脳挫傷(cerebral contusion)とは、頭部に強い衝撃が加わった際に脳の組織が損傷を受ける状態のことです。
この状態では、脳の表面に打撲や出血が生じ、周囲の神経組織に広範囲な影響を及ぼします。
脳挫傷の症状は、軽度の頭痛から重篤な意識障害までさまざまな形で現れ、吐き気、めまい、記憶障害、集中力の低下、感覚異常などが挙げられます。
頭部を強く打った後に何らかの異常を感じたときは、脳挫傷の可能性を考慮し、速やかに医療機関での診察を受けることが重要です。
脳挫傷の種類(病型)
脳挫傷の病型は、発生メカニズムや損傷部位によって、直撃損傷と対側損傷に分けられます。
直撃損傷
直撃損傷は、外力が直接加わった部位に生じる脳の損傷です。
この種類の損傷は頭部への衝撃が直接脳組織に伝わることで発生し、頭蓋骨の内側にある硬い骨の突起や隆起が、脳組織を圧迫または損傷させます。
直撃損傷の特徴 | 説明 |
発生部位 | 外力が加わった箇所 |
損傷メカニズム | 直接的な衝撃による |
損傷の程度 | 局所的かつ重度の可能性 |
直撃損傷では、脳組織の挫滅や出血が現れることが多いです。
外力の強さや方向によっては、脳表面の広範囲にわたって損傷が生じる場合もあります。
この種の損傷では、局所的な脳組織の損傷が顕著であり、部位に応じた神経学的症状が現れやすいです。
対側損傷
対側損傷は、衝撃を受けた部位の反対側に生じる脳の損傷です。
この現象は、頭部への衝撃によって脳が頭蓋内で移動し、反対側の頭蓋骨に衝突することで発生します。
対側損傷の特徴
- 発生部位が衝撃を受けた箇所の反対側
- 脳の移動による二次的な損傷
- 広範囲に及ぶ可能性がある
対側損傷では、脳の移動に伴う剪断力(せんだんりょく:組織を引き裂くような力)によって、脳実質内の血管や神経線維が損傷を受けます。
対側損傷の特徴として、脳の移動に伴う広範囲の損傷が生じる可能性があるため、より複雑な症状を呈します。
直撃損傷と対側損傷の比較
直撃損傷と対側損傷は、発生メカニズムや損傷部位が異なるため、それぞれ独特の特徴を持っています。
特徴 | 直撃損傷 | 対側損傷 |
発生部位 | 外力が直接加わった箇所 | 衝撃を受けた反対側 |
損傷メカニズム | 直接的な衝撃 | 脳の移動による二次的衝突 |
損傷の範囲 | 局所的 | 広範囲に及ぶ可能性あり |
原因 | 頭部への直接的な打撃 | 急激な加速度変化 |
脳挫傷の主な症状
脳挫傷の症状は脳のどの部分がどの程度損傷を受けたかによって異なり、軽い頭痛から重度の意識障害まであります。
単一の脳領域に限局した損傷による症状
特定の脳領域のみが損傷を受けた場合、部位に特有の症状が現れます。
前頭葉(思考や判断を司る部位)に損傷があると、物事を深く考えられなくなったり、適切な判断が難しくなったりするほか、性格が変わったように感じられることも。
一方、側頭葉(記憶や言語理解に関わる部位)が傷つくと、新しい出来事を覚えられなくなったり、人の話す内容を理解するのに苦労したりします。
損傷を受けた脳の部位 | 現れる症状 |
前頭葉 | 思考力の低下、判断力の衰え、性格の変化 |
側頭葉 | 記憶障害、言語理解の困難 |
後頭葉 | 視覚に関する障害、物体の認識が困難 |
小脳 | バランスを取るのが難しい、動作がぎこちない |
複数の脳領域が同時に損傷を受けた場合の症状
脳の複数の領域が同時に損傷を受けると、思考や記憶などの認知機能が全般的に低下したり、体を動かす能力と感覚を感じ取る能力の両方に影響が出ます。
物事を覚えるのが難しくなると同時に体の動きもぎこちなくなったり、言葉を理解するのに苦労しながら視覚的な情報の処理も上手くいかなくなったりする状態です。
脳全体と他の臓器にも影響が及ぶ重度の損傷による症状
脳全体に広範囲な損傷が及び、さらに他の臓器にも影響が出るような重度の脳挫傷もあります。
見られる神経学的症状
- 意識レベルの変化(軽い朦朧状態から完全に意識を失う昏睡状態まで)
- 記憶力の著しい低下
- 体を思い通りに動かせなくなる重度の運動機能障害
- 触覚や痛覚などの感覚が通常と異なって感じられる感覚異常
影響を受ける機能 | 症状 |
認知機能 | 記憶力の低下、注意力が続かない、適切な判断が難しい |
