脳腫瘍(brain tumor)とは、脳内で異常な細胞が増殖し、塊を形成する疾患です。
脳腫瘍には良性と悪性の両タイプがあり、腫瘍の発生部位や大きさによって多様な症状が起こります。
症状は、頭痛やめまい、視力障害、けいれんなどです。
脳腫瘍の種類(病型)
脳腫瘍の種類(病型)は、発生部位に基づいて脳実質外腫瘍と脳実質内腫瘍に大別されます。
脳実質外腫瘍
脳実質外腫瘍は、髄膜や脳神経、下垂体などから発生し、脳の外側から圧迫するように成長します。
代表的な例として、髄膜腫や神経鞘腫が挙げられ、比較的境界がはっきりしているのが特徴です。
髄膜腫は脳や脊髄を覆う髄膜から発生する腫瘍で、神経鞘腫は脳神経や脊髄神経の髄鞘(神経線維を覆う絶縁体のような組織)から発生し、聴神経鞘腫が最も頻繁に見られます。
これらの腫瘍は通常良性であることが多いですが、発生部位によっては重大な神経症状を起こすこともあるので注意が必要です。
腫瘍名 | 発生部位 | 特徴 |
髄膜腫 | 髄膜 | 境界明瞭、多くは良性 |
神経鞘腫 | 神経の髄鞘 | 聴神経に多い |
脳実質内腫瘍
脳実質内腫瘍は脳の実質組織内から発生するため、より複雑な様相を呈し、治療が困難なことも多いです。
代表的なものにグリオーマがあり、さらにいくつかの種類に分類され、それぞれ異なる特性を持っています。
- 星細胞腫 星状膠細胞(グリア細胞の一種)から発生する腫瘍で、悪性度によってグレードI〜IVに分けられる。
- 乏突起膠腫 乏突起膠細胞から発生し、成長が遅いので、経過観察が可能な場合も。
- 膠芽腫 最も悪性度の高いグリオーマで、急速に進行し、集学的治療(手術、放射線療法、化学療法を組み合わせた治療)が必要。
これらの腫瘍は、脳の重要な機能を担う領域に発生するため、治療の際には慎重な検討が必要です。
その他の脳腫瘍の分類方法
脳腫瘍の分類は、発生部位以外にも様々な基準があります。
- 原発性腫瘍(脳組織から直接発生)と転移性腫瘍(他の臓器のがんが脳に転移)
- 良性腫瘍(成長が遅く、周囲への浸潤が少ない)と悪性腫瘍(成長が速く、周囲への浸潤が強い)
- 成人型腫瘍と小児型腫瘍(年齢によって好発する腫瘍の種類が異なる)
- WHO分類による組織学的分類(腫瘍の細胞タイプや遺伝子変異に基づく分類)
分類基準 | 例 | 治療への影響 |
悪性度 | 良性、悪性 | 治療の緊急性や侵襲性に影響 |
年齢 | 成人型、小児型 | 治療法の選択や予後予測に影響 |
脳腫瘍の主な症状
脳腫瘍の症状は、腫瘍の位置や大きさや成長速度により、持続的な頭痛や神経学的障害、突然のけいれんなどです。
頭痛
頭痛は脳腫瘍患者さんの約半数が経験する症状です。
腫瘍が頭蓋内圧を上昇させることで生じ、特に朝方に悪化します。
普通の頭痛と異なり市販の鎮痛剤が効きにくく、時間の経過とともに徐々に頻度と強度が増していきます。
神経学的症状
脳の特定の領域が腫瘍に圧迫されると、その部位の機能に応じた神経学的症状が現れ、患者さんの認知機能や感覚、運動能力に様々な変化をもたらします。
腫瘍の位置 | 症状 |
前頭葉 | 性格変化、判断力低下、意欲の減退 |
側頭葉 | 記憶障害、言語障害、感情の変化 |
頭頂葉 | 感覚異常、空間認識障害、左右の区別の困難 |
後頭葉 | 視覚障害、物の認識の困難 |
小脳 | バランス障害、協調運動の困難 |
症状は、腫瘍の進行に伴って徐々に悪化していき、早期の段階では軽微で気づきにくいので注意が必要です。
視覚・聴覚の変化
脳腫瘍は視神経や聴神経に影響を与え、感覚器の問題を起こします。
- 視力低下(ものがぼやけて見える、または見えにくくなる)
