von Willebrand症(VWD) – 血液疾患

von Willebrand症(VWD)(von Willebrand disease)とは、血液凝固に不可欠なvon Willebrand因子に異常が生じる遺伝性の出血性疾患です。

出血が止まるのに通常よりも長い時間を要したり、傷口からの出血が持続したりします。

軽微な場合は日常生活でほとんど気づかないこともありますが、重症例では日々の活動に大きな影響を及ぼします。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

von Willebrand症(VWD)の種類(病型)

von Willebrand症(VWD)はvon Willebrand因子(vWF)の量的または質的異常に基づき、3つの主要な病型に分類されます。

タイプ1 VWD

タイプ1 VWDは、全VWD症例の約75%を占める最も一般的な病型です。

この型では、vWFの量的減少が見られ、血漿中vWF濃度は正常の50%未満に低下しています。

タイプ1の患者さんは軽度から中等度の出血症状であることが多く、粘膜出血や外傷後の過剰出血が観察されます。

特徴詳細
発生頻度全VWD症例の約75%
vWF異常量的減少(正常の50%未満)
臨床症状軽度~中等度の粘膜出血、外傷後出血

タイプ2 VWD

タイプ2 VWDは、vWFの質的異常を特徴とし、さらに4つのサブタイプ(2A、2B、2M、2N)に分類されます。

各サブタイプは、vWFの特定の機能ドメインに影響を与える遺伝子変異によって起き、それぞれ独特の病態を示します。

  • 2A:高分子量vWFマルチマーの選択的減少
  • 2B:血小板GPIbαに対するvWFの親和性亢進
  • 2M:vWFの血小板または膠原線維との相互作用障害
  • 2N:vWFの第VIII因子結合能低下

タイプ3 VWD

タイプ3 VWDは最も重症な病型であり、全VWD症例の1%未満でvWFがほぼ完全に欠損しています。

重度の粘膜出血や関節内出血などの重篤な出血症状が現れ、時に生命を脅かす出血を起こします。

特徴タイプ1タイプ2タイプ3
vWF異常量的減少質的異常ほぼ完全欠損
臨床症状軽度~中等度サブタイプにより多様重度
発生頻度高頻度中等度極めて低頻度

von Willebrand症(VWD)の主な症状

von Willebrand症(VWD)の症状は、皮膚粘膜出血、外傷後や手術後の過剰出血、女性における月経過多などです。

VWDの一般的な症状

VWD患者に共通して見られる主な症状は以下の通りです。

  • 皮膚の挫傷や切創からの持続的出血
  • 頻発する鼻出血と止血困難
  • 歯肉出血
  • 外科的処置後の遷延性出血
  • 女性患者さんにおける月経過多や産後出血

VWDのタイプ別症状

VWDは主に3つのタイプに分類され、各タイプで症状が異なります。

タイプ病態生理臨床症状
タイプ1von Willebrand因子の部分的量的減少軽度から中等度の出血症状
タイプ2von Willebrand因子の質的異常中等度から重度の出血症状
タイプ3von Willebrand因子の完全欠損重度の出血症状

タイプ別の臨床像

タイプ1では、軽度の皮膚粘膜出血や手術後の過剰出血が観察されます。

タイプ2は、タイプ1と比較してよりはっきりとした出血傾向を示し、粘膜出血(鼻出血、歯肉出血など)が顕著です。

サブタイプ臨床所見
2A大型マルチマー欠損による止血栓形成障害
2B血小板減少を伴う出血傾向
2M血小板粘着能低下による出血
2N第VIII因子結合能低下による出血

