非Hodgkinリンパ腫 – 血液疾患

非Hodgkinリンパ腫(non-Hodgkin lymphoma)とは、リンパ系の細胞が異常増殖を起こし、血液のがんとして発症する疾患です。

この病気ではリンパ節の腫大が観察されますが、他の臓器にも影響を及ぼすことがあります。

非Hodgkinリンパ腫には複数のサブタイプがあり、それぞれ特有の性質と進行速度を有しています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

非Hodgkinリンパ腫の種類(病型)

非ホジキンリンパ腫は低悪性度群、中悪性度群、高悪性度群の3つに大別されます。

低悪性度群の特徴と代表的な病型

低悪性度群のリンパ腫は、ゆっくりと進行する性質を持っています。

初期段階では無症状であることが多く、偶然の検査で発見されることもあります。

この群に属する代表的な病型は、濾胞性リンパ腫(リンパ節の濾胞構造を模倣して増殖する型)や小リンパ球性リンパ腫(小型のリンパ球が増殖する型)です。

病型特徴
濾胞性リンパ腫リンパ節の濾胞構造を模倣して増殖
小リンパ球性リンパ腫小型のリンパ球が増殖

中悪性度群の特徴と代表的な病型

中悪性度群は、低悪性度群と高悪性度群の中間に位置し、進行速度や予後も両者の間に位置します。

病型は、マントル細胞リンパ腫(リンパ節のマントル層に由来するB細胞が腫瘍化した型)や末梢性T細胞リンパ腫(成熟T細胞由来のリンパ腫で、多様な亜型が存在する型)などです。

高悪性度群の特徴と代表的な病型

高悪性度群のリンパ腫は急速に進行し、早期の診断と治療開始が極めて重要です。

代表的な病型には、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(最も頻度の高い非ホジキンリンパ腫)やバーキットリンパ腫(極めて増殖速度が速い型)などがあります。

病型特徴
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫最も頻度の高い非ホジキンリンパ腫
バーキットリンパ腫極めて増殖速度が速い

非Hodgkinリンパ腫の主な症状

非Hodgkinリンパ腫の症状が多岐にわたり、悪性度に応じて異なる臨床像を示します。

低悪性度群の臨床症状

低悪性度群の非Hodgkinリンパ腫は緩徐な進行を特徴とし、初期段階では明確な症候が現れないことが多いです。

疾患の進行に伴い顕在化する症状

  • リンパ節腫脹(頸部、腋窩、鼠径部に好発)
  • 原因不明の発熱
  • 寝汗(夜間の異常発汗)
  • 体重減少
  • 倦怠感
症状特徴
リンパ節腫脹多くの場合、無痛性
発熱38度以上の間欠的な発熱が持続
体重減少6ヶ月で10%以上の減少もまれではない

中悪性度群の臨床症状

中悪性度群の非Hodgkinリンパ腫では、低悪性度群と比較して症状がより顕著に現れます。

この群では上記の症状に加え、いくつかの症候が観察されます。

  • 持続的な疲労感
  • 食欲不振
  • 呼吸困難(縦隔リンパ節腫大による)
  • 腹部不快感(腹腔内リンパ節腫大による)
症状発現頻度特徴
疲労感70%日常生活に支障を来すレベル
食欲不振50%体重減少を伴うことが多い
呼吸困難30%軽度の労作でも息切れを呈する

高悪性度群の臨床症状

高悪性度群の非Hodgkinリンパ腫は最も急速な進行を示し、症状も急激に出ることが特徴です。

現れる重篤な症状

  • 高熱(40度以上)
  • 急激な体重減少
  • 重度の倦怠感
  • 出血傾向(皮下出血、鼻出血など)
  • 感染症の併発

高悪性度群では症状の進行が速いため、迅速な診断と対応が不可欠です。

全身症状(B症状)