運動機能 | 体の一部が動かしにくい、動作がぎこちない、けいれん |
感覚機能 | 視力や聴力の異常、触った感覚が普段と違う |
自律神経系 | 血圧が安定しない、体温調節がうまくいかない |
脳挫傷の種類を問わず共通して見られる症状
脳挫傷の程度や範囲にかかわらず、多くの患者さんに共通して見られる症状もあります。
頭痛は最も頻繁に報告される症状の一つで、軽い鈍痛から激しい痛みまで、程度はさまざまです。
吐き気を感じたり実際に嘔吐したりすることも多く、特に怪我をしてから間もない時期に顕著に現れます。
また、めまいを感じたり体のバランスを取るのが難しくなったりすることも、多くの患者さんが経験する症状です。
よくある症状 | 特徴 |
頭痛 | 常に痛みがある場合や、断続的に痛む場合があり、その強さも様々 |
吐き気・嘔吐 | 特に怪我をしてからしばらくの間に強く現れることが多い |
めまい | 立ちくらみや、歩く時にふらつくなどの症状として現れる |
疲れやすさ | 通常よりも簡単な活動でも疲労を感じやすくなる |
脳挫傷の原因
脳挫傷は、頭部への直接的な衝撃や急激な加速・減速によって起こる脳組織の損傷で、重篤な後遺症をもたらす可能性のある深刻な状態です。
脳挫傷の主要な原因
脳挫傷の原因は、外力による頭部への衝撃です。
原因 | 例 |
交通事故 | 自動車衝突、バイク転倒、自転車事故 |
転倒・転落 | 階段からの落下、滑りやすい路面での転倒、高所作業中の事故 |
スポーツ外傷 | ボクシング、ラグビーでの衝突、サッカーでのヘディング |
暴力行為 | 殴打、頭部への攻撃、家庭内暴力 |
脳挫傷のメカニズム
脳挫傷は、二つのメカニズムによって引き起こされ、それぞれが異なる形で脳に影響を与えます。
一つは直接的な衝撃による損傷で、もう一つは加速度損傷と呼ばれるものです。
直接的な衝撃による損傷は、頭部が固い物体に直接ぶつかることで生じ、衝突部位の直下にある脳組織に集中的なダメージを与えます。
この際、脳組織が頭蓋骨の内側に押し付けられ、挫滅(組織の潰れ)や出血が発生し、神経細胞の機能に直接的な影響を及ぼします。
加速度損傷は、頭部が急激に動かされることで脳が頭蓋内で移動し、対側の頭蓋骨に衝突することで生じる複雑な損傷パターンを示します。
脳挫傷の危険因子
脳挫傷の発生リスクを高める要因がいくつかあります。
- 年齢(高齢者や幼児は骨格構造や脳の特性から脳挫傷のリスクが高い)
- アルコールや薬物の影響下にある状態(判断力や反射能力の低下により事故のリスクが上昇)
- 危険な職業や活動への従事(建設現場、格闘技選手など)
- 過去の頭部外傷の既往(一度損傷を受けた脳は、再度の損傷に対してより脆弱になる)
二次的な脳挫傷の原因
初期の衝撃による一次的な損傷に加え、二次的な要因によって脳挫傷が悪化することもあります。
二次的要因 | 影響 |
脳浮腫 | 頭蓋内圧の上昇、脳組織の圧迫 |
低酸素症 | 脳組織の更なる損傷、神経細胞の死滅 |
低血圧 | 脳への血流不足、組織の虚血 |
感染 | 炎症反応の増悪、二次的な脳損傷 |
診察(検査)と診断
脳挫傷の診断は、患者さんやご家族からの状況説明を聞くことから始まり、身体全体の診察や神経系の機能チェックを経て、最終的にCTやMRIなどの精密な画像検査によって確定されます。
初期評価
脳挫傷の診断プロセスは、まず患者さんやその場に居合わせた方から、事故や怪我の状況を聞き取ることから始まります。
どのようにして頭を打ったのか、意識を失ったことはなかったか、その他に気になる症状はないかなどの情報を収集。
次に、頭だけでなく体全体を診察し、外から見える傷や腫れ、出血の有無や程度を確認します。
初期評価で確認すること | 内容 |
事故の状況 | どのように頭を打ったか、意識を失ったかどうかなど |
体の外観チェック | 傷、腫れ、出血の有無と程度 |
体の基本的な機能 | 血圧、脈拍、呼吸の速さ、体温を測定 |
意識の程度 | Glasgow Coma Scale (GCS) という基準を使って評価 |
神経系の機能チェック
初めの全身チェックが終わったら、次は脳や神経の働きを細かくチェックします。
