多発性骨髄腫 – 血液疾患

多発性骨髄腫(multiple myeloma)とは、血液細胞を作り出す骨髄にある形質細胞という白血球が異常に増殖する病気です。

異常な形質細胞が骨髄内で制御不能に増え、健康な血液細胞の生成を阻害します。

同時に、異常細胞は骨を溶解する物質を放出するため、患者さんは激しい骨の痛みを経験し、骨折のリスクが著しく上昇することに。

加えて、異常な形質細胞は大量の異常タンパク質(M蛋白)を産生するため、腎臓をはじめさまざまな臓器に悪影響を与えます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

多発性骨髄腫の種類(病型)

多発性骨髄腫病型は、骨融解、骨髄機能低下、M蛋白血症です。

骨融解型

骨融解型多発性骨髄腫は、骨組織が破壊される病型です。

異常なプラズマ細胞(血液細胞の一種)が骨を溶かす物質を必要以上に作り出し、骨組織を壊していきます。

骨融解型の特徴患者さんへの影響
骨組織が溶解する骨の痛みの原因になる
パンチアウト像病気を発見する手がかりに

骨髄機能低下型

骨髄機能低下型は、異常なプラズマ細胞が骨髄の中で過剰に増殖することで、血液細胞を産生する機能が阻害される病型です。

赤血球、白血球、血小板といった血液細胞の産生が抑制されます。

血液検査を行うと、汎血球減少や異常なプラズマ細胞の増加が観察されます。

M蛋白血症型

M蛋白血症型は、異常なプラズマ細胞が単クローン性免疫グロブリンを作る病型です。

この型では、血清中のM蛋白濃度が上昇し、M蛋白の種類や量は疾患の進行度や予後と密接に関連しています。

M蛋白の種類頻度
IgG(アイジージー)型約50%
IgA(アイジーエー)型約20%
軽鎖型約20%

M蛋白血症型の対応では、定期的に血清蛋白電気泳動検査を行い、M蛋白の量を正確に測定することが欠かせません。

多発性骨髄腫の主な症状

多発性骨髄腫は、骨融解、骨髄機能低下、M蛋白血症のそれぞれの病態によって出る症状が異なります。

骨融解がもたらす身体への影響

多発性骨髄腫では、骨が破壊されることで骨融解が進行し、以下のような症状が出ます。

  • 骨の痛み(特に背中、腰、肋骨などの部位)
  • 骨折のリスク上昇
  • 身長の減少
  • 姿勢の変化

60代の男性患者さんは腰痛を主な訴えとして来院され、問診で最近になって身長が2cm縮んだことが分かり、精密検査の結果、多発性骨髄腫による脊椎の圧迫骨折が発見されました。

骨の異常は多発性骨髄腫の重要なサインです。

骨髄機能低下が引き起こす体調の変化

多発性骨髄腫では、正常な造血機能が妨げられいろいろな症状が現れます。

症状原因となる血球減少
貧血赤血球減少
感染しやすい状態白血球減少
出血しやすい傾向血小板減少
  • 貧血 疲れやすさや息切れ、めまいなどの症状が生じる。
  • 感染しやすい状態 風邪のような症状や発熱を繰り返す。
  • 出血しやすい傾向 皮下出血や歯茎からの出血。

M蛋白血症による体内環境の変化

多発性骨髄腫ではM蛋白の増加により、さまざまな症状が起きます。

症状関連する合併症
腎臓の機能障害腎不全
血中カルシウム濃度の上昇意識の障害、不整脈
血液の粘度が高くなる症候群血液循環の障害、視力の障害
  • 腎臓の機能障害 むくみや体のだるさ、食欲が落ちる
  • 血中カルシウム濃度の上昇 吐き気や便秘、尿の量が増える
  • 血液の粘度が高くなる症候群 頭痛やめまい、視力の低下