タイプ3では、幼少期から重度の出血症状が現れ、自然出血(関節内血腫や筋肉内血腫)や生命を脅かす重篤な出血が発生する可能性が高くなります。

VWDの症状が日常生活に与える影響

VWDの症状は患者さんの日常生活に多大な影響を及ぼし、軽微な外傷でも大きな皮下血腫を形成したり、日常的な口腔ケアで止血困難な歯肉の出血を経験します。

女性患者さんでは、月経過多による鉄欠乏性貧血や日常活動の制限が必要なことも。

日常生活への影響臨床的考慮事項
外傷時の過剰出血止血処置の迅速な実施
歯科処置後の遷延性出血事前の止血対策立案
女性の月経過多貧血管理と婦人科的介入
運動時の関節内出血リスク運動指導と予防策

von Willebrand症(VWD)の原因

von Willebrand症(VWD)は、遺伝子の変異によるvon Willebrand因子の量的減少または質的異常が原因です。

VWDの遺伝形式

VWDの遺伝形式は、病型によって異なります。

タイプ1とタイプ2の大半は常染色体優性遺伝で、タイプ3は常染色体劣性遺伝形式を取ります。

病型遺伝形式特徴
タイプ1常染色体優性浸透率が不完全
タイプ2主に常染色体優性サブタイプにより異なる
タイプ3常染色体劣性両親がキャリア

遺伝子変異の種類と分子病態

vWF遺伝子における変異は、ミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異、スプライシング変異など、多岐にわたります。

変異は、vWFタンパク質の産生量、構造、機能、または細胞内輸送に影響を与えることも。

  • ミスセンス変異:アミノ酸置換によるタンパク質構造の変化
  • ナンセンス変異:早期終止コドンの出現によるタンパク質の短縮
  • フレームシフト変異:読み枠のずれによる異常タンパク質の産生
  • スプライシング変異:mRNAの異常スプライシングによる機能異常

分子メカニズムと病態生理

VWDの分子メカニズムは、vWFの産生、分泌、機能の各段階で異常を起こします。

タイプ1VWDで見られるのはvWFの産生量の減少で、タイプ2VWDでは機能ドメインに影響を与える変異です。

タイプ3VWDでは、vWFの完全欠損または著しい減少が生じます。

分子メカニズム影響関連する病型
産生量減少vWF量の低下タイプ1
構造異常機能ドメインの障害タイプ2
完全欠損vWFの欠如タイプ3

環境因子と遺伝子発現

VWDの表現型や重症度には遺伝的要因に加えて、ストレス、ホルモン変動、加齢などの環境因子も関与しています。

診察(検査)と診断

von Willebrand症(VWD)の診断は、病歴の聴取、身体診察、臨床検査、および分子生物学的解析を通じて行われます。

臨床評価

VWDの診断は、問診と身体診察から開始します。

問診で注目する点

  • 粘膜出血(鼻出血、歯肉出血)の頻度と重症度
  • 手術や抜歯後の異常出血の既往
  • 女性患者さんの月経過多や分娩後出血の有無
  • 家族歴における類似症状の存在

身体診察では、皮膚の紫斑、関節腫脹、その他の出血徴候を注意深く観察します。

スクリーニング検査

臨床評価に続いて、凝固検査を含むスクリーニング検査を実施します。

検査項目臨床的意義
血小板数血小板減少の除外
PT/APTT凝固カスケードの全体的評価
出血時間一次止血機能の評価
PFA-100von Willebrand因子依存性の血小板機能評価

検査結果はVWDの存在を示唆する指標となりますが、確定診断にはさらなる精密検査が必要です。

特殊検査

VWDの確定診断には、von Willebrand因子に関する特殊検査が不可欠です。

検査項目測定対象
VWF抗原量(VWF:Ag)von Willebrand因子の定量
VWF活性(VWF:RCo)von Willebrand因子の機能評価
第VIII因子活性凝固第VIII因子の定量
VWFマルチマー解析von Willebrand因子の分子構造評価

分子生物学的解析

複雑な症例や遺伝的背景の解明には分子生物学的解析が行われ、VWF遺伝子の変異解析は、タイプ2とタイプ3 VWDの診断に有用です。

von Willebrand症(VWD)の治療法と処方薬、治療期間

von Willebrand症(VWD)の治療法には、デスモプレシン(体内にあるvon Willebrand因子を放出させる薬)の投与、von Willebrand因子(vWF)の補充療法、出血を止める薬の使用があります。

