脳動静脈奇形(AVM) – 脳・神経疾患

脳動静脈奇形(AVM)(cerebral arteriovenous malformations)とは、生まれつきの脳血管の形成異常により、本来は毛細血管を介してゆっくりと血液を流すはずの動脈と静脈が直接つながってしまう疾患です。

血管構造の異常により、強い圧力で動脈血が静脈に流れ込むことになるため、血管壁が次第に弱くなって瘤状に膨らんでしまったり、最悪の場合には血管が破裂するリスクが高くなります。

日本国内では10万人に1~2人程度の割合で見つかるこの病気は、20代から40代の働き盛りの年齢層で偶然の画像検査により発見されることが多いです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

脳動静脈奇形(AVM)の主な症状

脳動静脈奇形(AVM)は、激しい頭痛やてんかん発作、麻痺症状など、様々な神経症状が起こります。

頭痛の特徴とパターン

脳動静脈奇形による頭痛は、異常な血管による周囲の脳への圧迫や、血流の異常が原因です。

頭痛の特徴として、脈拍に合わせた拍動性の痛みがあり、体を動かしたときや血圧が上昇したときに痛みが強くなることが多く、病変の大きさや場所によって痛みの程度や範囲が変化します。

頭痛の種類特徴痛みが強くなる状況
拍動性頭痛脈に合わせて痛む運動時や体位変換時
持続性頭痛常に痛みが続く疲労時やストレス時

てんかん発作の症状

てんかん発作は、脳動静脈奇形のある患者さんの約30%でみられ、異常な血管がある脳の場所によって、様々な症状が現れます。

  • 体の一部の痙攣(意識は保たれている)
  • 意識が曇り、周囲の状況が把握できない
  • 全身の痙攣を伴う発作
  • 自律神経症状(発汗、動悸など)
  • 感覚症状(しびれ、異常感覚)

神経の局所症状

神経の局所症状は、脳動静脈奇形がある場所の脳の働きが妨げられることで起こります。

脳の各部位には特有の機能があり、その部位に血管の異常があると、機能に応じた特徴的な症状が生じます。

運動を司る領域に病変がある場合、手足の動きが悪くなったり、顔の表情筋の麻痺が起きたりし、片側の症状として現れることが特徴です。

症状の出る場所主な症状特徴的な様子
運動をつかさどる部分麻痺症状反対側の筋力低下
感覚をつかさどる部分感覚障害しびれや感覚異常

言語を担当する領域に異常がある場合は、言葉が出にくくなったり、他人の話が理解しづらくなったりし、視覚を担当する後頭葉に病変がある際には、視野の一部が欠けたり、物が二重に見えたりします。

小脳や脳幹部に病変があると、見られる症状は、めまいやふらつき、歩行時のバランスの悪さなどです。

局所症状は、病変の大きさや正確な位置によって程度が異なり、複数の症状が組み合わさって出現することも少なくありません。

出血時の症状

脳動静脈奇形からの出血は、突然の激しい頭痛で始まり、意識障害や麻痺などの神経症状を起こします。

出血時の症状は激しい頭痛に続いて、吐き気や意識レベルの低下、手足の麻痺などが現れます。

出血のリスクは年齢とともに高くなる傾向があり、高血圧のある方では、より慎重な管理が必要です。

脳動静脈奇形(AVM)の原因

脳動静脈奇形(AVM)は、胎児期における脳血管の形成過程で発生する先天的な血管構造の異常であり、遺伝的要因や環境要因など、複数の要素が関与します。

発生学的な原因と形成プロセス

胎児期における血管形成の過程では、動脈と静脈を結ぶ毛細血管網が段階的に発達していきますが、発達過程において何らかの異常が生じることで、血管構造の形成に重要な影響を及ぼすことがあります。