症状経過の多様性

多発性骨髄腫は初期の段階では明確な症状がなく、定期的な健康診断で偶然発見されるケースもあれば、急速に症状が進行し、早めの対応が必要となる場合もあります。

受診すべき症状

症状関連する可能性のある病態
長引く骨の痛み骨融解
原因がはっきりしない貧血骨髄機能の低下
繰り返し起こる感染症免疫機能の低下
腎臓の機能が悪化M蛋白血症

多発性骨髄腫の原因

多発性骨髄腫の原因は、遺伝子変異、環境からの影響、免疫システムの乱れなどの要素が関係しています。

遺伝子レベルでの影響

遺伝子に変異が起きたり、染色体に異常が生じたりすることで、骨髄腫が発症するリスクが上がります。

家族の中に骨髄腫の患者さんがいると、その方の血縁者も発症リスクが高いです。

ただし、遺伝性が強い病気ではなく、遺伝子の変化だけで必ず発症するわけではありません。

遺伝的な要素発症リスクへの影響
特定の遺伝子変異リスクが高まる
家族歴わずかにリスク上昇

環境の影響

環境因子も、多発性骨髄腫の発症に関わっている可能性があります。

化学物質や放射線にさらされることは、リスクを高める要因です。

農薬や除草剤、有機溶剤などの化学物質に長い間接触し続けることで、発症のリスクが上昇することが指摘されています。

また、放射線を扱う仕事に従事している方の中で、骨髄腫の発症率が高いことも報告されています。

環境要因骨髄腫との関連性
化学物質への接触中程度の関連性
放射線の影響強い関連性

免疫システムの乱れと長引く炎症

免疫システムの乱れや長期間続く炎症も、多発性骨髄腫の発症に関わっています。

骨髄腫の細胞は、本来なら抗体を作る正常な形質細胞が悪性化したものです。

免疫システムのバランスが崩れることが、悪性化の過程に関与しているのではないかと考えられています。

また、体の中で炎症が長く続くと遺伝子に傷がつきやすくなったり、細胞が異常に増えやすくなり、骨髄腫が発症するリスクが上がります。

発症に関係する要因

  • 自己免疫疾患にかかったことがある
  • 長期間にわたる感染症にかかったことがある
  • 炎症を伴う病気が長く続いている
  • ストレスによって免疫機能が低下している

年齢や人種による違い

多発性骨髄腫の発症リスクは、年齢や人種によっても異なることが分かっています。

年齢が高くなるほど発症のリスクが高まり、50歳を過ぎると急に増加し、また、人種による違いも報告されています。

アフリカ系アメリカ人の方は、白人の方と比べて発症率が高いです。

年齢層発症リスク
50歳より若い低い
50歳から70歳中程度
70歳以上高い

診察(検査)と診断

多発性骨髄腫の診断は、複数の検査結果と臨床所見を総合的に評価して行われます。

初期評価と血液検査

多発性骨髄腫の診断は、問診と全身診察から開始され、患者さんの主訴や既往歴、家族歴を聴取し、全身状態を評価します。

初期段階で実施される主要な血液検査

検査項目目的
全血球計算貧血や血小板減少の評価
血清蛋白電気泳動M蛋白の検出と定量
免疫固定法M蛋白の型別同定
血清遊離軽鎖検査軽鎖型骨髄腫の評価

画像診断

骨病変の評価は、多発性骨髄腫の診断において不可欠です。

画像診断法

  • 全身骨X線検査
  • 全身低線量CT検査
  • 全脊椎および骨盤MRI検査
  • FDG-PET/CT検査

検査を組み合わせることで、骨融解病変や病的骨折の有無、病変の広がりを評価することが可能です。

70代の女性患者さんの症例では、腰痛を主訴に来院された際、全身骨X線検査で多発性の骨融解病変が疑われました。

その後のFDG-PET/CT検査により、全身骨に多発する異常な集積が確認され、多発性骨髄腫の診断に至りました。

骨髄検査

骨髄検査は多発性骨髄腫の確定診断において必須の検査で、通常、2つの検査を併用して実施します。

検査名目的
骨髄穿刺骨髄液中の形質細胞比率の評価
骨髄生検骨髄組織の構造や細胞分布の評価

骨髄中の単クローン性形質細胞が10%以上を占めると、多発性骨髄腫の診断基準の一つを満たします。

また、骨髄検査では染色体検査や FISH 法による遺伝子検査も併せて行うことが、予後の予測や治療方針の決定に有用です。

臨床診断と確定診断

多発性骨髄腫の診断は、国際骨髄腫ワーキンググループ(IMWG)の診断基準に基づいて行われ、確定診断には以下の条件を満たす必要があります。

  1. 骨髄中の単クローン性形質細胞が10%以上、または生検で形質細胞腫が確認される
  2. 以下のいずれかの 症状がある
    ・高カルシウム血症(血清カルシウム値 >11mg/dL)
    ・腎機能障害(クレアチニンクリアランス <40mL/分 または 血清クレアチニン >2mg/dL)
    ・貧血(ヘモグロビン値が基準値より 2g/dL 以上低下 または <10g/dL) ・骨病変(X線、CT、PET-CTのいずれかで1個以上の骨病変)
  3. M蛋白が血清または尿中に検出される(IgG型 ≥3g/dL、IgA型 ≥2g/dL、尿中 BJP ≥500mg/24時間)