- 視野狭窄(見える範囲が狭くなる)
- 複視(物が二重に見える)
- 耳鳴り(耳の中でずっと音がする感覚)
- 聴力低下(音が聞こえにくくなる)
- 平衡感覚の障害(めまいやふらつきを感じる)
症状は、突然現れることもあるため、日常生活での変化に気を付けることが大切です。
運動機能の障害
脳腫瘍が運動野や小脳に影響を与えると、患者さんの身体の動きに症状が現れます。
症状 | 詳細 |
麻痺 | 片側の手足の動きが悪くなる、または全く動かなくなる |
失調 | バランスを取るのが難しくなる、歩行が不安定になる |
協調運動障害 | 細かい動作が困難になる、物をつかみにくくなる |
筋力低下 | 力が入りにくくなる、疲れやすくなる |
反射異常 | 反射が過敏になる、または鈍くなる |
けいれん発作
けいれん発作は、脳腫瘍患者さんの約4分の1が経験する症状です。
腫瘍が脳の正常な電気活動を乱すことで生じ、突然の意識消失や体の硬直、激しいけいれんなどが起こり、発作中は自分で制御できません。
発作の形態は腫瘍の位置によって、部分発作から全般発作まであります。
発作の種類 | 特徴 |
部分発作 | 体の一部のみがけいれんする、意識が保たれることもある |
全般発作 | 全身がけいれんし、意識を失う、発作後に強い疲労感を伴う |
欠神発作 | 短時間意識がなくなる、周囲の人から「ボーっとしている」ように見える |
けいれん発作は、脳腫瘍の初期症状として突然現れることもあるため、一度でも起こった場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。
脳腫瘍の原因
脳腫瘍の原因は、遺伝的要因、環境要因、そして未だ解明されていない要因が絡み合っています。
遺伝的要因の影響
特定の遺伝子変異や染色体異常が脳腫瘍のリスクを高め、遺伝的変化が細胞の正常な機能を乱すことで、腫瘍形成のきっかけとなる可能性があります。
神経線維腫症1型(NF1)や2型(NF2)、リー・フラウメニ症候群などの遺伝性疾患では、脳腫瘍の発生率が一般集団に比べて顕著に高いです。
遺伝性疾患では、腫瘍抑制遺伝子の機能不全や細胞周期制御の異常が生じやすく、正常細胞が無秩序に増殖し、腫瘍形成につながります。
遺伝性疾患 | 関連する脳腫瘍 | 特徴 |
NF1 | 視神経膠腫 | 皮膚の色素斑、神経線維腫を伴う |
NF2 | 聴神経鞘腫 | 両側性の聴神経腫瘍が特徴的 |
環境要因と生活習慣の影響
環境要因も脳腫瘍の発生に関与し、特に電離放射線への曝露は脳腫瘍のリスクを高めます。
小児期に頭部への放射線治療を受けた患者さんでは、後年に脳腫瘍を発症するリスクが上昇します。
また、一部の化学物質への長期的に晒されることも、脳腫瘍のリスク因子となることがあり、職業性曝露などに注意が必要です。
ウイルス感染と免疫系の関与
エプスタイン・バーウイルス(EBV)は、中枢神経系原発リンパ腫のリスク因子で、EBVの持続感染が免疫系の異常を起こし、腫瘍形成につながる可能性が示唆されています。
また、HIV感染に伴う免疫不全状態も、中枢神経系リンパ腫の発生リスクを高めることが報告されています。
ウイルス | 関連する脳腫瘍 | 影響メカニズム |
EBV | 中枢神経系原発リンパ腫 | 持続感染による免疫異常 |
HIV | 中枢神経系リンパ腫 | 免疫不全状態の誘発 |
年齢と性別の影響
脳腫瘍の発生には年齢や性別も関係し、小児と高齢者で脳腫瘍の発生率が高いです。
髄芽腫は小児に多く見られ、膠芽腫は高齢者に多い傾向があります。