胎生期における血管形成に関与する遺伝子の突然変異や、血管新生を制御する因子の異常が、AVMの形成に関わっていることが明らかになってきました。

発生段階血管形成における異常
胎生初期血管芽細胞の分化異常と血管内皮細胞の増殖制御の乱れ
胎生中期毛細血管網の形成不全と動静脈の直接的な連結

遺伝的要因と関連遺伝子

血管形成に関与する複数の遺伝子変異が、AVMの発生には血管形成に関与しています。

遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)という遺伝性疾患で、AVMを合併することが多いことが分かっています。

関連遺伝子機能と異常による影響
NOTCH4遺伝子血管新生の制御と血管構造の維持に関与
ENG遺伝子血管内皮細胞の分化と成熟に関与

環境要因と発生リスク

AVMの発生に関与する主な環境要因として、以下のような項目が挙げられます。

  • 胎児期の酸素供給状態の異常
  • 子宮内での炎症性変化
  • 母体の栄養状態
  • 特定の薬剤への曝露
  • 環境化学物質の影響

診察(検査)と診断

脳動静脈奇形(AVM)の診断では、問診から始まり、神経学的診察、画像検査による血管構造の評価、そして遺伝子検査なども組み合わせながら確定診断へと進めていきます。

初診時の問診と神経学的診察

問診では、これまでの健康状態や症状の経過、ご家族の病歴などについて、聞き取りながら診察の方向性を定めていくことが重要です。

問診での確認項目内容
既往歴の確認脳血管疾患や頭部外傷の有無、高血圧などの基礎疾患について
家族歴の聴取血管奇形や出血性疾患の家族内発症について

神経学的診察では、脳神経系の機能を評価していくため、瞳孔反射や視野検査、顔面感覚、運動機能などの項目について確認します。

画像診断による血管構造の評価

画像診断はMRIやMRAから開始し、より詳細な血管構造の把握が必要な際には、脳血管造影検査など、段階的により精密な検査へと進めていきます。

画像検査の種類検査内容と特徴
MRI/MRA検査放射線被曝なく血管の全体像を把握、血流の方向も評価可能
CT/CTA検査出血の有無や石灰化の評価、血管構造の立体的把握が可能

遺伝子検査

遺伝子検査は、AVMの形成に関与する可能性のある遺伝子変異を特定し、より正確な診断や病態の理解につなげていく重要な診断手法です。

遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)との関連が疑われる場合には、ENG遺伝子やACVRL1遺伝子、SMAD4遺伝子などの変異の有無を詳しく調べることで、遺伝的背景を明らかにできます。

また、血管形成に関わるNOTCH4遺伝子やRASA1遺伝子の解析は、AVMの発生メカニズムの解明に重要な情報を得られます。

遺伝子検査の種類臨床的意義
HHT関連遺伝子解析遺伝性疾患との関連性を確認し、家族内発症のリスク評価が可能
血管形成関連遺伝子解析AVMの発生メカニズムの理解と、長期的な経過予測に寄与

遺伝子検査で注目すべき項目

  • ENG遺伝子変異解析(血管内皮細胞の機能異常との関連)
  • ACVRL1遺伝子検査(TGF-βシグナル伝達経路の評価)
  • RASA1遺伝子解析(血管新生制御因子の機能評価)
  • NOTCH4遺伝子検査(血管形成過程における異常の評価)
  • SMAD4遺伝子解析(複合的な血管形成異常の評価)

脳動静脈奇形(AVM)の治療法と処方薬、治療期間

脳動静脈奇形(AVM)の治療は、開頭手術による摘出術、血管内治療、定位放射線治療を基本とし、単独もしくは組み合わせて行い、抗てんかん薬や頭痛治療薬などの薬物療法も併用します。

外科的治療法

開頭手術による摘出術は脳動静脈奇形の根治的な治療法で、病変を完全に取り除くことができる方法です。

手術方法治療期間入院期間の目安
開頭摘出術1回の手術2〜4週間
段階的手術複数回に分けて各回2〜3週間

血管内治療の手法と期間

血管内治療はカテーテルを用いて血管の中から病変部を治療し、塞栓物質を注入して異常な血管を閉塞します。

使用する塞栓物質

  • 液体塞栓物質(NBCA、Onyx)による永久閉塞
  • 微細なコイルによる選択的閉塞
  • 固体塞栓物質(PVA粒子)による段階的閉塞
  • 一時的な塞栓物質による術前準備
  • マイクロカテーテルを用いた超選択的塞栓