多発性骨髄腫の治療法と処方薬、治療期間

多発性骨髄腫に対しては、化学療法、分子標的薬、免疫調節薬、造血幹細胞移植があり、組み合わせることで効果的な治療を目指します。

化学療法

化学療法は多発性骨髄腫の治療において、最も基本となる方法です。

メルファラン、シクロホスファミド、ドキソルビシンなどの抗がん剤を使い骨髄腫細胞(がん化した形質細胞)の増殖を抑え、破壊します。

薬剤は単独で使うこともありますが、より高い効果を得るために複数の薬を組み合わせて使うことが多いです。

薬の名前作用
メルファランDNAどうしをくっつける
シクロホスファミドDNAが作られるのを邪魔する
ドキソルビシンDNAの間に入り込む、特定の酵素の働きを止める

化学療法は3〜4週間を1セットとして、何回か繰り返す形で行われます。

分子標的薬

分子標的薬は、骨髄腫細胞に効果的に作用する薬です。

代表的なものにプロテアソーム阻害薬があり、ボルテゾミブやカルフィルゾミブが使われています。

骨髄腫細胞の中にあるタンパク質を分解するシステムの働きを止めることで、がん細胞が増えるのを抑えます。

分子標的薬の利点は、化学療法と比べて、正常な細胞にあまり影響を与えずに済むことです。

薬の名前標的分子
ボルテゾミブ26Sプロテアソーム(細胞内のタンパク質分解装置)
カルフィルゾミブ20Sプロテアソーム(細胞内のタンパク質分解装置の中心部分)

分子標的薬は単独で使われることもありますが、他の薬併用することも多いです。

免疫調節薬

免疫調節薬は、患者さん自身の免疫システムを活発にさせることで、骨髄腫細胞を攻撃する薬です。

よく使われるのは、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミドで、骨髄腫細胞が増えるのを直接抑えるだけでなく、免疫細胞の働きを強めることで間接的にも効果を発揮します。

免疫調節薬は、他の薬と一緒に使うとより効果的です。

長期間使い続けられるので、病状が落ち着いた後の維持療法としても使用されます。

造血幹細胞移植

造血幹細胞移植は、高い量の化学療法を行った後に造血幹細胞(血液細胞のもとになる細胞)を体に戻すことで、より強い治療効果を得る方法です。

自分の細胞を使う自家移植と、他人の細胞を使う同種移植があり、多発性骨髄腫の場合は自家移植が行われます。

65歳より若い患者さんが対象になることが多いですが、体の状態が良ければ65歳以上でも検討します。

造血幹細胞移植の大まかな流れ

  1. 造血幹細胞を体から取り出す
  2. 高い量の化学療法を行う
  3. 取り出しておいた造血幹細胞を体に戻す
  4. 血液を作る機能が回復するのを待つ
  5. その後も長期的に経過を見守る

移植後は骨髄の機能が回復するのを待ちながら、感染症を防ぐ治療が行われます。

治療期間

多発性骨髄腫の最初の治療は3〜6か月ほど行われ、その後も病状を維持するための治療や定期的な検査が長期にわたって続きます。

寛解しても再び悪化する可能性があるため、継続的に管理していくことが重要です。

治療の段階期間
最初の治療3〜6か月ほど
維持のための治療数年〜場合によっては一生涯
定期的な検査一生涯

多発性骨髄腫の治療における副作用やリスク

多発性骨髄腫の治療は高い効果が期待できる一方で、いろいろな副作用やリスクを伴う可能性があります。

化学療法に関連する副作用

化学療法は多発性骨髄腫治療の中核を成しますが、同時に多様な副作用があります。

化学療法の副作用

  • 骨髄抑制(白血球減少、貧血、血小板減少)
  • 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢)
  • 脱毛
  • 末梢神経障害
副作用対応策
骨髄抑制G-CSF製剤の投与、輸血療法
消化器症状制吐剤の予防的投与、補液管理
末梢神経障害薬剤の減量または休薬、神経保護薬の併用

免疫調節薬のリスク

免疫調節薬には特有のリスクがあり、重大なリスクの一つが血栓塞栓症です。

リスク因子予防策
高齢抗凝固薬の予防的投与
既往歴定期的な凝固系検査
長期臥床早期離床の推奨

また、催奇形性のリスクも報告されています。

プロテアソーム阻害薬の副作用

プロテアソーム阻害薬は有効な治療薬ですが、副作用が報告されています。

  • 末梢神経障害
  • 心血管系有害事象
  • 帯状疱疹の再活性化

症状の程度に応じて、薬剤の減量や投与間隔の調整が考慮されます。

造血幹細胞移植に関連するリスク

自家造血幹細胞移植は若年者や全身状態が良好な患者さんにとって有効な治療選択肢ですが、重大なリスクも伴います。

  • 感染症
  • 出血性合併症
  • 臓器障害

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

化学療法の治療費

化学療法のサイクルあたりの費用は、外来で約20万円から50万円、入院の場合は約50万円から100万円です。

分子標的薬と免疫調節薬の治療費

分子標的薬や免疫調節薬は効果が高い一方で、従来の化学療法薬と比べて高価です。

薬剤名1ヶ月あたりの概算費用
ボルテゾミブ80万円〜120万円
レナリドミド70万円〜100万円

造血幹細胞移植の治療費

造血幹細胞移植も、高額な治療法です。

自家移植の場合総額で500万円から800万円程度かかり、同種移植は1000万円を超えることもあります。

以上

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