非Hodgkinリンパ腫では全身症状(B症状)が観察され、次の3つが代表的です。

  • 原因不明の発熱(38度以上)
  • 寝汗
  • 6ヶ月間で10%以上の体重減少

B症状の有無は、疾患の進行度や予後を評価するうえで重要な指標となります。

B症状発現頻度臨床的意義
発熱40%疾患活動性の指標
寝汗35%代謝亢進の反映
体重減少30%全身状態悪化の指標

非Hodgkinリンパ腫の原因

非ホジキンリンパ腫の原因は遺伝子変異、環境要因、免疫系の異常などの要素が絡み合って発症に至ります。

遺伝子変異

非ホジキンリンパ腫の発症には、遺伝子変異が深く関与していることが判明しています。

代表的な遺伝子変異は、細胞の生存や増殖を制御するうえ重要な役割を担っている、BCL2(アポトーシスを抑制する遺伝子)やMYC(細胞増殖を促進する遺伝子)です。

遺伝子機能
BCL2アポトーシス抑制
MYC細胞増殖促進

遺伝子変異は先天的に存在することも後天的に獲得されることもあり、環境要因や偶発的な事象によって、健康な細胞に遺伝子変異が生じる可能性もあります。

環境要因

環境要因も非ホジキンリンパ腫の発症に関わっています。

化学物質への長期曝露や、放射線被ばくなどが危険因子で、また、ウイルス感染も非ホジキンリンパ腫のリスクを上昇させる要因です。

エプスタイン・バーウイルス(EBV)やヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)などが発症と関連することが報告されています。

環境要因リスク
化学物質曝露中程度
放射線被ばく
ウイルス感染中〜高

免疫系の異常

免疫系の機能低下や異常も、非ホジキンリンパ腫の発症リスクを上げる原因です。

免疫系は、体内の異常な細胞を識別し排除しますが、機能が低下したり過剰に活性化すると、監視システムが正常に機能しなくなります。

非ホジキンリンパ腫の発症リスクが高まる状態

  • HIV感染症
  • 自己免疫疾患
  • 臓器移植後の免疫抑制療法

年齢

加齢に伴い非ホジキンリンパ腫の発症リスクが上がり、これは、細胞の修復能力の低下や、長年の環境要因への曝露の累積効果などが要因です。

年齢層相対リスク
20-40歳
41-60歳
61歳以上

診察(検査)と診断

非Hodgkinリンパ腫の診断は、初期の臨床診断から最終的な確定診断に至るまで、いろいろな検査と評価が必要です。

初期診察と臨床診断

非Hodgkinリンパ腫の診断は、問診と身体診察から始まり、患者さんの症状、過去の病歴、家族の病歴を聴き取り、リンパ節の腫れや他の関連する症状がないかを確認します。

身体診察では、リンパ節を触って調べることが重要です。首、脇の下、足の付け根などの主要なリンパ節がある部位を丁寧に調べます。

診察項目観察点
問診症状がどれくらい続いているか、B症状(発熱、寝汗、体重減少)はないか
身体診察リンパ節の腫れ、肝臓や脾臓の腫れ、皮膚に異常はないか

血液検査と画像診断

臨床診断の次の段階として、血液検査と画像を使った診断が行われます。

リンパ腫の活動性や体全体の状態を評価するため血液検査で調べるのは、血球の数、体の状態を示す数値、LDH(乳酸脱水素酵素)の値です。

画像診断では、CT、MRI、PET-CTが用いられ、病気の広がり具合や病変の性質を観察します。

血液検査の項目

  • 血球の数(赤血球、白血球、血小板)
  • 体の状態を示す数値(LDH、肝臓や腎臓の働きを示す値)
  • 血清中のタンパク質の状態
  • IL-2受容体という物質の量

生検と病理診断

非Hodgkinリンパ腫を確実に診断するには、リンパ節や病気の疑われる部位の組織を採取する生検が欠かせません。

生検で得られた組織は、がん細胞の形や特徴、特殊な染色を施したときの反応から、リンパ腫の種類が決定されます。

検査方法目的
生検病気の疑われる組織を採取すること
病理診断組織の種類を決定し、どれくらい悪性度が高いかを評価すること

骨髄検査

リンパ腫が骨髄にまで広がっていないかを確認するため、骨髄穿刺や骨髄生検が行われることもあります。

非Hodgkinリンパ腫の治療法と処方薬、治療期間

非ホジキンリンパ腫の治療には、化学療法、放射線療法、免疫療法、そして標的治療など、さまざまなアプローチがあります。

化学療法

非ホジキンリンパ腫の治療は化学療法が中心で、複数の抗がん剤を組み合わせることでより効果的に腫瘍細胞を攻撃し、よく採用されるのが、R-CHOP療法です。

この治療法では、リツキシマブ(抗CD20抗体という種類の薬)、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾンという5種類の薬剤を組み合わせて投与します。