性別に関しては、髄膜腫は女性に多く、膠芽腫は男性にやや多いことが報告されており、差異は、ホルモンバランスや遺伝的背景の違いが影響しています。
診察(検査)と診断
脳腫瘍の診断は、患者さんの症状や経過についての問診と神経学的診察から始まり、画像検査や生検などの精密検査を経て行われます。
問診と神経学的診察
問診では、患者さんが感じている症状や変化の様子、既往歴、家族歴について、聞き取ります。
神経学的診察では、意識がはっきりしているか、目や耳、顔の動きなどの脳神経の働き、運動機能、感覚機能、体の反射を総合的に確認し、脳の状態を評価します。
画像検査
画像検査は脳腫瘍の診断において非常に重要で、脳の様子を詳しく観察できます。
検査方法 | 特徴 |
CT(コンピュータ断層撮影) | 短時間で撮影可能、骨の異常も確認可能、X線を使用 |
MRI(磁気共鳴画像) | 磁力を利用し、軟らかい組織の描出に優れ、腫瘍の詳細な情報を得られる |
PET(陽電子放射断層撮影) | 特殊な薬剤を使用し、腫瘍の活動性を評価できる |
造影剤を使うことで、腫瘍への血液の流れ方や、周りの正常な脳との境目をより鮮明に観察することが可能です。
PET検査では、腫瘍がどのくらい活発に活動しているかを評価でき、良性腫瘍か悪性腫瘍かの見分けに役立つ情報が得られます。
脳血管造影
脳血管造影は、腫瘍に栄養を与える血管や、腫瘍の周りにある大切な血管との関係を把握するために行われる検査です。
特殊な造影剤を血管に注入し、X線を使って撮影することで、脳の血管の様子を動画として観察できます。
脳波検査
脳波検査は、頭皮に取り付けた電極を通じて、脳の電気的な活動を記録する検査です。
特に、けいれん発作を伴う脳腫瘍の診断や、腫瘍がどの辺りにあるのかを推測する上で役立ちます。
生検
画像検査だけでは腫瘍の正確な種類を判断できない場合、腫瘍の一部を採取して調べる生検が必要です。
生検方法 | 特徴 |
定位脳生検 | 頭蓋骨に小さな穴を開け、細い針で深い場所にある腫瘍の一部を採取 |
開頭生検 | 頭蓋骨の一部を大きく開けて、直接目で見ながら腫瘍の一部を採取 |
脳腫瘍の治療法と処方薬、治療期間
脳腫瘍の治療法は、手術、放射線療法、化学療法を組み合わせて行います。
手術療法
手術は多くの脳腫瘍治療において最も重要な選択肢です。
術中MRI(手術中に撮影可能なMRI装置)やナビゲーションシステム(GPSのように腫瘍の位置を正確に把握する技術)を用いた手術が可能になって、安全性と確実性が向上しています。
手術時間は3〜8時間程度で、術後の入院期間は約1〜2週間です。
手術法 | 特徴 | 適応 |
開頭術 | 従来の標準的手法、広い視野で操作可能 | 大型腫瘍、深部腫瘍 |
内視鏡手術 | 低侵襲で回復が早い、美容面でも優れる | 脳室内腫瘍、一部の小型腫瘍 |
放射線療法
放射線療法は、高エネルギーのX線や粒子線を用いて腫瘍細胞のDNAに損傷を与え、増殖を抑制する治療法です。
外部照射を用い、5〜6週間にわたり週5回の照射を行うスケジュールが組まれます。
ガンマナイフやサイバーナイフなどの定位放射線療法(ピンポイントで放射線を集中させる技術)も普及しており、1回から数回の照射で済むのが利点です。
放射線療法の種類 | 特徴 | 治療期間 |
通常分割照射 | 標準的な方法、副作用が少ない | 5〜6週間 |
定位放射線療法 | 高精度、短期間で完了 | 1日〜1週間 |
化学療法
化学療法は、抗がん剤を用いて全身的に腫瘍の増殖を抑制する治療法で、脳腫瘍の種類や進行度によっては効果的な選択肢です。
テモゾロミドやカルムスチンなどの薬剤が主に用いられ、経口投与(飲み薬)や点滴で行われます。
