血小板減少症(ITP)の診断は、問診や身体診察、血液検査、さらに他の病気との鑑別のための検査を組み合わせて行われます。

問診と身体診察

問診では、出血の症状がいつ頃から始まったか、どのくらい続いているか、どの程度の出血か、体のどの部分で出血が起きているのかを確認します。

また、家族の中に同じような症状の人がいないか、今までにかかった病気はないか、普段飲んでいる薬、最近かかった感染症を聞くことも大切です。

身体診察では、点状出血、紫斑、粘膜出血(口の中や鼻の中での出血)を調べます。

血液検査

ITPを診断するために必要な血液検査項目

検査項目目的
血小板数ITPかどうかを判断する重要な指標
末梢血塗抹標本血小板の形の異常や、採血時に起こる見かけ上の血小板減少(偽性血小板減少症)がないかの確認
凝固系検査他の出血を起こしやすい病気がないかの確認
血液型・不規則抗体輸血が必要になった時のための準備

血小板数が1マイクロリットルあたり100,000個未満であることがITPの診断基準となりますが、50,000個未満になって初めて診断されることが多いです。

末梢血塗抹標本では血小板の大きさや形を顕微鏡で観察し、大きな血小板(巨大血小板)がないかを確認します。

また、凝固系検査(血液が固まるまでの時間を測る)が正常範囲内であることも、ITPの診断を支持するのに重要です。

骨髄検査

骨髄検査は、ITPの確定診断や他の血液の病気を除外するために行われることがあります。

骨髄検査で調べる項目

  • 巨核球(血小板を作る細胞)の数と形
  • 赤芽球系細胞(赤血球のもとになる細胞)の形
  • 顆粒球系細胞(白血球の一種)の形
  • 異常な細胞がないか

ITPでは巨核球の数は正常か増えていることが多く、他の種類の血液細胞には異常が見られません。

しかし、高齢の方や治療に反応しにくい場合には、骨髄異形成症候群(MDS、血液細胞の異常を特徴とする病気)との鑑別が必要です。

免疫学的検査

他の病気が原因で起こっているITP(二次性ITP)を見分けるために、免疫学的検査を行うことがあります。

検査項目目的
抗核抗体膠原病(自己免疫疾患の一種)に関連したITPがないかの確認
抗カルジオリピン抗体抗リン脂質抗体症候群(血栓症を起こしやすい病気)の確認
H. pylori 感染検査ヘリコバクター・ピロリ菌関連のITPの診断
HIV抗体HIV(エイズウイルス)関連のITPの診断

鑑別診断

ITPを診断する際には、他の血小板減少を起こす病気との鑑別が大事です。

鑑別すべき病気

  • 薬剤性血小板減少症(薬の副作用で起こる血小板減少)
  • 播種性血管内凝固症候群(DIC、体の中の血管で血液が固まってしまう病気)
  • 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP、小さな血栓が全身にできる病気)
  • 溶血性尿毒症症候群(HUS、赤血球が壊れて腎臓に障害が起こる病気)
  • 骨髄異形成症候群(MDS、血液細胞の異常を特徴とする病気)
  • 再生不良性貧血(骨髄で血液細胞が作られなくなる病気)

免疫性血小板減少症(ITP)の治療法と処方薬、治療期間

免疫性血小板減少症(ITP)の治療法には、経過観察、薬物療法、脾臓摘出術があります。

経過観察

血小板数が安定しており出血傾向が顕著でない軽症のITPでは、積極的な治療介入を行わず経過観察を選択します。

定期的な血液検査と診察を通じてモニタリングし、経過観察期間は、3〜6ヶ月程度です。

薬物療法

ITPの主要な治療法は薬物療法で、第一選択薬はステロイド剤です。

薬剤名投与経路
プレドニゾロン経口
デキサメタゾン経口または静脈内投与

ステロイド治療は2〜4週間で、その後漸減していきます。

ステロイド治療に抵抗性を示す場合や再発例では、免疫抑制剤や新規薬剤を考慮します。

  • リツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)
  • エルトロンボパグ(トロンボポエチン受容体作動薬)
  • ロミプロスチム(トロンボポエチン受容体作動薬)