薬剤名主な作用
リツキシマブB細胞を標的
シクロホスファミドDNA合成阻害

R-CHOP療法は週間を1サイクルとして、6〜8サイクル実施し、標準的な治療期間は約4〜6ヶ月です。

放射線療法

放射線療法は、がんが体の限られた部分にとどまっている場合(限局期)の非ホジキンリンパ腫や、化学療法を行った後に残った病変に対して効果を発揮します。

高エネルギーのX線を腫瘍に照射することで、がん細胞を破壊し、治療期間は5〜7週間程度です。

多くの場合、1日1回、週5日の頻度で放射線を照射します。

放射線療法は単独で実施されることもありますが、化学療法と併用されることが多いです。

免疫療法

免疫療法は、患者さん自身の免疫系を活性化させて、がん細胞を攻撃する治療法です。

非ホジキンリンパ腫の治療ではモノクローナル抗体が広く適用され、化学療法と併用します。

免疫療法薬標的
リツキシマブCD20
オビヌツズマブCD20

免疫療法の治療期間は、併用する化学療法のスケジュールに準じて決定し、再発を防ぐために長期間継続されることもあります。

分子標的治療

分子標的薬は、がん細胞に特有の分子を狙い撃ちする薬剤です。

非ホジキンリンパ腫の治療では、BTK阻害剤やBCL-2阻害剤などが処方されます。

  • イブルチニブ(BTK阻害剤)
  • ベネトクラクス(BCL-2阻害剤)
  • レナリドミド(免疫調節薬)

分子標的薬は、再発したり治療が効きにくい非ホジキンリンパ腫に対して選択されます。

標的治療は、病状が落ち着くまで継続して行われることが多いです。

治療期間と経過観察

初回治療では標準的に4〜6ヶ月を要し、再発を防ぐための維持療法や、再発時の治療を含めると、さらに長期に及びます。

非Hodgkinリンパ腫の治療における副作用やリスク

非Hodgkinリンパ腫の治療は、患者さんの生存率を改善する一方で、多様な副作用やリスクがあります。

化学療法に関連する副作用

化学療法は非Hodgkinリンパ腫治療の中心的な役割を果たしますが、同時に多くの副作用を起こします。

よく見られる副作用は、骨髄抑制(血液を作る機能が低下すること)、消化器症状、脱毛です。

副作用頻度対処
骨髄抑制高い頻度G-CSF(白血球を増やす薬)の投与、輸血
消化器症状中程度の頻度吐き気止めの薬、お腹の調子を整える薬
脱毛高い頻度かつらの使用

骨髄抑制は、感染しやすくなったり出血しやすくなるため、定期的に血液検査を行い必要に応じて支援的な治療を行うことが重要です。

放射線療法の副作用

放射線療法は局所的なリンパ腫の制御に効果がありますが、放射線を当てる部位によって副作用が生じます。

皮膚の炎症や粘膜の炎症は早い段階で現れ、皮膚のケアや口の中のケアが欠かせません。

長期的には、別の場所にがんができるリスクも考慮する必要があります。

免疫療法に伴うリスク

免疫療法は、従来の治療法と比べて副作用が少ないとされていますが、特有のリスクがあります。

  • 点滴中や点滴直後に起こる反応(インフュージョンリアクション)
  • B型肝炎が再び活発になる
  • 脳の白質部分に多発する進行性の病気(進行性多巣性白質脳症、PML)

リツキシマブなどの抗CD20抗体療法では、B型肝炎ウイルスが再び活発になることに注意が必要です。

造血幹細胞移植に関連するリスク

自分の細胞を使う自家移植や、他人の細胞を使う同種移植をリスクの高い患者さんに対して行うことがありますが、深刻な合併症のリスクを伴います。

合併症頻度重症度
感染症高い頻度中程度~高い
GVHD(移植片対宿主病)中程度の頻度(同種移植のみ)中程度~高い
VOD(肝中心静脈閉塞症)低い頻度高い

移植後に免疫機能が回復するまでには時間がかかるため、長期にわたる感染症の管理が大事です。

晩期合併症と経過観察

非Hodgkinリンパ腫の治療後、時間が経ってから現れる合併症が問題となることがあります。

別の場所にがんができる、心臓や血管の病気、ホルモンのバランスが崩れることが知られており、定期的に健康診断を受け、長期的に経過を見ていくことが大切です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来化学療法の費用

外来での化学療法は、入院治療と比べて費用を抑えられる利点があります。

R-CHOP療法の場合、1クール(3週間)あたりの費用は約30万円から50万円です。

薬剤名概算費用(1回あたり)
リツキシマブ15万円~25万円
シクロホスファミド5千円~1万円
ドキソルビシン1万円~2万円

入院治療の費用

病状により入院が必要な場合、費用は大幅に増加します。

入院期間は2週間から4週間で、1回の入院で100万円から200万円程度です。

放射線治療の費用

放射線治療を併用すると、追加の費用が発生します。

  • 1回の照射あたり 約1万円~2万円
  • 20~30回の照射を行うため、総額で20万円~60万円程度

造血幹細胞移植の費用

高リスク群の患者さんに対して行われる造血幹細胞移植は、最も高額な治療法の一つです。

移植の種類概算費用
自家移植300万円~500万円
同種移植800万円~1200万円

以上

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