定位放射線治療について

定位放射線治療は、高精度なガンマナイフやサイバーナイフなどの装置を用いて放射線を病変に集中的に照射する治療法です。

照射方法治療回数効果発現までの期間
単回大量照射1回2〜3年
分割照射複数回1〜2年

治療効果の発現には一定の時間を要し、完全な血管閉塞までには2〜3年程度の期間が必要で、その間は定期的な画像検査による経過観察を行います。

薬物療法

薬物療法は、症状のコントロールを目的として実施し、てんかん発作や頭痛に対する治療が中心です。

抗てんかん薬は、発作の種類や頻度に応じて選択し、単剤での使用から開始して、必要に応じて他剤を追加していきます。

頭痛に対しては、一般的な鎮痛薬から始めて、場合によっては特殊な頭痛薬を併用することもあり、予防的な服用と発作時の頓用を組み合わせて対応することが大切です。

脳動静脈奇形(AVM)の治療における副作用やリスク

脳動静脈奇形(AVM)に対する各種治療法には、術中・術後の出血や周辺脳組織への影響、放射線による合併症など、様々な副作用やリスクがあります。

血管内治療に伴うリスク

血管内治療でのリスクは、カテーテルを用いて異常血管を塞栓する手技に関連して、血管穿刺部位の出血や血腫形成、さらには血管損傷による合併症です。

塞栓術の合併症発生頻度と特徴
血管解離全体の2-5%程度、緊急処置を要することがある
血栓塞栓症3-7%程度、迅速な対応で回復が見込める

造影剤を使用することによるアレルギー反応や腎機能障害といった全身的な合併症のリスクもあります。

開頭手術に関連する合併症

開頭手術では、手術操作による周辺脳組織への物理的な影響や、術後の浮腫形成による神経症状の一時的な悪化などが起こりえます。

手術合併症対応策
術後出血厳密な血圧管理と凝固系モニタリング
感染症予防的抗生剤投与と創部管理の徹底

放射線治療後の副作用

定位放射線治療に伴う放射線障害として以下のような症状が報告されています。

  • 照射部位周辺の一時的な脳浮腫
  • 放射線壊死による組織障害
  • 毛細血管の透過性亢進
  • 脱髄性変化
  • 局所性の炎症反応

長期的な合併症

照射後の放射線性脳壊死は、治療後数ヶ月から数年にわたって進行することがあり、慎重な経過観察と対応が大切です。

血管内皮細胞の増殖異常や血管壁の脆弱化により、新たな異常血管の形成や既存血管の拡張が起こる可能性も指摘されています。

また、放射線照射による晩期障害として、認知機能への影響や内分泌機能の変化なども報告されており、注意が必要です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

手術療法の費用構成

開頭手術による治療では、手術料、入院費、手術材料費などが発生します。

治療方法総医療費概算保険適用後自己負担額
開頭手術300-500万円90-150万円
血管内治療200-400万円60-120万円
定位放射線治療100-300万円30-90万円

血管内治療の費用内訳

血管内治療では、以下のような費用項目が含まれます。

  • カテーテル等の医療材料費(50〜100万円)
  • 塞栓物質の費用(30〜80万円)
  • 術中モニタリング費用(20〜40万円)
  • 入院関連費用(100〜180万円)
  • 術前術後の画像診断費用(20〜40万円)

薬物療法にかかる費用

薬物治療では、抗てんかん薬や鎮痛薬を使用します。

薬剤の種類月額費用年間費用
抗てんかん薬1-3万円12-36万円
鎮痛薬0.5-1万円6-12万円

画像診断に関する費用

MRIやCTなどの画像検査は1回あたり1〜3万円程度、脳血管造影検査は、造影剤や入院費用を含めて1回あたり15〜25万円です。

以上

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