標準的な治療期間は6〜12ヶ月です。
薬剤名 | 投与方法 | 適応 |
テモゾロミド | 経口 | 膠芽腫、退形成性星細胞腫 |
カルムスチン | 点滴 | 再発性神経膠腫 |
分子標的薬
脳腫瘍の分子生物学的特徴(遺伝子変異や特定のタンパク質の過剰発現など)に基づいた分子標的薬の開発が急速に進んでおり、従来の治療法では効果が限定的だった症例に使用されています。
血管新生阻害薬のベバシズマブは、腫瘍の血管形成を抑制することで成長を妨げ、特定の脳腫瘍に対して効果が確認されています。
分子標的薬は、従来の化学療法と比べて正常細胞への影響が少ないことが特徴です。
脳腫瘍の治療における副作用やリスク
脳腫瘍の治療には、外科的手術、放射線療法、化学療法などの方法があり、治療法にはそれぞれ特有の副作用やリスクが伴います。
手術に伴うリスクと副作用
脳腫瘍の手術では、腫瘍の完全摘出を目指しつつ、周囲の正常脳組織への影響を最小限に抑えますが、以下のようなリスクがあります。
リスク | 詳細 |
出血 | 手術中・術後の出血、血腫形成 |
感染 | 創部感染、髄膜炎 |
脳浮腫 | 脳組織の浮腫による圧迫効果 |
また、腫瘍の場所によっては、運動機能障害や言語障害などの神経学的合併症が生じる可能性があり慎重な対応が必要です。
放射線療法のリスクと副作用
放射線療法は腫瘍細胞を死滅させる一方で、照射野内の正常細胞にも影響を与えます。
急性期の副作用
- 頭皮の炎症や一過性脱毛
- 全身倦怠感
- 悪心・嘔吐
- 頭痛
長期的には、認知機能障害や内分泌機能障害が生じることがあり、また、二次性腫瘍の発生リスクも懸念するべき副作用です。
化学療法のリスクと副作用
化学療法は全身に影響を及ぼすため、様々な副作用が現れます。
副作用 | 影響 |
骨髄抑制 | 感染リスク上昇、貧血、出血傾向 |
消化器症状 | 悪心・嘔吐、食欲不振 |
脱毛 | 一時的な毛髪喪失 |
使用する薬剤によっては、肝機能障害や腎機能障害が生じる可能性も。
ステロイド療法のリスクと副作用
脳浮腫の軽減などを目的としてステロイド療法が行われることがあり、長期使用には注意が必要です。
主な副作用
- 免疫抑制
- 消化性潰瘍
- 耐糖能異常
- 骨粗鬆症
副作用は用量依存性で、長期使用の場合は、定期的な副作用のモニタリングが不可欠です。
治療後の長期的リスク
脳腫瘍患者さんの中には、治療後も長期的なフォローアップが必要なケースがあります。
晩期合併症として、認知機能障害、内分泌機能障害、二次性腫瘍などが報告されていて、治療終了後、数年から数十年後に発症する可能性があるため、経過観察が重要です。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
手術費用の内訳
脳腫瘍の手術費用は、30万円から100万円程度で、入院費、手術室使用料、麻酔費などが含まれます。
放射線療法の費用
放射線治療の費用は、6週間の治療で20万円から50万円ほどです。
治療法 | 費用範囲 |
通常照射 | 20-30万円 |
定位放射線 | 30-50万円 |
化学療法にかかる費用
化学療法の費用は使用する薬剤や治療期間によって大きく変動します。
一般的な治療で月額10万円から30万円程度ですが、新薬を使用する場合はさらに高額です。
その他の関連費用
- MRIやCTなどの画像診断費用
- 病理検査費用
- リハビリテーション費用
検査項目 | 費用 |
MRI | 2-5万円 |
CT | 1-3万円 |
以上
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