脾臓摘出術

薬物療法に抵抗性を示す慢性ITP患者さんでは、脾臓摘出術を検討します。

脾臓は血小板破壊の主要部位で、摘出により血小板数の増加が期待できます。

手術は腹腔鏡下で実施され、入院期間は約1週間です。

新規治療法

近年、ITPの病態生理の解明が進み、新たな治療アプローチが開発されています。

治療法作用機序
フォスタマチニブSyk阻害剤
アバタセプトT細胞共刺激シグナル阻害

免疫性血小板減少症(ITP)の治療における副作用やリスク

免疫性血小板減少症(ITP)の治療薬である副腎皮質ステロイド、免疫グロブリン、免疫抑制剤、TPO受容体作動薬(血小板を増やす薬)は、それぞれ特有の副作用があります。

副腎皮質ステロイド療法の副作用

副腎皮質ステロイド療法は、さまざまな副作用が知られていて、短期間の使用でも現れることがあります。

  • 眠れなくなる
  • 食欲が増す
  • 気分が変わりやすくなる
  • 血糖値が高くなる
  • 胃や十二指腸に潰瘍ができる

長期間使用すると、より深刻な問題が起きるので注意が必要です。

副作用特徴
骨粗鬆症骨がもろくなり、骨折しやすくなる
糖尿病血糖値が高くなりやすくなる
感染症にかかりやすくなる体の抵抗力が弱くなるため
白内障目のレンズが濁り、だんだん見えにくくなる
大腿骨頭壊死太ももの付け根の骨が壊れ、歩くのが難しくなる

副作用は、使う量が多いほど、また長く使うほど起こりやすくなります。

免疫グロブリン療法のリスク

免疫グロブリン療法は、急に症状が悪化したITPや重症の場合に効果的ですが、リスクがあります。

  • アナフィラキシーショック(重いアレルギー反応)
  • 無菌性髄膜炎(脳の周りの膜に炎症が起こる)
  • 血栓塞栓症(血管の中に血の塊ができて詰まる)
  • 腎臓の働きが悪くなる
  • 赤血球が壊れて貧血になる

免疫抑制剤の副作用

リツキシマブやシクロスポリンなどの免疫抑制剤は、長期間症状を抑える治療法ですが、いくつかの副作用があります。

薬剤副作用
リツキシマブ感染症にかかりやすくなる、点滴時の反応(発熱や寒気など)
シクロスポリン腎臓の働きが悪くなる、血圧が高くなる、神経に悪影響
アザチオプリン血液を作る働きが弱くなる、肝臓の働きが悪くなる、がんになるリスクが高まる

TPO受容体作動薬の副作用

エルトロンボパグやロミプロスチムなどのTPO受容体作動薬は、比較的新しい治療選択肢で、以下のような副作用に注意が必要です。

  • 肝臓の働きが悪くなる
  • 血管の中に血の塊ができて詰まる(血栓塞栓症)
  • 骨髄に線維(繊維状のもの)がたまる
  • 網膜(目の奥にある光を感じる部分)に色素がたまる
  • 薬を止めると急に血小板が減る

脾臓摘出術のリスクと長期的影響

脾臓摘出術は、薬による治療が効かないITPの患者さんに考えられる治療法ですが、以下のようなリスクがあります。

  • 手術に伴う合併症(出血、感染)
  • 重症感染症(overwhelming post-splenectomy infection, OPSI)
  • 血栓ができやすくなる
  • 肺の血圧が高くなる

OPSIは命に関わる重い感染症で、一生涯にわたって感染を予防する必要があります。

45歳の女性のITP患者さんが脾臓摘出術の5年後に重い肺炎を起こし、OPSIと診断された例がありました。

早い段階で抗生物質による治療を始めたため回復しましたが、この症例は脾臓を摘出した後の感染リスクがいかに重大かを示しています。

治療法リスク
副腎皮質ステロイド骨粗鬆症、糖尿病、感染症リスク増加
免疫グロブリンアナフィラキシー、血栓塞栓症
免疫抑制剤感染症リスク増加、臓器障害
TPO受容体作動薬血栓塞栓症、肝機能障害
脾臓摘出術重症感染症(OPSI)、血栓症リスク増加

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

薬物療法の費用

薬剤費用の目安

治療法概算月額費用
副腎皮質ステロイド数千円~1万円
免疫抑制剤5万円~10万円
TPO受容体作動薬20万円~30万円

入院治療の費用

重症のITPや、薬物療法の効果が不十分な場合には入院治療が必要です。

入院費用は1日あたり2万円から3万円程度で、長期入院の場合、総額で数十万円から数百万円に及ぶことがあります。

手術療法の費用

薬物療法に反応しないときは、脾臓摘出術を選択することがあります。

手術費用はおおよそ50万円から100万円です。

術後の管理や合併症対策の費用も考慮する必要があります。

以上

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