この検査では、患者さんがどれくらいはっきりと意識しているか、目の瞳が光に反応するか、体を思い通りに動かせるか、触った感覚を感じられるか、体のバランスは取れているかなどを確認します。
意識がどれくらいはっきりしているかを調べるために、Glasgow Coma Scale (GCS) という基準がよく使われます。
これは、目を開けられるか、言葉をしゃべれるか、体を動かせるかという3つの項目をチェックする方法です。
画像検査
脳挫傷を確実に診断するには、脳の中の様子を詳しく見る画像検査が大切です。
CTスキャンは最もよく使われる検査方法で、脳の形に異常がないかをすばやく確認できます。
MRIはCTよりもさらに細かい画像を撮ることができ、小さな傷や、神経線維の損傷を見つけるのに適しています。
画像検査の種類 | 特徴 |
CT (コンピュータ断層撮影) | 素早く撮影でき、骨の折れや出血を見つけやすい |
MRI (磁気共鳴画像法) | 脳の軟らかい部分を詳しく見られ、小さな傷も分かる |
fMRI (機能的磁気共鳴画像法) | 脳のどの部分がどんな働きをしているか調べられる |
PET (陽電子放射断層撮影) | 脳の各部分がどれくらい活発に働いているか分かる |
補助的な検査
脳挫傷をより正確に診断するため、次のような追加の検査を行うことがあります:
- 脳波検査 (EEG):脳の電気的な活動を調べる
- 誘発電位検査:特定の刺激に対する脳の反応を見る
- 経頭蓋ドップラー超音波検査:脳の血流の様子を調べる
- 脳脊髄液検査:脳を取り囲む液体を調べ、炎症などがないか確認
検査は、脳の電気的な働き、血液の流れ、炎症の有無などを調べることで、診断の手助けとなります。
脳挫傷の治療法と処方薬、治療期間
脳挫傷の治療は、患者さんの状態に応じて保存的治療または外科的治療が選択され、薬物療法を併用しながら行います。
保存的治療
保存的治療は、軽度から中等度の脳挫傷に対して行われる治療法で、患者さんの全身状態を安定させ、脳の二次的損傷を防ぐことが目標です。
脳を保護し自然な回復を促すための対応
- 安静臥床による頭部の保護:頭部への更なる衝撃を避け、脳の安静を保つ。
- 酸素投与による脳への十分な酸素供給:脳組織の酸素不足を防ぎ、細胞の生存を助ける。
- 輸液管理による適切な血圧維持:脳への血流を適切に保ち、組織の回復を促進。
- 頭蓋内圧モニタリングによる脳圧上昇の早期発見:危険な脳圧上昇を迅速に検知し、対応。
外科的治療
重度の脳挫傷や、保存的治療で改善が見られないときには、外科的治療が検討されます。
外科的治療は、脳への圧迫を軽減し、脳組織の二次的損傷を防ぐことを目指す、より積極的な介入方法です。
手術名 | 目的 | 方法 |
減圧開頭術 | 頭蓋内圧の軽減 | 頭蓋骨の一部を一時的に除去し、脳の腫れに対応する空間を確保する |
血腫除去術 | 脳内出血の除去 | 出血部位を特定し、血腫(血の塊)を取り除く |
脳室ドレナージ | 脳脊髄液の排出 | 脳室に細いチューブを挿入し、過剰な脳脊髄液を排出する |
薬物療法
脳挫傷の治療には、患者さんの状態や治療の段階に応じて、薬物が使用され、脳の保護や合併症の予防、症状の管理などの目的で投与されます。
薬剤分類 | 目的 | 代表的な薬剤名 |
浸透圧利尿薬 | 脳浮腫の軽減 | マンニトール、グリセロール |
抗てんかん薬 | 痙攣発作の予防 | レベチラセタム、フェニトイン |
鎮痛薬 | 疼痛管理 | アセトアミノフェン、トラマドール |
抗凝固薬 | 血栓予防 | ヘパリン、エノキサパリン |
治療期間
治療期間の目安
- 軽度の脳挫傷:1〜3週間(主に保存的治療と経過観察)
- 中等度の脳挫傷:3週間〜3ヶ月(保存的治療または軽度の外科的介入が必要)
- 重度の脳挫傷:3ヶ月以上(複雑な外科的治療と長期のリハビリテーションが必要)
治療期間中は、定期的な画像検査(CTやMRI)や神経学的評価を行い、患者さんの回復状況を慎重に監視しながら、治療計画を調整していきます。
リハビリテーション
急性期治療後は、リハビリテーションが不可欠です。
リハビリテーションは、患者さんの状態に応じて段階的に進められ、以下のようなプログラムが含まれます。