デスモプレシン療法

デスモプレシンは、タイプ1VWDと一部のタイプ2VWDの患者さんに効果がある治療法です。

この薬は、体の中に蓄えられているvWFを血液中に放出させ、一時的にvWFの濃度を上げる働きをします。

投与経路良い点気をつけるべき点
点滴すぐに効果が出る注射が必要
皮下注射自分で打てる効果が出るまで時間がかかる
鼻スプレー痛くない吸収にばらつきがある

デスモプレシンの効果は4~6時間続き、軽度から中度の出血の時に使われます。

vWF補充療法

タイプ3VWDや重いタイプ2VWD、またはデスモプレシンが効かない患者さんには、vWF成分を直接補う治療が行われます。

用いられる薬剤は、vWFと血液凝固第VIII因子の両方を含む薬と、vWFだけの薬です。

止血剤の併用

トラネキサム酸は血液が固まるのを防ぎ、単独で使われることもありますが、多くの場合デスモプレシンやvWF補充療法と併用します。

トラネキサム酸は、粘膜からの出血を止めるのに効果があります。

長期管理と予防的治療

症状の重い患者さんでは、定期的にvWFを補充する予防的な治療を考慮します。

突然の出血を防いだり、関節に障害が起きるなどの長期的な問題が生じるリスクを減らすことが目標です。

治療法適している人頻度
出血時のみ症状が軽い~中程度の人出血があった時だけ
時々予防症状が中程度~重い人週に1~3回
続けて予防症状が重い人毎日~1日おき

特殊な状況での治療

手術や体に負担のかかる検査を受ける時には特別な準備が必要で、妊娠中や出産時のVWD患者さんのケアも重要です。

  • 手術前のvWF濃度チェック
  • 目標とするvWF濃度の設定
  • 手術の前後でのvWF補充計画
  • 手術後の出血がないかの確認

von Willebrand症(VWD)の治療における副作用やリスク

von Willebrand症(VWD)の治療は、患者さんの出血のリスクを減らしますが、さまざまな副作用やリスクを伴います。

デスモプレシン療法の副作用

デスモプレシンは、多くのVWD患者さんに効果的な治療選択肢ですが、以下のような副作用に気をつけます。

  • 顔が赤くなる(顔面紅潮)
  • 頭痛
  • 血液中のナトリウムが低くなる(低ナトリウム血症)
  • 血圧が下がる
副作用頻度対処法
顔面紅潮よく起こるしばらくすると自然に治まるので様子を見る
頭痛ときどき起こる必要に応じて痛み止めを使用する
低ナトリウム血症あまり起こらないが注意が必要水分摂取を控えめにし、血液中の電解質をチェックする
血圧低下あまり起こらない血圧などのバイタルサインを監視し、必要に応じて点滴を行う

von Willebrand因子含有製剤の副作用とリスク

von Willebrand因子含有製剤(体内にvon Willebrand因子を補充する薬)は、症状が重いかったり手術をする時に使用されますが、リスクもあります。

  • アレルギー反応(重篤な場合、アナフィラキシーが起こる)
  • 血栓症
  • 抗体の産生

抗線溶薬の副作用

トラネキサム酸などの抗線溶薬は、いくつかの副作用があります。

  • 消化器の症状(吐き気、嘔吐、下痢)
  • 血栓ができるリスクが高くなる
  • めまい、視力の問題
副作用頻度注意すべき点
消化器の症状よく起こる食後に薬を飲むことで症状が和らぐ場合がある
血栓ができやすくなるあまり起こらないが注意が必要もともと血栓ができやすい人は使用に注意が必要
神経に関する症状ときどき起こる薬の量を調整することで対応できる場合がある

ホルモン療法の副作用

生理の出血が多いときには、ホルモン療法が行われます。

ホルモン療法の副作用

  • 血栓症になるリスクが高くなる
  • 胸の痛み
  • 体重が増える
  • 気分の変動

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

デスモプレシン療法の費用

デスモプレシン療法は鼻腔内スプレータイプでは、1回の治療あたり約5,000円から10,000円です。

静脈内投与や皮下注射の場合医療機関での処置が必要となるため、追加の費用が発生します。

vWF補充療法の費用

vWF補充療法の費用の目安

製剤名1バイアルあたりの価格
コンファクトF約50,000円~80,000円
ウィルファクト約70,000円~100,000円

止血剤の併用療法費用

トラネキサム酸

  • 錠剤(250mg)約10円/錠
  • 注射液(10%)約100円/アンプル

以上

References

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