- 運動機能訓練:歩行や手の動きなど、基本的な身体機能の回復を目指す
- 言語療法:言語理解や発話能力の改善を図る。
- 作業療法:日常生活動作(食事、着替えなど)の再獲得を支援。
- 認知機能訓練:記憶力や注意力、問題解決能力の向上を目指す。
脳挫傷の治療における副作用やリスク
脳挫傷の治療には、薬を使う方法や手術など、さまざまな治療法がありますが、どの治療にも副作用やリスクが伴います。
薬による治療に関連する副作用
脳挫傷の治療では、脳の腫れ(浮腫)を抑えたり、けいれんを防いだりするために、いろいろな薬が使われま、それぞれに副作用があります。
脳の腫れを抑えるために使われるステロイド剤は、胃に潰瘍ができたり、血糖値が高くなったり、免疫力が下がったりし、抗てんかん薬は、眠気やめまいがしたり、皮膚に発疹ができる副作用があります。
使われる薬 | 副作用 |
ステロイド剤 | 胃潰瘍、血糖値上昇、体の抵抗力低下 |
抗てんかん薬 | 眠気、めまい、皮膚の発疹 |
血圧を下げる薬 | 血圧が下がりすぎる、めまい、疲れやすくなる |
痛み止め | 胃腸の不調、肝臓の働きが悪くなる |
手術に伴うリスク
脳挫傷がひどい場合、脳の中にたまった血を取り除いたり、脳の圧迫をやわらげたりするための手術が必要です。
ただし、手術には感染症になるリスクや、出血が起こるリスク、麻酔が原因で問題が起きるリスクなど、さまざまな危険が伴います。
脳はとてもデリケートな臓器なので、手術によって神経の働きに新たな問題が起こる可能性も。
集中治療室での治療に関連するリスク
重い脳挫傷の患者さんは、集中治療室(ICU)で治療を受けることが多いですが、特有のリスクがあります。
長く寝たきりの状態が続くことで、体を圧迫されている部分の皮膚が傷ついたり(褥瘡:じょくそう)、足の血管に血の塊ができたり(深部静脈血栓症)、人工呼吸器を使うことで肺炎になったりすることがあります。
また、点滴や尿を出すための管(カテーテル)を長期間使うことで、血液や尿路の感染症になるリスクも高いです。
集中治療室での治療に関連するリスク | 起こること |
褥瘡(じょくそう) | 長く同じ姿勢で寝ていることで、体を圧迫されている部分の皮膚が傷つく |
深部静脈血栓症 | 血液の流れが悪くなって、特に足の深い部分の血管に血の塊ができる |
人工呼吸器関連肺炎 | 人工呼吸器を使うことで、肺に細菌が入り込んで肺炎になる |
カテーテル関連血流感染症 | 点滴などの管を通じて血液に細菌が入り、感染症を引き起こす |
脳の圧力(頭蓋内圧)管理に関連するリスク
脳挫傷の治療では脳の中の圧力(頭蓋内圧)を保つことが大切ですが、この管理にも危険が伴います。
脳の圧力を下げすぎると脳に十分な血液が行き渡らなくなり、酸素不足になり(脳虚血)、脳の圧力を抑えきれないと、脳がずれて押し出されてしまう(脳ヘルニア)という、命に関わる状態になるリスクがあります。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
入院費用
脳挫傷患者の入院費用は、一日あたり3万円から5万円程度です。
重症例では集中治療室(ICU)での管理が必要となり、一日あたりの費用が10万円を超えることもあります。
入院タイプ | 1日あたりの費用 |
一般病棟 | 3万円〜5万円 |
ICU | 10万円〜15万円 |
手術費用
外科的処置が必要な場合、手術費用が発生します。
開頭手術の費用は、およそ50万円から100万円の範囲です。
検査費用
脳挫傷の診断と経過観察には、CT検査やMRI検査が不可欠です。
検査種類 | 費用 |
CT検査 | 1万5千円〜2万円 |
MRI検査 | 3万円〜4万円 |
薬剤費
脳挫傷の治療に使用される薬剤費
- 抗てんかん薬:月額1万円〜3万円
- 浸透圧利尿薬:1回の投与で数千円
- 鎮痛剤:1日あたり数百円〜数千円
リハビリテーション費用
回復期のリハビリテーション費用は、一日あたり5千円から1万円です。
長期のリハビリが必要な場合は、総額で数十万円から百万円以上になることもあります。
以上
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